梶井基次郎: 器楽的幻覚
first published:『近代風景』(アルス詩誌)1928年5月1日発行5月号
audio:https://www.youtube.com/watch?v=b2zeFaaEYFA
desc: 在聆听著名钢琴家演奏时,乐曲的声音与弹奏键盘的演奏者动作之间产生了脱节、分离。作品以极具魅力的笔触,细致刻画了这样一个过程:由听觉与视觉分离的错觉,被引向孤高的幻想状态,并最终悟到人类存在的非理性与不连贯性
ある秋仏蘭西から来た年若い洋琴家がその国の伝統的な技巧で豊富な数の楽曲を冬にかけて演奏して行ったことがあった。そのなかには独逸の古典的な曲目もあったが、これまで噂ばかりで稀にしか聴けなかった多くの仏蘭西系統の作品が齎らされていた1。私が聴いたのは何週間にもわたる六回の連続音楽会であったが、それはホテルのホールが会場だったので聴衆も少なく、そのため静かなこんもりした感じのなかで聴くことができた。回数を積むにつれて私は会場にも、周囲の聴衆の頭や横顔の恰好にも慣れて、教室へ出るような親しさを感じた。そしてそのような制度の音楽会を好もしく思った。
某年秋天,一名来自法国的年轻钢琴家,以该国的传统技巧演奏多首乐曲,从秋天一直持续到冬天。当中也有德国的古典曲目,不过他同时也带来了过去只听闻过,却鲜少一饱耳福的法国作品。我连着欣赏了六场音乐会,为期数周之久,不过因为是以饭店的大厅当会场,听众不多,所以能在一小群人静静聚集的感觉下聆听。随着聆听次数的增加,我也逐渐习惯会场,以及周遭听众的脑袋和侧脸,就像到教室上课一样,有种亲近感。我也喜欢上这种风格的音乐会。
その終わりに近いあるアーベント2のことだった。その日私はいつもにない落ちつきと頭の澄明を自覚しながら会場へはいった。そして第一部の長いソナタを一小節も聴き落すまいとしながら聴き続けていった。それが終わったとき、私は自分をそのソナタの全感情のなかに没入させることができたことを感じた。私はその夜床へはいってからの不眠や、不眠のなかで今の幸福に倍する苦痛をうけなければならないことを予感したが、その時私の陥っていた深い感動にはそれは何の響きも与えなかった。
那是音乐会即将结束的某场表演中发生的事。那天,我感受到平时所没有的冷静与清醒,走进会场。接着是第一首长篇奏鸣曲,我持续聆听,不想错过任何一个小节。一曲奏毕,我感觉自己完全投入这首奏鸣曲的情感中。我有预感,今天晚上就寝后势必会面对失眠,以及在失眠中感受到比此刻的幸福多出一倍的痛苦,但这完全不影响当时我深陷其中的深刻感动。
休憩の時間が来たとき私は離れた席にいる友達に目眴をして人びとの肩の間を屋外に出た。その時間私とその友達とは音楽に何の批評をするでもなく黙り合って煙草を吸うのだったが、いつの間にか私達の間できまりになってしまった各々の孤独ということも、その晩そのときにとっては非常に似つかわしかった。そうして黙って気を鎮めていると私は自分を捕えている強い感動が一種無感動に似た気持を伴って来ていることを感じた。煙草を出す。口にくわえる。そして静かにそれを吹かすのが、いかにも「何の変わったこともない」感じなのであった。――燈火を赤く反映している夜空も、そのなかにときどき写る青いスパークも。……しかしどこかからきこえて来た軽はずみな口笛がいまのソナタに何回も繰り返されるモティイフを吹いているのをきいたとき、私の心が鋭い嫌悪にかわるのを、私は見た。
休息时间到了的时候,我朝坐在远处的朋友使了个眼色,从其他听众间穿过,来到屋外。在那段时间里,我和朋友没对音乐做任何评判,就只是默默吞云吐雾,不知不觉间,我们彼此拥有的各自的孤独,在那个晚上的那个时刻十分相似。像这样静默不语,保持心情平静后,我感觉到有种将我攫获的强烈感动,伴随着一种似乎没任何感动的情绪向我靠近。我取出一根烟,叼在嘴里。接着静静呼出一口烟,心里深深觉得 “没什么不一样的”。——映照出红色灯火的夜空,还有不时浮现的蓝色闪光,也一样平凡无奇……但当我听到某处传来的轻浮的口哨声,一再反复吹着刚才那首奏鸣曲的主旋律时,我便看到自己内心转为强烈的厌恶。
休憩の時間を残しながら席に帰った私は、すいた会場のなかに残っている女の人の顔などをぼんやり見たりしながら、心がやっと少しずつ寛解して来たのを覚えていた。しかしやがてベルが鳴り、人びとが席に帰って、元のところへもとの頭が並んでしまうと、それも私にはわからなくなってしまうのだった。私の頭はなにか凍ったようで、はじまろうとしている次の曲目をへんに重苦しく感じていた。こんどは主に近代や現代の短い仏蘭西の作品が次つぎに弾かれていった。
休息时间还没结束,我便回到座位上,心不在焉地望着留在空旷会场里的女人,同时感觉到自己终于略微宽心。但很快地,铃声响起,人们纷纷回到座位上,当一颗颗脑袋又回到原本的位置上时,我顿觉一片混乱。脑袋里似乎有什么冻结了,正准备展开的下一首曲目,压得我喘不过气来。接下来要演奏的,以近代和现代的法国短篇作品为主。
演奏者の白い十本の指があるときは泡を噛かんで進んでゆく波頭のように、あるときは戯れ合っている家畜のように鍵盤に挑みかかっていた。それがときどき演奏者の意志からも鳴り響いている音楽からも遊離して動いているように感じられた。そうかと思うと私の耳は不意に音楽を離れて、息を凝らして聴き入っている会場の空気に触れたりした。よくあることではじめは気にならなかったが、プログラムが終わりに近づいてゆくにつれてそれはだんだん顕著になって来た。明らかに今夜は変だと私は思った。私は疲れていたのだろうか? そうではなかった。心は緊張し過ぎるほど緊張していた。一つの曲目が終わって皆が拍手をするとき私は癖で大抵の場合じっとしているのだったが、この夜はことに強しいられたように凝然としていた。するとどよめきに沸き返りまたすーっと収まってゆく場内の推移が、なにか一つの長い音楽のなかで起ることのように私の心に写りはじめた。
演奏者那白皙的十根手指,有时像咬破泡沫一路往前推进的浪头,有时像互相嬉闹的家畜,向键盘挑衅。感觉它们不时会脱离演奏者的意思,以及鸣响传奏的音乐,自主行动。想到这里,我的耳朵突然从音乐上远去,改为聆听会场中众人屏息凝神的空气。这是常有的事,因此一开始并不在意,但随着节目逐渐接近尾声,这感觉愈来愈明显。显然我今晚不太正常。是因为累了吗?不对。我心里极度紧张。一曲奏毕,众人齐声鼓掌时,我基于平时的习惯,向来都保持安静,但今晚我像是被强迫似的,更加一动也不动。这时,会场内的热情欢腾逐渐冷却下来,这样的转变,就像在一首长篇的乐曲中呈现的起伏,开始投映在我心中。
読者は幼時こんな悪戯をしたことはないか。それは人びとの喧噪のなかに囲まれているとき、両方の耳に指で栓をしてそれを開けたり閉じたりするのである。するとグワウッ――グワウッ――という喧噪の断続とともに人びとの顔がみな無意味に見えてゆく。人びとは誰もそんなことを知らず、またそんななかに陥っている自分に気がつかない。――ちょうどそれに似た孤独感が遂に突然の烈しさで私を捕えた。それは演奏者の右手が高いピッチのピアニッシモ3に細かく触れているときだった。人びとは一斉に息を殺してその微妙な音に絶え入っていた。ふとその完全な窒息に眼覚めたとき、愕然と私はしたのだ。
各位读者在年幼时可曾做过这样的调皮动作?当被人们的喧闹包围时,以手指堵住两边的耳朵,一会儿松开,一会儿堵上。如此一来,“哗呜哗呜” 的喧闹声会变得断断续续,同时人们的脸看起来也会显得不具意义。没人知道我这样的举动,也不会发现我独自沉浸在这样的乐趣中。——和这种感觉很类似的孤独感,最后以突如其来的强劲之势掳获我。那时候演奏者的右手正在细腻地处理高音阶的极弱音。众人皆屏息聆听那微妙的乐音。当我突然从这完全窒息的气氛中醒来时,大为惊愕。
「なんという不思議だろうこの石化は? 今なら、あの白い手がたとえあの上で殺人を演じても、誰一人叫び出そうとはしないだろう」
“眼前这种石化现象也太不可思议了吧?如果是现在这个时刻,那双白皙的手就算在台上上演杀人的戏码,想必也没人会尖叫吧。”
私は寸時まえの拍手とざわめきとをあたかも夢のように思い浮かべた。それは私の耳にも目にもまだはっきり残っていた。あんなにざわめいていた人びとが今のこの静けさ――私にはそれが不思議な不思議なことに思えた。そして人びとは誰一人それを疑おうともせずひたむきに音楽を追っている。言いようもないはかなさが私の胸に沁しみて来た。私は涯はてもない孤独を思い浮かべていた。音楽会――音楽会を包んでいる大きな都会――世界。……小曲は終わった。木枯のような音が一しきり過ぎていった。そのあとはまたもとの静けさのなかで音楽が鳴り響いていった。もはやすべてが私には無意味だった。幾たびとなく人びとがわっわっとなってはまたすーっとなっていったことが何を意味していたのか夢のようだった。
我像在做梦般,想起刚才的拍手和喧腾。它还清楚地残留在我眼中和耳畔。刚才那些喧闹的人们,此时竟处在这样的宁静中——我对此深感不可思议。而且没人对此感到怀疑,就只是一味地沉浸在音乐里。那无从言喻的虚无感,直渗进我心中。那无穷尽的孤独浮现我心头。音乐会——围绕在音乐会之外的大都会——世界。……小曲演奏完毕。那宛如寒风般的声音频频从我耳畔掠过。之后音乐又在宁静中响起。可一切对我来说已无意义。人们多次哗然,接着又鸦雀无声,这有什么意义?一切就如同梦一场。
最後の拍手とともに人びとが外套と帽子を持って席を立ちはじめる会の終わりを、私は病気のような寂寥感で人びとの肩に伍して出口の方へ動いて行った。出口の近くで太い首を持った背広服の肩が私の前へ立った。私はそれが音楽好きで名高い侯爵だということをすぐ知った。そしてその服地の匂いが私の寂寥を打ったとき、何事だろう、その威厳に充ちた姿はたちまち萎縮してあえなくその場に仆れてしまった。私は私の意志からでない同様の犯行を何人もの心に加えることに言いようもない憂鬱を感じながら、玄関に私を待っていた友達と一緒になるために急いだ。その夜私は私達がそれからいつも歩いて出ることにしていた銀座へは行かないで一人家へ歩いて帰った。私の予感していた不眠症が幾晩も私を苦しめたことは言うまでもない。
随着最后一次的掌声,人们开始拿起外套和帽子起身离席,曲终人散。在宛如染病般的寂寥感下,我随着人群走向出口。在出口附近,有个身穿西装、脖子粗大的男子排在我前方。我一眼就认出,他是那位素以喜爱音乐闻名的侯爵。而当他衣服质地散发的气味触动我心中的寂寥时,不知为何,他那充满威严的身影迅速萎缩,当场倒卧。虽然这不是出于我个人的意识,但在心中,我对许多人施加了同样的罪行,这令我感受到一股难以言喻的忧郁,让我赶着与站在门口等我的朋友会合。那天晚上我没跟他一起前往平时我们会去散步的银座,我独自走路返家。不用说也知道,早在我预料中的失眠接连好几晚都折磨着我。