谷崎潤一郎: 细雪(上) 二十

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谷崎潤一郎: 细雪(上) 二十
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first published:『中央公論』1943年1月号・3月号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=JXXVupE0cRQ
desc: 在大阪船场坐拥百年老店、历史底蕴深厚的莳冈家,鹤子、幸子、雪子、妙子四姐妹交织出百态人情。小说如华美画卷,循着四季流转,细致描绘出昭和十年间关西上流社会的日常光景。

三女雪子是四姐妹中容貌最为出众之人,婚事却屡屡未果,年过三十依旧独身。幸子夫妇为此忧心不已、四处奔走,性格沉默寡言的雪子却对每一门亲事都无意应允,岁月便这般缓缓流逝。

「あんた、ええ加減にしときなさい、そない一遍に精出したら、しんど1おまっせ」

“你将就一点儿得了,那样不要命地干,会累坏的。”

「そうかて、やり出したら止められへん。―――」

“可是,干起来了就不好歇手。”

貞之助は今日の日曜に、先月花を見に行ったばかりの京都へ、もう一度幸子を誘って新緑しんりょくを見に行くつもりであったが、幸子が今朝から気分が悪くて何となく体が大儀たいぎ2だと云うので、出かけることを見合せて、午後から庭の草むしりに熱中していた。

今天是星期天,贞之助打算邀幸子前往他们上个月曾去赏樱的京都,欣赏郊野的新绿。但幸子说打早晨起就不舒服,身子疲倦乏力,贞之助只得作罢,下午,他就在院子里一个劲儿地除草。

いったい此処の庭の芝生は、もとこの家屋敷を譲り受けた時分には生えていなかったのであるが、此処は芝をお植えになっても着きませんよと云う前の持ち主の忠告を押し切って、いて植えさせたのは貞之助であった。それが、丹精のかいがあって、どうやら今ではものになって来たのだけれども、矢張余所のと比べると発育が悪く、緑の色の出かたが一般のよりは遅かった。で、貞之助は自分が首唱者であった責任上、人一倍芝生の手入れをするのであるが、育ちの悪い原因の一つは、芽の出始める春先に雀がやって来て傍からその芽を摘んでしまうせいでもあることを発見して以来、毎年早春の季節になると雀を防ぐことに努め、見つけ次第小石を投げて追い散らすのを仕事のようにして、家族の者たちにもやかましく云うので、ほら又兄さんの石投げが始まる時候が来たと、義妹たちはよく云い云いした。そして、陽気が暖かになると、折々今日のような風に、海水帽3もんぺ4を穿いて、芝の間に繁殖するぺんぺん草や車前おおばこを取ったり、芝刈器で、ジョキジョキ芝を刈ったりした。

当初买进这块宅地时,原业主曾说过,这院子里种了草也不能生长,贞之助不顾其忠告,硬是要人铺了这块草坪。由于他细心照料,好容易长成现在这个样子,不过与其他草坪相比,还是长势不良,也绿得晚些。贞之助自认负有首倡者的责任,比旁人多花一倍的心血来拾掇草坪。他发现草长得不好的原因之一,是早春刚出芽时麻雀就飞来啄食嫩芽,从此每年一到初春,他就拼命防止雀害,看见麻雀就扔石子赶跑,他还不厌其烦地要求全家人来驱雀,所以妹妹们经常打趣说:“嗬,又到姐夫扔石子的时节了!”等到风和日暖了,贞之助经常像今天这样,戴着遮阳帽,穿上束脚裤子,拔掉草坪中杂生的荠草和车前草,或者用剪草机咔嚓咔嚓地修剪草坪。

「あんた、蜂、蜂、大きな蜂やわ」

“悦子她爸,蜜蜂,蜜蜂,大蜜蜂!”

「何処に」

“在哪儿?”

「それ、そっちへ」

“喏,向你那边飞去了。”

テラスの上には、もう例年のように葭簀張よしずばり5の日覆いが出来ていた。幸子はその蔭の中にある、皮つきの白樺しらかばの丸太で作った椅子に掛けているのであったが、蜂は彼女の肩をかすめて、支那焼のの上に据えられた芍薬しゃくやくの鉢の周りを二三度旋回して、ぶうんと呻りながら、紅白の平戸が咲いている方へ飛んで行った。夫は草むしりに釣られてだんだんと境界の金網沿いの、大明竹たいみんちくや樫の葉の生い繁った薄暗い方へもぐって行ってしまったので、彼女のところからは、ひとかたまりの平戸の花越しに、大きな海水帽の縁だけしか見えない。

阳台上已像往年一样搭起了遮阳苇棚。幸子坐在苇棚下一把带皮白桦圆木椅上,蜜蜂从她肩头掠过,绕着摆在中国瓷墩上的芍药花盆飞了两三圈,嗡嗡地哼着,又向开着红白花的平户百合的方向飞去了。丈夫埋头剪草,沿着那铁丝网渐渐钻进枝叶繁密的大明竹和橡树的暗丛中去了。从幸子这儿,越过一片平户百合花,只能看见丈夫遮阳帽的帽檐。

「蜂よりかの方がえらいねん。手袋の上から刺しよる」

“蚊子可比蜜蜂厉害得多,戴着手套都给叮了。”

「そやよってに、もう止めなさい」

“那么,你就别干了吧。”

「それより、気分が悪い云うてたのんに、どうしたんや」

“你不是说不舒服吗?还出来干什么?”

「臥てたら却ってしんどいさかい、こないしてたらいくらか晴れ晴れするやろ思うて。―――」

“躺着反而觉得累,这样坐着稍微舒畅点儿。”

「しんどいて、どんな風にしんどいねん」

“累,是怎么个累法?”

「頭が重うて、………き気がして、………手足がだるうて、………何や、重い病気になる前兆みたいな」

“头沉得很……老想吐……手脚也没力……像是有场大病来呢。”

「何云うてるねん、そら神経や」そして、突然貞之助は、「ああ、もう止めとこ」と、ほっとしたような大声を出して、竹の葉をガサガサ云わせて立ち上ると、車前の根を掘るために持っていた切り出しを放り出して、手袋を脱いで、蚊にされた痕のある手の甲で額の汗を拭き拭き、ぐっと腰の蝶番ちょうつがいを伸ばしながら身を反らした。それから、花壇の傍の水道のせんを開けて、手を洗って、

“说些什么呀,神经过敏!”突然,贞之助似乎松了一口气似的大声说:“啊,不干了!”说着站起身来弄得竹叶窸窣作响,扔掉掘车前草根的小铲子,脱下手套,手上露出蚊子叮的红包。他用手背拂去额上的汗,使劲伸直腰背并向后仰了几仰,然后,拧开花坛边的水龙头洗手。

「モスキトンないか」と、手頸の赤く脹れたところを掻きながらテラスへ上って来たが、

“有祛蚊油吗?”他用手搔着手腕上红肿的地方走上阳台。

「お春どん、モスキトン持って来て」と、幸子が奥へ怒鳴っている暇に、

“春丫头,快拿祛蚊油来!”幸子向屋里高喊。

又庭へ降りて行って、今度は平戸の花の萎んだのを摘みはじめた。此処の平戸は四五日前に真っ盛りであったのが、今は六分通り萎んで、見苦しくよごれているのであったが、分けても白い花の、紙屑のように黄色く汚らしくなったのを、気にして一つ一つ取って捨て、あとに雄蘂おしべひげのように残ったのをも、丹念にむしって行くのであった。

贞之助又走下院子,这次是去摘萎谢了的平户百合花。这里的百合花四五天前开得最旺盛,现在已经凋谢了六成左右,又脏又难看,特别是白花,像弄脏了的黄纸屑一样。他一一摘掉,再细心地掐去残留的髯状雄蕊。

「ちょっと! モスキトン来てまっせ」

“喂!祛蚊油拿来了。”幸子说。

「ふん」と云ってから、又暫くむしっていて、「此処、掃除さしといてんか」と、漸く妻のところへ上って来た貞之助は、モスキトンの容器を受け取る途端に、「おや」と、彼女の眼の中を見た。

“嗯。”贞之助应了一声,又去侍弄了一会,“这里叫她们清扫一下吧。”说着他走到妻子跟前接过祛蚊油时,“哎呀!”他瞅着妻子的眼睛突然惊叫。

「何ですねん」

“怎么了?”

「ちょっと、此方の明るい所へ来て見なさい」もうさっきから日が暮れかけていて、葭簀張の下は一層暗くなっているので、貞之助は幸子をテラスの端の方まで引っ張って行って、夕方の光線の中に立たせた。

“哎,你到这亮处来看看。”太阳快要落山了,苇棚下更加昏暗,贞之助把幸子拉到阳台尽头,让她站在傍晚的余晖中。

「ふうん、お前、眼の中が黄色いなあ」

“嗯?你的眼睛怎么变黄了?”

「黄色い?」

“变黄了?”

「ふん、白眼のとこが黄色うなってる」

“哎,眼白变黄了。”

「そしたら、何やろ、黄疸おうだんか知らん」

“那么,是什么病呢?也许是黄疸吧?”

「そうかも知れん、何かあぶらッこいもん食べたか」

“可能是。吃过什么油腻的东西吗?”

「昨日ビフテキ食べたやおませんか」

“昨天不是吃了牛排吗?”

「そうや、それやで」

“对呀,就是它。”

「ふん、ふん、それで分ったわ。―――こない胸がむかむかして、嘔き気がするのん、黄疸に違いないわ」

“嗯,嗯,这就明白了——老是恶心想吐,一定是黄疸。”

幸子はさっき、夫に「おや」と云われた時は訳もなくぎょっとしたらしかったが、黄疸ならばそんなに心配することもないと思うと、急にほっとしたと見えて、おかしなことだが却って嬉しそうな眼つきをした。

幸子刚才听见丈夫失声惊叫,不由得大吃一惊。如果真是黄疸倒用不着如此担心了,她马上放下了心。说来有点奇怪,这时她反倒流露出了高兴的眼神。

「どれどれ」貞之助は自分の額を妻のにあててみて、「熱は大してないねんな。―――ま、こじらす6と悪いよってに臥てなさい。兎に角櫛田さんに診に来て貰おう」と、彼女を二階へ上らしておいて、自分で直ぐに電話をかけた。

“来,让我看看。”贞之助用自己的前额探了探妻子的额头说,“不怎么烫人。哎,把病拖重了就糟了,你还是去躺着吧。无论如何,得请栉田大夫来看一看。”说完他把幸子送到二楼,随后立刻给栉田先生挂了电话。

櫛田と云うのは、蘆屋川の停留所の近くに開業している医師で、見立ての上手な、技倆の卓越たくえつした人であるだけに、この近所で引っ張りだこになっていて、毎日夜の十一時過ぎまで夜食にも戻らずに往診に廻っていると云う風なので、掴まえるのが容易でなかった。だから是非とも来て貰おうと云う時には、貞之助が電話口へ出て、内橋と云う古参の看護婦を呼び出して、頼み込むようにするのであったが、それでも余程の重病でないと、此方の望む通りの時間には来てくれなかったり、すっぽかしたりすることがあるので、電話で容態ようだいを云う時に、実際よりは重そうに駈引かけひきをする必要があるのだった。その日も、待っているうちにとうとう十時が過ぎたので、「櫛田さん、今日はすっぽかしらしいで」と云っていると、十一時ちょっと前になって、自動車の停る音がした。

栉田先生在芦屋川车站附近开诊所,因为诊断准确,医术高明,在当地很受欢迎,他总是在晚上巡回出诊,经常过了十一点还没回家吃晚饭,很不容易找到他。所以,非请他不可时,贞之助就要挂电话给一位叫内桥的老护士请托一番。但若非重病,他是不会在病家希望的时间来的,甚至可能爽约,所以在电话中要把病情讲得严重一些。这一天,也是等到过了十点。“栉田大夫今天说不定要我们白等了。”两口子嘀咕着。快到十一点时,门前响起了汽车停车的声音。

「黄疸や、これは。間違いなし。―――」

“这是黄疸,没错!”栉田大夫说。

「昨日ビフテキの大きいのん食べましてん」

“昨天吃了一大块牛排。”

「それが原因ですな。御馳走の食べ過ぎや。―――蜆汁しじみじる7を毎日飲むといいですな」

“就是这个原因,好吃的吃多了……最好每天喝些蚬子酱汤。”

そんな風に、気さくな物云いをする人で、忙しいせいもあっていつも簡単に、さっと診察をして、さっと風のように出て行ってしまうのであった。

他说话爽快,也是因为太忙了,所以总是简单、匆匆做出诊断,又匆匆如风地走了。

幸子はその明くる日から病室で臥たり起きたりして暮したが、あまり苦しくもない代りに、そうはかばかしく良くなりもしなかった。一つには妙に蒸し暑い、降るのでも晴れるのでもない入梅にゅうばい前の天候が鬱陶しく、それでなくても体の持って行き場のないような、いやな陽気がつづくせいでもあるらしかったが、二三日風呂に這入らないので、汗臭くなった寝間着を着換えて、蒸しタオルにアルコールを滴らしたのを持って来させて、お春に背中をこすらせていると、そこへ悦子が上って来て、

从第二天起,幸子开始过病室生活,时卧时起,并不十分难受,但也没有明显好转。原因之一正当入梅之前,既不下雨也非天晴,天气异常闷热;另一个原因是这样讨厌的天气已经持续多日,纵令没有生病、身体挺得住,也无处可去。幸子两三天没有洗澡,她换下有汗臭味的睡衣,并叫阿春拿来洒了酒精的热毛巾给她擦背。这时悦子上来了。

「お母ちゃん、その床の間8けてあるのん、何の花やのん」と云った。

“妈妈,壁龛里插的是什么花呀?”

罌粟けしの花やわ」

“罂粟花。”

「悦子その花気味悪いわ」

“我觉得那花儿可怕。”

「何で」

“为什么呢?”

「悦子それ見てたら、その花の中へ吸い込まれそうな気イするねん」

“我看见那花,就觉得要被它吸进去似的。”

「ほんに。―――」

“真的。”

成る程、子供は巧いことを云う。そう云えばこの間から、この病室にいると変に頭をおさえつけられるような、重苦しい気がするのが、つい眼の前に原因があるようでいて、それが何であるのやら突き止められなかったのを、ズバリと悦子が云ってくれたと云う感じで、―――いかにも、そう云われてみれば、この床の間の罌粟の花のせいが確かにある。この花は畑などに咲いているのを見るのは美しいが、こうしてただ一輪、花器に活けられて床の間に据えられているのを見ると、何となく無気味で、「吸い込まれそうな」と云う言葉がそっくり当て篏まるのである。

确实如此,孩子的话往往一语中的。这几天,幸子总感到待在病室里像有什么压着她头似的,感觉沉重,原因似乎就在眼前,她却找不出来,现在让悦子一语道破了。看来,那壁龛上的罂粟花的确是一个原因。这种花成片开放在田野里很美,但这样孤零零地插在花瓶里、摆在壁龛上,看着有些令人害怕,“要被吸进去似的”这句话颇为贴切。

「ほんに、あたしかて何や、そんな気イしててんけど、大人には却ってそういう言葉出てけえへん」雪子もそう云って感心しながら、取り敢えずその花を下げたあとへ、水盤すいばん9燕子花かきつばた姫百合ひめゆりとを配して持って来たが、幸子はそれさえ重苦しく感じて、いっそ何もなしにして貰い、せいせいするような歌の掛軸をでもと夫に頼んで、少し季節には早いけれども、香川景樹かがわかげき10の嶺夕立、―――夕立は愛宕あたごの峰にかかりけり清滝河ぞ今濁るらん、の懐紙を床に掛けて貰った。

“真的,我也有这种感觉,不过大人反而说不出来。”雪子也不无钦佩地说,她急忙把罂粟花撤下来,换了配有燕子花和山丹花的盆花。可是,幸子瞅着这盆花也觉得郁闷,倒不如什么花也不要,她求丈夫挂一幅清爽的和歌挂轴,虽然时令还早了一点,不过还是在壁龛里挂了一幅香川景树所作和歌《夏日傍晚岭上骤雨》的条幅:骤雨爱宕峰,清清峰下清泷河,如今想应浑。

そんな病室のしつらいが幾分利き目があったのか、明くる日は余程気分が楽になったが、午後三時過ぎに玄関の呼鈴が鳴って来客らしい足音がするなと思っていると、お春が上って来て、「丹生にうさんの奥さんでございます」と云う。「―――下妻さんとか仰っしゃるお方と、相良さんとか仰っしゃるお方が御一緒でいらっしゃいます」

可能是病室这样的陈设多少有些效果,第二天,幸子感觉心情舒畅多了。下午三点过后,她听见门铃响,接着似乎传来了客人的脚步声。这时阿春上楼来说:“丹生夫人来了,和一位叫下妻、一位叫相良的夫人一块儿来的。”

幸子は、丹生夫人には久しく会わないし、留守に二度も訪問を受けているしするので、夫人だけなら病室へ上って貰ってもよいと思ったのであるが、下妻夫人とはそう昵懇じっこんな仲でもないし、殊に相良と云うのはまだ聞いたこともない名なので、ちょっと当惑した。こう云う時に雪子が代りに出てくれるとよいのだけれども、彼女は決して、よくも知らない人などの相手は勤めないのであった。でも、病気だと云って玄関払いを食わせるのは、たびたび無駄足をんでいる丹生夫人に気の毒でもあり、此方も無聊ぶりょうに苦しんでいる折柄でもあったので、加減が悪くて臥たり起きたりしておりまして失礼な恰好を致しておりますがと断らせて、兎も角も階下の応接間に通して置いて、大急ぎで鏡台の前にすわったが、あかでよごれた顔の地肌におしろいを叩き込んで、小ざっぱりした単衣に着換えて降りて行く迄には、それから三十分もかかった。

幸子和丹生夫人已久未见面,丹生夫人曾两次来访,她都不在家,若是她只身前来,是不妨请她来病室叙谈的。但是,幸子和下妻夫人过从并不怎么亲密,尤其是相良夫人连名儿都没听说过,一时不知怎样应付才好。这时要是雪子能代为接待就好了,不过,雪子决不愿意与不熟识的人应酬。如果推说有病请她们吃闭门羹,又觉得对不起跑了几趟空的丹生夫人,正赶上自己也苦于百无聊赖,于是她要阿春先去致歉,说自己因为身体不适,时卧时起,衣着不整,叫阿春先把客人请进楼下客厅。随即,她急忙坐在梳妆台前,在有脏污的脸上敷了一层白粉,换上一件清爽的单衣,走下楼来,足足用了三十分钟。

「御紹介しますわ、この方、相良さんの奥さん、―――」と、丹生夫人は、一と眼で洋行帰りと知れる、純亜米利加式の洋装の夫人を指しながら云った。「あたしの女学校時代のお友達よ。御主人は郵船会社にお勤めになっていらしって、ついこの間まで、御夫婦でロスアンジェルスにいらっしゃいましたの」

“请让我介绍一下,这一位是相良夫人。”丹生夫人指着身穿道地美国式西服、一看即知是出洋归来的夫人说,“她是我女子中学时代的好友,相良先生在邮船公司工作,他们夫妻俩以前一直住在洛杉矶。”

「初めまして、―――」と云いながら、幸子は直ぐにこのお客達に面会したことを後悔した。病気でこんなにやつれている時に、初対面の人に会うのはどうであろうかと思わないでもなかったのだけれども、まさかその人と云うのが、こうまで凄いハイカラな夫人であろうとは考えてもいなかったのであった。

“非常高兴和您见面——”说话间幸子马上后悔不该见这些客人,她最初也曾犹豫,如此病容憔悴时是否适合会见初次见面的客人,但没料到这位夫人竟如此时髦。

「あなた御病気? 何処がお悪いの?」

“您生病了?是哪儿不舒服?”

「黄疸になってんわ。見て御覧、―――眼エ黄色いでしょ」

“得了黄疸病,您瞧,眼睛发黄了吧?”

「ほんと。とても黄色いわね」

“可不是,很黄呢。”

「御気分がお悪いんじゃない?」と、下妻夫人が聞いた。

“您很难受吧?”下妻夫人问道。

「ええ。―――でも今日は大分ええ方なんですの」

“是呀……不过今天好多了。”

「済みませんわね、こんな時にお邪魔に上って。丹生さん、あなたが気が利かないのよ、玄関で失礼すればよかったのに」

“真是对不起,这种时候来打扰您。丹生夫人,都怪您不机灵,我们在门口告辞就好了。”

「まあ、あたしのせいにするなんて人が悪いわ。いいえね、蒔岡さん、実は相良さんが昨日突然出ていらしったんだけれど、この方、あんまり関西を御存知ないのよ。それで私が専ら案内役をうけたまわったんで、何か御覧になりたいものはって云ったら、阪神間の代表的な奥さんに会わせろって仰っしゃるの」

“啊,怎么都怪我呢?你真坏。莳冈夫人,实情是相良夫人昨天突然来了,她对关西不怎么了解,我答应为她当向导,我问她想看什么,她说让我带她见见阪神地区有代表性的夫人。”

「まあ、代表的云うて、どう云う意味の代表的?」

“啊,所谓代表性,是哪个方面的代表性呢?”

「そう云われると困るけれど、いろいろな意味の代表的よ。それであたし、考えちまって、結局あなたに白羽の矢を立てた11の」

“你这样问倒把我难住了,反正是各个多方面的代表,我琢磨了半天,最后选中了您。”

「阿呆らしい」

“瞎胡闹。”

「でもそう云う訳だから、見込まれたと思って、少しぐらいの病気我慢してでも相手をして下さらなくっちゃ。あ、それから、―――」と、丹生夫人は、部屋へ這入りしなにピアノの椅子の上に置いた風呂敷包を解いて、素晴らしく大きい見事なトマトの詰まっている箱を二た重ね出した。「これ、相良さんから、―――」

“不过,我认为是您够格才让我盯上了,即使您有点儿病,您也一定会坚持和我们聊一会儿。啊,还有……”丹生夫人说着,把进门时就搁在钢琴座椅上的包袱解开,拿出两盒又大又漂亮的西红柿说:“这是相良夫人送的。”

「まあ、何と云う立派な。何処でこんなトマトが出来るのでしょう」

“哟!真漂亮!这是什么地方出产的呀?”

「相良さんのお宅で作っていらっしゃるのよ。なかなかそんなの売ってやしないわ」

“相良夫人自家院子里种的,哪儿都买不到这么好的西红柿。”

「そうでッしゃろなあ。―――失礼でございますけれど、相良さんはどちらにお住まいでいらっしゃいますの」

“可不是吗?……对不起,您府上在哪里?”

「北鎌倉なんですの。でもわたくし、去年帰って参りまして、その家に一二箇月おりましただけなんであんすけど」

“住在北镰仓。不过,我去年回国以后,在家里只系(是)住了一两个月。”

この、「………なんであんすけど」と云うところが、「ざあます」とも違う一種不思議な云い方で、幸子は自分には真似も出来ないが、こう云う癖を取るのが上手な妙子に聞かせたらと思うと、ひとり可笑しくてたまらなかった。

这个“系”和那位俄国老太太的“细”,同样是奇怪的说法,幸子自己也学不像,她想要是让以模仿这类缺陷为能事的妙子听听就好了,想到这里她不禁暗自笑了。

「それでは何処ぞ、旅行でもなすっていらっしゃいましたの」

“这样说起来,您去什么地方旅行了吧?”

「暫く入院しておりまして」

“在医院里住了一段时间。”

「まあ、何の御病気?」

“啊,什么病?”

「神経衰弱のひどいのでして」

“严重的神经衰弱。”

「相良さんのは贅沢病なのよ」と、下妻夫人が引き取って云った。「でも、聖路加病院12ならいつ迄入院していらしったっていいでしょう」

“相良夫人得的是富贵病。”下妻夫人插嘴说,“不过,在圣路加医院住下去也不错吧?”

「海が近いから涼しくって、殊にこれからが彼処はいいのよ。でも中央市場が近いもんだから、時々生臭い風が吹くの。それに本願寺13の鐘が耳について。―――」

“那儿靠海,很凉快,特别是夏天住在那儿更好。不过,离中央市场太近,常常吹来带腥臭味儿的风。另外,本愿寺的钟声也很刺耳。”

「本願寺はああ云う建物になりましても、やっぱり鐘を鳴らすのでございましょうか」

“本愿寺都成那样的建筑了,还打钟吗?”

「はあ、そうであんすの」

“嗬,就系(是)嘛!”

「何だかサイレンでも鳴らしそうだわね」

“我总觉得会鸣汽笛什么的。”

「それから教会の鐘も鳴るのよ」

“还有,教堂也打钟。”

「ああ」と、下妻夫人は急に溜息をつきながら、「あたし、聖路加病院の看護婦になろうかしら。ねえ、どうでしょう」

“哎,”下妻夫人突然叹了口气说,“我也许要去圣路加医院当护士了。喂,怎么样?”

「それもいいかも知れないわね」と、丹生夫人は軽く受け流したが、

“那敢情好。”丹生夫人轻描淡写地搪塞了一句。

幸子は下妻夫人が、家庭的に面白くないことがあるような噂を聞いていたので、今の言葉には意味深重なものがあるらしく感じた。

幸子早就听说下妻夫人家里有些不称心的事,感到她这句话意味深长。

「そう云えば、黄疸て云う病気、腋の下にお握りを挟んで置くといいんですってね」

“话说回来,听说在胳肢窝下夹饭团能治疗黄疸。”

「まあ」と、相良夫人はライタアを点じながら怪訝そうに丹生夫人の顔を見て、「あなた随分変なこと知ってるのねえ」

“啊?”相良夫人正在用打火机点烟,诧异地瞪着丹生夫人的脸说,“您可真知道不少奇闻怪事呢。”

「両方の腋の下へお握りを入れて置くと、そのお握りが黄色くなるって云うわ」

“说是在两边胳肢窝下夹上饭团,饭团会变黄。”

「そのお握り、考えても汚いわね」そう云ったのは下妻夫人であった。

“那饭团想想也脏呀。”下妻夫人说。

「蒔岡さん、お握り入れていらっしゃる?」

“莳冈夫人,您夹饭团吗?”

「いいえ、あたし、そんな話初耳やわ。蜆汁飲んだらええことは知ってますけど」

“没有,我今天才初次听说呢,原来知道喝些蚬子酱汤有效。”

「どっちにしてもお金のかからない病気ね」と、相良夫人が云った。

“这种病无论如何也花不了几个钱。”相良夫人说。

幸子はこの三人がああ云う進物を持って来たりして、夕飯を呼ばれる心積りでいるらしいことは大凡そ察しがついたけれども、これから夕飯の時刻までまだ二時間ぐらいあると思うと、最初の予想に反して、とてもその間を勤めるのが辛い気がした。彼女は相良夫人のような型の、気風から、態度から、物云いから、体のこなしから、何から何までパリパリの東京流の奥さんが、どうにも苦手なのであった。彼女も阪神間の奥さん達の間では、いっぱし東京弁が使える組なのであるが、こう云う夫人の前へ出ると、何となく気が引けて、―――と云うよりは、何か東京弁と云うものが浅ましいように感じられて来て、故意に使うのを差控えたくなり、却って土地の言葉を出すようにした。それに又、そう云えば丹生夫人までが、いつも幸子とは大阪弁で話す癖に、今日はお附合いのつもりか完全な東京弁を使うので、まるで別の人のようで、打ち解ける気になれないのであった。成る程丹生夫人は、大阪っ児ではあるけれども、女学校が東京であった関係上、東京人との交際が多いので、東京弁が上手なことに不思議はないものの、それでもこんなにまで堂に入っているとは、長い附合いの幸子にしても今日まで知らなかったことで、今日の夫人はいつものおっとりとしたところがまるでなく、眼の使いよう、唇の曲げよう、煙草を吸う時の人差指と中指の持って行きよう、―――東京弁は先ず表情やしぐさからああしなければ板に着かないのかも知れないが、何だか人柄が俄に悪くなったように思えた。

幸子看三人带了那么些礼物,察觉到了是想让自己留她们吃晚饭。但是她一想到吃晚饭还要等两小时,便和最初预想的相反,觉得陪她们这么长的时间太难熬了。她认为相良夫人这种类型的女人,无论风度、态度,言谈、举止,哪一方面都是道地的东京气派,她觉得难于应付。她在阪神地方的太太们中间,也算得上是能讲东京话的佼佼者了,但是在这位夫人面前,总觉得有点怯场。甚至可以说,她感到讲一口东京口音有点浅薄无聊,所以想故意不讲东京话而多说本地方言。另外,那位丹生夫人平常和幸子说大阪话,今天为了陪客而满口东京话,简直判若他人,使交谈很难融洽。诚然,丹生夫人虽是大阪人,因为曾在东京上女子学校,和东京人交往很多,能讲流畅的东京话也毫不足怪。可是,她今天那东京话竟讲得如此得心应手,幸子感到对长期交往的丹生夫人还有不尽了解之处。今天的丹生夫人完全不像平日那样稳重,无论是使眼色的方式、嘴唇两端往下撇的样子,还是吸烟时食指和中指夹烟的姿势,都与以往不同。也许讲东京话首先就要从此类表情和动作开始,否则就不够意思,但是,怎么会使人觉得连人品都突然变低劣了呢?

で、いつもなら少し気分のすぐれないくらいは辛抱しても人をそらさない幸子なのだけれども、今日ばかりは三人のしゃべるのを聞いていると苛々いらいらして来て、いやだと思うと一層体が大儀になり出して、つい顔色にも現れるので、

要是平时身子稍许不舒服,幸子也会强打起精神周到地应酬,唯独今天听着她们叽里呱啦,竟焦躁起来,心里觉得厌烦时,身体也更加倦怠,最后脸色也变得难看了。

「ちょっと、丹生さん、悪いわ。―――もう失礼しましょうよ」と、下妻夫人が気を利かしてそう云いながら立ち上った時、強いてそれを止めようともしないでしまった。

“喂,丹生夫人,久坐不很方便吧——咱们告辞吧。”下妻夫人机警地说着,一边站起来。幸子连勉强挽留她们的样子也没做一个。

Footnotes#

  1. しんど: [名・形動] くたびれること

  2. 大儀: [名・形動] 疲れなどのため何もする気になれないこと

  3. 海水帽: [名] 海辺で、日よけなどに用いる縁の広い帽子

  4. もんぺ: [名] 主に農村や漁村で用いられる下衣の汎称で、山袴のこと

  5. 葭簀張り: [名] 葦簀を張りわたして囲うこと

  6. 拗らせる: [動サ下一] 病気を治しそこねて長引かせる

  7. 蜆汁: [名] 殻のままのシジミを実にした味噌汁。黄疸おうだんなどによいといわれる

  8. 床の間: [名] 書画をかけたり、置物などを飾ったりするため、和室の床を一段高くしたところ

  9. 水盤: [名] いけ花で使われる花器の一種で、底の浅い平らな盤で盛り花に用いる

  10. 香川景樹 (1768-1843): 江户时代后期歌人,桂圆派之祖

  11. 白羽の矢を立つ: 多くの人の中から、特に選ばれる、または指名されること

  12. 聖路加病院: 东京都中央区明石町的大型综合医院

  13. 本願寺:坐落于东京都中央区筑地三丁目,是净土真宗本愿寺派的寺院

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永雏多氢菲
∴さて····どこへ行こうか?
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