梶井基次郎: 冬の蠅

17807 words
89 minutes
梶井基次郎: 冬の蠅
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first published:『創作月刊』1928年5月1日発行5月号
audiohttps://www.youtube.com/watch?v=cqd4KrjoLzk&list=RDcqd4KrjoLzk&start_radio=1
desc: 以溪谷间温泉疗养地的冬季为背景,描写 “我” 在房间里观察栖息于此的苍蝇。作品以在伊豆汤之岛度过的第二个冬天为题材 —— 彼时 “我” 因病情不见好转、对未来充满不安,每日都在焦躁与倦怠中度过。文中细致刻画了 “我” 矛盾交织的心境:一方面是沐浴在阳光中、带有自欺性质的安逸;另一方面则是在极度寒冷的绝望与紧绷中所感受到的战栗。通过在数日徘徊后死去的冬日苍蝇的命运,作品描绘出 “我” 最终获得的全新认知:世界上的一切生命,其命运都被托付于超越人类意志、变幻无常的偶然条件之中

冬のはえとは何か?

冬蝇是什么?

よぼよぼと歩いている蠅。指を近づけても逃げない蠅。そして飛べないのかと思っているとやはり飛ぶ蠅。彼らはいったいどこで夏頃の不逞ふていさや憎々しいほどのすばしこさを失って来るのだろう。色は不鮮明にくろずんで、翅体したい萎縮いしゅくしている。汚い臓物で張り切っていた腹は紙撚こよりのようにせ細っている。そんな彼らがわれわれの気もつかないような夜具の上などを、いじけ1衰えた姿でっているのである。

是走起路来摇摇晃晃的苍蝇。是手指靠近也不逃跑的苍蝇。是以为它不会飞,但其实会飞的苍蝇。它们到底是在什么地方丧失了夏天时的猖狂,以及令人厌恶的敏捷呢?变得颜色泛黑,不太鲜明,翅膀萎缩。原本因装满肮脏的内脏而鼓胀的腹部,现在变得像纸绳一样又瘦又细。它们以蜷缩的虚弱模样,趴在我们完全不会注意到的棉被上。

冬から早春にかけて、人は一度ならずそんな蠅を見たにちがいない。それが冬の蠅である。私はいま、この冬私の部屋にんでいた彼らから一篇の小説を書こうとしている。

从冬天到早春这段时间,人们肯定不止一次看过这种苍蝇。这就是冬蝇。此刻我想以这个冬天住在我房里的它们,来写一篇小说。

1#

冬が来て私は日光浴をやりはじめた。溪間たにまの温泉宿なので日がかげり易い。溪の風景は朝遅くまでは日影のなかに澄んでいる。やっと十時頃溪向こうの山にきとめられていた日光が閃々せんせんと私の窓をはじめる。窓を開けて仰ぐと、溪の空はあぶはちの光点が忙しく飛び交っている。白く輝いた蜘蛛の糸が弓形に膨らんで幾条も幾条も流れてゆく。(その糸の上には、なんという小さな天女! 蜘蛛が乗っているのである。彼らはそうして自分らの身体を溪のこちら岸からあちら岸へ運ぶものらしい。)昆虫。昆虫。初冬といっても彼らの活動は空に織るようである。日光がかしの梢に染まりはじめる。するとその梢からは白い水蒸気のようなものが立ちのぼる。霜が溶けるのだろうか。溶けた霜が蒸発するのだろうか。いや、それも昆虫である。微粒子のような羽虫がそんなふうに群がっている。そこへ日が当ったのである。

冬天来临后,我开始晒太阳。因为这里是位于溪谷的温泉旅馆,阳光很容易被阻挡。溪谷的风景,哪怕日上三竿,也始终笼罩在阴影下。好不容易到了十点左右,被溪谷对面的山阻挡住的日光,开始光芒万丈地照向我的窗户。打开窗,抬头一看,溪谷的天空中满是虻和蜜蜂形成的光点,忙碌地交错穿梭。闪着白光的蜘蛛丝弯成弓形,好几条丝线向外延伸。(丝线上是多么娇小的仙女啊!那是坐镇丝线上的蜘蛛。它们似乎就是以这种方式,将自己的身体从溪谷的此岸运往彼岸。)昆虫。昆虫。虽说时序已迈入初冬,但它们依然忙着织网,活动范围遍布天空。阳光开始将橡树的树梢染白。紧接着,像白色水蒸气般的东西从树梢冉冉而升。是融霜吗?还是融解后的冰霜在蒸发呢?不,那是昆虫。像微粒子般的飞虫成群汇聚。阳光正好照向该处。

私は開け放った窓のなかで半裸体の身体をさらしながら、そうした内湾うちうみのように賑やかな溪の空を眺めている。すると彼らがやって来るのである。彼らのやって来るのは私の部屋の天井からである。日蔭ではよぼよぼとしている彼らは日なたのなかへ下りて来るやよみがえったように活気づく。私のすねへひやりととまったり、両脚を挙げて腋の下を掻かくようなねをしたり手をりあわせたり、かと思うと弱よわしく飛び立っては絡み合ったりするのである。そうした彼らを見ていると彼らがどんなに日光をたのしんでいるかがあわれなほど理解される。とにかく彼らが嬉戯きぎするような表情をするのは日なたのなかばかりである。それに彼らは窓が明いている間は日なたのなかから一歩も出ようとはしない。日がかげるまで、移ってゆく日なたのなかで遊んでいるのである。虻や蜂があんなにも溌剌はつらつと飛び廻っている外気のなかへも決して飛び立とうとはせず、なぜか病人である私をねている。しかしなんという「生きんとする意志」であろう! 彼らは日光のなかでは交尾することを忘れない。おそらく枯死からはそう遠くない彼らが!

我在敞开的窗户前,让裸露的上半身晒太阳,同时欣赏那像海湾般热闹的溪谷天空。这时,它们朝我涌来。它们从我房间的天花板飞来。在阴影下,走起路来摇摇晃晃的它们,仿佛一来到阳光下就活过来似的,变得生龙活虎。一会儿冷不防地停在我小腿上,一会儿抬起双脚,做出像在搔抓腋下的动作,一会儿搓着手,接着虚弱无力地飞上空中,纠缠在一起。望着它们,我很能了解它们有多么享受阳光,甚至感到怜悯。总之,它们就只有在阳光下,才会露出嬉戏的表情。而且在我开窗的这段时间,它们完全不想从阳光下离开半步。在阳光转为阴影前,它们一直在缓缓移动的阳光下嬉戏。虻和蜜蜂在户外活泼地四处飞翔,冬蝇却完全不想飞向户外,不知为何,就只是一味地模仿我这个病人。不过,这 “想活下去的意志” 多棒啊!它们在阳光下,可没忘了要交配。尽管它们已离死不远!

日光浴をするとき私の傍らに彼らを見るのは私の日課のようになってしまっていた。私はかすかな好奇心と一種馴染なじみの気持から彼らを殺したりはしなかった。また夏の頃のようにたけだけしい蠅捕り蜘蛛がやって来るのでもなかった。そうした外敵からは彼らは安全であったと言えるのである。しかし毎日たいてい二匹宛ほどの彼らがなくなっていった。それはほかでもない。牛乳のびんである。私は自分の飲みっ放しを日なたのなかへ置いておく。すると毎日決まったようにそのなかへはいって出られないやつができた。壜の内側を身体に付著した牛乳を引きりながらのぼって来るのであるが、力のない彼らはどうしても中途で落ちてしまう。私は時どきそれを眺めていたりしたが、こちらが「もう落ちる時分だ」と思う頃、蠅も「ああ、もう落ちそうだ」というふうに動かなくなる。そして案のじょう落ちてしまう。それは見ていて決して残酷でなくはなかった。しかしそれを助けてやるというような気持は私の倦怠アンニュイ2からは起こって来ない。彼らはそのまま女中が下げてゆく。ふたをしておいてやるという注意もなおのことできない。翌日になるとまた一匹宛はいって同じことを繰り返していた。

边晒太阳,边欣赏它们,这已经成了我每天的例行功课。基于些许的好奇心与一种熟悉感,我并不会杀害它们。而凶猛的跳蛛,也不像夏天的时候一样跑来。它们不受这种威胁,可说是安全无虞。但它们每天都会有两只左右丧命。原因无他,问题就出在牛奶瓶上。我把自己喝完的牛奶瓶放在日照处。接下来,几乎每天都会有冬蝇跑进里头出不来。它们拖着附着在身上的牛奶,沿着瓶子内侧往上爬,但没剩多少力气的它们,爬到半途一定就会跌落。我有时会在一旁观看,当我觉得 “差不多要掉下去了” 的时候,冬蝇也会表现出 “啊,我快掉下去了” 的动作,就此不再动弹。然后果然如我所预料,直接掉落瓶底。看这种景象,实在很残酷。但我因为倦怠,完全不会兴起想帮它们一把的念头。它们就这样被女佣收走。而我连事先帮它们把盖子盖上这样的用心也做不到。因此到了隔日,又有一只跑进里头,同样的情况一再上演。

「蠅と日光浴をしている男」いま諸君の目にはそうした表象が浮かんでいるにちがいない。日光浴を書いたついでに私はもう一つの表象「日光浴をしながら太陽を憎んでいる男」を書いてゆこう。

“苍蝇和晒太阳的男人”,此刻诸位眼前肯定浮现这样的画面。在描写日光浴的同时,我就顺便描写 “晒着太阳,却又憎恨太阳的男人” 这另一种画面吧。

私の滞在はこの冬でた冬目であった。私は好んでこんな山間にやって来ているわけではなかった。私は早く都会へ帰りたい。帰りたいと思いながら二た冬もいてしまったのである。いつまで経っても私の「疲労」は私を解放しなかった。私が都会を想い浮かべるごとに私の「疲労」は絶望に満ちた街々を描き出す。それはいつになっても変改へんかいされない。そしてはじめ心に決めていた都会へ帰る日取りはうの昔に過ぎ去ったまま、いまはその影も形もなくなっていたのである。私は日を浴びていても、否、日を浴びるときはことに、太陽を憎むことばかり考えていた。結局は私を生かさないであろう太陽。しかもうっとりとした生の幻影で私を瞞だまそうとする太陽。おお、私の太陽。私はだらしのない愛情のように太陽がしゃくに触った。けごろものようなものは、反対に、緊迫衣ストレート・ジャケットのように私を圧迫した。狂人のようなもだえでそれを引き裂き、私を殺すであろう酷寒のなかの自由をひたすらに私は欲した。

今年冬天,是我在这里的第二个冬天。并非是我自己喜欢来这种山村。我其实想早点回都市去。虽然想,但还是连待了两个冬天。不管时间经过再久,我的 “疲劳” 始终不放过我。因为想起都市,我的“疲劳”就会描绘出充满绝望的市街。不管经过再久,都不会有所改变。而一开始暗自决定好要回归都市的日期,也早过了,如今已荡然无存。现在尽管我沐浴在阳光下,不,只要晒着太阳的时候,我满脑子想的都是对太阳的憎恨。最后还是不会让我活命的太阳。想用令人陶醉的生命幻影来欺骗我的太阳。噢,我的太阳。我就像那散漫的爱情一样,看到太阳就生气。像毛皮大衣这类的外衣,反而像紧身夹克般压迫着我。因为像疯子般感到苦闷,我将它撕裂,在恐怕会要了我的命的酷寒下,一味地渴求自由。

こうした感情は日光浴の際身体の受ける生理的な変化――さかんになって来る血行や、それにしたがって鈍麻してゆく頭脳や――そう言ったもののなかに確かにその原因を持っている。鋭い悲哀をやわらげ、ほかほかと心をたのします快感は、同時に重っ苦しい不快感である。この不快感は日光浴の済んだあとなんとも言えない虚無的な疲れで病人を打ち敗かしてしまう。おそらくそれへの嫌悪から私のそうした憎悪も胚胎はいたいしたのかもしれないのである。

这样的情感,原因确实就出在晒太阳时身体产生的生理性变化上——例如变得旺盛的血液循环,以及因此变得迟钝麻木的脑袋。缓和激烈的悲哀、暖和心灵的这份快感,同时也是压得人喘不过气来的不舒服感。这种不舒服感,在晒完太阳后,会以一股难以形容的空虚疲惫,将病人彻底击溃。也许就是因为对它感到厌恶,才会孕育出我的憎恨。

しかし私の憎悪はそればかりではなく、太陽が風景へ与える効果――眼からの効果――の上にも形成されていた。

不过,我的憎恨可不光如此,它也因为太阳对风景造成的效果——肉眼看到的效果——而产生。

私が最後に都会にいた頃――それは冬至に間もない頃であったが――私は毎日自分の窓の風景から消えてゆく日影に限りない愛惜を持っていた。私は墨汁のようにこみあげて来る悔恨といらだたしさの感情で、風景を埋めてゆく影を眺めていた。そして落日を見ようとする切なさにられながら、見透しのつかない街をあわてふためいてうろうろしたのである。今の私にはもうそんな愛惜はなかった。私は日の当った風景の象徴する幸福な感情を否定するのではない。その幸福は今や私を傷つける。私はそれを憎むのである。

我最后待在都市的时候——那是冬至将至的时节——我对每天从我窗外的风景中消失的阳光,感到无限怜惜。在涌上心头,宛如墨汁般黑暗的悔恨,以及焦躁的情感下,望着暗影逐渐吞噬窗外的风景。接着,在想看落日的悲伤的驱策下,我慌张地在向晚的街上游荡徘徊。现在的我已经没有那样的怜惜。太阳所及之处的风景,象征的幸福情感,我并不会加以否定。只是如今,这种幸福伤害着我。我恨它。

たにの向こう側には杉林が山腹をおおっている。私は太陽光線の偽瞞ぎまんをいつもその杉林で感じた。昼間日が当っているときそれはただ雑然とした杉の堆積たいせきとしか見えなかった。それが夕方になり光が空からの反射光線に変わるとはっきりした遠近にわかれて来るのだった。一本一本の木が犯しがたい威厳をあらわして来、しんしんと立ち並び、立ち静まって来るのである。そして昼間は感じられなかった地域がかしこにここに杉の並みの間へ想像されるようになる。溪側にはまた樫やしいの常緑樹に交じって一本の落葉樹が裸の枝に朱色の実を垂れて立っていた。その色は昼間は白く粉を吹いたように疲れている。それが夕方になると眼が吸いつくばかりの鮮やかさに冴える。元来一つの物に一つの色彩が固有しているというわけのものではない。だから私はそれをも偽瞞と言うのではない。しかし直射光線には偏頗へんぱがあり、一つの物象の色をその周囲の色との正しい階調から破ってしまうのである。そればかりではない。全反射がある。日蔭は日表ひなたとの対照で闇のようになってしまう。なんという雑多な溷濁こんだくだろう。そしてすべてそうしたことが日の当った風景を作りあげているのである。そこには感情の弛緩があり、神経の鈍麻があり、理性の偽瞞がある。これがその象徴する幸福の内容である。おそらく世間における幸福がそれらを条件としているように。

溪谷对面的杉林,覆盖了整个山腹。我总是从那片杉林中感受到阳光的欺瞒。白天阳光普照时,它看起来就只是零乱的杉树树梢堆积而成的景致。但到了向晚时分,阳光变成来自空中的反射光线时,它开始有鲜明的远近之分。每一棵树都展现出难以侵犯的威严,茂密地排列在一起,寂静无声。而白天时感觉不到的空间,现在则能想象它们存在于各处的杉林树梢间。溪谷这边,有一棵落叶树混在橡树和苦槠等常绿树中,它的裸枝上垂挂着鲜红的果实。白天时,它的颜色犹如吹了一层白粉,透着疲累。可一到黄昏,则变得鲜艳无比,吸引人们的目光。原本一个物体就不是只有一种固定的色彩,所以我不会说这是欺瞒。但直射的光线会有偏差,一种事物的颜色,会打破它与周遭颜色的和谐。而且不仅如此,它还有全反射,背阴处在向阳处的对比下,变得像黑暗一样。一片杂乱无章的浑浊。就是这一切构成阳光下的风景。这当中有情感的放松,有神经的麻木,有理性的欺瞒。这就是它象征的幸福内容。就像世上的幸福都是以它们当条件一样。

私は以前とは反対に溪間を冷たく沈ませてゆく夕方を――わずかの時間しか地上にとどまらない黄昏たそがれおごそかなおきてを――待つようになった。それは日が地上を去って行ったあと、路の上のみずたまりを白く光らせながら空から下りて来る反射光線である。たとえ人はそのなかでは幸福ではないにしても、そこには私の眼を澄ませ心を透き徹らせる風景があった。

我不同于以往,开始等候让溪谷沉入冰冷中的向晚时分——只能在地上短暂停留的黄昏所订下的严肃法则。当太阳从地面上离开后,从空中射下的反射光线,同时照得路面上的水洼白光闪耀。人们处在其中,就算不觉得自己幸福,但那也是让我双眼变得清澈、内心为之透明的美丽风景。

「平俗な日なため! 早く消えろ。いくら貴様が風景に愛情を与え、冬の蠅を活気づけても、俺を愚昧ぐまい化することだけはできぬわい。俺は貴様の弟子の外光派3つばをひっかける。俺は今度会ったら医者に抗議を申し込んでやる」

“庸俗的日照!快给我消失。不管你再怎么赐予风景爱,为冬蝇带来活力,你一样休想让我变得愚昧。我要朝你的弟子外光派吐口水。下次让我遇见的话,我会向医生提出抗议。”

日に当りながら私の憎悪はだんだんたかまってゆく。しかしなんという「生きんとする意志」であろう。日なたのなかの彼らは永久に彼らのたのしみを見棄てない。壜のなかのやつも永久に登っては落ち、登っては落ちている。

我晒着太阳,心中的憎恨愈来愈激昂。但这是何等 “想活下去的意志” 啊!处在日照下的它们,永远不会弃它们的爱好于不顾。牛奶瓶里的家伙,永远不断地爬上又跌落。

やがて日が翳りはじめる。高い椎の樹へ隠れるのである。直射光線が気疎けうとい回折光線にうつろいはじめる。彼らの影も私の脛の影も不思議な鮮やかさを帯びて来る。そして私は褞袍どてらをまとって硝子窓ガラスとざしかかるのであった。

不久,太阳开始转暗,躲向高大的苦槠树后。直射光线开始转为阴沉的衍射光线。它们的影子和我小腿的影子,都逐渐变得出奇鲜明。于是我穿上棉袄,关上玻璃窗。

午後になると私は読書をすることにしていた。彼らはまたそこへやって来た。彼らは私の読んでいる本へまつわりついて、私のはぐる頁のためにいつも身体を挾み込まれた。それほど彼らは逃げ足が遅い。逃げ足が遅いだけならまだしも、わずかな紙の重みの下で、あたかもはりに押えられたように、仰向あおむけになったりして藻掻もがかなければならないのだった。私には彼らを殺す意志がなかった。それでそんなとき――ことに食事のときなどは、彼らの足弱がかえって迷惑になった。食膳のものへとまりに来るときは追う箸をことさらっくり動かさなくてはならない。さもないと箸の先で汚ならしくもつぶれてしまわないとも限らないのである。しかしそれでもまだそれに弾ねられて汁のなかへ落ち込んだりするのがいた。

到了下午,我决定看书。这时它们又飞来了。在我看的书旁纠缠不休,屡屡因为我翻页而被夹进书页中。它们逃跑的速度就是这么慢。如果只是逃跑速度慢倒还好,在纸张这微乎其微的重量下,它们竟也像被横梁压住似的,只能仰躺着死命挣扎。我无意杀害它们。于是像这种时候——尤其是在用餐时,它们行动的缓慢反而令我感到困扰。当它们停在饭菜上时,用筷子驱赶的动作得更慢才行。否则有可能会用筷子压扁它们,而且还弄脏了筷子。尽管如此,还是有被筷子弹中,掉进汤里的情形。

最後に彼らを見るのは夜、私が寝床へはいるときであった。彼らはみな天井に貼りついていた。っと、死んだように貼りついていた。――いったい脾弱ひよわな彼らは日光のなかで戯れているときでさえ、死んだ蠅が生き返って来て遊んでいるような感じがあった。死んでから幾日も経ち、内臓なども乾きついてしまった蠅がよくほこりにまみれて転がっていることがあるが、そんなやつがまたのこのこ丶丶丶丶と生き返って来て遊んでいる。いや、事実そんなことがあるのではなかろうか、と言った想像も彼らのみてくれ丶丶丶丶からは充分に許すことができるほどであった。そんな彼らが今やっと天井にとまっている。それはほんとうに死んだよう丶丶丶丶丶である。

最后观察它们,是在我晚上就寝时。它们全部紧贴着天花板,静静蛰伏着,就像死了一般。——虚弱的它们就连在阳光下嬉戏时,也感觉像是已死的苍蝇又活过来似的。已死了好几天、连内脏都已干透的苍蝇,常是身上沾满尘埃地躺在地上,这种家伙竟然又大摇大摆地活了过来,展开嬉戏。不,事实上确实有这种事吧,从它们的外表来看,确实允许做这样的想象。此刻它们正静静地停在天花板上。看起来真的就像死了一样。

そうした、錯覚に似た彼らを眠るまえ枕の上から眺めていると、私の胸へはいつも廓寥かくりょうとした深夜の気配がみて来た。冬ざれた溪間の旅館は私のほかに宿泊人のない夜がある。そんな部屋はみな電燈が消されている。そして夜が更けるにしたがってなんとなく廃墟に宿っているような心持を誘うのである。私の眼はその荒れ寂びた空想のなかに、恐ろしいまでに鮮やかな一つの場面を思い浮かべる。それは夜深く海の香をたてながら、澄み透った湯を溢れさせている溪傍の浴槽である。そしてその情景はますます私に廃墟の気持を募らせてゆく。――天井の彼らを眺めていると私の心はそうした深夜を感じる。深夜のなかへ心が拡がってゆく。そしてそのなかのただ一つの起きている部屋である私の部屋。――天井に彼らのとまっている、死んだようにっととまっている私の部屋が、孤独な感情とともに私に帰って来る。

在入睡前,躺在枕头上望着像错觉般的这些苍蝇,寂寥的深夜气息总会渗进我胸中。凄清的溪谷旅馆,夜里除了我之外,没其他旅客。每个房间都没亮灯。随着夜色渐浓,令我有一种住在废墟里的心境。在那荒凉落寞的幻想中,我眼前浮现一个近乎骇人的鲜明场面。那是深夜时分,一面散发海潮的气味,一面溢出清澈热水的溪谷浴池。这幕情景愈发令我有种置身废墟的感受。——望着停在天花板上的冬蝇,我内心感受到这样的深夜。心灵朝深夜不断扩张。而当中唯一醒着没睡的房间,就是我所在的房间。——它们停在天花板上,像死了一样静伏不动的房间,伴随着孤独的情感,回到我面前。

火鉢の火は衰えはじめて、硝子ガラス窓をうるおしていた湯気はだんだん上から消えて来る。私はそのなかから魚のはららご4に似た憂鬱な紋々があらわれて来るのを見る。それは最初の冬、やはりこうして消えていった水蒸気がいつの間にかそんな紋々を作ってしまったのである。床の間のすみには薄うく埃をかむった薬壜が何本もからになっている。なんという倦怠、なんという因循いんじゅん5だろう。私の病鬱は、おそらく他所の部屋にはんでいない冬の蠅をさえませているではないか。いつになったらいったいこうしたことにけりがつくのか。

火盆里的火焰开始减弱,玻璃窗上面凝结的雾气渐渐从上方消失。我从中看到长得像鱼卵的忧郁纹路逐渐浮现。在这里的第一个冬天,同样也就此消失的水蒸气,不知何时形成了这样的纹路。摆在壁龛的角落里,微微蒙上一层灰的药瓶,当中好几瓶都已经空了。这是何等的怠惰,何等的拖延。我的忧郁,恐怕让原本没住其他房间的冬蝇,也都跑到其他房间去了。到底什么时候才能有个了结呢?

心がそんなことにひっかかると私はいつも不眠をわざわいされた。眠れなくなると私は軍艦の進水式を想い浮かべる。その次には小倉百人一首6を一首宛思い出してはそれの意味を考える。そして最後には考え得られる限りの残虐な自殺の方法を空想し、その積み重ねによって眠りを誘おうとする。がらんとした溪間の旅館の一室で。天井に彼らの貼りついている、死んだようにっと貼りついている一室で。――

只要心里挂念着这件事,我就会失眠。一旦睡不着,就会想起军舰的下水仪式。接着一首一首回想《小仓百人一首》,思考和歌的含义。最后我幻想着我能想得到的各种残忍的自杀手法,借由这样的一再累积,引自己入睡。地点在空荡的溪谷旅馆内的某个房间。它们紧贴着天花板,就像死了一样,静静蛰伏不动的某个房间。

2#

その日はよく晴れた温かい日であった。午後私は村の郵便局へ手紙を出しに行った。私は疲れていた。それからたにへ下りてまだ三四丁も歩かなければならない私の宿へ帰るのがいかにも億劫おっくうであった。そこへ一台の乗合自動車が通りかかった。それを見ると私は不意に手を挙げた。そしてそれに乗り込んでしまったのである。

这天是个晴空万里、和风送暖的日子。下午我到村里的邮局寄信。我很疲惫。接着还得走下溪谷,走过三四条街才能回到我的住处,实在提不起劲儿。这时,一辆巴士路过。我一看到车,便不自主地举手拦车,就此坐上车。

その自動車は村の街道を通る同族のなかでも一種目だった特徴で自分を語っていた。暗いほろ7のなかの乗客の眼がみな一様に前方を見詰めている事や、泥除け、それからステップの上へまで溢れた荷物を麻繩が車体へ縛りつけている恰好や――そんな一種の物ものしい特徴で、彼らが今から上り三里下り三里の峠をえて半島の南端の港へ十一里の道をゆく自動車であることが一目で知れるのであった。私はそれへ乗ってしまったのである。それにしてはなんという不似合いな客であったろう。私はただ村の郵便局まで来て疲れたというばかりの人間に過ぎないのだった。

这辆巴士在行经村庄干道的其他巴士里头,有特别显眼的特征。乘客们坐在漆黑的车厢内,眼睛全都盯着前方,挡泥板以及满到上车台阶处的行李,全都用麻绳绑在车身上——这种夸张的特征,让人一看就知道这辆车会载着他们翻山越岭跑上好几十公里路,然后再跑上四十公里左右前往半岛南端的海港。我就这样坐上了车。不过话说回来,我这名乘客未免也太不搭调了。我不过只是个走到村里邮局便喊累的人。

日はもう傾いていた。私には何の感想もなかった。ただ私の疲労をまぎらしてゆく快い自動車の動揺ばかりがあった。村の人が背負い網を負って山から帰って来る頃で、見知った顔が何度も自動車をけた。そのたび私はだんだん「意志のちゅうぶらり」に興味を覚えて来た。そして、それはまたそれで、私の疲労をなにか変わった他のものに変えてゆくのだった。やがてその村人にも会わなくなった。自然林が廻った。落日があらわれた。たにの音が遠くなった。年古としふりた杉の柱廊が続いた。冷たい山気がみて来た。魔女のまたがったほうきのように、自動車は私を高い空へ運んだ。いったいどこまでゆこうとするのだろう。峠の隧道すいどうを出るともう半島の南である。私の村へ帰るにも次の温泉へゆくにも三里の下り道である。そこへ来たとき、私はやっと自動車を止めた。そして薄暮の山の中へ下りてしまったのである。何のために? それは私の疲労が知っている。私は腑甲斐ふがいない一人の私を、人里離れた山中へ遺棄してしまったことに、気味のいい嘲笑を感じていた。

红轮西坠。我没任何感想。就只有巴士舒服的摇晃,逐渐化解我的疲劳。当时正是村民们背着背篓下山的时候,我看到几个熟悉的脸孔站到一旁避开巴士。这令我逐渐对 “意识凌空漫步” 产生兴趣。而我的疲劳也逐渐转变成其他奇怪的东西。不久,连那些村民也遇不到了。天然的森林在四周旋绕。夕阳出现眼前。溪谷的声音远去。古杉树形成的柱廊一路绵延。阴冷的山气沁人肌骨。就像魔女骑乘的扫帚般,巴士将我载往高空。到底想去哪儿呢?走出山顶的隧道后,已来到半岛南方。不论是要回我住的村庄,还是前往下一个温泉地,都得走上十一公里的下坡路。来到这里,我终于按铃停车。就这样来到薄暮轻掩的山中。为了什么目的?只有我的疲惫知道。我将窝囊的自己丢弃在远离人烟的山中,感觉到我在嘲笑自己活该。

樫鳥かけすが何度も身近から飛び出して私をおどろかした。道は小暗い谿襞たにひだを廻って、どこまで行っても展望がひらけなかった。このままで日が暮れてしまってはと、私の心は心細さでいっぱいであった。幾たびも飛び出す樫鳥は、そんな私を、近くで見る大きな姿で脅かしながら、葉の落ちたけやきならの枝をうように渡って行った。

松鸦一再从我身旁窜出,吓我一跳。光线昏暗,道路曲折,不管走到哪儿,都没有开阔的视野。我心中满是不安,心想,该不会就这样天黑吧?多次窜出的松鸦,用离近看颇大的身躯威吓我,然后在树叶凋零的山毛榉和橡树的枝头间像爬行般地行进。

最後にとうとう谿が姿をあらわした。杉のが細胞のように密生している遙かな谿! なんというそれは巨大な谿だったろう。遠靄とおもやのなかには音もきこえない水も動かない滝が小さく小さく懸っていた。眩暈めまいを感じさせるような谿底には丸太を組んだ橇道そりみちが寒ざむと白く匍っていた。日は谿向こうの尾根おね8へ沈んだところであった。水を打ったような静けさがいまこの谿を領していた。何も動かず何も聴こえないのである。その静けさはひょっと夢かと思うような谿の眺めになおさら夢のような感じを与えていた。

最后,溪谷终于出现在我眼前。杉树的树梢像细胞般丛生的一处远方的溪谷!多么巨大的溪谷啊。远方的雾气中,挂着一条小瀑布,既听不到水声,也看不到水流。让人微感眩晕的溪谷底端,有一条以原木架成的白色运木道,往前一路蜿蜒。太阳刚落向溪谷后方的山脊。此刻寂静占领了这座溪谷。一切全静止不动,什么也听不见。这股寂静给梦境般的溪谷景致又增添了几分梦幻感。

「ここでこのまま日の暮れるまで坐っているということは、なんという豪奢な心細さだろう」と私は思った。「宿では夕飯の用意が何も知らずに待っている。そして俺は今夜はどうなるかわからない」

“在这里一直坐着等到天黑,会是多么奢华的不安啊。旅馆什么也不知道,准备好了晚餐等我。而我不知道今晚会如何。” 我心想。

私は私の置き去りにして来た憂鬱な部屋を思い浮かべた。そこでは私は夕餉ゆうげの時分きまって発熱に苦しむのである。私は着物ぐるみ寝床へ這入はいっている。それでもまだ寒い。悪寒にふるえながら秋の頭は何度も浴槽を想像する。「あすこへ漬ったらどんなに気持いいことだろう」そして私は階段を下り浴槽の方へ歩いてゆく私自身になる。しかしその想像のなかでは私は決して自分の衣服を脱がない。衣服ぐるみそのなかへはいってしまうのである。私の身体には、そして、支えがない。私はぶくぶくと沈んでしまい、浴槽の底へ溺死体のように横たわってしまう。いつもきまってその想像である。そして私は寝床のなかで満潮のように悪寒が退いてゆくのを待っている。――

我想起被我抛下的那间忧郁的房间。在那里,每到晚餐时间,我一定会深受发烧之苦。我穿着衣服钻进被窝,但还是觉得冷。我因发冷而颤抖,同时不断在脑中想象浴缸的模样。“要是能泡进那里头,不知道会多舒服。”我走下楼梯,朝浴缸走去。但在那样的想象下,我也绝不会脱去身上的衣服。而是穿着衣服直接泡进浴缸里。我的身体没有支撑。我吐着气泡沉入水中,像溺死般躺进浴缸底端。我向来都会这样想象。然后躺在床上,像涨潮一样,静静等候发冷的感觉退去。

あたりはだんだん暗くなって来た。日の落ちたあとの水のような光を残して、えざえとした星が澄んだ空にあらわれて来た。凍えた指の間の煙草の火が夕闇のなかで色づいて来た。その火の色は曠漠こうばくとした周囲のなかでいかにも孤独であった。その火をいて一点の燈火も見えずにこの谿は暮れてしまおうとしているのである。寒さはだんだん私の身体へい込んで来た。平常外気の冒さない奥の方まで冷え入って、懐ろ手をしてもなんの役にも立たないくらいになって来た。しかし私は暗やみと寒気がようやく私を勇気づけて来たのを感じた。私はいつの間にか、これから三里の道を歩いて次の温泉までゆくことに自分を予定していた。ひしひしと迫って来る絶望に似たものはだんだん私の心に残酷な欲望を募らせていった。疲労または倦怠アンニュイが一たんそうしたものに変わったが最後、いつも私は終わりまでその犠牲になり通さなければならないのだった。あたりがとっぷり暮れ、私がやっとそこを立ち上がったとき、私はあたりにまだ光があったときとはまったく異った感情で私自身を艤装ぎそうしていた。

四周逐渐转暗。太阳下山后,留下水一般的亮光,鲜明的星辰浮现在清澈的夜空。冻僵的手指间香烟的亮光,在黑夜中越来越鲜明。火光的颜色在广阔的周遭下倍显孤独。除了这一星光亮,看不到半点灯火,这处溪谷正逐渐由天明转为日暮。寒气逐渐侵入我体内,直透进平时寒气到不了的深处,就算把手埋在怀里也无济于事。但黑暗和寒气逐渐给了我勇气,不知不觉间,我已计划好要继续走上十二公里的路,抵达下一座温泉地。一种近似绝望的感觉不断向我逼近,使我内心残酷的欲望愈来愈强烈。疲劳或倦怠一旦转变成这种欲望,最后我势必会成为它的牺牲者。四周已完全转暗,我好不容易站起身,怀着一股和四周仍有亮光时截然不同的情感,为自己进行伪装。

私は山の凍てついた空気のなかを暗やみをわけて歩き出した。身体はすこしも温かくもならなかった。ときどきそれでも私の頬を軽くなでてゆく空気が感じられた。はじめ私はそれを発熱のためか、それとも極端な寒さのなかで起る身体の変調かと思っていた。しかし歩いてゆくうちに、それは昼間の日のほとぼりがまだまだらに道に残っているためであるらしいことがわかって来た。すると私には凍った闇のなかに昼の日射しがありありと見えるように思えはじめた。一つの燈火も見えないやみというものも私には変な気を起こさせた。それは灯がついたということで、もしくは灯の光の下で、文明的な私達ははじめて夜を理解するものであるということを信ぜしめるに充分であった。真暗な闇にもかかわらず私はそれが昼間と同じであるような感じを抱いた。星の光っている空は真青であった。道を見分けてゆく方法は昼間の方法と何の変わったこともなかった。道を染めている昼間のほとぼりはなおさらその感じを強くした。

我拨开黑暗,在山间冷冽的空气中迈步前行。身体完全暖不起来。有时还能感觉到轻抚我脸颊的空气。起初我以为是发烧,或是因为在极度寒冷下身体出了状况。但走着走着,我逐渐明白,这是白天的太阳零星残留的余热的缘故。紧接着,我开始觉得自己仿佛能从冷冽的黑暗中清楚地看见白天的阳光。连一盏灯火都看不见的黑暗,也让我产生奇怪的念头。这让我充分相信,拥有文明的我们,是因为点亮了灯,或是身处在灯光下,才能够理解黑夜。尽管眼前一片漆黑,我也觉得和白天没什么两样。星光灿烂的夜空一片蔚蓝。分辨道路的方法,和白天所用的方法也没任何不同。道路上散布着的白天的余热,更加强了我这种感觉。

突然私の後ろから風のような音が起こった。さっと流れて来る光のなかへ道の上の小石が歯のような影を立てた。一台の自動車が、それを避けている私には一顧いっこの注意も払わずに走り過ぎて行った。しばらく私はぼんやりしていた。自動車はやがて谿襞たにひだを廻った向こうの道へ姿をあらわした。しかしそれは自動車が走っているというより、ヘッドライトをつけた大きな闇が前へ前へ押し寄せてゆくかのように見えるのであった。それが夢のように消えてしまうとまたあたりは寒い闇に包まれ、空腹した私が暗い情熱に溢れて道を踏んでいた。

我身后突然传来一阵风声。路上的小石子,朝突然照过来的亮光立起宛如牙齿一样的影子。一辆汽车看都不看一眼避车的我,直接呼啸而过。我在原地愣了半晌。汽车旋即驶向了前方蜿蜒的道路。但那看起来不像汽车在行驶,反倒像是一个装设车灯的巨大黑暗,一路往前挺进。那情景像幻梦般消失后,四周再次被冷冽的黑暗包围,饿肚子的我满怀对黑暗的热情,走在这条道路上。

「なんという苦い絶望した風景であろう。私は私の運命そのままの四囲のなかに歩いている。これは私の心そのままの姿であり、ここにいて私は日なたのなかで感じるようななんらの偽瞞をも感じない。私の神経は暗い行手に向かって張り切り、今や決然とした意志を感じる。なんというそれは気持のいいことだろう。定罰のような闇、膚をく酷寒。そのなかでこそ私の疲労は快く緊張し新しい戦慄を感じることができる。歩け。歩け。へたばるまで歩け」

“这是多么令人难过绝望的风景啊。我走在自己的命运中。这是我内心真实的样貌,待在这里,我感觉不到在阳光下感受到的任何欺瞒。我绷紧的神经朝向幽暗的前方,此刻我感觉到坚决的意志。这是多畅快的事啊。像惩罚般的黑暗,撕裂肌肤的酷寒。唯有身处其中,我的疲劳才会愉悦地紧绷,从中感受到全新的战栗。走吧!走吧!走到累倒为止。”

私は残酷な調子で自分をむち打った。歩け。歩け。歩き殺してしまえ。

我以残酷的步调鞭笞着自己。走吧!走吧!走到死为止。

その夜おそく私は半島の南端、港のふなつきを前にして疲れ切った私の身体を立たせていた。私は酒を飲んでいた。しかし心は沈んだまますこしも酔っていなかった。

那天的深夜,我挺着精疲力竭的身躯,终于来到了半岛南端的海港码头前。我喝了酒,但内心消沉,一点醉意也没有。

強い潮の香に混って、瀝青チャン9や油の匂いが濃くそのあたりを立てめていた。もやい丶丶丶づなが船の寝息のようにきしり、それを眠りつかせるように、静かな波のぽちゃぽちゃと舷側をたたく音が、暗い水面にきこえていた。

沥青和汽油的气味,浓烈地笼罩四周,混在海潮的气味中。系船的缆绳就像船只在打呼般,发出阵阵挤压声,而平静的波浪犹如在哄它入眠,发出拍打船舷的哗啦水声,传向幽暗的水面。

「××さんはいないかよう!」

“×× 先生在吗?”

静かな空気を破ってなまめいた女の声が先ほどから岸で呼んでいた。ぼんやりしたあかりをむそうに提げている百トンあまりの汽船のとも丶丶の方から、見えない声が不明瞭になにか答えている。それは重々しいバスである。

有个柔媚的女声打破宁静的空气,从刚才便一直在岸边呼喊。一艘笼罩在朦胧灯火中模样困倦的上百吨重的轮船上,从船尾传来含糊的应答,但看不到人。是听起来很沉稳的男低音。

「いないのかよう。××さんは」

“不在吗,××先生?”

それはこの港に船の男を相手にこびを売っている女らしく思える。私はその返事のバス10に人ごとながら聴耳をたてたが、相不変あいかわらず曖昧あいまいな言葉が同じように鈍い調子で響くばかりで、やがて女はあきらめたようすでいなくなってしまった。

感觉是这个港口专门向船上男人献媚的女人。虽然事不关己,但我还是竖耳细听那男低音的回答,不过,还是只传出他用缓慢的语调说着的同样意味不明的话语,不久,女子似乎放弃了,就此消失。

私は静かな眠った港を前にしながら転変に富んだその夜を回想していた。三里はとっくに歩いたと思っているのにいくらしてもおしまいにならなかった山道や、谿たにのなかに発電所が見えはじめ、しばらくすると谿の底を提灯ちょうちんが二つ三つ閑かな夜の挨拶を交しながらもつれて行くのが見え、私はそれがおおかた村の人が温泉へはいりにゆく灯で、温泉はもう真近にちがいないと思い込み、元気を出したのにみごと当てがはずれたことや、やっと温泉に着いて凍え疲れた四肢を村人の混み合っている共同湯で温めたときの異様な安堵あんどの感情や、――ほんとうにそれらは回想という言葉にふさわしいくらい一晩の経験としては豊富すぎる内容であった。しかもそれでおしまいというのではなかった。私がやっと腹をふくらして人心つくかつかぬに、私の充たされない残酷な欲望はもう一度私に夜の道へ出ることを命令したのであった。私は不安な当てで名前も初耳な次の二里ばかりも離れた温泉へ歩かなければならなかった。その道でとうとう私は迷ってしまい、途方に暮れてやみのなかへうずくまっていたとき、おそい自動車が通りかかり、やっとのことでそれを呼びとめて、予定を変えてこの港の町へ来てしまったのであった。それから私はどこへ行ったか。私はそんなところには一種の嗅覚でも持っているかのように、堀割ほりわり11に沿った娼家の家並みのなかへ出てしまった。藻草を纒ったような船夫達が何人も群れて、白く化粧した女を調戯からかいながら、よろよろと歩いていた。私は二度ほど同じ道を廻り、そして最後に一軒の家へ這入はいった。私は疲れた身体に熱い酒をそそぎ入れた。しかし私は酔わなかった。酌に来た女は秋刀魚さんま船の話をした。船員の腕にふさわしいたくましい健康そうな女だった。その一人は私にいんをすすめた。私はその金を払ったまま、港のありかをきいて外へ出てしまったのである。

我面对那静静沉眠的海港,回想那一再转变的夜晚。在明明感觉早已走完十二公里,却怎么也走不到尽头的山路上,我开始看到山谷间的发电所,过了一会儿,我看到溪谷底下有两三个人一同提着灯笼,悠哉地相互寒暄,就猜想那是提着灯笼前去泡温泉的村民,满心以为温泉就在这附近,就此打起精神,但我完全猜错了。等我好不容易抵达温泉,在挤满村民的大众浴池里温热我那又累又冻的身躯时,感受到一股异样的安心感。——这一切真的很适合用 “回想” 来形容,光就一晚的经历来说,内容实在太丰富了,而且这件事还没完呢。我好不容易填饱肚子,正准备松口气时,我那尚未满足的残酷欲望,又再次命我踏上夜路。我怀着忐忑不安的心情,走向离这里八公里远,过去从没听说过的一处温泉。最后我迷了路,正当我不知如何是好,独自蹲在暗处时,一辆夜间巴士路过,我好不容易才拦住它,改变预定计划,来到了这处港口市镇。之后我去了哪里呢?我仿佛对那种地方带有一种特殊的嗅觉,沿着沟渠来到了花街柳巷。一群像身上穿着海藻的船夫聚在一起,踉踉跄跄地走着,还不时调戏脸上抹了白粉的女人。我在这条街道上来回转了两遍,最后走进其中一家。温酒注入我疲惫的身躯,但我没醉。前来替我斟酒的女人,和我聊起秋刀鱼渔船的事。她的手臂像船员一样健壮,是个看起来很健康的女人。另一女人邀我与她同睡。我付了钱,问了海港的位置后,就走向店外。

私は近くの沖にゆっくり明滅している廻転燈台の火を眺めながら、永い絵巻のような夜の終わりを感じていた。舷の触れ合う音、とも綱の張る音、睡たげな船の灯、すべてが暗く静かにそして内輪で、なごやかな感傷を誘った。どこかに捜して宿をとろうか、それとも今の女のところへ帰ってゆこうか、それはいずれにしても私の憎悪に充ちた荒々しい心はこの港の埠頭ふとうで尽きていた。ながい間私はそこに立っていた。気疎けうとい睡気のようなものが私の頭を誘うまで静かな海のやみを見入っていた。――

我望着附近的外海上缓缓闪烁的旋转灯塔发出的亮光,感受那宛如绘卷般漫长的暗夜走向结束。船舷相互碰撞的声响、绳索绷紧的声响、困倦的船上灯光,一切都是如此黑暗、静谧、低调,引来我柔柔的感伤。该去哪儿找旅馆好呢,还是回到刚才的女人那儿?不管怎样,我这充满憎恨的粗暴之心,已在这座码头用尽转而消逝。我在那里驻足良久。望着这片宁静大海的幽暗出神,直到某个宛如沉闷睡意般的东西引诱我的脑袋入睡。

私はその港を中心にして三日ほどもその付近の温泉で帰る日を延ばした。明るい南の海の色や匂いはなにか私には荒々しく粗雑であった。その上卑俗で薄汚い平野の眺めはすぐに私を倦かせてしまった。山やたにせめぎ合い12心を休める余裕や安らかな望みのない私の村の風景がいつか私の身についてしまっていることを私は知った。そして三日の後私はまた私の心を封じるために私の村へ帰って来たのである。

我以港口为中心,连着三天都待在附近的温泉地,推迟了归期。南方大海明亮的颜色及气味,我觉得有点狂野、粗糙。而且那粗俗又肮脏的平原景致,我很快就看腻了。山林与溪谷互相对立,没有半点让心灵静养的空间,也没有令人安稳的愿望,这是我所居住的村庄的风景,我知道它不知不觉间已如影随形。三天后,为了封闭我的心灵,我再次回到了村庄。

3#

私は何日も悪くなった身体を寝床につけていなければならなかった。私には別にさした後悔もなかったが、知った人びとの誰彼がそうしたことを聞けばさぞ陰気になり気を悪くするだろうとそのことばかり思っていた。

我抱着病躯,接连卧床好几天。我并不后悔,但我老在想,要是我认识的人们当中有人听闻我的事,肯定会闷闷不乐吧。

そんなある日のこと私はふと自分の部屋に一匹も蠅がいなくなっていることに気がついた。そのことは私を充分驚かした。私は考えた。おそらく私の留守中誰も窓を明けて日を入れず火をたいて部屋を温めなかった間に、彼らは寒気のために死んでしまったのではなかろうか。それはありそうなことに思えた。彼らは私の静かな生活のとくを自分らの生存の条件として生きていたのである。そして私が自分の鬱屈した部屋から逃げ出してわれとわが身を責めさいなんでいた間に、彼らはほんとうに寒気と飢えで死んでしまったのである。私はそのことにしばらく憂鬱を感じた。それは私が彼らの死をいたんだためではなく、私にもなにか私を生かしそしていつか私を殺してしまうきまぐれな条件があるような気がしたからであった。私はそいつの幅広い背を見たように思った。それは新しいそして私の自尊心を傷つける空想だった。そして私はその空想からますます陰鬱を加えてゆく私の生活を感じたのである。

某天,我突然发现自己房里连一只苍蝇也没有。这件事令我大为惊讶。我想,可能是在外出时,没人开窗让太阳照进来,没有生火暖和房内,它们因为顶不住寒气都一命呜呼了吧。我觉得很有这个可能。它们一直是以我宁静生活的庇荫当作自己的生存条件在过活。而当我从自己极尽郁闷的房间逃离,折磨自己的身体时,它们果真就这样因饥寒交迫而死。这事令我感到忧郁。我这并非是为它们的死感伤,而是因为我发现自己似乎也有个捉摸不定的条件,它让我活命,日后某天也会取我性命。我仿佛已看到它宽阔的背膀。这是个伤害我自尊心的全新幻想。而我也从这样的幻想中感觉到自己愈发阴郁的生活。

一九二八年五月

Footnotes#

  1. いじける:[動カ下一]恐怖や寒さなどで、ちぢこまって元気がなくなる

  2. アンニュイ ([仏] ennui):[名]意欲を失い、もの憂い精神状態

  3. 外光派:印象派

  4. :[名]産卵前の魚類の卵塊

  5. 因循:[名・形動](スル) ① 古い習慣や方法などに従うばかりで、それを一向に改めようとしないこと。② 思い切りが悪く、ぐずぐずしていること

  6. 小倉百人一首:镰仓时代歌人藤原定家编选的和歌集,收录从天智天皇到顺德天皇时期 100 位歌人各一首作品

  7. :[名]風雨・日光・ほこりなどを防ぐために車にかけるおおい

  8. 尾根:[名]山の高い所。また、山頂と山頂との間に連続している高い部分

  9. チャン (Chian turpentineの略からか):タールを蒸留して残ったもの

  10. バス ([独] Bass):[名]男声の最も低い音域

  11. 堀割:[名]地を掘って水を通したところ

  12. 鬩ぎ合う:[動ワ五(ハ四)]互いに争う

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永雏多氢菲
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