梶井基次郎: 橡の花
first published:『創作月刊』1928年5月1日発行5月号
audio:https://www.youtube.com/watch?v=c0sPDqMIpCo&t=92s
desc: ”我“ 因阴郁的天气而精神萎靡。坐在电车里,总觉得前排的人在盯着自己的脸。忍不住要去挑剔同乘者的毛病。就连和熟悉的朋友聊天,内心也焦躁不安。神经质倾向的主人公,向友人倾诉烦恼的书信体
一
この頃の陰鬱な天候に弱らされていて手紙を書く気にもなれませんでした。以前京都にいた頃は毎年のようにこの季節に肋膜を悪くしたのですが、此方へ来てからはそんなことはなくなりました。一つは酒類を飲まなくなったせいかも知れません。然しやはり精神が不健康になります。感心なことを云うと云ってあなたは笑うかも知れませんが、学校へ行くのが実に億劫でした。電車に乗ります。電車は四十分かかるのです。気持が消極的になっているせいか、前に坐っている人が私の顔を見ているような気が常にします。それが私の独ひとり相撲だとは判っているのです。と云うのは、はじめは気がつきませんでしたが、まあ云えば私自身そんな視線を捜しているという工合なのです。何気ない眼附きをしようなど思うのが抑ゝの苦しむもとです。
最近受阴郁的天气烦扰,我连写信都提不起劲。之前住京都时,几乎每年到了这个季节,胸膜炎就会恶化,但来到这里后,就不再有这种困扰了。原因之一,或许是我戒酒了。不过精神方面还是不太健康。若说出主要原因,你或许会笑我,其实是因为我嫌上学麻烦。我向来都搭电车。电车得花四十分钟的车程。可能是我情绪变得消极的缘故,总觉得坐在前面的人在看我。我明白这是我自己在胡思乱想。之所以这么说,是因为一开始我并未察觉,不过真要说的话,是我自己在找寻这样的视线,还要装出若无其事的眼神。正是这一切痛苦的根源。
また電車のなかの人に敵意とはゆかないまでも、棘々しい心を持ちます。これもどうかすると変に人びとのアラ1を捜しているようになるのです。学生の間に流行っているらしい太いズボン、変にべたっとした赤靴。その他。その他。私の弱った身体にかなわないのはその悪趣味です。なにげなくやっているのだったら腹も立ちません。必要に迫られてのことだったら好意すら持てます。然しそうだとは決して思えないのです。浅はかな気がします。
此外,虽然我对电车里的人还不到抱持敌意的程度,但心里倒是像带刺一样,充满戒心。而且似乎动不动就挑人毛病。例如学生之间流行的宽松长裤、奇怪的扁扁的红鞋,诸如此类。我孱弱的身子最受不了这种低俗的品位。如果这是无心之过,我倒也不会上火。倘若是迫于无奈,有这个需要,甚至能让我抱持好感。但绝对不是这么回事。我只觉得肤浅。
女の髪も段々堪らないのが多くなりました。――あなたにお貸しした化物の本のなかに、こんな絵があったのを御存じですか。それは女のお化けです。顔はあたり前ですが、後頭部に――その部分がお化けなのです。貪婪な口を持っています。そして解した髪の毛の先が触手の恰好に化けて、置いてある鉢から菓子をつかみ、その口へ持ってゆこうとしているのです。が、女はそれを知っているのか知らないのか、あたりまえの顔で前を向いています。――私はそれを見たときいやな気がしました。ところがこの頃の髪にはそれを思い出させるのがあります。わげがその口の形をしているのです。その絵に対する私の嫌悪はこのわげを見てから急に強くなりました。
女人的头发也是,愈来愈多不堪入目的发型。——我借你的妖怪书当中,有这么一幅画,不知道你记不记得?画的是一名女妖。长相很正常,后脑却是妖怪。还有一张贪婪的大嘴。她披散的头发发梢化为触手的模样,从摆在一旁的大碗里抓起一把点心,正准备往嘴里送。但不知道那个女人自己是否晓得此事,只见她面朝前方,一副稀松平常的神情。——当初我看到这幅画时,心里就觉得不太舒服。但最近看到女人们的发型,让我想起这件往事。她们的发髻呈现出嘴巴的形状。在看过这种发髻后,我对那幅画的厌恶感变得愈发强烈。
こんなことを一々気にしていては窮屈で仕方がありません。然しそう思ってみても逃げられないことがあります。それは不快の一つの「型」です。反省が入れば入る程尚更その窮屈がオークワードになります。ある日こんなことがありました。やはり私の前に坐っていた婦人の服装が、私の嫌悪を誘い出しました。私は憎みました。致命的にやっつけてやりたい気がしました。そして効果的に恥を与え得る言葉を捜しました。ややあって私はそれに成功することが出来ました。然しそれは効果的に過ぎた言葉でした。やっつけるばかりでなく、恐らくそのシャアシャア2した婦人を暗く不幸にせずにはおかないように思えました。私はそんな言葉を捜し出したとき、直ぐそれを相手に投げつける場面を想像するのですが、この場合私にはそれが出来ませんでした。その婦人、その言葉。この二つの対立を考えただけでも既に惨酷でした。私のいら立った気持は段々冷えてゆきました。女の人の造作をとやかく思うのは男らしくないことだと思いました。もっと温かい心で見なければいけないと思いました。然し調和的な気持は永く続きませんでした。一人相撲が過ぎたのです。
在意这样的每件小事,实在倍感拘束。虽然我这么想,但有些事就是无法摆脱。那是令我感到不悦的一种 “模式”。越是反省,那拘束感越是教人难以应付。有一天就发生了这么一件事。坐我前面的一名妇人身上穿的服装,激起我的厌恶。我深感憎恨。很想给她致命的一击。接着我在脑中搜寻能有效羞辱她的话语。不一会儿,我成功想到了一句话。不过这句话实在太过猛烈。我觉得这样不光会羞辱她,恐怕还会让这名一派轻松的妇人落入黑暗的不幸深渊。当我想到这句话时,马上便想象起用这句话对付她的场面,但我最后还是说不出口。那名妇人、那句话。光是思考这两件事的对立,就已经觉得够残酷了。我原本焦躁的情绪逐渐冷却。甚至心想,对一个女人的模样有这么多意见,实在不像个男人。我必须以更宽厚的心来看待。不过,这种平静的心情并未持续太久。这不过是我自己在胡思乱想罢了。
私の眼がもう一度その婦人を掠めたとき、ふと私はその醜さのなかに恐らく私以上の健康を感じたのです。わる達者という言葉があります。そう云った意味でわるく健康な感じです。性におえない鉄道草3という雑草があります。あの健康にも似ていましょうか。――私の一人相撲はそれとの対照で段々神経的な弱さを露わして来ました。
当我的目光再度从那妇人身上掠过时,突然从她那丑陋的外貌下,感觉到犹胜于我的健康。有句话叫 “祸害遗千年”,在这个意义上来看,是让人感觉到负面的健康。有一种特性令人头疼的杂草,名叫“铁道草”,也和这种健康很类似。——我的胡思乱想,与此形成强烈对比,逐渐展露出神经方面的耗弱。
俗悪に対してひどい反感を抱くのは私の久しい間の癖でした。そしてそれは何時も私自身の精神が弛んでいるときの徴候でした。然し私自身みじめな気持になったのはその時が最初でした。梅雨が私を弱くしているのを知りました。
对粗俗的事物抱持强烈反感,是我长期积累的习惯。而这往往是我精神松懈时的征兆。但我对自己感到悲哀,这是第一次。我明白是梅雨使我变得脆弱。
電車に乗っていてもう一つ困るのは車の響きが音楽に聴えることです。(これはあなたも何時だったか同様経験をしていられることを話されました)私はその響きを利用していい音楽を聴いてやろうと企てたことがありました。そんなことから不知不識に自分を不快にする敵を作っていた訳です。「あれをやろう」と思うと私は直ぐその曲目を車の響き、街の響きの中に発見するようになりました。然し悪く疲れているときなどは、それが正確な音程で聞えない。――それはいいのです。困るのはそれがもう此方の勝手では止まらなくなっていることです。そればかりではありません。それは何時の間にか私の堪らなくなる種類のものをやります。先程の婦人がそれにつれて踊るであろうような音楽です。時には嘲笑的にそしてわざと下品に。そしてそれが彼等の凱歌のように聞える――と云えば話になってしまいますが、とにかく非常に不快なのです。
坐电车另一件令我伤脑筋的事,是电车的声响听起来像音乐(你不知道什么时候也曾经说你有同样的经验)。我曾经企图利用那个声响,让它听起来像美妙的音乐。就是因为这样,我在不知不觉中制造了一个让我感到不愉快的敌人。每当我心想 “来试试那个吧”,我就会马上从电车的声响、市街的声响中发现曲目。但在我疲惫时,它听起来就不会是准确的音程。——这样也没关系。我伤脑筋的是,这已不是我自己想停就停得下来的了。不光如此,它在不知不觉间开始播放起我受不了的那类音乐。像刚才那名妇人会随之起舞的音乐。有时带有嘲讽,并刻意显得低俗。而这听起来就如同是他们的凯歌——说到这个,那可就说来话长了,总之,这惹得我非常不悦。
電車の中で憂鬱になっているときの私の顔はきっと醜いにちがいありません。見る人が見ればきっとそれをよしとはしないだろうと私は思いました。私は自分の憂鬱の上に漠とした「悪」を感じたのです。私はその「悪」を避けたく思いました。然し電車には乗らないなどと云ってはいられません。毒も皿もそれが予め命ぜられているものならひるむことはいらないことです。一人相撲もこれでおしまいです。あの海に実感を持たねばならぬと思います。
我在电车里深陷忧郁中,此时我的脸肯定奇丑无比。要是有人看了,肯定不会觉得这是好脸色。我从自己的忧郁中隐约感觉到“恶”。我想避开 “恶”,但我没办法说我从此再也不坐电车。倘若这是横竖都注定好的事,那就无须畏惧了。我的胡思乱想就此结束。我必须对那片大海抱有真实感。
ある日私は年少の友と電車に乗っていました。この四月から私達に一年後おくれて東京に来た友でした。友は東京を不快がりました。そして京都のよかったことを云い云いしました。私にも少くともその気持に似た経験はありました。またやって来た匆々直ぐ東京が好きになるような人は不愉快です。然し私は友の言葉に同意を表しかねました。東京にもまた別種のよさがあることを云いました。そんなことをいう者さえ不愉快だ。友の調子にはこう云ったところさえ感ぜられます。そして二人は押し黙ってしまいました。それは変につらい沈黙でした。友はまた京都にいた時代、電車の窓と窓がすれちがうとき「あちらの第何番目の窓にいる娘が今度自分の生活に交渉を持って来るのだ」とその番号を心のなかで極め、託宣を聴くような気持ですれちがうのを待っていた――そんなことをした時もあったとその日云っておりました。そしてその話は私にとって無感覚なのでした。そんなことにも私自身がこだわりを持っていました。
某天,我和一位年轻的友人一同搭电车。他是晚我们一年,今年四月才来到东京的朋友。东京令他感到不快。开口老谈京都的好。他这种心情,我多少也有过类似的体验。初来乍到,便马上爱上东京的人,才会让人觉得不愉快。但朋友说的话,我实在难以苟同。我告诉他,东京有它另一种好。但友人连听到别人说这种话都觉得不愉快。从他说话的口吻便感觉得出他的想法。接着我们两人沉默良久。那是令人难受的沉默。友人那天还说,他以前还住京都时,当两班电车的车窗交错而过时,他会在心里想 “坐那班车第几扇窗的女孩,日后会和我的生活产生交集”,并暗自选定一个数字,然后抱持一种聆听神谕的心情,等候对方与他交错而过的瞬间。他这番话听在我耳里毫无感觉。因为我对这种事也有我自己的坚持。
二
或る日Oが訪ねてくれました。Oは健康そうな顔をしていました。そして種々元気な話をしてゆきました。――
某天 O 来访。O 看起来气色不错。并聊了许多开朗正向的话题。
Oは私の机の上においてあった紙に眼をつけました。何枚もの紙の上に Waste という字が並べて書いてあるのです。
O 望向我摆在桌上的纸。那一叠纸上写着满满的 “Waste”。
「これはなんだ。恋人でも出来たのか」と、Oはからかいました。恋人というようなあのOの口から出そうにもない言葉で、私は五六年も前の自分を不図思い出しました。それはある娘を対象とした、私の子供らしい然も激しい情熱でした。それの非常な不結果であったことはあなたも少しは知っていられるでしょう。
“这是什么?你有恋人了吗?” O 调侃我道。“恋人” 不像是 O 这个人会说的字眼,我突然想起五六年前的我。当时我对一个女孩展现出像孩子般的激情。那极度悲惨的结果,想必你也略有所闻吧。
――父の苦り切った声がその不面目な事件の結果を宣告しました。私は急にあたりが息苦しくなりました。自分でもわからない声を立てて寝床からとび出しました。後からは兄がついて来ておりました。私は母の鏡台の前まで走りました。そして自分の青ざめた顔をうつしました。それは醜くひきつっていました。何故そこまで走ったのか――それは自分にも判然しません。その苦しさを眼で見ておこうとしたのかも知れません。鏡を見て或る場合心の激動の静まるときもあります。――両親、兄、O及びもう一人の友人がその時に手を焼いた連中です。そして家では今でもその娘の名を私の前では云わないのです。その名前を私は極くごく略した字で紙片の端などへ書いて見たことがありました。そしてそれを消した上こなごなに破らずにはいられなかったことがありました。――然しOが私にからかった紙の上には Waste という字が確実に一面に並んでいます。
——家父那极度不悦的声音,宣布了那令人难堪的事件最后的结果。我突然觉得周遭压得我喘不过气来。发出连我自己都听不懂的声音,从床上飞奔而出。家兄从后面紧跟着我。我一路冲到家母的梳妆台前。镜子映照出我苍白的脸。那是一张丑陋、僵硬的脸。我为什么会跑到那里呢?——我自己也不清楚。也许是想亲眼瞧瞧那痛苦的模样。有时看着镜子,内心的激动会就此平静。——我爸妈、家兄、O,以及另一位友人,当时都不知拿我如何是好。时至今日,我家人仍旧不会在我面前提到那女孩的名字。我曾试着在纸片上写下她名字的简写。之后不仅将它擦除,还得撕成碎片。——然而,O 调侃我的那张纸上,确实写了满满的 “Waste”。
「どうして、大ちがいだ」と私は云いました。そしてその訳を話しました。
“为什么这样说?你想错了。” 我说。接着道出个中缘由。
その前晩私はやはり憂鬱に苦しめられていました。びしょびしょと雨が降っていました。そしてその音が例の音楽をやるのです。本を読む気もしませんでしたので私はいたずら書きをしていました。その Waste という字は書き易い字であるのか――筆のいたずらに直ぐ書く字がありますね――その字の一つなのです。私はそれを無暗にたくさん書いていました。そのうちに私の耳はそのなかから機4を織るような一定のリズムを聴きはじめたのです。手の調子がきまって来たためです。当然きこえる筈だったのです。なにかきこえると聴耳をたてはじめてから、それが一つの可愛いリズムだと思い当てたまでの私の気持は、緊張と云い喜びというにはあまりささやかなものでした。然し一時間前の倦怠ではもうありませんでした。私はその衣ずれのようなまた小人国の汽車のような可愛いリズムに聴き入りました。それにも倦くと今度はその音をなにかの言葉で真似て見たい欲望を起したのです。ほととぎすの声をてっぺんかけたかと聞くように。――然し私はとうとう発見出来ませんでした。サ行の音が多いにちがいないと思ったりする、その成心5に妨げられたのです。然し私は小さいきれぎれの言葉を聴きました。そしてそれの暗示する言語が東京のそれでもなく、どこのそれでもなく、故郷の然も私の家族固有なアクセントであることを知りました。――おそらく私は一生懸命になっていたのでしょう。そうした心の純粋さがとうとう私をしてお里を出さしめたのだろうと思います。心から遠退いていた故郷と、然も思いもかけなかったそんな深夜、ひたひたと膝をつきあわせた感じでした。私はなにの本当なのかはわかりませんでしたが、なにか本当のものをその中に感じました。私はいささか亢奮をしていたのです。
前一晚,我又受到忧郁的折磨。雨淅淅沥沥地下着。雨声播放起那首音乐。我完全无心念书,所以开始涂鸦。可能是 “Waste” 这个字简单好写吧——有时在拿笔乱写时,就会写下某些字,而 “Waste” 这个字算是其中之一。我胡乱写了满满的字。过没多久,我的耳朵开始听到某个固定的节奏,就像纺织机的织布声。那是因为我写字的节奏愈来愈固定,当然会听到声音。听到某个声音后,我开始竖耳细听,而在我认定那是某个可爱的节奏前,我的心情若说是紧张或是喜悦,都未免显得太轻松了。但可以确定这已不再是一个小时前的倦怠感。我听到了那像是衣角摩擦声,也像是小人国火车般的可爱节奏。连这节奏也听腻后,我兴起一股欲望,想用某个话语来模仿那个声音。就像杜鹃鸟的声音听起来像 “爬上山巅了吗”一样。——但我终究还是找不到。因为我心想,SA 行的音一定很多,这先入为主的观念阻碍了我。然而,我还是听到一个断断续续的细微话语。我明白它所暗示的话语,既非东京话,也不是任何一个地方的方言,而是我故乡,而且还是我家人特有的音调。——可能是我很卖力的缘故。应该是如此纯粹的内心,最后让我想起自己的故乡吧。在这意想不到的深夜,我感觉到与我内心愈来愈遥远的故乡,在此与我迎面相对。我不知道什么是真,但我从中感觉到某个真实之物。我心中略感兴奋。
然しそれが芸術に於てのほんとう、殊に詩に於てのほんとうを暗示していはしないかなどOには話しました。Oはそんなことをもおだやかな微笑で聴いてくれました。
我对 O 说,这该不会是在向我暗示,表示这是艺术上的真实,尤其是诗歌上的真实吧?O 面露柔和的微笑,静静听我说。
鉛筆の秀6をとがらして私はOにもその音をきかせました。Oは眼を細くして「きこえる、きこえる」と云いました。そして自身でも試みて字を変え紙質を変えたりしたら面白そうだと云いました。また手加減が窮屈になったりすると音が変る。それを「声がわり」だと云って笑ったりしました。家族の中でも誰の声らしいと云いますから末の弟の声だろうと云ったのに関聯してです。私は弟の変声期を想像するのがなにかむごい気がするときがあります。次の話もこの日のOとの話です。そして手紙に書いておきたいことです。
我削尖铅笔,让 O 也听这个声音。O 眯起眼睛说 “听得到、听得到”。接着他自己也尝试改写别的字,改换不同纸质后,觉得这样很有趣。此外,当手指的力度变小时,声响也会随之改变。他说这是 “变声”,大笑起来。他还说这很像是家里某个人的声音,我听了之后马上产生联想,回答说,应该是幺弟的声音吧。想象弟弟变声期的情况,有时觉得有点残忍。接下来要谈的事,也是这天我和 O 的对话。我想先将它写在信中。
Oはその前の日曜に鶴見の花月園というところへ親類の子供を連れて行ったと云いました。そして面白そうにその模様を話して聞かせました。花月園というのは京都にあったパラダイスというようなところらしいです。いろいろ面白かったがその中でも愉快だったのは備えつけてある大きなすべり台だと云いました。そしてそれをすべる面白さを力説しました。ほんとうに面白かったらしいのです。今もその愉快が身体のどこかに残っていると云った話振りなのです。とうとう私も「行って見たいなあ」と云わされました。変な云い方ですがこのなあのあはOの「すべり台面白いぞお」のおと釣合っています。そしてそんな釣合いはOという人間の魅力からやって来ます。Oは嘘の云えない素直な男で彼の云うことはこちらも素直に信じられます。そのことはあまり素直ではない私にとって少くとも嬉しいことです。
O 说他上个星期天带着亲戚的孩子前往鹤见的花月园。他兴致盎然地向我描述那里的情况。花月园就像一座位于京都的天堂。虽然有很多有趣的玩意儿,但当中玩得最愉快的,就数其中设置的一座大溜滑梯。他极力向我强调溜滑梯多有趣。听起来似乎真的很有趣。他说话的模样,透露出他体内仍留有当时的愉快。最后连我也不得不说一句 “真想去瞧瞧呢”。虽然这说法有点奇怪,但这句话中的 “呢”,与 O 说的那句 “溜滑梯很有趣哦” 当中的 “哦”,两者搭配得恰到好处。而这样的搭配附和,就是来自 O 的个人魅力。O 是个不会说谎的老实人,他说的话,我向来都深信不疑。这对不太老实的我来说,至少是件可喜的事。
そして話はその娯楽場の驢馬の話になりました。それは子供を乗せて柵を回る驢馬で、よく馴れていて、子供が乗るとひとりで一周して帰って来るのだといいます。私はその動物を可愛いものに思いました。
接着要谈到那处娱乐场里的驴子。那是会载着孩童沿栅栏绕行的驴子,和人很亲近,只要孩子骑上驴子,它们便会自动绕行一圈。我觉得这动物真讨人喜爱。
ところがそのなかの一匹が途中で立留ったと云います。Oは見ていたのだそうです。するとその立留った奴はそのまま小便をはじめたのだそうです。乗っていた子供――女の児だったそうですが――はもじもじ7し出し顔が段々赤くなって来てしまいには泣きそうになったと云います。――私達は大いに笑いました。私の眼の前にはその光景がありありと浮びました。人のいい驢馬の稚気に富んだ尾籠8、そしてその尾籠の犠牲になった子供の可愛い困惑。それはほんとうに可愛い困惑です。然し笑い笑いしていた私はへんに笑えなくなって来たのです。笑うべく均衡されたその情景のなかから、女の児の気持だけがにわかに押し寄せて来たのです。「こんな御行儀の悪いことをして。わたしははずかしい」
不过,O 说当中有一头驴子来到半途突然停住不动。那是他亲眼所见。接着,那畜牲开始撒起尿来。骑在它背上的小孩——是位女娃——她那忸怩不安的脸变得愈来愈红,最后都快哭了。——我们两人哈哈大笑。那幕光景清楚地浮现在我眼前。温驯的驴子充满稚气的粗鲁行径,还有在它的粗鲁行径下沦为牺牲者的女孩那不知所措的可爱模样。然而,我笑着笑着,渐渐感到笑不出来。从那为了让人发笑而变得和谐的情景中,那女孩的想法突然朝我涌来。“竟然做出这么没规矩的事来。我真是太丢脸了。”
私は笑えなくなってしまいました。前晩の寐不足のため変に心が誘われ易く、物に即し易くなっていたのです。私はそれを感じました。そして少しの間不快が去りませんでした。気軽にOにそのことを云えばよかったのです。口にさえ出せば再びそれを可愛い滑稽おどけなこと」として笑い直せたのです。然し私は変にそれが云えなかったのです。そして健康な感情の均整をいつも失わないOを羨しく思いました。
我再也笑不出来。由于前一晚没睡好,我内心变得很容易受影响,会贴近事物去感受悲喜。我已从中感觉到了。有好一段时间,心中的不快挥之不去。我只要以轻松的态度告诉 O 这件事就行了。只要说出口,就能再次当那是一件 “可爱又滑稽的趣事”,嬉笑面对。但我说不出口。O 始终都能保有健康和谐的情感,这令我好生羡慕。
三
私の部屋はいい部屋です。難を云えば造りが薄手に出来ていて湿気などに敏感なことです。一つの窓は樹木とそして崖とに近く、一つの窓は奥狸穴などの低地をへだてて飯倉の電車道に臨む展望です。その展望のなかには旧徳川邸の椎いの老樹があります。その何年を経たとも知れない樹は見わたしたところ一番大きな見事なながめです。一体椎という樹は梅雨期に葉が赤くなるものなのでしょうか。最初はなにか夕焼の反射をでも受けているのじゃないかなど疑いました。そんな赤さなのです。然し雨の日になってもそれは同じ。いつも同じでした。やはり樹自身の現象なのです。私は古人の「五月雨の降り残してや光堂9」の句を、日を距ててではありましたが、思い出しました。そして椎茜という言葉を造って下の五10におきかえ嬉しい気がしました。中の七が降り残したるではなく、降り残してやだったことも新しい眼で見得た気がしました。
我很满意我的房间。真要挑剔的话,大概就是墙壁砌得太薄,房间里容易潮湿。当中一扇窗很贴近屋外的树木和山崖,另一扇窗隔着奥狸穴等低洼地,可以远眺饭仓的电车轨道。在这样的视野中,可以望见昔日德川宅邸的一株老苦槠树。那不知已有多大树龄的老树,是放眼所及最美的景致。苦槠这种树木的树叶真的会在梅雨季转红吗?一开始我还以为是夕阳余晖的反射。它就是这般艳红。但雨天也一样。不管什么时候都一样。这果然是树木本身的现象。隔了几天后,我想起古人的俳句 “梅雨纷纷下,是否独遗金色堂”。我造了 “苦槠红” 一词,替换原句的 “金色堂”,觉得很开心。至于原句的“独遗”,用的不是肯定句,而是疑问句,这也给了我一种新发现的感觉。
崖に面した窓の近くには手にとどく程の距離にかなひでという木があります。朴の一種だそうです。この花も五月闇のなかにふさわなくはないものだと思いました。然しなんと云っても堪らないのは梅雨期です。雨が続くと私の部屋には湿気が充満します。窓ぎわなどが濡れてしまっているのを見たりすると全く憂鬱になりました。変に腹が立って来るのです。空はただ重苦しく垂れ下っています。
面向山崖的窗户附近,在伸手可及的距离下,有一株朴柏,是日本厚朴的一种。我认为这种花很适合梅雨季的夜晚。但不管怎么说,梅雨季还是令人难受。连日降雨,使我房内充满湿气。看到窗边那湿答答的模样,就令人深陷忧郁中。心中生起一股无名火。天空始终乌云低垂,令人备感沉闷。
「チョッ。ぼろ船の底」
“嗬,就像待在破船的船底里。”
或る日も私はそんな言葉で自分の部屋をののしって見ました。そしてそのののしり方が自分がでに面白くて気は変りました。母が私にがみがみおこって来るときがあります。そしてしまいに突拍子もないののしり方をして笑ってしまうことがあります。ちょっとそう云った気持でした。私の空想はその言葉でぼろ船の底に畳を敷いて大きな川を旅している自分を空想させました。実際こんなときにこそ鬱陶しい梅雨の響きも面白さを添えるのだと思いました。
某天,我朝自己房间发出这声咒骂,并环视房内。我自己觉得这个咒骂方式有趣,心情就此转变。有时家母会对我叨絮责骂。最后来一句无厘头的责骂,就此笑了起来,感觉就像这样。借由那句话,我幻想着自己在一艘破船底下铺上榻榻米,在一条大川上展开旅程。事实上,唯有在这种时候,那令人郁闷的梅雨声才会增添几分趣味。
四
それもやはり雨の降った或る日の午後でした。私は赤坂のAの家へ出かけました。京都時代の私達の会合――その席へはあなたも一度来られたことがありますね――憶えていらっしゃればその時いたAです。
那同样也是某个降雨的午后。我出门前往 A 位于赤坂的家中。我们住京都时的聚会——你也曾出席过对吧——如果你还记得的话,就会知道我说的是当时也在场的 A。
この四月には私達の後、やはりあの会合を維持していた人びとが、三人も巣立って11来ました。そしてもともと話のあったこととて、既に東京へ来ていた五人と共に、再び東京に於ての会合が始まりました。そして来年の一月から同人雑誌を出すこと、その費用と原稿を月々貯めてゆくことに相談が定ったのです。私がAの家へ行ったのはその積立金を持ってゆくためでした。
继我们之后仍继续举办聚会的那群人当中,今年四月有三人也毕业了。因为原本就已谈过,所以他们和早已来到东京的五人一起,再次于东京举办聚会。而且还进一步商量好,从明年一月起要推出同人杂志,现在开始要每个月攒下经费和累积稿子。我到 A 的家中,就是为了送我的那笔准备金过去。
最近Aは家との間に或る悶着を起していました。それは結婚問題なのです。Aが自分の欲している道をゆけば父母を捨てたことになります。少くも父母にとってはそうです。Aの問題は自ら友人である私の態度を要求しました。私は当初彼を冷そうとさえ思いました。少くとも私が彼の心を熱しさせてゆく存在であることを避けようと努めました。問題がそういう風に大きくなればなる程そうしなければならぬと思ったのです。――然しそれがどちらの旗色12であれ、他人のたてたどんな旗色にも動かされる人間でないことを彼は段々証して来ております。普段にぼんやりとしかわからなかった人間の性格と云うものがこう云うときに際してこそその輪郭をはっきりあらわすものだということを私は今に於て知ります。彼もまたこの試練によってそれを深めてゆくのでしょう。私はそれを美しいと思います。
最近 A 和家人起了冲突。为了结婚的问题。A 如果走自己想走的路,就会舍弃父母。至少他父母是这么想。A 要求我这位朋友对他的问题表态。当初我甚至想要他冷静一点。至少我很努力避免自己对他火上浇油。因为我认为,问题闹得愈大,愈得这么做。——但他逐渐向我证明,不管情况如何,别人秉持的立场都无法撼动他分毫。平时模糊不明的人格特性,就是在这种时候才会清楚显现轮廓,我现在才明白这点。他应该也是透过这个考验,而更加坚定了自己的决心。我认为这样的决心很迷人。
Aの家へ私が着いたときは偶然新らしく東京へ来た連中が来ていました。そしてAの問題でAと家との間へ入った調停者の手紙に就て論じ合っていました。Aはその人達をおいて買物に出ていました。その日も私は気持がまるでふさいでいました。その話をききながらひとりぼっちの気持で黙り込んでいました。するとそのうちに何かのきっかけで「Aの気持もよくわかっていると云うのならなぜ此方を骨折ろうとしないんだ」という言葉を聞きました。調子のきびしい言葉でした。それが調停者に就て云われている言葉であることは申すまでもありません。
抵达 A 的家中时,碰巧来东京的那群朋友也到了。为了 A 的问题,有位调解者出面替 A 和他家人协调,那群朋友正在讨论此人写的书信。A 留他们在家,出外买东西去了。那天我一直觉得闷闷不乐。听他们讨论,我有一种孤独感,就此沉默不语。过没多久,我听到有人说 “既然我们了解 A 的感受,为什么我们不肯全力帮他呢”。很不客气的一句话。不用说也知道,这是针对调解者说的话。
私の心はなんだかびりり13としました。知るということと行うということとに何ら距りをつけないと云った生活態度の強さが私を圧迫したのです。単にそればかりではありません。私は心のなかで暗にその調停者の態度を是認していました。更に云えば「その人の気持もわかる」と思っていたからです。私は両方共わかっているというのは両方とも知らないのだと反省しないではいられませんでした。便りにしていたものが崩れてゆく何とも云えないいやな気持です。Aの両親さえ私にはそっぽを向ける14だろうと思いました。一方の極へおとされてゆく私の気持は、然し、本能的な逆の力と争いはじめました。そしてAの家を出る頃ようやく調和したくつろぎに帰ることが出来ました。Aが使から帰って来てからは皆の話も変って専ら来年の計画の上に落ちました。Rのつけた雑誌の名前を繰り返し繰り返し喜び、それと定まるまでの苦心を滑稽化して笑いました。私の興味深く感じるのはその名前によって表現を得た私達の精神が、今度はその名前から再び鼓舞され整理されてくるということです。
我内心发麻。知与行,两者之间不能有距离,这种强硬的生活态度压迫着我。不光如此,我心中暗自认同那位调解者的态度。因为真要我说的话,我认为自己 “明白他的想法”。双方的想法都能了解,表示双方都不了解,我得好好反省才行。就像自己原本倚赖的东西逐渐崩毁,那是一种很不舒服的感觉,难以形容。我想,就连 A 的父母也不会理我吧。我的心情逐渐落入极端的一方,却又开始与本能的反叛力量展开抗争。一直等到离开 A 的家,我才得以回归祥和的放松心境。A 买完东西回来后,大家也都改变话题,聊的全是明年的计划。一再开心地谈到 R 为杂志取的名字,将名字定案前所投注的苦心说得滑稽逗趣,大笑不已。我真正感兴趣的,是我们借由这名字所呈现的精神,这次再度透过名字得到鼓舞,也让我们可以重新整理我们的思绪。
私達はAの国から送って来たもので夕飯を御馳走になりました。部屋へ帰ると窓近い樫の木の花が重い匂いを部屋中にみなぎらせて15いました。Aは私の知識の中で名と物とが別であった菩提樹をその窓から教えてくれました。私はまた皆に飯倉の通りにある木は七葉樹だったと告げました。数日前RやAや二三人でその美しい花を見、マロニエ16という花じゃないかなど云い合っていたのです。私はその名をその中の一本に釣られていた「街路樹は大切にいたしましょう」の札で読んで来たのです。
多亏有 A 的家乡寄来的食物,我们享受了一顿晚餐。回到房间后,靠近窗边的橡树花朵,浓郁的香气盈满房内。我本来只分别知道菩提树的名字和实物,是A在窗边教会我,我才将这两者连在一起。我告诉大家,位于饭仓马路旁的树,是七叶树。几天前,我和 R、A,以及其他两三人一起看到那美丽的花朵,我们讨论起来,觉得这花可能叫作 marronnier。我曾在一棵树上挂着的 “请爱惜行道树” 的牌子上念过它的名字。
積立金の話をしている間に私はその中の一人がそれの為の金を、全く自分で働いているのだという事を知りました。親からの金の中では出したくないと云うのです。――私は今更ながらいい伴侶と共に発足する自分であることを知りました。気持もかなり調和的になっていたのでこの友の行為から私自身を責め過ぎることはありませんでした。
在聊到准备金时,我得知其中一人全都是靠自己工作赚的钱来筹措这笔经费的。他说不想动用父母给的钱。——我这才得知,自己在和一群好伙伴一同创业。由于此时心情平和,所以我并未因这位朋友的行为而太过责怪自己。
しばらくして私達はAの家を出ました。外は快い雨あがりでした。まだ宵の口17の町を私は友の一人と霊南坂を通って帰って来ました。私の処へ寄って本を借りて帰るというのです。ついでに七葉樹の花を見ると云います。この友一人がそれを見はぐしていたからです。
半晌过后,我们离开 A 的家。外头已经雨停,令人大感快意。我和一名友人走过刚入夜的市街,行经灵南坂,返回家中。他说要顺道去我的住处借本书,顺便看一眼七叶树花。因为就只有这位朋友没看过七叶树花。
道々私は唱いにくい音諧を大声で歌ってその友人にきかせました。それが歌えるのは私の気持のいい時に限るのです。我善坊の方へ来たとき私達は一つの面白い事件に打かりました。それは螢を捕まえた一人の男です。だしぬけに「これ螢ですか」と云って組合せた両の掌の隙を私達の鼻先に突出しました。螢がそのなかに美しい光を灯していました。「あそこで捕とったんだ」と聞きもしないのに説明しています。私と友は顔を見合せて変な笑顔になりました。やや遠離ってから私達はお互いに笑い合ったことです。「きっと捕まえてあがってしまったんだよ」と私は云いました。なにか云わずにはいられなかったのだと思いました。
一路上,我向友人朗声高歌,唱出难度颇高的音阶。只有在我心情好的时候才唱得出来。来到我善坊时,我们遇上一件有趣的事。有一名捕捉萤火虫的男子,他突然向我们问道 “这是萤火虫吗”,他双手紧贴,打开一点缝隙凑到我们面前。萤火虫在他掌中散发着美丽光芒。“我在那里抓到的。” 我们明明没问,他自己却说明起来。我和友人互望一眼,尴尬一笑。待略微远去后,我们这才笑了起来。“一定是抓到萤火虫,太激动了。” 我说。我想那个人一定是忍不住想说些什么。
飯倉の通りは雨後の美しさで輝いていました。友と共に見上げた七葉樹には飾燈のような美しい花が咲いていました。私はまた五六年前の自分を振返る気持でした。私の眼が自然の美しさに対して開き初めたのも丁度その頃からだと思いました。電燈の光が透いて見えるその葉うらの色は、私が夜になれば誘惑を感じた娘の家の近くの小公園にもあったのです。私はその娘の家のぐるりを歩いてはその下のベンチで休むのがきまりになっていました。
饭仓的马路,雨后的美景,光彩动人。我和友人一同仰望的七叶树上,绽放出像霓虹灯般美丽的花朵。此刻我又有一种感觉,像在回顾五六年前的我。我就是从那时候起,开始关注自然之美。在灯光的透射下看见的叶片底部颜色,在一名吸引我的年轻姑娘家附近的小公园也看得到。我固定会在那位姑娘家附近散步,然后在树下的长椅休息。
(私の美に対する情熱が娘に対する情熱と胎を共にした双生児だったことが確かに信じられる今、私は窃盗に近いこと詐欺に等しいことをまだ年少だった自分がその末犯したことを、あなたにうちあけて、あとで困るようなことはないと思います。それ等は実に今日まで私の思い出を曇らせる雲翳だったのです)
(此刻我深信我对美的热情,与对那姑娘的热情,就像是双胞胎一样,年纪轻轻的我,最后犯下近乎窃盗,等同诈欺的罪行,我在此向你坦承一切,日后才不会为此困扰。其实这一切正是过去一直令我的记忆为之模糊的云翳。)
街を走る電車はその晩電車固有の美しさで私の眼に映りました。雨後の空気のなかに窓を明け放ち、乗客も程よい電車の内部は、暗い路を通って来た私達の前を、あたかも幸福そのものが運ばれて其処にあるのだと思わせるような光で照されていました。乗っている女の人もただ往来からの一瞥で直ちに美しい人達のように思えました。何台もの電車を私達は見送りました。そのなかには美しい西洋人の姿も見えました。友もその晩は快かったにちがいありません。
行经街道的电车,以那天晚上电车固有的美映入我眼中。在雨后的空气下,车窗敞开,乘客人数适中的电车内部,处在明亮灯光的照耀下,给人一种把幸福送来,呈现在人们面前的联想,从昏暗道路走来的我们两人面前驶过。电车内的女人们,在马路上的匆匆一瞥下,个个看起来都美艳无比。我们目送好几辆电车驶过。还看到漂亮的洋人。那天晚上,友人一定也很开心。
「電車のなかでは顔が見難いが往来からだとかすれちがうときだとかは、かなり長い間見ていられるものだね」と云いました。なにげなく友の云った言葉に、私は前の日に無感覚だったことを美しい実感で思い直しました。
“在电车里要看对方的长相不容易,但如果是从马路上看,或是与对方擦身而过,就能长时间细看了。” 友人说。因为友人不经意的一句话,我改以美丽的真切感受去重新思考之前毫无感觉的种种。
五
これはあなたにこの手紙を書こうと思い立った日の出来事です。私は久し振りに手拭をさげて銭湯へ行きました。やはり雨後でした。垣根のきこくがぷんぷん快い匂いを放っていました。
这是我正好想写这封信给你的那天发生的事。那天我拎着手巾前往澡堂,已有好些时日没去了。刚好下过雨。围篱的枸橘散发浓郁的芳香。
銭湯のなかで私は時たま一緒になる老人とその孫らしい女の児とを見かけました。花月園へ連れて行ってやりたいような可愛い児です。その日私は湯槽の上にかかっているペンキの風景画を見ながら「温泉のつもりなんだな」という小さい発見をして微笑まされました。湯は温泉でそのうえ電気浴18という仕掛がしてあります。ひっそりした昼の湯槽には若い衆が二人入っていました。私がその中に混ってやや温まった頃その装置がビビビビビビと働きはじめました。
在澡堂里,我看到偶尔会一起来的老先生和像是他孙女的小女孩。那女孩很可爱,让人很想带她去花月园。那天,我望着挂在浴池上方的一幅风景油画,心想“我当自己在泡温泉呢”,得到这个小发现,忍不住嘴角轻扬。这里的热水是温泉水,而且设有名为电浴的装置。白天悄静的浴池里,只有两名年轻人。我混在他们当中,当身体泡暖和时,那个装置发出哔哔声,开始运作。
「おい動力来たね」と一人の若い衆が云いました。
“喂,动力来了。” 其中一名年轻人说。
「動力じゃねえよ」ともう一人が答えました。
“那才不是动力呢。” 另一名年轻人应道。
湯を出た私はその女の児の近くへ座を持ってゆきました。そして身体を洗いながらときどきその女の児の顔を見ました。可愛い顔をしていました。老人は自分を洗い終ると次にはその児にかかりました。幼い手つきで使っていた石鹸のついた手拭は老人にとりあげられました。老人の顔があちら向きになりましたので私は、自分の方へその子の目を誘うのを予期して、じっと女の児の顔を見ました。やがてその子の顔がこちらを向いたので私は微笑みかけました。然し女の児は笑って来ません。然し首を洗われる段になって、眼を向け難にくくなっても上眼を使って私を見ようとします。しまいには「ウウウ」と云いながらも私の作り笑顔に苦しい上眼を張ろうとします。そのウウウはなかなか可愛く見えました。
我走出浴池,坐到那女孩附近。我清洗身体,并不时望向那女孩。她有一张可爱的脸蛋。老先生自己洗完后,接着帮那女孩洗。女孩以稚嫩的动作使用沾有肥皂的手巾,这时毛巾被老先生一把拿走。老先生的脸望向另一边,于是我期待能将女孩的视线引往我这边,因而一直紧盯着她的脸瞧。不久,那女孩的脸转向我,我朝她微笑。但她没以笑容回我。等到老先生帮她洗头时,她很难维持望着我的姿势,但她还是想抬眼打量我。最后,她发出 “唔……” 的声音,很痛苦地抬眼望向我刻意摆出的笑脸。那 “唔唔” 的模样实在很可爱。
「サア」突然老人の何も知らない手がその子の首を俯向かせてしまいました。
“好了。” 毫不知情的老先生,突然按住女孩的脖子,要她低下头去。
しばらくしてその女の子の首は楽になりました。私はそれを待っていたのです。そして今度は滑稽な作り顔をして見せました。そして段々それをひどく歪めてゆきました。
过了一会儿,女孩的脖子才得以自由活动。我一直在等她。这次我朝她摆出一张滑稽的脸,然后逐渐做出扭曲的表情。
「おじいちゃん」女の子がとうとう物を云いました。私の顔を見ながらです。「これどこの人」「それゃあよそのおっちゃん」振向きもせず相変らずせっせと老人はその児を洗っていました。
“爷爷。” 女孩终于说话了,边说边望着我,“这个人是谁啊?” “是不认识的叔叔啊。” 老先生头也没回,一样动作利落地帮女孩洗清身体。
珍しく永い湯の後、私は全く伸々した気持で湯をあがりました。私は風呂のなかである一つの問題を考えてしまって気が軽く晴々していました。その問題というのはこうです。ある友人の腕の皮膚が不健康な皺を持っているのを、ある腕の太さ比べをしたとき私が指摘したことがありました。すると友人は「死んでやろうと思うときがときどきあるんだ」と激しく云いました。自分のどこかに醜いところが少しでもあれば我慢出来ないというのです。それは単なる皺でした。然し私の気がついたのはそれが一時的の皺ではないことでした。とにかく些細なことでした。然し私はそのときも自分のなにかがつかれたような気がしたのです。私は自分にもいつかそんなことを思ったときがあると思いました。確かにあったと思うのですが思い出せないのです。そしてその時は淋しい気がしました。風呂のなかでふと思い出したのはそれです。思い出して見れば確かに私にもありました。それは何歳位だったか覚えませんが、自分の顔の醜いことを知った頃です。もう一つは家に南京虫19が湧いた時です。家全体が焼いてしまいたくなるのです。も一つは新らしい筆記帳の使いはじめ字を書き損ねたときのことです。筆記帳を捨ててしまいたくなるのです。そんなことを思い出した末、私はその年少の友の反省の為に、大切に使われよく繕われた古い器具の奥床しさを折があれば云って見たいと思いました。ひびへ漆を入れた茶器を現に二人が讃めたことがあったのです。
难得这次泡这么久,我通体舒畅地走出浴池。我在泡澡时思考一个问题,觉得茅塞顿开。这个问题如下:有位朋友的手臂皮肤上出现不太健康的皱纹,某天我和他比较谁的手臂较粗壮时,我指出这个问题。结果这位朋友很激动地说 “我有时很想一死了之”。他还说,只要身上出现一丝丑态,他就无法忍受。那单纯就只是皱纹。但我发现的,并非暂时性的皱纹。总之,这只是细枝末节的小事。我当时却觉得像是心头被狠狠撞了一下。我也曾想过这种事。确实有过,但如今怎么也想不起来。而且当时心中备感落寞。我在浴池里突然想到的就是这件事。试着回想后发现,确实我也有这样的经历。虽然已不记得是几岁时发生的事,只知道那时候我第一次明白自己长得丑。另一次是发生在家中冒出许多床虱的时候。当时恨不得整个屋子烧掉算了。还有一次,是我开始使用一本全新的记事本,结果一开始字就没写好。我很想就此扔了那本记事本。想起这些往事后,为了能让那位年轻朋友反省,如果有机会,我想跟他谈谈人们对老旧器具用心修补和爱惜的这份高雅。事实上,朝裂痕处补漆的茶具,我们两人曾一同夸赞过。
紅潮した身体には細い血管までがうっすら膨れあがっていました。両腕を屈伸させてぐりぐりを二の腕や肩につけて見ました。鏡のなかの私は私自身よりも健康でした。私は顔を先程したようにおどけた表情で歪ませて見ました。
我泛起红潮的身躯,连微血管都微微鼓起。我伸屈双臂,让上臂和肩膀的肌肉隆起,揽镜自照。镜中的我,看起来比真实的我还要健康。我像刚才一样挤眉弄眼,做出逗趣的表情。
Hysterica Passio20 ――そう云って私はとうとう笑い出しました。
Hysterica Passio!——我如此说道,最后忍不住笑出声来。
一年中で私の最もいやな時期ももう過ぎようとしています。思い出してみれば、どうにも心の動きがつかなかったような日が多かったなかにも、南葵文庫21の庭で忍冬の高い香を知ったようなときもあります。霊南坂で鉄道草の香りから夏を越した秋がもう間近に来ているのだと思ったような晩もあります。妄想で自らを卑屈にすることなく、戦うべき相手とこそ戦いたい、そしてその後の調和にこそ安んじたいと願う私の気持をお伝えしたくこの筆をとりました。
一年当中,我最厌恶的时期即将过去。试着回想后,我发现在众多内心动向纷乱的岁月里,也会有像在南葵文库的庭院里了解忍冬那高雅芳香的日子,也有像在灵南坂透过铁道草的香气而得知夏去秋来的夜晚。我希望不再因妄想而让自己变得卑屈,想和应该对抗的对手奋战,想为日后的和谐生活感到满足,这是我此刻的心情,因而提笔写这封信与你分享。
――一九二五年十月――
Footnotes
-
アラ:[名]人の言動や作品のよくないところ ↩
-
シャアシャア:[副]あっさりしていてわだかまりのないさま ↩
-
鉄道草:主要指小蓬草,常生长于铁路边因此得名 ↩
-
機:[名]織物をつくる装置の総称 ↩
-
成心:[名]ある立場にとらわれた見方 ↩
-
秀:[名]槍・筆など、とがっている物の先の部分 ↩
-
もじもじ:[副](スル)遠慮や恥ずかしさなどのために、はっきりした態度がとれないさま ↩
-
尾籠:[名・形動]不潔であること ↩
-
松尾芭蕉的俳句 ↩
-
五:和后文的七是和歌的格律 ↩
-
巣立つ:[動タ五(四)]子供が親元を離れ、独立する。また、学校を卒業して社会に出る ↩
-
旗色:[名]ひろく物事のなりゆき、形勢をいう ↩
-
びりり:[副]しびれを感じるさま ↩
-
そっぽを向ける:正面から向き合わず、横の方を向く ↩
-
漲る:[動ラ五(四)]力や感情などがあふれるばかりにいっぱいになる ↩
-
マロニエ:七叶树的法语 ↩
-
宵の口:[名]日が暮れて夜になりはじめたばかりのころ ↩
-
電気浴:[名]浴槽に電極を装置し、人体に通電する電気療法 ↩
-
南京虫:[名]昆虫「床虱」の異名 ↩
-
出自《李尔王》:歇斯底里!沉下去吧,你这向上爬的悲哀!你的归宿原是在底层的泥土里!(Hysterica passio, down, thou climbing sorrow,Thy element’s below!) ↩
-
南葵文庫:1899 年,由纪州德川家的德川赖伦在东京麻布创立的私人图书馆 ↩