梶井基次郎: 筧の話

3310 words
17 minutes
梶井基次郎: 筧の話
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first published:『近代風景』1928年4月号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=6tMZjKYiyPA
desc: 在 “我“ 的散步小径上,当 “我” 侧耳倾听那根古老竹筒引水器的声响时,从中听见了一丝细微的流水声。那优美的声音,让 ”我“ 不由得思考起自己的宿命

私は散歩に出るのに二つの路を持っていた。一つはたにに沿った街道で、もう一つは街道の傍から渓に懸った吊橋つりばしを渡って入ってゆく山径だった。街道は展望を持っていたがそんな道の性質として気が散り易かった。それに比べて山径の方は陰気ではあったが心を静かにした。どちらへ出るかはその日その日の気持が決めた。

我出外散步有两条路可走。一条是沿着溪谷的街道,一条是从街道旁横跨溪谷的吊桥转进的山路。街道视野绝佳,但这种道路的特性容易令人分神。相较之下,山路虽然幽暗,但能让人保持心情平静。至于走哪条路,看当天的心情而定。

しかし、いま私の話は静かな山径の方をえらばなければならない。

不过,现在我要说的故事,非得选择这条宁静的山路不可。

吊橋を渡ったところから径は杉林のなかへ入ってゆく。杉のこずえが日をさえぎり、この径にはいつも冷たい湿っぽさがあった。ゴチック建築のなかを辿たどってゆくときのような、ひしひしと迫って来る静寂と孤独とが感じられた。私の眼はひとりでに下へ落ちた。径の傍らには種々の実生みしょう蘚苔せんたい羊歯しだの類がはえていた。この径ではそういった矮小わいしょうな自然がなんとなく親しく――彼らが陰湿な会話をはじめるお伽噺とぎばなしのなかでのように、眺められた。また径の縁には赤土の露出が雨滴にたたかれて、ちょうど風化作用に骨立った岩石そっくりの恰好になっているところがあった。その削り立った峰のいただきにはみな一つ宛小石が載っかっていた。ここへは、しかし、日がまったく射して来ないのではなかった。梢の隙間を洩れて来る日光が、径のそこここや杉の幹へ、蝋燭ろうそくで照らしたような弱い日なた丶丶を作っていた。歩いてゆく私の頭の影や肩先の影がそんななかへ現われては消えた。なかには「まさかこれまでが」と思うほど淡いのが草の葉などに染まっていた。試しに杖をあげて見るとささくれ丶丶丶丶までがはっきりと写った。

走过吊桥后,山路便一路通往杉林。杉木的树梢遮蔽了太阳,这条山路总是冰冷而潮湿。就像走在哥特式建筑中一样,会让人感觉寂静和孤独朝你直逼而来。我的目光很自然地落向地面。山路旁长着各种植物幼苗、苔藓、蕨类。走在这条山路上,这些矮小的植物让人觉得亲近——它们就像童话故事里的植物般,仿佛会就此展开窃窃私语,我静静注视着它们。此外,山路的边缘露出的红土,长期承受雨滴的敲打,有些地方看起来就像被风化从而变得凹凸嶙峋的岩石。那陡峭的峰顶全都顶着一块小石头。不过,阳光完全照不进这里。从树梢间洒落的阳光,在山路上以及杉树的树干上形成微弱的光照,就像烛光一般。走在其间,我的头和肩膀的影子时而显现,时而消失。当中有些影子极淡,甚至到令人觉得 “竟然淡到这种程度”,它们也都映在草叶上。我试着抬起手杖,发现连上头的毛边都清楚地映照出影子。

この径を知ってから間もなくの頃、ある期待のために心を緊張させながら、私はこの静けさのなかをことにしばしば歩いた。私が目ざしてゆくのは杉林の間からいつも氷室ひむろから来るような冷気が径へ通っているところだった。一本の古びたかけひがその奥の小暗いなかからおりて来ていた。耳を澄まして聴くと、かすかなせせらぎの音がそのなかにきこえた。私の期待はその水音だった。

自从知道这条山路后,因为心里抱着期待,我常会怀着紧张的心情走在这片宁静中。我要前往的那个地方,终年都会从杉林间传来宛如冰窖般的寒气,一路飘向山路。一根老旧的导水竹管,从林间幽暗的深处一路延伸而来。倘若竖耳细听,可以听到隐隐传来的涓涓水声。我期待听到的,就是那水声。

どうしたわけで私の心がそんなものにきつけられるのか。心がわけても静かだったある日、それを聞き澄ましていた私の耳がふとそのなかに不思議な魅惑がこもっているのを知ったのである。その後追いおいに気づいていったことなのであるが、この美しい水音を聴いていると、その辺りの風景のなかに変な錯誤が感じられて来るのであった。香もなく花も貧しいのぎ丶丶蘭らんがそのところどころに生えているばかりで、杉の根方はどこも暗く湿っぽかった。

为什么我的内心会深受这种东西吸引呢?在我内心出奇平静的一天,我仔细聆听那水声时,耳朵突然明白这当中暗藏着不可思议的诱惑。后来我陆续察觉,在我聆听这美丽的水声时,我逐渐从周遭的风景中感觉到了奇怪的谬误。这里到处长满了既没芳香,花朵也少得寒酸的芒兰,杉树底下阴暗又潮湿。

そして筧といえばやはりあたりと一帯の古び朽ちたものをその間に横たえているに過ぎないのだった。「そのなかからだ」と私の理性が信じていても、澄みとおった水音にしばらく耳を傾けていると、聴覚と視覚との統一はすぐばらばらになってしまって、変な錯誤の感じとともに、いぶかしい魅惑が私の心を充たして来るのだった。

而说到导水竹管,不过也只是横躺在这一带老旧腐朽的植物中。“声音就来自这里头”,尽管我的理性对此深信不疑,但当我细听那清澈透明的水声时,我的听觉和视觉马上各自为政,产生奇怪的错误感,同时那诡异的诱惑也逐渐盈满我心。

私はそれによく似た感情を、露草つゆくさの青い花を眼にするとき経験することがある。草叢くさむらの緑とまぎれやすいその青は不思議な惑わしを持っている。私はそれを、露草の花が青空や海と共通の色を持っているところから起る一種の錯覚だと快く信じているのであるが、見えない水音のかもし出す魅惑はそれにどこかかよっていた。

以前我看到鸭跖草的蓝色花朵时,也曾体验过类似的情感。那容易与草丛的绿意混杂在一起的蓝,带给人一种不可思议的混淆。我相信是因为鸭跖草的花朵与蓝天和大海拥有共通的颜色,所以才会引发错觉,不过,这看不见的水声所营造出的诱惑,也与其有相似之处。

すばしこく枝移りする小鳥のような不定さは私をいらだたせた。蜃気楼のようなはかなさは私を切なくした。そして深祕はだんだん深まってゆくのだった。私に課せられている暗鬱な周囲のなかで、やがてそれは幻聴のように鳴りはじめた。つかの間の閃光せんこうが私の生命を輝かす。そのたび私はあっあっと思った。それは、しかし、無限の生命に眩惑げんわくされるためではなかった。私は深い絶望をまのあたりに見なければならなかったのである。何という錯誤だろう! 私は物体が二つに見える酔っ払いのように、同じ現実から二つの表象を見なければならなかったのだ。しかもその一方は理想の光に輝かされ、もう一方は暗黒の絶望を背負っていた。そしてそれらは私がはっきりと見ようとする途端一つに重なって、またもとの退屈な現実に帰ってしまうのだった。

我不安定的心,犹如利落地在枝头间穿梭的小鸟,令我倍感焦躁。那宛如海市蜃楼的虚幻,令我感到苦闷。而眼前的神秘愈来愈深。周遭忧郁的一切加诸我身上,接着它开始像幻听一样发出叫声。那短暂的闪光,照亮了我的生命。每次我都惊呼连连。但并非是因为无限的生命而感到眩惑。我必须正视眼前深沉的绝望。这是多么严重的错误啊!我就像把眼前的东西看成两个影像的醉汉,必须从同样的现实中看出两个表象。而且其中一方被理想的光芒照亮,另一方则背负着黑暗的绝望。当我想要看清楚它们时,它们又重叠在一起,回归为原本无趣的现实。

かけひは雨がしばらく降らないと水が涸かれてしまう。また私の耳も日によってはまるっきり無感覚のことがあった。そして花の盛りが過ぎてゆくのと同じように、いつの頃からか筧にはその深祕がなくなってしまい、私ももうその傍にたたずむことをしなくなった。しかし私はこの山径を散歩しそこを通りかかるたびに自分の宿命について次のようなことを考えないではいられなかった。

如果有一阵子没下雨,导水竹管里的水就会干涸。我的耳朵也会随着日子的不同发生变化,有时毫无感觉。就像花季过了一样,不知从什么时候开始,导水竹管已不再神秘,我也已不会在它旁边驻足逗留。但每次在这条山路上散步,路过那里时,我总还是不免会思考起自己的宿命。

「課せられているのは永遠の退屈だ。生の幻影は絶望と重なっている」

“加诸我身上的,是永远的无趣。生命的幻影,与绝望相叠。”

一九二八年四月

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永雏多氢菲
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