芥川龍之介: 地獄変

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芥川龍之介: 地獄変
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first published:『大阪毎日新聞』、『東京日日新聞』1918年 5月1日-22日
audio: www.youtube.com/watch?v=JzvQYO-NreE
desc: 平安时代的画佛师良秀,奉大殿之命绘制地狱变屏风。他目睹爱女被困在燃烧的牛车之中,陷入艺术带来的法悦,完成作品后自尽。小说刻画了艺术至上主义。

一#

堀川の大殿樣おほとのさまのやうな方は、これまでは固より、後の世には恐らく二人とはいらつしやいますまい。噂に聞きますと、あの方の御誕生になる前には、大威徳明王1の御姿が御母君おんはゝぎみの夢枕にお立ちになつたとか申す事でございますが、兎に角御生れつきから、並々の人間とは御違ひになつてゐたやうでございます。でございますから、あの方の爲なさいました事には、一つとして私どもの意表に出てゐないものはございません。早い話が堀川のお邸の御規模を拜見致しましても、壯大と申しませうか、豪放と申しませうか、到底私どもの凡慮ぼんりょには及ばない、思ひ切つた所があるやうでございます。中にはまた、そこを色々とあげつらつて2大殿樣の御性行を始皇帝や煬帝やうだいに比べるものもございますが、それは諺に云ふ群盲の象を撫でるやうなものでもございませうか。あの方の御思召は、決してそのやうに御自分ばかり、榮耀榮華をなさらうと申すのではございません。それよりはもつと下々の事まで御考へになる、云はば天下と共に樂しむとでも申しさうな、大腹中の御器量がございました。

像堀川大人这样的人物,固然是前无古人,恐怕后世也不会再有第二位了。有传言说,大人诞生前,母夫人曾梦见大威德明王出现在自己枕前,总之,他生来便非比寻常。因此,大人的所作所为,没有一件不出乎我们这等人的意料。就说堀川府邸的规模吧,那是何等宏大,何等壮丽!大人的胆魄终究不是凡庸之人所能企及的。有人因此议论纷纷,把大人的品性与秦始皇、隋炀帝做比较,那可真是俗谚所说的“盲人摸象”。大人的心思绝非仅仅使自己荣华荣耀,他思虑更多的是底下人的事,那恢弘的度量正可谓是“与天下同乐”。

それでございますから、二條大宮の百鬼夜行に御遇ひになつても、格別御障りがなかつたのでございませう。又陸奧の鹽竈の景色を寫したので名高いあの東三條の河原院に、夜な/\現はれると云ふ噂のあつた融とほるの左大臣の靈でさへ、大殿樣のお叱りを受けては、姿を消したのに相違ございますまい。かやうな御威光でございますから、その頃洛中の老若男女が、大殿樣と申しますと、まるで權者ごんじやの再來のやうに尊み合ひましたも、決して無理ではございません。何時ぞや、内の梅花の宴からの御歸りに御車の牛が放れて、折から通りかゝつた老人に怪我をさせました時でさへ、その老人は手を合せて、大殿樣の牛にかけられた事を難有がつたと申す事でございます。

大人既然是这样的人物,所以当他遇到二条大宫的百鬼夜行时,全然不当回事。而且,在那座因仿造了陆奥国盐釜风景而著名的东三条河原院中,传说源融左大臣每夜都要显灵,可就是那位左大臣的幽灵,在被堀川大人叱责之后,也隐去了踪迹。大人有这般的威光,也就难怪当时京城里的男女老幼,都把大人当作佛菩萨转世一般虔敬有加。记得有一次,大人参加大内的梅花宴归来,拉车的牛脱了缰绳,碰伤了一位过路老人,那老人反而双手合十,念叨着能被大人的牛撞到,真乃三生有幸。

さやうな次第でございますから、大殿樣御一代の間には、後々までも語り草になりますやうな事が、隨分澤山にございました。大饗おほみうけの引出物に白馬あをうまばかりを三十頭、賜たまわつたこともございますし、長良ながらの橋の橋柱はしばしらに御寵愛の童わらべを立てた事もございますし、それから又華陀の術を傳へた震旦しんたんの僧に、御腿の瘡もがさを御切らせになつた事もございますし、――一々數へ立てゝ居りましては、とても際限がございません。が、その數多い御逸事の中でも、今では御家の重寳になつて居ります地獄變3の屏風の由來程、恐ろしい話はございますまい。日頃は物に御騷ぎにならない大殿樣でさへ、あの時ばかりは、流石に御驚きになつたやうでございました。まして御側に仕へてゐた私どもが、魂も消えるばかりに思つたのは、申し上げるまでもございません。中でもこの私なぞは、大殿樣にも二十年來御奉公申して居りましたが、それでさへ、あのやうな凄じい見物みものに出遇つた事は、ついぞ又となかつた位でございます。

因此,终大人一世,能流传后世的话题可说是要多少有多少。比如大人蒙天皇赏赐、大飨宴的赠礼是三十匹白马啦,命自己宠爱的童子站立在长良桥的桥柱上啦,让一位有华佗之术的震旦僧人切除自己腿上的疮啦……一一数说起来,可没个尽头。不过,在众多逸事之中,再没有一件比如今府邸里珍藏的那座地狱变屏风的由来更可怕的故事了。就连平日里镇定自若的大人,在那个时刻,也大为震惊。更不必说我们这些在一旁侍奉的人,简直就是魂飞魄散。我侍奉大人二十年来,像那般凄厉悲惨的场景,再没见过第二回。

しかし、その御話を致しますには、豫め先づ、あの地獄變の屏風を描きました、良秀よしひでと申す畫師の事を申し上げて置く必要がございませう。

不过,在讲这个故事之前,先得说说那座地狱变屏风的创作者——画师良秀的事儿。

二#

良秀と申しましたら、或は唯今でも猶、あの男の事を覺えていらつしやる方がございませう。その頃繪筆をとりましては、良秀の右に出るものは一人もあるまいと申された位、高名な繪師でございます。あの時の事がございました時には、彼是もう五十の阪に、手がとゞいて居りましたらうか。見た所は唯、背の低い、骨と皮ばかりに痩せた、意地の惡さうな老人でございました。それが大殿樣の御邸へ參ります時には、よく丁字染ちやうじぞめの狩衣かりぎぬに揉烏帽子もみゑぼしをかけて居りましたが、人がらは至つて卑しい方で、何故か年よりらしくもなく、脣の目立つて赤いのが、その上に又氣味の惡い、如何にも獸めいた心もちを起させたものでございます。中にはあれは畫筆を舐なめるので紅がつくのだと申した人も居りましたが、どう云ふものでございませうか。尤もそれより口の惡い誰彼は、良秀の立居振舞たちゐふるまひが猿のやうだとか申しまして、猿秀と云ふ諢名あだなまでつけた事がございました。

提到良秀,或许现在还有人记得他。当时良秀是名重一时的画师,论起绘画的才华,无人能出其右。发生那事儿的时候,他已经过了五十的关口,身材矮小,瘦骨伶仃,看上去像个坏心眼的老头。来府里拜谒大人时,他总是穿一件丁香色猎衣,戴着乌布软帽。良秀的人品极为低下,而且不知什么缘故,他的嘴唇红得刺眼,不像个老人,令人联想起野兽之类,怪瘆人的。有人说那是因为他老舔画笔,沾上了红颜料的缘故,谁知道呢。更有些尖嘴薄舌的人,说良秀的形容举止活像个猴子,竟给他起了个诨名叫作“猿秀”。

いや猿秀と申せば、かやうな御話もございます。その頃大殿樣の御邸には、十五になる良秀の一人娘が、小女房こねうぼうに上つて居りましたが、これは又生みの親には似もつかない、愛嬌のある娘こでございました。その上早く女親に別れましたせゐか、思ひやりの深い、年よりはませた、悧巧な生れつきで、年の若いのにも似ず、何かとよく氣がつくものでございますから、御臺樣4を始め外の女房たちにも、可愛がられて居たやうでございます。

说到“猿秀”,还有这么个故事。良秀有个独生女儿,年方十五,当时在堀川大人的府中做小侍女,她是个甜美可爱的姑娘,完全不像生身父亲。或许是早早失去母亲的缘故吧,姑娘小小的年纪却心思细腻,聪明灵透,比年长的人还要温柔周到,夫人和众侍女都很喜欢她。

すると何かの折に、丹波の國から人馴れた猿を一匹、獻上したものがございまして、それに丁度惡戯盛いたづらさかりの若殿樣が、良秀と云ふ名を御つけになりました。唯でさへその猿の容子が可笑をかしい所へ、かやうな名がついたのでございますから、御邸中誰一人笑はないものはございません。それも笑ふばかりならよろしうございますが、面白半分に皆のものが、やれ御庭の松に上つたの、やれ曹司の疊をよごしたのと、その度毎に、良秀々々と呼び立てゝは、兎に角いぢめたがるのでございます。

有一次,丹波国献上来一只驯养的小猴子,喜欢恶作剧的公子便给小猴子起名为“良秀”。那小猴子本来模样就够滑稽的,再有这么个名字,府邸里没有一个人不笑的。光是笑倒还罢了,一旦小猴子爬上庭院的松树啦,把房间里的席子弄脏啦,众人就会大叫着良秀良秀,戏弄个不休,以此来取乐。

所が或日の事、前に申しました良秀の娘が、御文を結んだ寒紅梅の枝を持つて、長い御廊下を通りかゝりますと、遠くの遣戸やりどの向うから、例の小猿の良秀が、大方足でも挫いたのでございませう、何時ものやうに柱へ驅け上る元氣もなく、跛びつこを引き/\、一散に、逃げて參るのでございます。しかもその後からは楚すばえ5をふり上げた若殿樣が「柑子盜人かうじぬすびとめ、待て。待て。」と仰有りながら、追ひかけていらつしやるのではごさいませんか。良秀の娘はこれを見ますと、ちよいとの間ためらつたやうでございますが、丁度その時逃げて來た猿が、袴の裾にすがりながら、哀れな聲を出して啼き立てました――と、急に可哀さうだと思ふ心が、抑へ切れなくなつたのでございませう。片手に梅の枝をかざした儘片手に紫匂むらさきにほひの袿うちぎの袖を輕さうにはらりと開きますと、やさしくその猿を抱き上げて、若殿樣の御前に小腰をかゞめながら「恐れながら畜生でございます。どうか御勘辨遊ばしまし。」と、涼しい聲で申し上げました。

且说有一天,前文说到的良秀女儿手持系着书信的红梅枝条,正路过长长的走廊,忽然看到从远处拉门那边,小猴子良秀拼命地逃了过来。小猴子好像扭伤了脚,没力气像平常那样跳到柱子上,一跛一跛地拖着腿,身后公子拿着木棒追了上来,嘴里还叫道:“偷橘子的贼,站住,站住!”良秀女儿看到这一幕,稍稍犹豫了一下,小猴子已经逃到她身边,拉住她的裤脚,哀哀地啼叫。姑娘大概是忍不住怜悯之心吧,她一手举着梅花枝,一手轻轻展开浅紫色的广袖,温柔地把小猴子抱了起来,在公子面前微微俯下身,用清澈的声音禀道:“公子恕罪,它只是个小畜生,请您饶过它吧。”

が、若殿樣の方は、氣負きおつて驅けてお出でになつた所でございますから、むづかしい御顏をなすつて、二三度御み足を御踏鳴おふみならしになりながら、「何でかばふ。その猿は柑子盜人かうじぬすびとだぞ。」

但公子是怒气冲冲追出来的,听了这话脸色阴沉,连连跺脚,道:“你为何包庇它?这猴子是偷橘子的贼!”

「畜生でございますから、……」

“它只是个小畜生……”

娘はもう一度かう繰返しましたがやがて寂しさうにほほ笑みますと、

姑娘又重复了一遍,凄然一笑,像是鼓起了勇气似的,又说道:

「それに良秀と申しますと、父が御折檻せつかんを受けますやうで、どうも唯見ては居られませぬ。」と、思ひ切つたやうに申すのでございます。

“而且,它还叫作良秀,就像是我的父亲受到责罚似的,我实在不忍心看下去。”

これには流石の若殿樣も、我がを御折りになつたのでございませう。

她如此一说,就连公子也不能不让步了。

「さうか。父親の命乞いのちごひなら、枉げて赦してとらすとしよう。」

“是吗?既然你是为父亲求情,那我姑且饶过它吧。”

不承無承にかう仰有ると、楚すばえをそこへ御捨てになつて、元いらしつた遣戸の方へ、その儘御歸りになつてしまひました。

公子勉勉强强地应允,将木棒一丢,转身回房去了。

三#

良秀の娘とこの小猿との仲がよくなつたのは、それからの事でございます。娘は御姫樣から頂戴した黄金の鈴を、美しい眞紅しんくの紐に下げて、それを猿の頭へ懸けてやりますし、猿は又どんな事がございましても、滅多に娘の身のまはりを離れません。或時娘の風邪かぜの心地で、床に就きました時なども、小猿はちやんとその枕もとに坐りこんで、氣のせゐか心細さうな顏をしながら、頻に爪を噛んで居りました。

那件事之后,良秀女儿和小猴子变得亲密起来。姑娘把小姐赐给她的黄金铃铛,用美丽的红丝绦系在小猴子的颈上,小猴子也不管有什么事,都不肯离开姑娘身边。有一次姑娘感染风寒,躺在床上,小猴子便规规矩矩地坐在她枕头边,一脸忧心忡忡的模样,一个劲儿地啃自己的爪子。

かうなると又妙なもので、誰も今までのやうにこの小猿を、いぢめるものはございません。いや、反つてだん/\可愛がり始めて、しまひには若殿樣でさへ、時々柿や栗を投げて御やりになつたばかりか、侍の誰やらがこの猿を足蹴にした時なぞは、大層御立腹にもなつたさうでございます。その後大殿樣がわざ/\良秀の娘に猿を抱いて、御前へ出るやうと御沙汰になつたのも、この若殿樣の御腹立になつた話を、御聞きになつてからだとか申しました。その序に自然と娘の猿を可愛がる所由いはれも御耳にはいつたのでございませう。

如此一来,奇怪的是,再也没有人像从前那样欺负小猴子了。不仅如此,大家反而渐渐喜爱起它来,后来就连公子也时不时地丢柿子、栗子给它吃,一次某个侍从拿脚踢小猴子,公子甚至大发脾气。后来堀川大人特意吩咐良秀的女儿抱着小猴子上去参见,便是因为听说了公子发脾气的事。自然而然地,姑娘疼爱小猴子的缘故,也传到了大人的耳中。

「孝行な奴ぢや。褒めてとらすぞ。」

“是个孝顺女儿嘛,给她奖赏。”

かやうな御意で、娘はその時、紅くれなゐの袙あこめ6を御褒美に頂きました。所がこの袙を又見やう見眞似に、猿が恭しく押頂きましたので、大殿樣の御機嫌は、一入7よろしかつたさうでございます。でございますから、大殿樣が良秀の娘御を贔屓になつたのは、全くこの猿を可愛がつた、孝行恩愛の情を御賞美なすつたので、決して世間で兎や角申しますやうに、色を御好みになつた譯ではございません。尤もかやうな噂の立ちました起りも、無理のない所がございますが、それは又後になつて、ゆつくり御話し致しませう。こゝでは唯大殿樣が、如何に美しいにした所で、繪師風情の娘などに、想ひを御懸けになる方ではないと云ふ事を、申し上げて置けば、よろしうございます。

大人如此吩咐,赏赐姑娘一件红色衣衫。小猴子学着姑娘的模样,恭恭敬敬地把红衣衫举过头顶拜谢,令大人的心情越发愉快。由此可见,大人喜欢良秀的女儿,完全是因为赞赏她疼爱小猴子的孝顺之心,决不是像世间议论的是出于喜爱她的美色。不过传言兴起,也并非全无根由,这且留到后面慢慢说。在这里我只是想说,不管姑娘多么美貌,以大人的为人,是不会对一介画师的女儿起什么念想的。

さて良秀の娘は、面目を施して御前を下りましたが、元より悧巧な女でございますから、はしたない外の女房たちの妬ねたみを受けるやうな事もございません。反つてそれ以來、猿と一しよに何かといとしがられまして、取分け御姫樣の御側からは御離れ申した事がないと云つてもよろしい位、物見車の御供にもついぞ缺けた事はございませんでした。

且说良秀女儿在大人面前争得了体面,她本是个聪慧的姑娘,并不会有什么不妥的举动引起侍女们的嫉妒。相反,自那以后,姑娘和小猴子都受到众人的喜爱,尤其是姑娘几乎是形影不离地陪伴小姐,连小姐出门游赏时也都让她同车而行。

が、娘の事は一先づ措きまして、これから又親の良秀の事を申し上げませう。成程猿の方は、かやうに間もなく、皆のものに可愛がられるやうになりましたが、肝腎の良秀はやはり誰にでも嫌はれて、相不變あひかはらず陰へまはつては、猿秀呼りをされて居りました。しかもそれが又、御邸の中ばかりではございません。現に横川よがはの僧都樣も、良秀と申しますと、魔障にでも御遇ひになつたやうに、顏の色を變へて、御憎み遊ばしました。(尤もこれは良秀が僧都樣の御行状を戯畫ざれゑに描いたからだなどと申しますが、何分下ざまの噂でございますから、確に左樣とは申されますまい。)兎に角、あの男の不評判は、どちらの方に伺ひましてもさう云ふ調子ばかりでございます。もし惡く云はないものがあつたと致しますと、それは二三人の繪師仲間か、或は又、あの男の繪を知つてるだけで、あの男の人間は知らないものばかりでございませう。

姑娘的事先放在一边,再说说她父亲良秀。虽然小猴子良秀得到了大家的疼爱,可是良秀本人却依然是人见人厌,背地里人们仍叫他“猿秀”。而且不仅堀川府里如此,就连横川的僧都阁下,一提到良秀,就仿佛看见妖魔似的,厌恨得脸色都要变化。(不过,有人说那是因为良秀把僧都阁下的行为画成了滑稽画的缘故,这都是下等人的传言,当然不是那么回事。)总之,不管让谁说,良秀这人的坏名声都没什么两样。也有人不说他的坏话,但那仅限于两三个画师同行,或者是只见过他的画、不晓得他的品性的人。

しかし實際、良秀には、見た所が卑しかつたばかりでなく、もつと人に嫌がられる惡い癖があつたのでございますから、それも全く自業自得とでもなすより外に、致し方はございません。

实际上,良秀这人不光是模样卑琐,他还有好些更招人嫌恶的毛病,所以只能说他全是自作自受。

四#

その癖と申しますのは、吝嗇で、慳貪で、恥知らずで、怠けもので、強慾で――いやその中でも取分け甚しいのは、横柄で高慢で、何時も本朝第一の繪師と申す事を、鼻の先へぶら下げてゐる事でございませう。それも畫道の上ばかりならまだしもでございますが、あの男の負け惜しみになりますと、世間の習慣ならはしとか慣例しきたりとか申すやうなものまで、すべて莫迦に致さずには置かないのでございます。これは永年良秀の弟子になつてゐた男の話でございますが、或日さる方の御邸で名高い檜垣ひがきの巫女に御靈ごりやうが憑ついて、恐しい御託宣があつた時も、あの男は空耳そらみゝを走らせながら、有合せた筆と墨とで、その巫女の物凄い顏を、丁寧に寫して居つたとか申しました。大方御靈の御祟おたゝりも、あの男の眼から見ましたなら、子供欺し位にしか思はれないのでございませう。

说起良秀的毛病,那就是他吝啬、刻薄、不知羞耻、懒惰、贪婪——其中最为甚者,就是自高自大、傲慢无礼,总是把本朝第一画师的幌子挂在脸上。若单单是画艺上的事倒还罢了,可那人的逞强好胜,简直把世间的习俗惯例全不放在眼里。据一个跟随良秀多年的徒弟说,有一天府里那位著名的桧垣巫女幽灵附体,降下了可怕的谕旨,可良秀却一边心不在焉地听着,一边拿起手头的笔墨,仔仔细细地画出了巫女那张吓人的脸。或许幽灵作祟的事,在他看来只不过是欺骗小孩子的把戏吧。

さやうな男でございますから、吉祥天8を描く時は、卑しい傀儡くぐつの顏を寫しましたり、不動明王を描く時は、無頼の放免はうめんの姿を像りましたり、いろ/\の勿體ない眞似を致しましたが、それでも當人を詰りますと「良秀の描かいた神佛がその良秀に冥罰を當てられるとは、異な事を聞くものぢや」と空嘯そらうそぶいてゐるではございませんか。これには流石の弟子たちも呆れ返つて、中には未來の恐ろしさに、匆々暇をとつたものも、少くなかつたやうに見うけました。――先づ一口に申しましたなら、慢業重疊まんごふちようでふとでも名づけませうか。兎に角當時天あめが下したで、自分程の偉えらい人間はないと思つてゐた男でございます。

良秀就是这么一个人,所以他画吉祥天女的时候,摹写的是一个卑贱妓女的脸,画不动明王的时候,参照的又是一个无赖汉的模样。如此这般,他做出种种不敬之举,可当你责问他时,他又大言不惭地说什么“我良秀画的神佛,若降罪给我良秀,岂非咄咄怪事”?因此,就连徒弟们也无可奈何,其中有不少人害怕以后会遭报应,匆匆离他而去。一言以蔽之,他无比狂妄自大,总以为天底下再没有胜过自己的人了。

從つて良秀がどの位畫道でも、高く止つて居りましたかは、申し上げるまでもございますまい。尤もその繪でさへ、あの男のは筆使ひでも彩色でも、まるで外の繪師とは違つて居りましたから、仲の惡い繪師仲間では、山師だなどと申す評判も、大分あつたやうでございます。その連中の申しますには、川成9かはなりとか金岡10かなをかとか、その外昔の名匠の筆になつた物と申しますと、やれ板戸の梅の花が、月の夜毎に匂つたの、やれ屏風の大宮人おほみやびとが、笛を吹く音さへ聞えたのと、優美な噂が立つてゐるものでございますが、良秀の繪になりますと、何時でも必ず氣味の惡い、妙な評判だけしか傳はりません。譬へばあの男が龍蓋寺の門へ描かきました、五趣しゆ生死しやうじの繪に致しましても、夜更よふけて門の下を通りますと、天人の嘆息ためいきをつく音や啜り泣きをする聲が、聞えたと申す事でございます。いや、中には死人の腐つて行く臭氣を、嗅いだと申すものさへございました。それから大殿樣の御云ひつけで描かいた、女房たちの似繪にせゑなども、その繪に寫されたゞけの人間は、三年と盡たない中に、皆魂の拔けたやうな病氣になつて、死んだと申すではございませんか。惡く云ふものに申させますと、それが良秀の繪の邪道に落ちてゐる、何よりの證據ださうでございます。

说到良秀在画艺上达到了多高造诣,那倒是毋庸多言的。只不过,就连他的画也怪,他在运笔和用色上与别的画师截然不同,不少和他交恶的画师评论说那简直是邪门歪道。据那些人说,像川成、金冈等古代名家的画作,都有些优雅美丽的传闻,比如板门上的梅花每逢月夜便会散发清香啦,听到屏风上画的公卿贵人们吹笛的声音啦。可是良秀的画作却只有奇异可怕的传闻,比如他在龙盖寺大门上画的那幅《五趣生死图》,有人半夜从门下经过时,听到了天人的叹息声和啜泣声,这还不算,甚至有人嗅到了尸体腐烂的臭气。大人吩咐他为侍女们画像,可是被他画过的侍女,都在三年之内得了失魂之症而死。说句不好听的,这就是良秀的画堕入邪道的最好证据。

が、何分前にも申し上げました通り、横紙破りな男でございますから、それが反つて良秀は大自慢で、何時ぞや大殿樣が御冗談に、「その方は兎角醜いものが好きと見える。」と仰有つた時も、あの年に似ず赤い脣でにやりと氣味惡く笑ひながら、「さやうでござりまする。かいなでの繪師には總じて醜いものゝ美しさなどと申す事は、わからう筈がございませぬ。」と、横柄に御答へ申し上げました。如何に本朝第一の繪師に致せ、よくも大殿樣の御前へ出て、そのやうな高言が吐けたものでございます。先刻引合に出しました弟子が、内々師匠に「智羅永壽ちらえいじゆ」と云ふ諢名をつけて、増長慢11を譏そしつて12居りましたが、それも無理はございません。御承知でもございませうが、「智羅永壽」と申しますのは、昔震旦から渡つて參りました天狗の名でございます。

总之,正如前面所说的,良秀就是这么一个不守常规、傲慢无礼的人,可是他反而以此为荣。有一次大人戏谑地说“看来你就喜欢丑恶之物”,他咧开那与年纪不般配的红嘴唇,怪模怪样地笑着,得意洋洋地答道:“正是,平庸的画师不会懂得丑恶之物中的美。”再怎么是本朝第一画师,又岂能在大人面前如此出言不逊?前面说过的那个徒弟,私下里给师傅起了个诨名叫作“智罗永寿”,以讥讽他的傲慢,这也是难怪的。如您所知,“智罗永寿”是古代从震旦来的天狗的名字。

しかしこの良秀にさへ――この何とも云ひやうのない、横道者の良秀にさへ、たつた一つ人間らしい、情愛のある所がございました。

不过,就连良秀——这个目空一切、不可言喻的良秀,身上也有一处有人情味的、充满爱意的所在。

五#

と申しますのは、良秀が、あの一人娘の小女房をまるで氣違ひのやうに可愛がつてゐた事でございます。先刻申し上げました通り、娘も至つて氣のやさしい、親思ひの女でございましたが、あの男の子煩惱は、決してそれにも劣りますまい。何しろ娘の着る物とか、髮飾とかの事と申しますと、どこの御寺の勸進にも喜捨きしゃをした事のないあの男が、金錢には更に惜し氣もなく、整へてやると云ふのでございますから、嘘のやうな氣が致すではございませんか。

那就是,良秀对自己唯一的女儿小侍女,疼爱得几乎心神颠倒。方才说过,女儿脾性极为温柔,是个孝顺体贴的姑娘,而良秀溺爱女儿的心思也绝不逊色。良秀这人,不管哪里的寺庙向他化缘,都不肯布施一点,可是一提到女儿身上的衣裳、头上的钗环,他便毫不吝惜金钱,安排得齐齐整整,说来真令人难以置信。

が、良秀の娘を可愛がるのは、唯可愛がるだけで、やがてよい聟むこをとらうなどと申す事は、夢にも考へて居りません。それ所か、あの娘へ惡く云ひ寄るものでもございましたら、反つて辻冠者つじくわんじや13ばらでも驅り集めて、暗打やみうち位は喰はせ兼ねない量見でございます。でございますから、あの娘が大殿樣の御聲がゝりで小女房に上りました時も、老爺おやぢの方は大不服で、當座の間は御前へ出ても、苦り切つてばかり居りました。大殿樣が娘の美しいのに御心を惹かされて、親の不承知なのもかまはずに、召し上げたなどと申す噂は、大方かやうな容子を見たものゝ當推量あてずゐりやうから出たのでございませう。

不过,良秀爱女儿却是只知道疼爱,做梦也没想过要帮女儿选一个好夫婿。非但如此,若是有人打女儿的主意,他反而会雇几个街头的无赖泼皮,暗地里把人家收拾一顿。所以,当大人命女儿进府里做小侍女时,当爹的极不情愿,虽说女儿暂时是进府了,但良秀总是一副愁眉苦脸的模样。有传言说大人为姑娘的美貌所动心,不顾人家父亲不愿意,硬把她召进府里,大约便是从良秀的那副模样推测出来的。

尤も其噂は嘘でございましても、子煩惱の一心から、良秀が始終娘の下るやうに祈つて居りましたのは確でございます。或時大殿樣の御云ひつけで、稚兒文殊ちごもんじゆを描きました時も、御寵愛の童わらべの顏かほを寫しまして、見事な出來でございましたから、大殿樣も至極御滿足で、

不过,传言虽然是子虚乌有,但一门心思溺爱女儿的良秀,总是盼着女儿出府,倒是不假的。有一次大人命他画一幅稚年文殊菩萨像,良秀摹照着一个大人宠爱的童子的模样,画得异常精彩,大人十分满意,说出了难得的嘉勉之言:

「褒美にも望みの物を取らせるぞ。遠慮なく望め。」と云ふ難有い御言が下りました。すると良秀は畏まつて、何を申すかと思ひますと、

“你想要什么赏赐?不必顾忌,只管说来。”良秀恭敬领命,您猜他会说什么?

「何卒私の娘をば御下げ下さいまするやうに。」と臆面もなく申し上げました。外のお邸ならば兎も角も、堀河の大殿樣の御側に仕へてゐるのを、如何に可愛いからと申しまして、かやうに無躾ぶしつけに御暇を願ひますものが、どこの國に居りませう。これには大腹中の大殿樣も聊か御機嫌を損じたと見えまして、暫くは唯默つて良秀の顏を眺めて御居でになりましたが、やがて、「それはならぬ。」と吐出はきだすやうに仰有ると、急にその儘御立ちになつてしまひました。かやうな事が、前後四五遍もございましたらうか。今になつて考へて見ますと、大殿樣の良秀を御覽になる眼は、その都度にだんだんと冷やかになつていらしつたやうでございます。すると又、それにつけても、娘の方は父親の身が案じられるせゐでゞもございますか、曹司14へ下つてゐる時などは、よく袿の袖を噛んで、しく/\泣いて居りました。そこで大殿樣が良秀の娘に懸想なすつたなどと申す噂が、愈々擴ひろがるやうになつたのでございませう。中には地獄變の屏風の由來も、實は娘が大殿樣の御意に從はなかつたからだなどと申すものも居りますが、元よりさやうな事がある筈はございません。

原来他毫不客气地说“请您放还我的女儿吧”。若在别的府邸倒也罢了,但那是在堀川大人身边侍奉的人,不管你多么疼爱女儿,如此不懂规矩地请辞,天下有谁敢这么做?因此,宽宏大量的大人也有几分不悦,有片刻工夫只是沉默地看着良秀,末了丢下一句“不行”,蓦地拂袖而去。像这样的事,前后总有四五回。现在想来,便是在此期间,大人看良秀的眼神渐渐地愈来愈冷。而且,每当这种时候,女儿大概是替父亲担忧吧,回自己房里时,经常咬着袖子嘤嘤地哭泣。于是,大人对良秀的女儿心存绮念这一谣言,便越传越盛。甚至有人说,那座地狱变屏风的由来,其实就是因为女儿不肯顺从大人的心意所致。当然,这都是根本不可能有的事。

私どもの眼から見ますと、大殿樣が良秀の娘を御下げにならなかつたのは、全く娘の身の上を哀れに思召したからで、あのやうに頑かたくなな親の側へやるよりは御邸に置いて、何の不自由なく暮させてやらうと云ふ難有い御考へだつたやうでございます。それは元より氣立ての優しいあの娘を、御贔屓になつたのには間違ひございません。が、色を御好みになつたと申しますのは、恐らく牽強附會の説でございませう。いや、跡方もない嘘と申した方が、宜しい位でございます。――

依在下看来,大人不放良秀女儿回去,完全是出于对女儿的怜惜,与其让她回到顽固的父亲身边,不如在府里自由自在地生活。对那个性情温柔的姑娘,大人的确颇为喜欢,可是若说大人喜欢的是她的美色,则恐怕是牵强附会,不,甚至可以说,那都是无中生有。

それは兎も角もと致しまして、かやうに娘の事から良秀の御覺えが大分惡くなつて來た時でございます。どう思召したか、大殿樣は突然良秀を御召になつて、地獄變の屏風を描くやうにと、御云ひつけなさいました。

总之,为着女儿的事,大人对良秀大为不快。就在这当口,不知出于什么缘故,大人忽然召见良秀,命他画一座地狱变的屏风。

六#

地獄變の屏風と申しますと、私はもうあの恐ろしい畫面の景色が、ありありと眼の前へ浮んで來るやうな氣が致します。

提到地狱变屏风,那恐怖的画面仿佛浮现在我眼前,一切都历历在目。

同じ地獄變と申しましても、良秀の描きましたのは、外の繪師のに比べますと、第一圖取りから似て居りません。それは一帖の屏風の片隅へ、小さく十王を始め眷屬たちの姿を描いて、あとは一面に紅蓮大紅蓮ぐれんだいぐれんの猛火が、劍山刀樹も爛れるかと思ふ程渦を卷いて居りました。でございますから、唐からめいた冥官めうくわんたちの衣裳が、點々と黄や藍を綴つて居ります外は、どこを見ても烈々とした火焔の色で、その中をまるで卍のやうに、墨を飛ばした黒煙と金粉を煽つた火の粉とが、舞ひ狂つて居るのでございます。

同样是地狱图,良秀所画的与其他画师的相比,从构图上先就大不相同。屏风的一角画着十殿阎王和鬼卒们的小小身形,余下的就是满满一面像红莲、大红莲般的熊熊烈火,烈火卷起漩涡,几乎要将刀山剑树熔化。除了冥官们身上的唐风衣袍点缀着些许黄色和蓝色之外,整个画面都是烈烈火焰的颜色,黑烟飞舞着墨色,盘旋成卍字,火舌迸溅着金星,疯狂地席卷一切。

こればかりでも、隨分人の目を驚かす筆勢でございますが、その上に又、業火ごふくわに燒やかれて、轉々と苦しんで居ります罪人も、殆ど一人として通例の地獄繪にあるものはございません。何故なぜかと申しますと良秀は、この多くの罪人の中に、上は月卿雲客から下も乞食非人まで、あらゆる身分の人間を寫して來たからでございます。束帶のいかめしい殿上人てんじやうびと、五つ衣ぎぬのなまめかしい青女房、珠數をかけた念佛僧、高足駄を穿いた侍學生、細長ほそながを着た女めの童わらは、幣みてぐらをかざした陰陽師おんみやうじ――一々數へ立てゝ居りましたら、とても際限はございますまい。兎に角さう云ふいろ/\の人間が、火と煙とが逆捲く中を、牛頭馬頭の獄卒に虐さいなまれて、大風に吹き散らされる落葉のやうに、紛々と四方八方へ逃げ迷つてゐるのでございます。鋼叉さすまたに髮をからまれて、蜘蛛よりも手足を縮めてゐる女は、神巫かんなぎの類たぐひでゞもございませうか。手矛てほこに胸を刺し通されて、蝙蝠のやうに逆になつた男は、生受領なまずりやう15か何かに相違ございますまい。その外或は鐵くろがねの笞しもとに打たれるもの、或は千曳ちびきの磐石ばんじやくに押されるもの、或は怪鳥けてうの嘴にかけられるもの、或は又毒龍の顎あぎとに噛まれるもの、――呵責も亦罪人の數に應じて、幾通りあるかわかりません。

仅仅是这些,笔法就足够骇人眼目了,此外,那些被地狱中的业火焚烧、苦不堪言的罪人,几乎没有一人与常见的地狱图相同。这是因为,众多的罪人中,上至公卿贵人,下至乞丐贱民,良秀把所有身份的人都一一描绘。束带庄严的殿上高官,五重彩衣的娇艳女官,挂着念珠的僧侣,脚踏高屐的寮生侍从,身着圆领窄袍的女童,手捧献神币帛的阴阳师……真是数不胜数。这些人在汹涌翻滚的烈火浓烟中,被牛头马面的狱卒所虐待,像被大风吹散的落叶似的,朝着四面八方惊惶奔逃。那个头发缠在钢叉上、手足比蜘蛛还蜷曲的女人,大概是巫女吧。那被长刀刺穿胸膛、像蝙蝠一样倒挂的男人,一定是某地新任的国司。此外,有人被铁鞭笞打,有人被压在千钧磐石底下,有人被叼在怪鸟喙中,有人被咬在毒龙口里——与罪人的数目相对应,刑罚也五花八门,不胜枚举。

が、その中でも殊に一つ目立つて凄じく見えるのは、まるで獸けものの牙のやうな刀樹の頂きを半ばかすめて(その刀樹の梢にも、多くの亡者が櫐々と、五體を貫つらぬかれて居りましたが)中空なかぞらから落ちて來る一輛の牛車でございませう。地獄の風に吹き上げられた、その車の簾すだれの中には、女御、更衣にもまがふばかり、綺羅びやかに裝つた女房が、丈の黒髮を炎の中になびかせて、白い頸うなじを反そらせながら、悶え苦しんで居りますが、その女房の姿と申し、又燃えしきつてゐる牛車と申し、何一つとして炎熱地獄の責苦を偲ばせないものはございません。云はゞ廣い畫面の恐ろしさが、この一人の人物に輳あつまつてゐるとでも申しませうか。これを見るものゝ耳の底には、自然と物凄い叫喚の聲が傳はつて來るかと疑ふ程、入神の出來映えでございました。

不过,其中最醒目、最骇人的,还要算半空中掉下来的一辆牛车,将兽牙般的刀山剑树的顶遮去了一半(剑树的梢上尸骸累累,五体皆被刺穿)。地狱的狂风卷起牛车的车帘,车内是一个遍身绮罗的女官,衣装华丽不亚于宫中嫔妃,她那长长的黑发在火焰中飘扬,白皙的颈项朝后仰起,痛苦地挣扎着。女官的身影也罢,熊熊燃烧的牛车也罢,都令人感受到炎热地狱的苦难。甚至可以说,那广阔画面中的可怖,都集中到了这一个人物身上。看到这幅画的人,自然而然地,耳中似乎听到了凄厉的呻吟惨叫之声。总之,那真是出神入化的杰作。

あゝ、これでございます、これを描く爲めに、あの恐ろしい出來事が起つたのでございます。又さもなければ如何に良秀でも、どうしてかやうに生々いき/\と奈落の苦艱が畫かれませう。あの男はこの屏風の繪を仕上げた代りに、命さへも捨てるやうな、無慘な目に出遇ひました。云はゞこの繪の地獄は、本朝第一の繪師良秀が、自分で何時か墮ちて行く地獄だつたのでございます。……

唉唉,就是这样,就是为了画这座屏风,才发生了那件可怕的事。否则的话,纵然是良秀,又怎么能将地狱的苦难描绘得如此栩栩如生?那人完成了这座屏风画,也为此遭遇悲惨,连性命都送掉了。说起来,这幅画中的地狱,就是本朝第一画师良秀自己早晚要堕入的地狱。

私はあの珍しい地獄變の屏風の事を申上げますのを急いだあまりに、或は御話の順序を顛倒致したかも知れません。が、これから又引き續いて、大殿樣から地獄繪を描けと申す仰せを受けた良秀の事に移りませう。

在下太急于叙说那座罕见的地狱变屏风,把故事的顺序都弄颠倒了。接下来,继续说说那良秀奉了大人之命,画地狱图的事吧。

七#

良秀はそれから五六箇月の間、まるで御邸へも伺はないで、屏風の繪にばかりかゝつて居りました。あれ程の子煩惱がいざ繪を描くと云ふ段になりますと、娘の顏を見る氣もなくなると申すのではございますから、不思議なものではございませんか。先刻申し上げました弟子の話では、何でもあの男は仕事にとりかゝりますと、まるで狐でも憑ついたやうになるらしうございます。いや實際當時の風評に、良秀が畫道で名を成したのは、福徳の大神おほかみに祈誓をかけたからで、その證據にはあの男が繪を描いてゐる所を、そつと物陰から覗いて見ると必ず陰々として靈狐の姿が、一匹ならず前後左右に、群つてゐるのが見えるなどと申す者もございました。その位でございますから、いざ畫筆を取るとなると、その繪を描き上げると云ふより外は、何も彼も忘れてしまふのでございませう。晝も夜も一間に閉ぢこもつたきりで、滅多に日の目も見た事はございません。――殊に地獄變の屏風を描いた時には、かう云ふ夢中になり方が、甚しかつたやうでございます。

自从奉命作画以后,有五六个月的时间,良秀没有到府里参见,只一心画那座屏风。那么疼爱女儿的人,一旦作起画来,竟连女儿也不想见了,着实匪夷所思。不过实际上,当时有一个传言,说是良秀之所以能在画道上成名,是因为他在福德大神前起过誓。证据就是当他作画时,如果悄悄地从隐蔽之处窥察,便会发现幽暗之中有多只灵狐的身影,在良秀的周围聚集成群。因为这个缘故,一旦他拿起画笔,除了作画之外,什么事都忘得一干二净,不管白天黑夜都关在屋子里,难得见到阳光。尤其是画地狱变屏风的时候,良秀的痴迷劲儿更加厉害。

と申しますのは何もあの男が、晝も蔀しとみ16も下おろした部屋の中で、結燈臺ゆひとうだいの火の下に、祕密の繪の具を合せたり、或は弟子たちを、水干やら狩衣やら、さま/″\に着飾らせて、その姿を、一人づゝ丁寧に寫したり、――さう云ふ事ではございません。それ位の變つた事なら、別にあの地獄變の屏風を描かかなくとも、仕事にかゝつてゐる時とさへ申しますと、何時でもやり兼ねない男なのでございます。いや、現に龍蓋寺の五趣しゆ生死しやうじの圖を描きました時などは、當り前の人間なら、わざと眼を外そらせて行くあの往來の屍骸の前へ、悠々と腰を下ろして、半ば腐れかかつた顏や手足を、髮の毛一すぢも違へずに、寫して參つた事がございました。では、その甚だしい夢中になり方とは、一體どう云ふ事を申すのか、流石に御わかりにならない方もいらつしやいませう。それは唯今詳しい事は申し上げてゐる暇もございませんが、主な話を御耳に入れますと、大體先かやうな次第なのでございます。

在下这么说,并不是指良秀大白天也要放下格子悬窗,在三叉灯台下调弄秘制颜料,也不是说他要弟子们穿上官袍或猎衣,由他来一一写生。此种程度的怪癖,即便他不画地狱变屏风,只要一开始作画,就难免有之。实际上,良秀在画《五趣生死图》的时候就这样。对道路上的尸体,一般人避之唯恐不及,可他却悠悠地坐在尸体前,摹写那半腐烂的脸孔和手脚,连头发都画得一丝不错。那么,他那非同寻常的痴迷劲儿,究竟指的什么呢?有人也许要如此发问。在下无暇一一细说,拣主要的说来,大致有这么几件事。

良秀の弟子の一人が(これもやはり、前に申した男でございますが)或日繪の具を溶いて居りますと、急に師匠が參りまして、

有一天,良秀的一个弟子(还是上文说过的那位)正在把颜料化开,师傅忽然走了过来,说道:

「己は少し午睡ひるねをしようと思ふ。がどうもこの頃は夢見が惡い。」とかう申すのでございます。別にこれは珍しい事でも何でもございませんから、弟子は手を休めずに、唯、「さやうでございますか。」と一通りの挨拶を致しました。

“我想稍微睡会午觉,不过最近我老是做噩梦。”这并不是什么稀罕事,所以弟子依然忙着手里的活,随口应了一句:“是吗?”

所が、良秀は、何時になく寂しさうな顏をして、

可是,良秀脸上露出了平时没有的凄凉神色,有些顾虑地要求道:

「就いては、己が午睡ひるねをしてゐる間中、枕もとに坐つてゐて貰ひたいのだが。」

“所以,我午睡的时候,你能不能坐在我的枕头边?”

と、遠慮がましく頼むではございませんか。弟子は何時になく、師匠が夢なぞを氣にするのは、不思議だと思ひましたが、それも別に造作のない事でございますから、「よろしうございます。」と申しますと、師匠はまだ心配さうに、

师傅居然会在乎做梦的事,这是很反常的,弟子觉得很诧异,不过师傅要求的并非什么难事,弟子便答了一声“好的”。可是师傅好像仍然放心不下,犹豫了一下,又吩咐道:

「では直に奧へ來てくれ。尤も後で外の弟子が來ても、己の睡つてゐる所へは入れないやうに。」

“那么,你到里边来吧。不过如果有别的徒弟过来,你不要让他们进我睡觉的地方。”

と、ためらひながら云ひつけました。奧と申しますのは、あの男が畫を描きます部屋で、その日も夜のやうに戸を立て切つた中に、ぼんやりと灯をともしながら、まだ燒筆やきふでで圖取りだけしか出來てゐない屏風が、ぐるりと立て廻してあつたさうでございます。さてこゝへ參りますと、良秀は肘を枕にして、まるで疲れ切つた人間のやうに、すや/\、睡入つてしまひましたが、ものゝ半時はんときとたちません中に、枕もとに居ります弟子の耳には、何とも彼とも申しやうのない、氣味の惡い聲がはいり始めました。

所说的“里边”,就是良秀画画的屋子。那天,那屋子照旧像夜晚一样,门关得紧紧的,点着幽暗的油灯,屋里竖着仅用炭笔描出轮廓图的屏风。良秀显然已经筋疲力尽,一进屋便枕着胳膊,立刻呼呼地睡着了。可是还没过半个时辰,坐在枕边的弟子便听到了一种难以言喻的、令人寒毛倒竖的声音。

八#

それが始めは唯、聲でごさいましたが、暫くしますと、次第に切れ/″\な語ことばになつて、云はゞ溺れかゝつた人間が水の中で呻うなるやうに、かやうな事を申すのでございます。

一开始,那声音还仅仅是单纯的声响,不大工夫,它渐渐变成了断断续续的句子,仿佛是行将溺死的人在水中的痛苦呻吟:

「なに、己おれに來いと云ふのだな。――どこへ――どこへ來いと? 奈落へ來い。炎熱地獄へ來い。――誰だ。さう云ふ貴樣は。――貴樣は誰だ――誰だと思つたら」

“什么?你要我去?……去哪里……去哪里?去地狱……炎热地狱。谁?……你是谁?……你是……”

弟子は思はず繪の具を溶く手をやめて、恐る/\師匠の顏を、覗くやうにして透して見ますと、皺だらけな顏が白くなつた上に大粒おほつぶな汗を滲にじませながら、脣の干かわいた、齒の疎まばらな口を喘あへぐやうに大きく開けて居ります。さうしてその口の中で、何か糸でもつけて引張つてゐるかと疑ふ程、目まぐるしく動くものがあると思ひますと、それがあの男の舌だつたと申すではございませんか。切れ切れな語は元より、その舌から出て來るのでございます。

弟子不由得停住了溶解颜料的手,战战兢兢地窥探师傅的脸。师傅那满是皱纹的脸变得煞白,脸上渗出了大颗汗珠,大张着嘴唇干涩、牙齿稀疏的嘴巴,气喘吁吁,嘴巴里有个东西动得人眼花缭乱,仿佛被一根线牵着似的。定睛一看,那不就是师傅的舌头吗?那断断续续的话,就是这根舌头发出来的。

「誰だと思つたら――うん、貴樣だな。己も貴樣だらうと思つてゐた。なに、迎へに來たと? だから來い。奈落へ來い。奈落には――奈落には己の娘が待つてゐる。」

“你是……噢,是你哪。我也觉得应该是你。什么?你来迎接我?要我去……去地狱。地狱里……地狱里我的女儿在等我。”

その時、弟子の眼には、朦朧とした異形いぎやうの影かげが、屏風の面おもてをかすめてむらむらと下りて來るやうに見えた程、氣味の惡い心もちが致したさうでございます。勿論弟子はすぐに良秀に手をかけて、力のあらん限り搖り起しましたが、師匠は猶夢現ゆめうつゝに獨り語を云ひつゞけて、容易に眼のさめる氣色はございません。そこで弟子は思ひ切つて、側にあつた筆洗の水を、ざぶりとあの男の顏へ浴びせかけました。

听到这里,弟子毛骨悚然,眼前仿佛看到朦朦胧胧的鬼怪影子,窸窸窣窣地从屏风上成群地走下来。当然,弟子立刻拼命地摇晃良秀,可良秀依然半梦半醒地喃喃自语,不像会很快醒来的模样。弟子一横心,把旁边笔洗中的水哗啦一下浇到了师傅头上。

「待つてゐるから、この車へ乘つて來い――この車へ乘つて、奈落へ來い――」と云ふ語がそれと同時に、喉をしめられるやうな呻き聲に變つたと思ひますと、やつと良秀は眼を開いて、針で刺されたよりも慌しく、矢庭にそこへ刎ね起きましたが、まだ夢の中の異類異形いるゐいぎやうが、眶まぶたの後を去らないのでございませう。暫くは唯恐ろしさうな眼つきをして、やはり大きく口を開きながら、空を見つめて居りましたが、やがて我に返つた容子で「もう好いから、あちらへ行つてくれ」と、今度は如何にも素そつ氣けなく、云ひつけるのでございます。弟子はかう云ふ時に逆ふと、何時でも大小言おほこごとを云はれるので、匆々師匠の部屋から出て參りましたが、まだ明い外の日の光を見た時には、まるで自分が惡夢から覺めた樣な、ほつとした氣が致したとか申して居りました。

“她在等着我,要我坐上这辆车去……坐上这辆车,去地狱……”说到这里,良秀的声音变成了痛苦的呻吟,仿佛咽喉被绞住了一般。就在这时,他终于睁开眼睛,像被钢针刺了似的,惊惶万分地弹了起来。可是,梦中的鬼怪似乎还没从他眼前消失,一时间他眼神惊恐,大张着嘴巴,怔怔地发呆。过了一会儿,良秀回过神来,冷冷地吩咐弟子:“好了,你出去吧。”弟子知道如果这种时候违拗师傅,以后会老是被责骂,于是匆匆地离开师傅的房间。当他看到外面明亮的阳光时,仿佛自己从噩梦中醒来,松了一大口气。

しかしこれなぞはまだよい方なので、その後一月ばかりたつてから、今度は又別の弟子が、わざわざ奧へ呼ばれますと、良秀はやはりうす暗い油火の光りの中で、繪筆を噛んで居りましたが、いきなり弟子の方へ向き直つて、

可是,这种事倒还罢了,一个月后,另一个弟子又被师傅特意叫到里屋。弟子进去一看,良秀正在昏暗的油灯下咬着画笔,看到弟子,立即直截了当地说:

「御苦勞だが、又裸はだかになつて貰はうか。」と申すのでございます。これはその時までにも、どうかすると師匠が云ひつけた事でございますから、弟子は早速衣類をぬぎすてて、赤裸あかはだかになりますと、あの男は妙に顏をしかめながら、

“辛苦你,你再把衣服脱光吧。”在此之前,师傅也时常这么吩咐,所以弟子迅速脱掉衣服,变得赤条条的。奇怪的是,师傅却皱起了眉头:

「わしは鎖くさりで縛られた人間が見たいと思ふのだが、氣の毒でも暫くの間、わしのする通りになつてゐてはくれまいか。」

“我想看被锁链捆住的人,所以对不住,请你忍耐一会儿吧。”

と、その癖少しも氣の毒らしい容子などは見せずに、冷然とかう申しました。元來この弟子は畫筆などを握るよりも、太刀でも持つた方が好ささうな、逞しい若者でございましたが、これには流石に驚いたと見えて、後々までもその時の話を致しますと、「これは師匠が氣が違つて、私を殺すのではないかと思ひました」と繰返して申したさうでございます。が、良秀の方では、相手の愚圖々々してゐるのが、燥じれつたくなつて參つたのでございませう。どこから出したか、細い鐵の鎖をざら/\と手繰たぐりながら、殆ど飛びつくやうな勢ひで、弟子の背中へ乘りかかりますと、否應なしにその儘兩腕を捻ぢあげて、ぐる/\卷きに致してしまひました。さうして又その鎖の端を邪慳にぐいと引きましたからたまりません。弟子の體ははづみを食つて、勢よく床を鳴らしながら、ごろりとそこへ横倒しに倒れてしまつたのでございます。

良秀冷冷地说着,丝毫看不出他觉得弟子可怜。这弟子本是个勇猛的年轻人,比起握画笔来,倒是更喜欢拿大刀,可是听了这句话,也不禁大为惊骇。后来提起这件事时,他反复说“我还想是不是师傅疯了,要杀死我呢”。见弟子磨磨蹭蹭,良秀烦躁起来,不知从哪里拿出一根细铁链,哗哗地抖动着,冲过去扑到弟子背上,毫不留情地拧住他的双臂,一圈圈缠上铁链。然后,良秀又狠狠地一扯铁链的一端,这可够弟子受的,弟子趔趄一下,咕咚一声重重地摔倒,横躺在地板上。

九#

その時の弟子の恰好は、まるで酒甕を轉ころがしたやうだとでも申しませうか。何しろ手も足も慘たらしく折り曲げられて居りますから、動くのは唯首ばかりでございます。そこへ肥ふとつた體中からだぢうの血が、鎖に循環めぐりを止められたので、顏と云はず胴と云はず、一面に皮膚の色が赤み走つて參るではございませんか。が、良秀にはそれも格別氣にならないと見えまして、その酒甕のやうな體のまはりを、あちこちと廻つて眺めながら、同じやうな寫眞の圖を何枚となく描いて居ります。その間、縛られてゐる弟子の身が、どの位苦しかつたかと云ふ事は、何もわざ/\取立てゝ申し上げるまでもございますまい。

弟子此时的模样,就像一个翻倒的酒桶,手脚都被可怜地捆成一团,只有脑袋能够活动。他肥壮的身体被锁链勒得血流不通,脸上也好,身上也好,都憋得红通通的。可是,良秀毫不在意,只围着那酒桶般的身体左右端详,画了好几幅相同的摹写图。这期间,被捆住身体的弟子有多么痛苦,就不必特意说了。

が、もし何事も起らなかつたと致しましたら、この苦しみは恐らくまだその上にも、つゞけられた事でございませう。幸(と申しますより、或は不幸にと申した方がよろしいかも知れません。)暫く致しますと、部屋の隅にある壺の蔭から、まるで黒い油のやうなものが、一すぢ細くうねりながら、流れ出して參りました。それが始の中は餘程粘り氣のあるものゝやうに、ゆつくり動いて居りましたが、だん/\滑らかに辷り始めて、やがてちら/\光りながら、鼻の先まで流れ着いたのを眺めますと、弟子は思はず、息を引いて、

不过,如果那天什么事都没发生的话,弟子的痛苦恐怕还要延长一些。幸亏(其实,或许说“不幸”更妥当些)过了一会儿,从房间角落的一个罐子旁边,蜿蜒地流出一股细细的黑油样的东西。一开始,那东西似乎有点黏,缓缓地动着,渐渐顺畅地滑动起来,不大工夫,那东西闪着幽光,流到了弟子的鼻子尖前。弟子定睛一看,不由得倒抽一口冷气,大叫道:

「蛇が――蛇が。」と喚わめきました。その時は全く體中の血が一時に凍るかと思つたと申しますが、それも無理はございません。蛇は實際もう少しで、鎖の食ひこんでゐる、頸の肉へその冷い舌の先を觸れようとしてゐたのでございます。この思ひもよらない出來事には、いくら横道な良秀でも、ぎよつと致したのでございませう。慌てて畫筆を投げ棄てながら、咄嗟に身をかがめたと思ふと、素早く蛇の尾をつかまへて、ぶらりと逆に吊り下げました。蛇は吊り下げられながらも、頭を上げて、きり/\と自分の體へ卷きつきましたが、どうしてもあの男の手の所まではとどきません。

“蛇——蛇啊!”弟子后来说,当时他觉得全身的血一下子冻住了,这也是难怪的。实际上,蛇那冰凉的舌尖,差一点就要碰到弟子被锁链捆住的脖颈了。这情形实在骇人,就连蛮横无理的良秀,也不禁吃了一惊,连忙扔下画笔,迅速弯下腰,一把抓住了蛇尾,把蛇倒提起来。蛇被倒提着,使劲仰起头,骨碌碌地把身体卷上去,但怎么也无法够到良秀的手。

「おのれ故に、あつたら一筆ふでを仕損しぞんじたぞ。」

“你这畜生,害我出了一个败笔!”

良秀は忌々しさうにかう呟くと、蛇はその儘部屋の隅の壺の中へ抛りこんで、それからさも不承無承ふしようぶしように、弟子の體へかゝつてゐる鎖を解いてくれました。それも唯解いてくれたと云ふ丈で、肝腎の弟子の方へは、優やさしい言葉一つかけてはやりません。大方弟子が蛇に噛まれるよりも、寫眞の一筆を誤つたのが、業腹ごふはらだつたのでございませう。――後で聞きますと、この蛇もやはり姿を寫す爲にわざ/\あの男が飼つてゐたのださうでございます。

良秀恨恨地嘟囔着,把蛇照旧扔回房间角落的罐子里,然后不情愿地解开了弟子身上的锁链。但他也仅是解开链子而已,对受惊的弟子,并没有一句抚慰的话。大概比起弟子被蛇咬,画出一个败笔更令他气愤。——后来听说,那蛇也是他为了写生,特意养在屋里的。

これだけの事を御聞きになつたのでも、良秀の氣違ひじみた、薄氣味の惡い夢中になり方が、略御わかりになつた事でございませう。所が最後に一つ、今度はまだ十三四の弟子が、やはり地獄變の屏風の御かげで、云はば命にも關かゝはり兼かねない、恐ろしい目に出遇ひました。その弟子は生れつき色の白い女のやうな男でございましたが、或夜の事、何氣なく師匠の部屋へ呼ばれて參りますと、良秀は燈臺の火の下で掌てのひらに何やら腥い肉をのせながら、見慣れない一羽の鳥を養つてゐるのでございます。大きさは先、世の常の猫ほどもございませうか。さう云へば、耳のやうに兩方へつき出た羽毛と云ひ、琥珀のやうな色をした、大きな圓い眼まなこと云ひ、見た所も何となく猫に似て居りました。

听了这两件事,对良秀那种发疯似的、令人害怕的痴迷劲儿,诸位想必已略有所知。不过,最后还有一件事,就是良秀的一个十三四岁的弟子,为了这地狱变屏风吃了大苦头,差点把命都送进去。那弟子肤色白皙,像个姑娘家,一天晚上,师傅把他叫进自己屋。弟子进去一看,良秀在灯台下,手心里托着一块血淋淋的生肉,正在喂一只模样怪异的鸟。那鸟儿有猫一般大小,脑袋两侧耸起两簇羽毛,像是两只耳朵,长着一对琥珀色的大圆眼睛,看上去活像一只猫。

十#

元來良秀と云ふ男は、何でも自分のしてゐる事に嘴を入れられるのが大嫌ひで、先刻申し上げた蛇などもさうでございますが、自分の部屋の中に何があるか、一切さう云ふ事は弟子たちにも知らせた事がございません。でございますから、或時は机の上に髑髏されかうべがのつてゐたり、或時は又、銀しろがねの椀や蒔繪の高坏たかつきが並んでゐたり、その時描いてゐる畫次第で、隨分思ひもよらない物が出て居りました。が、ふだんはかやうな品を、一體どこにしまつて置くのか、それは又誰にもわからなかつたさうでございます。あの男が福徳の大神の冥助を受けてゐるなどゝ申す噂も、一つは確かにさう云ふ事が起りになつてゐたのでございませう。

本来,良秀这人不管做什么,都不喜欢说给别人听,就像方才说过的养蛇的事,他的房间里有什么东西,从来不告诉弟子们。所以,他的桌上有时放着骷髅,有时摆着银碗啊泥金高脚木盘之类,根据当时画画的情形,令人大吃一惊的物事层出不穷。可是平时这些东西都收在什么地方,就没人晓得了。有传言说良秀受到福德大神的冥助,原因之一便在于确实会有此类奇怪的情况出现。

そこで弟子は、机の上のその異樣な鳥も、やはり地獄變の屏風を描くのに入用なのに違ひないと、かう獨り考へながら、師匠の前へ畏まつて、「何か御用でございますか」と、恭々しく申しますと、良秀はまるでそれが聞えないやうにあの赤い脣へ舌なめずりをして、「どうだ。よく馴れてゐるではないか。」と、鳥の方へ頤をやります。

弟子心中暗想,桌子上这只奇形怪状的鸟儿,一定又是师傅画地狱变屏风用的。他一边寻思着,一边端端正正地坐到师傅面前,恭恭敬敬地问:“您召唤我,有什么吩咐吗?”良秀仿佛没听到他的话,舔了舔自己那鲜红的嘴唇,朝鸟儿摆了摆下巴,问:“怎么样,很老实吧?”

「これは何と云ふものでございませう。私はついぞまだ、見た事がございませんが。」

“这是什么鸟?我还没见过呢。”

弟子はかう申しながら、この耳のある、猫のやうな鳥を、氣味惡さうにじろじろ眺めますと、良秀は不相變あひかはらず何時もの嘲笑あざわらふやうな調子で、

说着,弟子有点发怵地打量这只长着耳朵、猫一样的鸟儿。良秀像平常一样,依然是一副嘲笑的口吻,说道:

「なに、見た事がない? 都育みやこそだちの人間はそれだから困る。これは二三日前に鞍馬の獵師がわしにくれた耳木兎みゝづくと云ふ鳥だ。唯、こんなに馴れてゐるのは、澤山あるまい。」

“什么,没见过?城里长大的孩子就是这样,真没办法。这是两三天前鞍马的猎人送给我的猫头鹰。不过,这么老实的倒很少见。”

かう云ひながらあの男は、徐に手をあげて、丁度餌を食べてしまつた耳木兎みゝづくの背中の毛を、そつと下から撫で上げました。するとその途端でございます。鳥は急に鋭い聲で、短く一聲啼いたと思ふと、忽ち机の上から飛び上つて、兩脚の爪を張りながら、いきなり弟子の顏へとびかゝりました。もしその時、弟子が袖をかざして、慌てゝ顏を隱さなかつたなら、きつともう疵の一つや二つは負はされて居りましたらう。あつと云ひながら、その袖を振つて、逐ひ拂はうとする所を、耳木兎は蓋にかかつて、嘴を鳴らしながら、又一突き――弟子は師匠の前も忘れて、立つては防ぎ、坐つては逐ひ、思はず狹い部屋の中を、あちらこちらと逃げ惑ひました。怪鳥けてうも元よりそれにつれて、高く低く翔かけりながら、隙さへあれば驀地まつしぐらに眼を目がけて飛んで來ます。その度にばさ/\と、凄じく翼を鳴すのが、落葉の匂だか、瀧の水沫しぶきとも或は又猿酒の饐すゑたいきれだか何やら怪しげなものゝけはひを誘つて、氣味の惡さと云つたらございません。さう云へばその弟子も、うす暗い油火の光さへ朧げな月明りかと思はれて、師匠の部屋がその儘遠い山奧の、妖氣に閉された谷のやうな、心細い氣がしたとか申したさうでございます。

一边说着,良秀慢慢地抬起手,轻轻地从下向上抚摸着刚吃完肉的猫头鹰的背。就在这时,鸟儿突然发出一声锐利的短啸,猛然从桌子上飞了起来,张开两只利爪,冲着弟子的脸疾扑过来。若不是弟子慌忙用袖子挡住脸,肯定要被抓出好几处伤。弟子“啊”地惊叫着,挥动袖子驱赶猫头鹰,猫头鹰却更加气势汹汹,尖啸着再次朝他扑去——弟子忘记了还在师傅面前,忽而站起,忽而跌坐,忽而防御,忽而驱赶,在狭小的屋子里团团乱转,狼狈奔逃。怪鸟则忽高忽低,紧追不放,瞅着空子便蓦地朝他眼睛扑去。鸟儿啪嗒啪嗒地猛力扇动翅膀,那声音勾连起某些怪异的气氛,比如落叶的气息、瀑布的水沫,或是猿猴藏在山洞里的果实发酵后那热烘烘的酸腐味……令人毛骨悚然。据弟子说,他觉得那幽暗的油灯光仿佛朦胧的月光,师傅的屋子好像遥远深山里弥漫着妖气的山谷,心里害怕极了。

しかし弟子が恐しかつたのは、何も耳木兎に襲はれると云ふ、その事ばかりではございません。いや、それよりも一層身の毛がよだつたのは、師匠の良秀がその騷ぎを冷然と眺めながら、徐に紙を展べ筆を舐つて、女のやうな少年が異形な鳥に虐さいなまれる、物凄い有樣を寫してゐた事でございます。弟子は一目それを見ますと、忽ち云ひやうのない恐ろしさに脅おびやかされて、實際一時は師匠の爲に、殺されるのではないかとさへ、思つたと申して居りました。

可是令弟子恐惧的并不仅是被猫头鹰袭击,更令他毛发倒竖的,是师傅良秀冷冷地看着眼前的骚动,徐徐展开画纸,舔了舔画笔,开始摹写姑娘般的少年被鬼鸟折磨时那凄惨的模样。弟子说,他一见这番情景,心头顿时袭来一股难以言表的恐怖,那一瞬间,他真的担心自己会被师傅害死。

十一#

實際師匠に殺されると云ふ事も、全くないとは申されません。現にその晩わざわざ弟子を呼びよせたのでさへ、實は木兎を唆けしかけて、弟子の逃げまはる有樣を寫さうと云ふ魂膽らしかつたのでございます。でございますから、弟子は、師匠の容子を一目見るが早いか、思はず兩袖に頭を隱しながら、自分にも何と云つたかわからないやうな悲鳴をあげて、その儘部屋の隅の遣戸やりどの裾へ、居すくまつてしまひました。とその拍子に、良秀も何やら慌てたやうな聲をあげて、立上つた氣色でございましたが、忽ち木兎の羽音が一層前よりもはげしくなつて、物の倒れる音や破れる音が、けたゝましく聞えるではございませんか。これには弟子も二度、度を失つて、思はず隱してゐた頭を上げて見ますと部屋の中は何時かまつ暗になつてゐて、師匠の弟子たちを呼び立てる聲が、その中で苛立しさうにして居ります。

其实,被师傅害死的事儿并非全无可能。那天晚上,良秀特地把弟子叫过去,就是打算唆使猫头鹰追赶他,好让自己画下他狼狈逃命的模样。所以,弟子看了师傅的样子,不由得两手抱住脑袋,发出了自己也不明所以的惊叫声,蜷缩在房间角落的拉门边上不敢动弹。就在这时,不知为何,只听良秀惊呼一声,似乎站了起来,同时,猫头鹰拍打翅膀的声音也突然更加猛烈,东西的倒地声和破碎声尖锐地响成一片。弟子惊诧之下,不由自主地抬起了头,却发现房间里不知何时已经一团漆黑,师傅正焦躁地呼唤其他弟子。

やがて弟子の一人が、遠くの方で返事をして、それから灯をかざしながら、急いでやつて參りましたが、その煤臭すゝくさい明あかりで眺めますと、結燈臺ゆひとうだいが倒れたので、床も疊も一面に油だらけになつた所へ、さつきの耳木兎が片方の翼ばかり苦しさうにはためかしながら、轉げまはつてゐるのでございます。良秀は机の向うで半ば體を起した儘、流石に呆氣あつけにとられたやうな顏をして、何やら人にはわからない事を、ぶつ/\呟いて居りました。――それも無理ではございません。あの木兎の體には、まつ黒な蛇が一匹、頸から片方の翼へかけて、きりきりと捲きついてゐるのでございます。大方これは弟子が居すくまる拍子に、そこにあつた壺をひつくり返して、その中の蛇が這ひ出したのを、木兎がなまじひに掴みかゝらうとしたばかりに、とう/\かう云ふ大騷ぎが始まつたのでございませう。二人の弟子は互に眼と眼とを見合せて、暫くは唯、この不思議な光景をぼんやり眺めて居りましたが、やがて師匠に默禮をして、こそ/\部屋へ引き下つてしまひました。蛇と木兎とがその後どうなつたか、それは誰も知つてゐるものはございません。――

不大工夫,远处有人回答,随后,一个弟子拿着灯台急匆匆地跑了进来。在昏暗的油灯光下,可以看到三叉灯台倒在地上,地板和席子上洒满了煤油,方才那只猫头鹰痛苦地拍打着一侧的翅膀,跌跌撞撞地打转。书桌对面,良秀半站起身,一副目瞪口呆的表情,嘴里喃喃地说着什么。这也难怪,原来那猫头鹰身上,从脖颈到一侧翅膀上,紧紧地缠绕着一条黑油油的蛇。大概是弟子在惊慌蹲下的时候,碰翻了角落里的罐子,罐子里的蛇爬了出来,猫头鹰贸然去抓蛇,结果惹出这一场大乱子。两个弟子面面相觑,一时间茫然呆立,怔怔地看着这奇异的场景,片刻之后,两人默默地给师傅行了个礼,悄悄退了出去。至于蛇和猫头鹰后来怎样了,就无人知晓了。

かう云ふ類たぐひの事は、その外まだ、幾つとなくございました。前には申し落しましたが、地獄變の屏風を描けと云ふ御沙汰があつたのは、秋の初でございますから、それ以來冬の末まで、良秀の弟子たちは、絶えず師匠の怪しげな振舞に脅おびやかされてゐた譯でございます。が、その冬の末に良秀は何か屏風の畫で、自由にならない事が出來たのでございませう、それまでよりは、一層容子も陰氣になり、物云ひも目に見えて、荒々しくなつて參りました。と同時に又屏風の畫も、下畫が八分通り出來上つた儘、更に捗はかどる模樣はございません。いや、どうかすると今までに描いた所さへ、塗り消してもしまひ兼ねない氣色なのでございます。

诸如此类的事还有很多。前面说过,大人吩咐画地狱变屏风,乃是初秋的事,随后整个冬天,良秀的弟子们不断地被师傅怪异的举动所困扰。不过,冬天将尽的时候,良秀的屏风画似乎遇到了什么障碍,他的神色比先前更加阴郁,说话的腔调也眼见地愈来愈粗鲁。屏风画的底稿已经画完了大约八成,似乎再难进行下去。不,若是看良秀的模样,就连完成的这部分画稿,都难免被他大笔一挥、抹掉不要了呢。

その癖、屏風の何が自由にならないのだか、それは誰にもわかりません。又誰もわからうとしたものもございますまい。前のいろ/\な出來事に懲りてゐる弟子たちは、まるで虎狼と一つ檻をりにでもゐるやうな心もちで、その後師匠の身のまはりへは、成る可く近づかない算段をして居りましたから。

不过,屏风到底哪里画不下去,却是没人知道。而且,也没人想要知道。此前发生的种种事,已经让弟子们吃足了苦头,那之后他们尽可能地离师傅远一些,恰似避免与虎狼同栏一般。

十二#

從つてその間の事に就いては、別に取り立てゝ申し上げる程の御話もございません。もし強ひて申上げると致しましたら、それはあの強情な老爺おやぢが、何故か妙に涙脆くなつて、人のゐない所では時々獨りで泣いてゐたと云ふ御話位なものでございませう。殊に或日、何かの用で弟子の一人が、庭先へ參りました時なぞは廊下に立つてぼんやり春の近い空を眺めてゐる師匠の眼が、涙で一ぱいになつてゐたさうでございます。弟子はそれを見ますと、反つてこちらが恥しいやうな氣がしたので、默つてこそ/\引き返したと申す事でございますが、五趣しゆ生死しやうじの圖を描く爲には、道ばたの死骸さへ寫したと云ふ、傲慢なあの男が屏風の畫が思ふやうに描けない位の事で、子供らしく泣き出すなどと申すのは隨分異なものでございませんか。

因此,关于那期间的事,并没有什么特别值得一提的。若是硬要说的话,就是那位顽固的老爷子,不知为何变得爱掉眼泪,时不时地在没人的地方独自落泪。有一天,一个弟子有事到庭院里,看到师傅呆呆地站在廊下,凝望着春日里低低的天空,眼里竟然满含着泪水。弟子看到这番情景,自己反而羞愧起来,默不作声地悄悄离开了。那个为了画《五趣生死图》,甚至不惮于去摹写路旁尸骸的傲慢之人,却因为屏风画进展得不顺利,就像孩子般哭泣起来,委实十分反常。

所が一方良秀がこのやうに、まるで正氣の人間とは思はれない程夢中になつて、屏風の繪を描いて居ります中に、又一方ではあの娘が、何故かだん/\氣鬱になつて、私どもにさへ涙を堪へてゐる容子が、眼に立つて參りました。それが元來愁顏うれひがほの、色の白い、つゝましやかな女だけに、かうなると何だか睫毛まつげが重くなつて、眼のまはりに隈がかゝつたやうな、餘計寂しい氣が致すのでございます。初はやれ父思ひのせゐだの、やれ戀煩ひをしてゐるからだの、いろ/\臆測を致したものでございますが、中頃から、なにあれは大殿樣が御意に從はせようとしていらつしやるのだと云ふ評判が立ち始めて、夫からは誰も忘れた樣に、ぱつたりとあの娘の噂をしなくなつて了ひました。

就这样,为了这座屏风画,良秀神魂颠倒,痴迷得不似正常人。而另一方面,他的女儿却不知为何越来越忧郁,甚至在我们这些人面前,都明显地露出含悲忍泪的模样。她本来就是一个多愁善感、面色白皙、谦恭文静的女儿家,此时睫毛低垂,眼眸染上愁晕,分外有凄凉之感。一开始,众人纷纷猜测,有的说是因为想念父亲,有的说是为恋情所烦扰,后来有传言说是大人想要她顺从自己。那之后,众人好像一下子忘记了这个姑娘,关于她的传言戛然停歇了。

丁度その頃の事でございませう。或夜、更かうが闌たけてから、私が獨り御廊下を通りかゝりますと、あの猿の良秀がいきなりどこからか飛んで參りまして、私の袴の裾を頻りにひつぱるのでございます。確、もう梅の匂でも致しさうなうすい月の光のさしてゐる、暖い夜でございましたが、其明りですかして見ますと、猿はまつ白な齒をむき出しながら、鼻の先へ皺をよせて、氣が違はないばかりにけたゝましく啼き立てゝゐるではございませんか。私は氣味の惡いのが三分と、新しい袴をひつぱられる腹立たしさが七分とで、最初は猿を蹴放して、その儘通りすぎようかとも思ひましたが、又思ひ返して見ますと、前にこの猿を折檻して、若殿樣の御不興を受けた侍さむらひの例もございます。それに猿の振舞が、どうも唯事とは思はれません。そこでとう/\私も思ひ切つて、そのひつぱる方へ五六間歩くともなく歩いて參りました。

就在那期间,一天晚上,夜已经很深了,我独自经过廊下,忽然小猴子良秀不知从哪里蹿了出来,一个劲儿地拽我的裤脚。那是个月光浅淡的温暖春夜,梅花吐露着清香,在幽微的月光下,我看到小猴子露出白牙、皱着鼻头,发疯般的尖声啼叫。我的新裤子被拽住,不免有七分气恼,再加上三分害怕,所以打算踢开小猴子,扬长过去。可是转念一想,此前有个侍从就是因为欺负小猴子,惹得公子十分不快,而且看小猴子的举动,似乎发生了非同小可的事。于是我终于下了决心,顺着小猴子拉我的方向,向前走了三四丈远。

すると御廊下が一曲り曲つて、夜目にもうす白い御池の水が枝ぶりのやさしい松の向うにひろ/″\と見渡せる、丁度そこ迄參つた時の事でございます。どこか近くの部屋の中で人の爭つてゐるらしいけはひが、慌あわたゞしく、又妙にひつそりと私の耳を脅しました。あたりはどこも森しんと靜まり返つて、月明りとも靄ともつかないものゝ中で、魚の跳る音がする外は、話し聲一つ聞えません。そこへこの物音でございますから。私は思はず立止つて、もし狼籍者でゞもあつたなら、目にもの見せてくれようと、そつとその遣戸やりどの外へ、息をひそめながら身をよせました。

这时,走廊转了一个弯,夜色之中,可以看到枝叶扶疏的松树对面,宽阔的池水泛着浅浅的白光。近处某个房间中似乎有人在挣扎,那声音慌乱却又微妙地悄然传入我的耳中。周围一片静谧,分不清笼罩着的是月光还是轻雾,除了鱼儿跃水的声音,听不到半点人语声。我辨别出那异样的动静,不由得站住了,如果有人在胡作非为,我可要给他点厉害尝尝。于是我屏住呼吸,悄悄地把身体贴在了门外。

十三#

所が猿は私のやり方がまだるかつたのでございませう。良秀はさもさももどかしさうに、二三度私の足のまはりを駈けまはつたと思ひますと、まるで咽を絞められたやうな聲で啼きながら、いきなり私の肩のあたりへ一足飛に飛び上りました。私は思はず頸を反らせて、その爪にかけられまいとする、猿は又水干すゐかんの袖にかじりついて、私の體からだから辷り落ちまいとする、――その拍子に、私はわれ知らず二足三足よろめいて、その遣り戸へ後ざまに、したゝか私の體を打ちつけました。かうなつてはもう一刻も躊躇してゐる場合ではございません。私は矢庭に遣り戸を開け放して、月明りのとどかない奧の方へ跳りこまうと致しました。が、その時私の眼を遮つたものは――いや、それよりももつと私は、同時にその部屋の中から、彈かれたやうに駈け出さうとした女の方に驚かされました。女は出合頭に危く私に衝き當らうとして、その儘外へ轉び出ましたが、何故かそこへ膝をついて、息を切らしながら私の顏を、何か恐ろしいものでも見るやうに、戰をのゝき/\見上げてゐるのでございます。

可是小猴子良秀大概嫌我慢吞吞吧,它急躁地在我脚下打了两三个转,像喉咙被掐住了似的尖叫着。突然,它一下子蹿到了我的肩膀上,我不由得仰起脖子,免得被它抓到,小猴子又咬住我的袖子,以免从我身上滑下来——在这阵闹腾中,我不自觉地摇晃了两三步,后背重重地撞在了门上。事已至此,再容不得片刻犹豫,我猛地推开门,就要冲进月光照不到的房间里。就在这时,一个身影挡在我眼前——不,其实莫如说,与此同时,一个女子像离弦之箭般地飞奔而出,吓了我一大跳。女子差点和我迎面撞上,就势跌倒在门外,她跪在原地气喘吁吁,战战兢兢地抬头看着我,仿佛在看什么可怕的东西。

それが良秀の娘だつたことは、何もわざ/\申し上げるまでもございますまい。が、その晩のあの女は、まるで人間が違つたやうに、生々いき/\と私の眼に映りました。眼は大きくかゞやいて居ります。頬も赤く燃えて居りましたらう。そこへしどけなく亂れた袴や袿うちぎが、何時もの幼さとは打つて變つた艷なまめかしささへも添へてをります。これが實際あの弱々しい、何事にも控へ目勝な良秀の娘でございませうか。――私は遣り戸に身を支へて、この月明りの中にゐる美しい娘の姿を眺めながら、慌しく遠のいて行くもう一人の足音を、指させるものゝやうに指さして、誰ですと靜に眼で尋ねました。

自不必说,那女子便是良秀的女儿。可是那天晚上,这姑娘却仿佛变了个人似的,显得格外动人。她大大的眸子灿然生辉,脸颊红艳艳的,再加上衣衫凌乱,与平常的小闺女模样迥然不同,添了许多妩媚之态。这真是那个柔弱的、凡事恭谨的良秀女儿吗?我靠在门上,看着姑娘在月色中的美丽身影,听着一个人脚步慌乱地匆忙离去。我对姑娘指指那人的方向,默默地用眼神询问“他是谁”?

すると娘は脣を噛みながら、默つて首をふりました。その容子が如何にも亦口惜くやしさうなのでございます。

可是姑娘咬着嘴唇,一声不吭地摇了摇头,神色十分懊恼。

そこで私は身をかゞめながら、娘の耳へ口をつけるやうにして、今度は「誰です」と小聲で尋ねました。が、娘はやはり首を振つたばかりで、何とも返事を致しません。いや、それと同時に長い睫毛の先へ、涙を一ぱいためながら、前よりも緊く脣を噛みしめてゐるのでございます。

于是,我俯下身,在姑娘耳边低声问:“他是谁?”可是,她依然只是摇头,什么也不答。不过,她那长长的睫毛上却缀满了泪珠,嘴唇咬得更紧了。

性得しやとく愚おろかな私には、分りすぎてゐる程分つてゐる事の外は、生憎何一つ呑みこめません。でございますから、私は言のかけやうも知らないで、暫くは唯、娘の胸の動悸に耳を澄ませるやうな心もちで、ぢつとそこに立ちすくんで居りました。尤もこれは一つには、何故かこの上問ひ訊たゞすのが惡いやうな、氣咎めが致したからでもございます。――

我原本生性驽钝,除了这件一目了然的事情之外,别的无奈我都难以领会。所以,我不知道该说什么好,一时间只默默听着姑娘的心跳声,呆呆地站在那里。不过,不知为何,我心里隐约感到歉疚,觉得不应该再多问下去了。

それがどの位續いたか、わかりません。が、やがて明け放した遣り戸を閉しながら少しは上氣の褪めたらしい娘の方を見返つて、「もう曹司そうじへ御歸りなさい」と出來る丈やさしく申しました。さうして私も自分ながら、何か見てはならないものを見たやうな、不安な心もちに脅されて、誰にともなく恥しい思ひをしながら、そつと元來た方へ歩き出しました。所が十歩と歩かない中に、誰か又私の袴の裾を、後から恐る/\、引き止めるではございませんか。私は驚いて、振り向きました。あなた方はそれが何だつたと思召します?

不知过了多久,终于,我关上大开着的拉门,回头看看稍稍平静下来的姑娘,尽可能温和地说“请你回屋去吧”。然后,我怀着一种看了不该看的东西的不安,以及一种莫名的羞耻感,悄悄地顺原路返回。可是,还没走出十步远,身后似乎有人怯生生地拉住了我裤脚。我惊讶地回头一看,您猜是谁?

見るとそれは私の足もとにあの猿の良秀が、人間のやうに兩手をついて、黄金の鈴を鳴しながら、何度となく丁寧に頭を下げてゐるのでございました。

原来小猴子猿秀跪在我的脚边,像人那样双手扶地,颈上的金铃铮铮作响,朝着我恭恭敬敬地磕了好几个头。

十四#

するとその晩の出來事があつてから、半月ばかり後の事でございます。或日良秀は突然御邸へ參りまして、大殿樣へ直ぢきの御眼通りを願ひました。卑しい身分のものでございますが、日頃から格別御意に入つてゐたからでございませう。誰にでも容易に御會ひになつた事のない大殿樣が、その日も快く御承知になつて、早速御前近くへ御召しになりました。あの男は例の通り、香染めの狩衣に萎なえた烏帽子を頂いて、何時もよりは一層氣むづかしさうな顏をしながら、恭しく御前へ平伏致しましたが、やがて嗄れた聲で申しますには

那晚的事情之后,过了约摸半个月,良秀忽然来到府里,请求谒见大人。良秀虽然身份卑微,不过平素一直得到大人青眼相加,不轻易召见外人的大人,那天也爽快地命他速速觐见。良秀照旧穿着那件丁香色猎衣,戴着瘪塌塌的乌帽子,脸色比平常更加不和善,在大人面前恭恭敬敬地拜倒,声音嘶哑地说道:

「兼ね/″\御云ひつけになりました地獄變の屏風でございますが、私も日夜に丹誠を抽んでて、筆を執りました甲斐が見えまして、もはやあらましは出來上つたのも同前でございまする。」

“先前奉大人之命画地狱变屏风,在下不敢懈怠,夜以继日,勤谨执笔,如今已大致完成。”

「それは目出度い。予も滿足ぢや。」

“可喜可贺嘛,我也很满意。”

しかしかう仰有おつしやる大殿樣の御聲には、何故か妙に力の無い、張合のぬけた所がございました。

大人说道,但不知为何,大人的声音懒懒的,有些无精打采。

「いえ、それが一向目出度くはござりませぬ。」良秀は、稍腹立しさうな容子でぢつと眼を伏せながら、「あらましは出來上りましたが、唯一つ、今以て私には描けぬ所がございまする。」

“不,没什么可喜的。”良秀似乎有些生气,一直低垂着眼睛,“虽说大致完成了,但还有一处地方,在下却画不出来。”

「なに、描けぬ所がある?」

“什么,有你画不出来的地方?”

「さやうでございまする。私は總じて、見たものでなければ描かけませぬ。よし描けても、得心が參りませぬ。それでは描けぬも同じ事でございませぬか。」

“正是。在下作画,若是没见过的东西,便无法画出。纵然勉强画了,也无法称心满意,那岂不是与画不出来一样?”

これを御聞きになると、大殿樣の御顏には、嘲るやうな御微笑が浮びました。

听了这句话,大人的脸上浮现出一丝嘲讽的微笑。

「では地獄變の屏風を描かうとすれば、地獄を見なければなるまいな。」

“哦?那你要画地狱变屏风,非得下地狱看看不可?”

「さやうでござりまする。が、私は先年大火事がございました時に、炎熱地獄の猛火まうくわにもまがふ火の手を、眼のあたりに眺めました。「よぢり不動」の火焔を描きましたのも、實はあの火事に遇つたからでございまする。御前もあの繪は御承知でございませう。」

“正是。不过,前些年大火灾那一次,我亲眼看到了不逊于炎热地狱中猛火的火焰。我画那幅不动明王图中的火焰,其实也是因为遭遇了那场大火灾。大人见过那幅画吧?”

「しかし罪人はどうぢや。獄卒は見た事があるまいな。」大殿樣はまるで良秀の申す事が御耳にはいらなかつたやうな御容子で、かう疊みかけて御尋ねになりました。

“那么罪人们又怎么画?你也没见过鬼卒吧?”大人仿佛没听到良秀的话,连连问道。

「私は鐵くろがねの鎖くさりに縛いましめられたものを見た事がございまする。怪鳥に惱まされるものゝ姿も、具つぶさに寫しとりました。されば罪人の呵責に苦しむ樣も知らぬと申されませぬ。又獄卒は――」と云つて、良秀は氣味の惡い苦笑を洩しながら、「又獄卒は、夢現ゆめうつゝに何度となく、私の眼に映りました。或は牛頭ごづ、或は馬頭めづ、或は三面六臂の鬼の形が、音のせぬ手を拍き、聲の出ぬ口を開いて、私を虐みに參りますのは、殆ど毎日毎夜のことと申してもよろしうございませう。――私の描かうとして描けぬのは、そのやうなものではございませぬ。」

“在下见过被铁锁捆绑的人,也细细摹写过被怪鸟追逐的人的模样,因而并非不知晓罪人们受刑的惨状。至于鬼卒……”良秀露出一丝吓人的苦笑,“至于鬼卒,在下于似梦非梦之际,不知见过他们多少次了。有时是牛头,有时是马面,有时是三头六臂的鬼怪,他们无声地拍手,无声地叫喊,前来折磨于我。这种事可以说每日每夜都在发生。——我想要画却又画不出的,并不是这些。”

それには大殿樣も、流石に御驚きになつたでございませう。暫くは唯苛立いらだたしさうに、良秀の顏を睨めて御出になりましたが、やがて眉を險しく御動かしになりながら、

听了这番话,就连大人似乎也吃了一惊,有片刻工夫,大人只是焦躁地瞪着良秀的脸,过了一会儿,他冷冷地挑了挑眉,哼了一声:

「では何が描かけぬと申すのぢや。」と打捨るやうに仰有いました。

“那么,你画不出来的,究竟是什么?”

十五#

「私は屏風の唯中に、檳榔毛びらうげの車が一輛空から落ちて來る所を描かうと思つて居りまする。」良秀はかう云つて、始めて鋭く大殿樣の御顏を眺めました。あの男は畫の事を云ふと、氣違ひ同樣になるとは聞いて居りましたが、その時の眼のくばりには確にさやうな恐ろしさがあつたやうでございます。

“在下打算在屏风的正中央,画一辆蒲葵叶牛车从半空落下。”说到这里,良秀目光锐利地直视起大人的脸。我早就听说过,一旦谈起绘画来,这人便会像疯癫了一般,的确,此时他的眼神里就有一种可怕的东西。

「その車の中には、一人のあでやかな上﨟じやうらう17が、猛火の中に黒髮を亂しながら、悶え苦しんでゐるのでございまする。顏は煙に咽びながら、眉を顰ひそめて、空ざまに車蓋やかたを仰いで居りませう。手は下簾したすだれを引きちぎつて、降りかゝる火の粉の雨を防がうとしてゐるかも知れませぬ。さうしてそのまはりには、怪しげな鷙鳥が十羽となく、二十羽となく、嘴を鳴らして紛々と飛び繞つてゐるのでございまする。――あゝ、それが、牛車の中の上﨟が、どうしても私には描かけませぬ。」

“车上有一位艳丽的贵妇,在熊熊烈火之中,她黑发散乱,痛苦地挣扎。她的脸被浓烟熏呛,皱着眉头,仰望着半空中的车篷。或许,她的手还撕扯着车帘,想要挡住雨点般洒落的火星。牛车周围有十几二十只凶恶的鸷鸟,张着大嘴鸣叫,纷纷绕着牛车盘旋。——唉,可是,那牛车上的贵妇,在下却怎么也画不出来。”

「さうして――どうぢや。」

“那么……你要怎样?”

大殿樣はどう云ふ譯か、妙に悦ばしさうな御氣色で、かう良秀を御促しになりました。が、良秀は例の赤い脣を熱でも出た時のやうに震はせながら、夢を見てゐるのかと思ふ調子で、

不知为何,大人此时奇怪地显出些愉快的神色,催促良秀说下去。可是,良秀却像发高烧似的,颤动着他那红嘴唇,用梦呓般的腔调,又重复了一遍:

「それが私には描けませぬ。」と、もう一度繰返しましたが、突然噛みつくやうな勢ひになつて、

“在下画不出来……”突然,他像要噬咬什么似的,猛然开口:

「どうか檳榔毛の車を一輛、私の見てゐる前で、火をかけて頂きたうございまする。さうしてもし出來まするならば――」

“请求大人将一辆蒲葵叶牛车,于在下的面前点火焚烧。还有,若是可能的话……”

大殿樣は御顏を暗くなすつたと思ふと、突然けたたましく御笑ひになりました。さうしてその御笑ひ聲に息をつまらせながら、仰有いますには、

大人的脸色骤然阴沉下来,忽然又尖锐地大笑起来,笑得气喘吁吁,一边说道:

「おゝ、萬事その方が申す通りに致して遣はさう。出來る出來ぬの詮議は無益むやくの沙汰ぢや。」

“好,一切就照你说的办。什么可能不可能的,此种无用之言不说也罢。”

私はその御言を伺ひますと、蟲の知らせか、何となく凄じい氣が致しました。實際又大殿樣の御容子も、御口の端には白く泡がたまつて居りますし、御眉のあたりにはびく/\と電いなづまが走つて居りますし、まるで良秀のもの狂ひに御染みなすつたのかと思ふ程、唯ならなかつたのでございます。それがちよいと言を御切りになると、すぐ又何かが爆はぜたやうな勢ひで、止め度なく喉を鳴らして御笑ひになりながら、

听了大人的话,我忽然感到一阵莫名的恐惧。的确,大人此时的模样十分可怕,嘴角泛起白沫,眉边青筋颤动,犹如闪电掠过,似乎也传染了良秀的疯狂。大人话音刚落,又爆出一阵大笑,喉咙格格作响,说道:

「檳榔毛の車にも火をかけよう。又その中にはあでやかな女を一人、上﨟の裝よそほひをさせて乘せて遣はさう。炎と黒煙とに攻められて、車の中の女が、悶え死をする――それを描かうと思ひついたのは、流石に天下第一の繪師ぢや。褒めてとらす。おゝ、褒めてとらすぞ。」

“那就烧一辆蒲葵叶牛车吧。再让一名美艳女子,穿戴贵妇服饰,坐到车里去。在火焰和黑烟的熏烤下,车内的女子痛苦死去——能想出此种场面,你可真不愧是天下第一画师!可嘉可赞,呵,可嘉可赞哪!”

大殿樣の御言葉を聞きますと、良秀は急に色を失つて喘あへぐやうに唯、脣ばかり動して居りましたが、やがて體中の筋が緩んだやうに、べたりと疊へ兩手をつくと、

听了大人的话,良秀骤然面无人色,只是颤动着嘴唇喘息,终于,他像被抽去了筋骨一般瘫软下来,双手扶地,恭敬地拜谢道:

「難有い仕合でございまする。」と、聞えるか聞えないかわからない程低い聲で、丁寧に御禮を申し上げました。これは大方自分の考へてゐた目ろみの恐ろしさが、大殿樣の御言葉につれてあり/\と目の前へ浮んで來たからでございませうか。私は一生の中に唯一度、この時だけは良秀が、氣の毒な人間に思はれました。

“多谢大人。”他的声音低得几乎难以听清。或许,良秀所想象的那个恐怖场面,随着大人的话语,已然历历浮现在他眼前了吧。此时此地,我生平唯一一次觉得,良秀是个可怜人。

十六#

それから二三日した夜の事でございます。大殿樣は御約束通り、良秀を御召しになつて、檳榔毛の車の燒ける所を、目近く見せて御やりになりました。尤もこれは堀河の御邸であつた事ではございません。俗に雪解ゆきげの御所と云ふ、昔大殿樣の姉君がいらしつた洛外の山莊で、御燒きになつたのでございます。

两三天后的一个夜晚,大人如约召见了良秀,让他亲眼看看火烧蒲葵叶牛车的场面。不过牛车并不是在堀川府邸内焚烧,而是在一处俗称融雪山庄——以前大人的妹妹居住过的一座京城外的山庄中进行。

この雪解の御所と申しますのは、久しくどなたにも御住ひにはならなかつた所で、廣い御庭も荒れ放題荒れ果てて居りましたが、大方この人氣のない御容子を拜見した者の當推量でございませう。こゝで御歿おなくなりになつた妹君の御身の上にも、兎角の噂が立ちまして、中には又月のない夜毎々々に、今でも怪しい御袴の緋の色が、地にもつかず御廊下を歩むなどと云ふ取沙汰を致すものもございました。――それも無理ではございません。晝でさへ寂しいこの御所は、一度日が暮れたとなりますと、遣り水の音が一際陰に響いて、星明りに飛ぶ五位鷺も、怪形けぎやうの物かと思ふ程、氣味が惡いのでございますから。

这座融雪山庄已经很久无人居住,宽阔的庭园荒凉不堪,这从山庄内那杳无人迹的景象便可推知。大人的妹妹殁于此地,关于这位小姐有着种种传言,其中有种说法是,每当没有月亮的夜晚,便会有穿着绯红宽袴的奇怪身影,足不沾地地在廊下走过。——有此种传言也是难怪的,山庄之中即便白昼也颇为凄凉,一旦暮色降临,园中的流水声听来越发阴沉,在星光下飞起的白鹭像是鬼怪,令人心惊胆寒。

丁度その夜はやはり月のない、まつ暗な晩でございましたが、大殿油おほとのあぶらの灯影で眺めますと、縁に近く座を御占めになつた大殿樣は、淺黄の直衣なほしに濃い紫の浮紋の指貫さしぬきを御召しになつて、白地の錦の縁をとつた圓座わらふたに、高々とあぐらを組んでいらつしやいました。その前後左右に御側の者どもが五六人、恭しく居並んで居りましたのは、別に取り立てて申し上げるまでもございますまい。が、中に一人、眼だつて事ありげに見えたのは、先年陸奧みちのくの戰ひに餓ゑて人の肉を食つて以來、鹿の生角いきづのさへ裂くやうになつたと云ふ強力の侍が、下に腹卷を着こんだ容子で、太刀を鴎尻かもめじりに佩はき反そらせながら、御縁の下に嚴いかめしくつくばつてゐた事でございます。――それが皆、夜風に靡く灯の光で、或は明るく或は暗く、殆ど夢現を分たない氣色で、何故かもの凄く見え渡つて居りました。

那天晚上碰巧也是个没有月亮、漆黑一片的暗夜。借着堂上的灯影,可以看到大人已经坐在檐廊前,他身穿浅黄色便袍、浓紫色提花宽袴,盘腿高坐在白锦镶边的圆草垫上。五六名贴身侍从恭恭敬敬地在大人周围侍奉,自是不必细说。不过,其中有一人格外威风凛凛,引人注目,那侍卫力大无穷,据说前些年陆奥之战中曾因饥饿而吃过人肉,后来又曾经生生地扯裂鹿角。那天,他将轻便铠甲穿在衣袍内,反佩着腰刀,肃然蹲踞在檐廊下。——夜风吹拂着灯烛,一切景物都在灯光中忽明忽暗,几乎分不出究竟是梦是真,触目所及,皆使人感觉阴森可怖。

その上に又、御庭に引き据ゑた檳榔毛の車が、高い車蓋やかたにのつしりと暗を抑へて、牛はつけず黒い轅ながえを斜に榻しぢへかけながら、金物かなものの黄金きんを星のやうに、ちらちら光らせてゐるのを眺めますと、春とは云ふものゝ何となく肌寒い氣が致します。尤もその車の内は、浮線綾の縁をとた青い簾が、重く封じこめて居りますから、輫はこには何がはいつてゐるか判りません。さうしてそのまはりには仕丁たちが、手ん手に燃えさかる松明まつを執つて、煙が御縁の方へ靡くのを氣にしながら、仔細らしく控へて居ります。

庭院中停着一辆蒲葵叶牛车,高高的车篷在黑暗中鲜明可见,车上没有拴牛,黑色车辕斜斜地搭在脚踏上,车上的金属配饰如繁星般闪烁着金光。看到这副场面,虽然已是春天,却令人觉得寒意砭刺肌肤。牛车上沉甸甸地挂着提花缎镶边的青色帘子,无从知晓车内是何等光景。牛车周围,杂役们手持熊熊燃烧的松明火把,小心着不让烟飘向檐廊那边,煞有介事地严阵以待。

當の良秀は稍離れて、丁度御縁の眞向に、跪いて居りましたが、これは何時もの香染めらしい狩衣に萎えた揉烏帽子もみゑぼしを頂いて、星空の重みに壓されたかと思ふ位、何時もよりは猶小さく、見すぼらしげに見えました。その後に又一人同じやうな烏帽子狩衣の蹲つたのは、多分召し連れた弟子の一人ででもございませうか。それが丁度二人とも、遠いうす暗がりの中に蹲つて居りますので、私のゐた御縁の下からは、狩衣の色さへ定かにはわかりません。

良秀离得略远一些,跪坐在檐廊的正对面,他似乎还是穿着那件丁香色猎衣,戴着瘪塌塌的软乌帽。或许因为星空的重压的缘故,他比平时显得更加瘦小,看上去寒碜可怜。良秀身后还蹲踞着一个人,同样是猎衣乌帽的打扮,大概是他带来的弟子。两个人都缩在远处的昏暗之中,从我所在的檐廊底下,甚至辨不清他们猎衣的颜色。

十七#

時刻は彼是眞夜中まよなかにも近かつたでございませう。林泉りんせん18をつゝんだ暗がひつそりと聲を呑んで、一同のする息を窺つてゐると思ふ中には、唯かすかな夜風の渡る音がして、松明の煙がその度に煤臭い匂を送つて參ります。大殿樣は暫く默つて、この不思議な景色をぢつと眺めていらつしやいましたが、やがて膝を御進めになりますと、「良秀、」と、鋭く御呼びかけになりました。

时刻大约已近半夜。大庭院笼罩在黑暗中,众人皆屏息无语,寂静中唯有夜风轻拂,每一阵风过,便飘来松明的烟味。有片刻工夫,大人沉默不语,凝望着这一片奇异的景象,终于,他向前挪动了一下膝盖,厉声叫道:“良秀!”

良秀は何やら御返事を致したやうでございますが、私の耳には唯、唸るやうな聲しか聞えて參りません。

良秀似乎回答了句什么,但传入我耳中的只有呻吟般的低哼声。

「良秀。今宵はその方の望み通り、車に火をかけて見せて遣はさう。」

“良秀,今夜如你所愿,我把牛车烧给你看。”

大殿樣はかう仰有つて、御側の者たちの方を流ながし眄めに御覽になりました。その時何か大殿樣と御側の誰彼との間には、意味ありげな微笑が交されたやうにも見うけましたが、これは或は私の氣のせゐかも分りません。すると良秀は畏る畏る頭を擧げて御縁の上を仰いだらしうございますが、やはり何も申し上げずに控へて居ります。

说着,大人瞥了一眼身侧的侍从。此时,我似乎看到大人和身侧的某人交换了一个意味深长的微笑,但那也许是我的错觉。良秀战战兢兢地抬起头,仰望着檐廊方向,但终于什么也没有说。

「よう見い。それは予が日頃乘る車ぢや。その方も覺えがあらう。――予はその車にこれから火をかけて、目のあたりに炎熱地獄を現ぜさせる心算つもりぢやが。」

“你看仔细了,这是我平时乘坐的牛车,认得吧?现在,我就放火烧了这辆车,让你亲眼看看炎热地狱的模样。”

大殿樣は又言を御止めになつて、御側の者たちに眴めくばせをなさいました。それから急に苦々しい御調子で、「その内には罪人の女房が一人、縛めた儘、乘せてある。されば車に火をかけたら、必定その女めは肉を燒き骨を焦して、四苦八苦の最期を遂げるであらう。その方が屏風を仕上げるには、又とないよい手本ぢや。雪のやうな肌が燃え爛れるのを見のがすな。黒髮が火の粉になつて、舞ひ上るさまもよう見て置け。」

大人再次顿住了话头,朝身边的侍从们使了个眼色。接下来,大人的语气忽然阴沉下来:“车内绑着一个犯罪的侍女,因此,若是放火烧车,那女子必定被烧得骨焦肉烂,死得痛苦无比。你要画那地狱变屏风,这是不可再得的范本。雪一样的肌肤被烧焦,乌黑的秀发灰飞烟灭,你可仔细看着,休要错过了。”

大殿樣は三度口を御噤おつぐみになりましたが、何を御思ひになつたのか、今度は唯肩を搖つて、聲も立てずに御笑ひなさりながら、

大人第三次缄口,似乎思索着什么,随后,他晃动着肩膀,无声地笑了起来:

「末代までもない觀物ぢや。予もここで見物しよう。それ/\、簾みすを揚げて、良秀に中の女を見せて遣さぬか。」

“此等景观可谓三生难遇,我也要在此一睹为快。来人,揭开帘子,让良秀看看里面的女子。”

仰を聞くと仕丁の一人は、片手に松明の火を高くかざしながら、つか/\と車に近づくと、矢庭に片手をさし伸ばして、簾をさらりと揚げて見せました。けたゝましく音を立てて燃える松明まつの光は、一しきり赤くゆらぎながら、忽ち狹い輫の中を鮮かに照し出しましたが、鞇とこ19の上に慘むごたらしく、鎖にかけられた女房は――あゝ、誰か見違へを致しませう。きらびやかな繍のある櫻の唐衣にすべらかしの黒髮が艷やかに垂れて、うちかたむいた黄金の釵子さつしも美しく輝いて見えましたが、身なりこそ違へ、小造りな體つきは、色の白い頸のあたりは、さうしてあの寂しい位つゝましやかな横顏は、良秀の娘に相違ございません。私は危く叫び聲を立てようと致しました。

大人一声吩咐,便有一名杂役高举着火把,大步流星地走到牛车前,一把掀起了车帘。松明噼噼啪啪地爆着火星,红红的火焰摇晃了一下,赫然照进狭窄的车厢,车厢里的一切都清清楚楚。车内用铁链残忍地绑着一名女子,她便是……唉,我若是看错了该多好!那女子身穿华丽灿烂的刺绣樱花叠色唐衣,乌黑光润的秀发长长地垂下,斜插着的黄金钗荧光闪烁,她的妆扮虽然不同了,但那娇小的身姿,白皙的颈项,还有那谦恭温良、透出几分凄然的侧脸,分明便是良秀的女儿。我差点惊叫起来。

その時でございます。私と向ひあつてゐた侍は慌しく身を起して、柄頭つかがしらを片手に抑へながら、屹と良秀の方を睨みました。それに驚いて眺めますと、あの男はこの景色に、半ば正氣を失つたのでございませう。今まで下に蹲うづくまつてゐたのが、急に飛び立つたと思ひますと、兩手を前へ伸した儘、車の方へ思はず知らず走りかゝらうと致しました。唯生憎前にも申しました通り、遠い影の中に居りますので、顏貌かほかたちははつきりと分りません。しかしさう思つたのはほんの一瞬間で、色を失つた良秀の顏はいや、まるで何か目に見えない力が、宙へ吊り上げたやうな良秀の姿は、忽ちうす暗がりを切り拔いてあり/\と眼前へ浮び上りました。娘を乘せた檳榔毛の車が、この時、「火をかけい」と云ふ大殿樣の御言と共に、仕丁たちが投げる松明の火を浴びて炎々と燃え上つたのでございます。

就在这时,我对面的侍卫腾地站起身,一手按住刀柄,严厉地紧紧瞪视着良秀。我惊诧望去,原来良秀看到这幅场面,大概已经半疯癫了,他本来跪坐在地上,忽然一跃而起,向前伸着双臂,无意识地朝牛车奔去。不巧的是,如前面所说,良秀隔得太远,又身在暗处,我看不清他的脸色。但这只有短短的一瞬间,片刻之后,良秀那面无人色的脸,不,是良秀那仿佛被某种无形力量提升到空中的身影,突然冲破了昏暗,鲜明地浮现在我的眼前。此时,只听得大人一声令下:“点火!”杂役们纷纷将松明火把投向牛车。那辆锁着姑娘的蒲葵叶牛车,顿时熊熊燃烧起来。

十八#

火は見る/\中に、車蓋やかたをつゝみました。庇についた紫の流蘇ふさが、煽られたやうにさつと靡くと、その下から濛々と夜目にも白い煙が渦を卷いて、或は簾すだれ、或は袖、或は棟の金物かなものが、一時に碎けて飛んだかと思ふ程、火の粉が雨のやうに舞ひ上る――その凄じさと云つたらございません。いや、それよりもめらめらと舌を吐いて袖格子そでがうしに搦みながら、半空なかぞらまでも立ち昇る烈々とした炎の色はまるで日輪が地に落ちて、天火が迸つたやうだとでも申しませうか。前に危く叫ばうとした私も、今は全く魂たましひを消して、唯茫然と口を開きながら、この恐ろしい光景を見守るより外はございませんでした。しかし親の良秀は――

火焰转眼间包裹住车篷,篷檐上缀着的紫色流苏被火势卷起,倏忽化为焦烟。即便在夜幕之中,也能看到白烟蒙蒙地卷着漩涡,从车篷下弥漫开来。火星如雨般漫天飞舞,车帘、扶手、车脊上的铜饰转瞬间便灰飞烟灭——那可怖的景象真是难以形容。但更令人惊心的,还是那烈烈燃烧的火焰之色,火舌舔过木格子车壁,火焰直蹿上半空中,简直像是红日落地,天火迸裂。方才我还险些惊叫,此时我已经魂飞魄散,只是茫然大张着嘴,呆望着这恐怖的场景。那么,身为父亲的良秀又是如何呢?——

良秀のその時の顏つきは、今でも私は忘れません。思はず知らず車の方へ驅け寄らうとしたあの男は、火が燃え上ると同時に、足を止めて、やはり手をさし伸した儘、食ひ入るばかりの眼つきをして、車をつゝむ焔煙を吸ひつけられたやうに眺めて居りましたが、滿身に浴びた火の光で、皺だらけな醜い顏は、髭の先までもよく見えます。が、その大きく見開いた眼の中と云ひ、引き歪めた脣のあたりと云ひ、或は又絶えず引き攣つてゐる頬の肉の震へと云ひ、良秀の心に交々こも/″\往來する恐れと悲しみと驚きとは、歴々と顏に描かれました。首を刎ねられる前の盜人でも、乃至は十王の廳へ引き出された、十逆五惡の罪人でもあゝまで苦しさうな顏は致しますまい。これには流石にあの強力がうりきの侍でさへ、思はず色を變へて、畏る/\大殿樣の御顏を仰ぎました。

良秀当时的神色,直到现在我还无法忘怀。他本来不自觉地朝牛车奔去,可就在火烧起来的一刹那,他停住了脚步,手依然前伸,眼神定定的,像被吸住了似的盯着吞噬牛车的烈焰和浓烟。他全身沐浴着火光,满是皱纹的丑陋的脸上,连胡子尖都看得一清二楚。那目眦欲裂的双眼,那扭曲的嘴唇,还有那不停抽搐抖动的脸颊,将良秀心中往来交错着的恐惧、悲哀、震惊,表现得历历分明。即便是被斩首前的盗贼,甚至被拖到十殿阎王面前的十恶不赦的罪人,也不会现出那般痛苦的神情。看到良秀的模样,即便那个剽悍的侍卫也不由得变了脸色,忐忑不安地看了看大人。

が、大殿樣は緊く唇を御噛みになりながら、時々氣味惡く御笑ひになつて、眼を放さずぢつと車の方を御見つめになつていらつしやいます。さうしてその車の中には――あゝ、私はその時、その車にどんな娘の姿を眺めたか、それを詳しく申し上げる勇氣は、到底あらうとも思はれません。あの煙に咽んで仰向あふむけた顏の白さ、焔を掃はらつてふり亂れた髮の長さ、それから又見る間に火と變つて行く、櫻の唐衣の美しさ、――何と云ふ慘むごたらしい景色でございましたらう。殊に夜風が一下ひとおろしして、煙が向うへ靡いた時、赤い上に金粉を撒いたやうな、焔の中から浮き上つて、髮を口に噛みながら、縛いましめの鎖も切れるばかり身悶えをした有樣は、地獄の業苦を目のあたりへ寫し出したかと疑はれて、私始め強力の侍までおのづと身の毛がよだちました。

大人紧紧地咬着嘴唇,时不时露出令人悚然心惊的笑容,目不转睛地盯着牛车。车里……啊,我实在没有勇气细说车里姑娘的模样。那被浓烟熏呛得向后仰起的白皙脸庞,那在火焰中翻卷的凌乱长发,那转瞬间变成火团的美丽的樱色唐衣……多么惨烈的景象!尤其当一阵夜风吹散浓烟时,在金星飞溅的烈焰中,便现出姑娘那口咬黑发、几乎要挣断锁链般痛苦挣扎的身影,那情景将地狱的苦难活生生地呈现在众人面前。不仅是我,便是那个剽悍的侍卫,也不由得寒毛倒竖。

するとその夜風が又一渡り、御庭の木々の梢にさつと通ふ――と誰でも、思ひましたらう。さう云ふ音が暗い空を、どことも知らず走つたと思ふと、忽ち何か黒いものが、地にもつかず宙にも飛ばず、鞠のやうに躍りながら、御所の屋根から火の燃えさかる車の中へ、一文字にとびこみました。さうして朱塗のやうな袖格子が、ばら/\と燒け落ちる中に、のけ反そつた娘の肩を抱いて、帛を裂くやうな鋭い聲を、何とも云へず苦しさうに、長く煙の外へ飛ばせました。續いて又、二聲三聲――私たちは我知らず、あつと同音に叫びました。壁代かべしろのやうな焔を後にして、娘の肩に縋つてゐるのは、堀河の御邸に繋いであつた、あの良秀と諢名のある、猿だつたのでございますから。その猿が何處をどうしてこの御所まで、忍んで來たか、それは勿論誰にもわかりません。が、日頃可愛がつてくれた娘なればこそ、猿も一しよに火の中へはひつたのでございませう。

这时,似乎又有一阵夜风,吹过了庭院中树木的梢头——大概众人都是这么认为吧。那声音穿过昏暗的天空,突然,一个黑影蹿了出来,但它既不跳下地,也不跃上天空,而是像球似的翻滚着,从山庄的屋檐上腾空而起,笔直跃进了熊熊燃烧的牛车里。木格子车壁烧得通红,宛如涂了朱漆一般,在木格子的迸裂声中,黑影抱住了姑娘后仰着的肩膀,发出了一声裂帛般的尖锐啼叫。那啼声惨厉无比,冲破浓烟,久久不停。接着,又是第二声,第三声……我们不由自主地同声惊呼。在火墙中抱住姑娘肩膀的,正是那只被关在堀川府里、诨名良秀的小猴子。它是怎样偷偷找到山庄来的?当然,谁也不知道。为了这位素日疼惜自己的姑娘,小猴子不惜一起跳进了熊熊烈火中。

十九#

が、猿の姿が見えたのは、ほんの一瞬間でございました。金梨子地きんなしぢ20のやうな火の粉が一しきり、ぱつと空へ上つたかと思ふ中に、猿は元より娘の姿も、黒煙の底に隱されて、御庭のまん中には唯、一輛の火の車が凄じい音を立てながら、燃もえ沸たぎつてゐるばかりでございます。いや、火の車と云ふよりも、或は火の柱と云つた方が、あの星空を衝いて煑え返る、恐ろしい火焔の有樣にはふさはしいかも知れません。

可是,众人看见那小猴子,只不过一瞬间的工夫。泥金画般的火星一阵迸溅后,火焰腾空而起,莫要说小猴子,就是姑娘的身影也隐没在了黑烟深处。庭院中央唯有一辆火焰车发出凄厉的声响,呼呼燃烧。不,那沸腾着直冲星空的骇人火焰,与其说是火焰车,莫如说是火焰柱更妥贴些。

その火の柱を前にして、凝り固まつたやうに立つてゐる良秀は、――何と云ふ不思議な事でございませう。あのさつきまで地獄の責苦に惱んでゐたやうな良秀は、今は云ひやうのない輝きを、さながら恍惚とした法悦の輝きを、皺だらけな滿面に浮べながら、大殿樣の御前も忘れたのか、兩腕をしつかり胸に組んで、佇んでゐるではございませんか。それがどうもあの男の眼の中には、娘の悶え死ぬ有樣が映つてゐないやうなのでございます。唯美しい火焔の色と、その中に苦しむ女人の姿とが、限りなく心を悦ばせる――さう云ふ景色に見えました。

再说在火焰柱前凝然伫立的良秀吧。多么不可思议啊!方才还饱受地狱苦难折磨的良秀,此时,他那满是皱纹的脸上却洋溢着难以形容的光辉——那是心醉神迷的法悦的光辉。他大概忘记了身在大人的座前,双臂紧紧地抱在胸前,一动不动。呈现在他眼中的,并不是女儿惨死的场面,而是美丽的火焰的颜色,以及在火中痛苦挣扎的女子,这景象使他无比愉悦。

しかも不思議なのは、何もあの男が一人娘ひとりむすめの斷末魔を嬉しさうに眺めてゐた、そればかりではございません。その時の良秀には、何故か人間とは思はれない夢に見る獅子王の怒りに似た、怪しげな嚴おごそかさがございました。でございますから不意の火の手に驚いて、啼き騷ぎながら飛びまはる數の知れない夜鳥でさへ、氣のせゐか良秀の揉烏帽子のまはりへは、近づかなかつたやうでございます。恐らくは無心の鳥の眼にも、あの男の頭の上に、圓光の如く懸つてゐる、不可思議な威嚴が見えたのでございませう。

而且,令人难以理解的,并不仅是良秀欣喜地观看唯一女儿的惨死。此外,不知什么缘故,此时的良秀身上,还有一种奇异的威严感,那不是人所能拥有的,而像是梦中雄狮的震怒一般。因此,那被突如其来的火势惊扰、啼叫着盘旋飞舞的无数夜鸟,甚至不敢接近良秀的软乌帽。或许,即便这些不晓事的鸟儿,也看到了悬于良秀头顶的、如佛顶圆光般不可思议的威严吧。

鳥でさへさうでございます。まして私たちは仕丁までも、皆息をひそめながら、身の内も震へるばかり、異樣な隨喜の心に充ち滿ちて、まるで開眼の佛でも見るやうに、眼も離さず、良秀を見つめました。空一面に鳴り渡る車の火とそれに魂を奪はれて、立ちすくんでゐる良秀と――何と云ふ莊嚴、何と云ふ歡喜でございませう。が、その中でたつた、御縁の上の大殿樣だけは、まるで別人かと思はれる程、御顏の色も青ざめて、口元に泡を御ためになりながら、紫の指貫さしぬきの膝を兩手にしつかり御つかみになつて、丁度喉の渇いた獸のやうに喘ぎつゞけていらつしやいました。……

鸟雀尚且如此,我们自不必说了。连杂役们也屏息凝气,内心震撼不已,充盈着异样的随喜之心,仿佛瞻仰开眼的大佛一般,目不转睛地望着良秀。那漫天飞舞的、发出轰鸣之声的火焰,以及为此景象神魂颠倒、凝然伫立的良秀——这是何等庄严,何等欢喜!可是,唯有高坐在檐廊上的大人,好像变了个人似的,脸色青白不定,口角冒出白沫,双手紧紧抓着紫色宽袴的膝盖,如口渴的野兽般喘息着……

二十#

その夜雪解の御所で、大殿樣が車を御燒きになつた事は、誰の口からともなく世上へ洩れましたが、それに就いては隨分いろ/\な批判を致すものも居つたやうでございます。先第一に何故大殿樣が良秀の娘を御燒き殺しなすつたか、――これは、かなはぬ戀の恨みからなすつたのだと云ふ噂が、一番多うございました。が、大殿樣の思召しは、全く車を燒き人を殺してまでも、屏風の畫を描かうとする繪師根性の曲よこしまなのを懲らす御心算おつもりだつたのに相違ございません。現に私は、大殿樣が御口づからさう仰有るのを伺つた事さへございます。

那一夜大人在融雪山庄焚烧牛车的事,不知被谁传到了外面,惹得世间物议纷纷。先说,大人为何要烧死良秀的女儿?关于这一点,最多的说法是大人的爱恋之情未能遂愿,由爱生恨所致。但大人的本意,其实在于惩罚良秀那为了完成屏风画、不惜烧车杀人的邪恶画师本性。这一点毋庸置疑。实际上,在下曾经听大人亲口这么说过。

それからあの良秀が、目前で娘を燒き殺されながら、それでも屏風の畫を描きたいと云ふその木石のやうな心もちが、やはり何かとあげつらはれたやうでございます。中にはあの男を罵つて、畫の爲には親子の情愛も忘れてしまふ、人面獸心の曲者だなどと申すものもございました。あの横川よがはの僧都樣などは、かう云ふ考へに味方をなすつた御一人で、「如何に一藝一能に秀でやうとも、人として五常を辨へねば、地獄に墮ちる外はない」などと、よく仰有つたものでございます。

另外,良秀即便看到女儿被烧死在自己眼前,仍要画那屏风,这种铁石心肠也惹得人们议论不休。其中,甚至有人骂他为了绘画忘记父女亲情,是个人面兽心的怪物。那位横川僧都便持此种见解,他经常说,“无论对一技一能如何精通,做人若是不懂得五常的道理,必会堕入地狱。”

所がその後一月ばかり經たつて、愈々地獄變の屏風が出來上りますと良秀は早速それを御邸へ持つて出て、恭しく大殿樣の御覽に供へました。丁度その時は僧都樣も御居合はせになりましたが、屏風の畫を一目御覽になりますと、流石にあの一帖の天地に吹き荒んでゐる火の嵐の恐しさに御驚きなすつたのでございませう。それまでは苦い顏をなさりながら、良秀の方をじろ/\睨めつけていらしつたのが、思はず知らず膝を打つて、「出かし居つた」と仰有おつしやいました。この言を御聞になつて、大殿樣が苦笑なすつた時の御容子も、未だに私は忘れません。

不过,过了大约一个月,地狱变屏风终于完成,良秀立即将屏风送到堀川府里,恭请大人赏鉴。正巧,当时那位僧都也在场,他看了一眼屏风,那漫天狂卷的恐怖火海大概令他甚为震惊。之前僧都一直阴沉着脸睥睨良秀,看到画后却不由自主地拍打着膝盖,赞道:“画得好!”听了僧都的话,大人苦笑了一下,那情景在下至今尚未忘记。

それ以來あの男を惡く云ふものは、少くとも御邸の中だけでは、殆ど一人もゐなくなりました。誰でもあの屏風を見るものは、如何に日頃良秀を憎く思つてゐるにせよ、不思議に嚴おごそかな心もちに打たれて、炎熱地獄の大苦艱を如實に感じるからでもございませうか。

从那之后,至少在堀川府里,几乎再无人说良秀的坏话。因为看到那座屏风的人,无论平时多么厌恶良秀,都不可思议地被那庄严的心境所震撼,仿佛身临其境一般,感受到炎热地狱的大苦难。

しかしさうなつた時分には、良秀はもうこの世に無い人の數にはいつて居りました。それも屏風の出來上つた次の夜に、自分の部屋の梁はりへ繩をかけて、縊くびれ死んだのでございます。一人娘を先立てたあの男は、恐らく安閑として生きながらへるのに堪へなかつたのでございませう。屍骸は今でもあの男の家の跡に埋まつて居ります。尤も小さな標しるしの石は、その後何十年かの雨風あめかぜに曝さらされて、とうの昔誰の墓とも知れないやうに、苔蒸こけむしてゐるにちがひございません。

但那时,良秀却已经不是此世间之人了。在屏风画完成的翌日夜间,他便缢死在自家的房梁上。唯一的女儿先他而亡,他怕是心中再难安稳、不堪独活于世间了吧。良秀的尸骸便葬在他房舍的原址上,至今尚在,只不过那小小的石碑,其后经历了几十年的风吹雨打,定然早已经满布青苔,如同一座年代久远的无名荒冢。

Footnotes#

  1. 大威徳明王 (Yamāntaka): 五大明王之一。镇守西方,相传能够降伏一切祸害众生的毒蛇、恶龙。其本地佛为阿弥陀如来。造像身呈青黑色,具六面六臂六足,显现忿怒之相;左手持戟、弓、绳索,右手持剑、箭、棍棒。也有说法称其坐于水牛之上 ↩

  2. 論う:[動ワ五(ハ四)]物事の理非、可否を論じ立てる。また、ささいな非などを取り立てて大げさに言う ↩

  3. 地獄變: 地狱变相图,描绘地狱酷刑、冥府景象的绘画,常绘制于屏风、画卷之上 ↩

  4. 御臺樣:[名]大臣・大将・将軍などの妻を敬っていう語 ↩

  5. 楚:[名]木の枝や幹からまっすぐ伸び出た、若く細い小枝 ↩

  6. 袙:[名]平安時代以来、公家が用いた内着の一種 ↩

  7. 一入:[副]ほかの場合より程度が一段と増すこと ↩

  8. 吉祥天: 佛教里掌管幸福、财富、丰收、美貌、功德的天女 ↩

  9. 百濟川成 (782-853):平安时代前期画家, 画风写实,擅长人物、山水 ↩

  10. 巨勢金岡: 平安时代前期宫廷画师、官人,巨势派始祖 ↩

  11. 増長慢: 增上慢,佛教“七慢”之一,指修行者未证得殊胜佛法却自认已证得 ↩

  12. 譏る:[動ラ五(四)]他人を悪く言う ↩

  13. 辻冠者:[名]市中をあてもなくうろつく若者 ↩

  14. 曹司:[名]宮中や官庁内に設けられた女官・官吏などの部屋 ↩

  15. 生受領:[名]年功を積んでいない国司 ↩

  16. 蔀:建具の一つで,薄い板の両面に格子を組んだ戸 ↩

  17. 上﨟:[名]元来は身分の高い女官の称であるが,江戸時代には幕府の大奥女中の職名の一つ ↩

  18. 林泉:[名]林と泉。また、それのある広大な庭園 ↩

  19. 鞇: 原文中为“𨋳”,被认为是讹字,马车的坐垫 ↩

  20. 金梨子地: 日本漆艺「蒔絵」技法,在漆面撒细金粉,再罩透明漆打磨,表面如同梨子果皮一般细密凹凸肌理 ↩

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