梶井基次郎: 泥濘

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梶井基次郎: 泥濘
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first published:『青空』 1925年7月・通巻5号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=ETGvrglNq9s
desc: 拼尽全力写下的东西,却以一种病态的方式宣告失败,于是无论做什么都精神恍惚。令人不快的妄想会突然涌上心头,到最后甚至变得疑神疑鬼。这是一个将目之所及的一切都强行纳入自我意识之中的男人的悲剧

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それはある日の事だった。――

那是某天发生的事——

待っていた為替かわせが家から届いたので、それを金に替えかたがた本郷へ出ることにした。

等候已久的支票已从家中寄达,我决定把它换成现金,顺便去本乡一趟。

雪の降ったあとで郊外に住んでいる自分にはその雪解けが億劫なのであったが、金は待っていた金なのでかまわずに出かけることにした。

下过雪后,融雪对住郊外的我来说是一件麻烦事,但这笔钱我期盼已久,所以顾不得麻烦,还是决定出门一趟。

それより前、自分はかなり根をつめて書いたものを失敗に終わらしていた。失敗はとにかくとして、その失敗の仕方の変に病的だったことがその後の生活にまでよくない影響を与えていた。そんな訳で自分は何かに気持の転換を求めていた。金がなくなっていたので出歩くにも出歩けなかった。そこへ家から送ってくれた為替にどうしたことか不備なところがあって、それを送り返し、自分はなおさら不愉快になって、四日ほど待っていたのだった。その日に着いた為替はその二度目の為替であった。

在那之前,我呕心沥血写出的作品,最后以失败告终。失败一事姑且不谈,但是那失败的方式极其病态,甚至会对我往后的生活带来不良影响,因此我想转换心情。身无分文,就算想出去散心也寸步难行。这时家里寄来支票,但不知为何,支票有瑕疵,只得将它寄回,这更令我心里不痛快,就这样又多等了四天左右。这天寄来的支票,是第二张支票。

書く方を放棄してから一週間余りにもなっていただろうか。その間に自分の生活はまるで気力の抜けた平衡を失したものに変わっていた。先ほども言ったように失敗が既にどこか病気染みたところを持っていた。書く気持がぐらついて1来たのがその最初で、そうこうするうちに頭に浮かぶことがそれを書きつけようとする瞬間に変に憶い出せなくなって来たりした。読み返しては訂正していたのが、それもできなくなってしまった。どう直せばいいのか、書きはじめの気持そのものが自分にはどうにも思い出せなくなっていたのである。こんなことにかかりあっていてはよくないなと、薄うす自分は思いはじめた。しかし自分は執念深くやめなかった。また止まらなかった。

放弃写作,已经一个礼拜有余。这段时间我的生活泄了气,彻底失去平衡。就像我刚才说的,我的失败已感染了某种病态。我写作的决心开始动摇,这是一切的开端,接着,当我想将浮现脑中的想法写下时,却偏偏怎么也想不起来。之前我会回头重看,加以修正,现在连这点也办不到了。一开始提笔创作的初衷为何,我怎么也想不起来,使得我不知该如何修改。我开始觉得,老挂念着这种事有害无益。但我执念太深,就是无法罢手,想停也停不下来。

やめた後の状態は果してわるかった。自分はぼんやりしてしまっていた。その不活溌な状態は平常経験するそれ以上にどこか変なところのある状態だった。花が枯れて水が腐ってしまっている花瓶が不愉快で堪らなくなっていても始末するのが億劫で手の出ないときがある。見るたびに不愉快が増して行ってもその不愉快がどうしても始末しようという気持に転じて行かないときがある。それは億劫というよりもなにかに魅せられている気持である。自分は自分の不活溌のどこかにそんな匂いをいだ。

停笔后的状况确实很糟。我整天发愣。那死气沉沉的状态,比平时的经历还要糟糕,是一种不太正常的状态。有时就算花朵枯萎,花瓶里的水发臭,让我觉得很不舒服,我还是懒,迟迟不肯动手整理。尽管每看一次,心中的不悦就增加一分,但我就是无法转为积极的心态,去着手处理。与其说是嫌麻烦,不如说是某个东西令我深感着迷。我从自己的死气沉沉中,嗅闻出这样的气味。

なにかをやりはじめてもその途中できまって自分はぼんやりしてしまった。気がついてやりかけの事に手は帰っても、一度ぼんやりしたところを覗いて来た自分の気持は、もうそれに対して妙に空ぞらしくなってしまっているのだった。何をやりはじめてもそういうふうに中途半端中途半端が続くようになって来た。またそれが重なってくるにつれてひとりでに生活の大勢が極ったように中途半端を並べた。そんなふうで、自分は動き出すことの禁ぜられた沼のようによどんだところをどうしても出切ってしまうことができなかった。そこへ沼の底から湧いて来る沼気メタンのようなやつがいる。いやな妄想がそれだ。肉親に不吉がありそうな、友達に裏切られているような妄想が不意に頭をもたげる2

不管着手做什么事,来到半途我一定会发愣。即使我回过神来,重新回到做一半的工作上,但只要一窥见自己发愣的模样后,心情就变得莫名空虚。不管做什么事,最后都像这样虎头蛇尾。随着这种情况一再累积,自然而然地,我的生活几乎都固定是这种虎头蛇尾的模式。就这样,我像深陷在能封住一切行动的泥沼里般,怎么也无法从中脱困。这时,还有从泥沼底端涌出的沼气。它正是那些惹人厌的妄想。例如亲人遭遇不祥事件、遭朋友背叛之类的妄想,突然涌上心头。

ちょうどその時分は火事の多い時節であった。習慣で自分はよく近くの野原を散歩する。新しい家の普請ふしん3が到るところにあった。自分はその辺りに転っている鉋屑かんなくず4を見、そして自分があまり注意もせずに煙草の吸殻を捨てるのに気がつき、危いぞと思った。そんなことが頭に残っていたからであろう、近くに二度ほど火事があった、そのたびに漠とした、捕縛ほばくされそうな不安に襲われた。「この辺を散歩していたろう」と言われ、「お前の捨てた煙草からだ」と言われたら、なんとも抗弁する余地がないような気がした。また電報配達夫の走っているのを見ると不愉快になった。妄想は自分を弱くみじめにした。愚にもつかないことで本当に弱くみじめになってゆく。そう思うと堪らない気がした。

刚好那时正值火灾频传的时节。依照习惯,我常到附近的原野散步。施工中的新屋随处可见。我看到随地弃置的刨木屑,并发现自己不注意随手丢弃的烟蒂,心中暗呼危险。可能是这件事一直在我脑中挥之不去的缘故吧,这附近两度发生火灾,每次都隐隐有股不安向我袭来,害怕自己会被拘捕。我觉得,要是有人对我说 “你在这一带散步对吧”​,或是 “都是因为你乱丢烟蒂”​,我将完全没有辩驳的余地。此外,每次看到送电报的人跑过,我心里就觉得不舒服。妄想让我变得脆弱又可悲。因为这么点蠢事,而真的让自己逐渐变得脆弱又可悲。想到这里,心里无比难受。

何をする気にもならない自分はよくぼんやり鏡や薔薇の描いてある陶器の水差し5に見入っていた。心の休み場所――とは感じないまでも何か心の休まっている瞬間をそこに見いだすことがあった。以前自分はよく野原などでこんな気持を経験したことがある。それはごくほのかな気持ではあったが、風に吹かれている草などを見つめているうちに、いつか自分のうちにもちょうどその草の葉のように揺れているもののあるのを感じる。それは定かなものではなかった。かすかな気配ではあったが、しかし不思議にも秋風に吹かれてさわさわ揺れている草自身の感覚というようなものを感じるのであった。酔わされたような気持で、そのあとはいつも心が清すがしいものに変わっていた。

不管做什么都提不起劲儿的我,常望着镜子或画有玫瑰的陶瓷水瓶发呆。虽然不觉得这是能让我心灵放松的方式,但我倒是能从中得到让心灵放松的短暂片刻。以前我常在原野上体验到这种感觉。虽然只有些许的感觉,但望着随风摆荡的青草,不知不觉间,我感觉自己体内也有个东西像草叶一样摆荡。那不是什么明确之物。虽然只是很细微的感觉,但说来也真不可思议,我感受到青草在秋风吹拂下摇曳的感觉。那是一种心荡神迷之感,之后我变得清心豁达。

鏡や水差しに対している自分は自然そんな経験を思い出した。あんな風に気持が転換できるといいなど思って熱心になることもあった。しかしそんなことを思う思わないに拘らず自分はよくそんなものに見入ってぼんやりしていた。冷い白い肌に一点、電燈の像を宿している可愛い水差しは、なにをする気にもならない自分にとって実際変な魅力を持っていた。二時三時が打っても自分は寝なかった。

我面对镜子或水瓶时,很自然地忆起这样的经历。有时我会心想,要是能像那样转换心情就好了,就此变得热衷起来。但不管我会不会想到那件事,我仍旧常会望着这些东西发呆。电灯的光影凝缩成一小点,栖宿在冷冽白净的瓶身上,如此可爱的水瓶,对做什么都提不起劲儿的我来说,拥有诡奇的魅力。尽管已是深夜两三点,我仍旧没睡。

おそく鏡を覗くのは時によっては非常に怖ろしいものである。自分の顔がまるで知らない人の顔のように見えて来たり、眼が疲れて来る故か、じーっと見ているうちに醜悪な伎楽ぎがくの腫れおもてという面そっくりに見えて来たりする。さーっと鏡の中の顔が消えて、あぶり出し6のようにまた現われたりする。片方の眼だけが出て来てしばらくの間それに睨まれていることもある。しかし恐怖というようなものもある程度自分で出したり引込めたりできる性質のものである。子供が浪打際なみうちぎわで寄せたり退いたりしている浪に追いつ追われつしながら遊ぶように、自分は鏡のなかの伎楽の面を恐れながらもそれと遊びたい興味に駆られた。

在夜阑人静时看镜子,有时相当骇人。我的脸看起来就像是陌生人,或者是因为眼睛疲劳的缘故,一直盯着自己看,愈看愈像伎乐里头五官浮肿的丑陋面具。有时镜中的脸会倏然消失,然后像烤火浮现的文字一样再度冒出。有时只会出现单边眼睛,朝我瞪视良久。不过恐惧这种东西,在某种程度下具有能由我自由收放控制的特性。就像小孩子在岸边面对潮来潮往,时而追逐浪花,时而被浪花追着跑,以此嬉戏般,我面对镜中的伎乐面具,虽然心里害怕,但想和它玩乐的兴致仍旧驱策着我。

自分の動かない気持は、しかしそのままであった。鏡を見たり水差しを見たりするときに感じる、変に不思議なところへ運ばれて来たような気持は、却って淀んだ気持と悪く絡まったようであった。そんなことがなくてさえ昼頃まで夢をたくさん見ながら寝ている自分には、見た夢と現実とが時どき分明しなくなる悪く疲れた午後の日中があった。自分はいつか自分の経験している世界を怪しいと感じる瞬間を持つようになって行った。町を歩いていても自分の姿を見た人が「あんな奴が来た」と言って逃げてゆくのじゃないかなど思ってびっくりするときがあった。顔を伏せている子守娘が今度こちらを向くときにはお化けのような顔になっているのじゃないかなど思うときがあった。――しかし待っていた為替はとうとう来た。自分は雪の積った道を久し振りで省線電車の方へ向った。

不过,我不为所动的心境依旧。在望着镜子或水瓶时,那种被送往奇妙境地的感觉,反而会与我死气沉沉的心情紧紧纠缠。就连没发生这种情况时,我也会一觉到中午,不断做梦,时常无法区分梦境与现实,使得整个下午疲惫不堪。不知不觉间,我开始对自己所经历的这个世界感到怀疑。有时走在街上我会想,看到我的人该不会说一句“那家伙来了”​,而转头就跑吧?心中对此暗暗吃惊。有时则会想,那位低着头帮人照顾小孩的女孩,转头望向我时,该不会变成一张妖怪的脸吧?——不过,我等候多时的支票终于来了。时隔多日,我再次走在积着厚厚一层雪的马路上,朝省线电车的方向而去。

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お茶の水から本郷へ出るまでの間に人が三人まで雪ですべった。銀行へ着いた時分には自分もかなり不機嫌になってしまっていた。赤く焼けている瓦斯ガス煖炉だんろの上へ濡れて重くなった下駄をやりながら自分は係りが名前を呼ぶのを待っていた。自分の前に店の小僧さんが一人差向かいの位置にいた。下駄をひいてからしばらくして自分は何とはなしにその小僧さんが自分を見ているなと思った。雪と一緒に持ち込まれた泥で汚れている床を見ているこちらの目が妙にうろたえた7。独り相撲だと思いながらも自分は仮想した小僧さんの視線に縛られたようになった。自分はそんなときよく顔の赧くなる自分の癖を思い出した。もう少し赧くなっているんじゃないか。思う尻から自分は顔が熱くなって来たのを感じた。

从御茶之水到本乡的这段路上,有三人在雪地上滑倒。抵达银行时,连我也觉得不高兴。我一面将因湿透而变得沉重的木屐放在烧得火红的瓦斯壁炉上烤干,一面等候办事员叫我名字。有名店内的童工站在我对面。我脱下木屐后,总觉得他老盯着我瞧。我一直望着被冰雪和泥巴弄脏的地板,此时我的眼神显得莫名恐慌。尽管我告诉自己,是我自己在胡思乱想,但我还是被假想中的这名童工投射的视线紧紧束缚。这种时候我常会脸红,我猛然想起这个老毛病。我该不会已经微微脸红了吧?才刚这么想,便感觉到脸颊发烫。

係りは自分の名前をなかなか呼ばなかった。少し愚図ぐず過ぎた。小切手を渡した係りの前へ二度ばかりも示威じい運動をしに行った。とうとうしまいに自分は係りに口を利いた。小切手は中途の係りがぼんやりしていたのだった。

办事员迟迟没叫我名字。未免也太慢吞吞了吧。我两度来到我递交支票的那位办事员面前,向他示威。最后我终于开口向那位办事员问话。原来支票来到中途经手的办事员手上后,他一直在发呆。

出て正門前の方へゆく。多分行き倒れか転んで気絶をしたかした若い女の人を二人の巡査が左右から腕を抱えて連れてゆく。往来の人が立留って見ていた。自分はその足で散髪屋さんぱつやへ入った。散髪屋は釜を壊していた。自分が洗ってくれと言ったので石鹸で洗っておきながら濡れた手拭で拭くだけのことしかしない。これが新式なのでもあるまいと思ったが、口が妙に重くて言わないでいた。しかし石鹸の残っている気持悪さを思うと堪らない気になった。訊ねて見ると釜を壊したのだという。そして濡れたタオルを繰り返した。金を払って帽子をうけとるとき触って見るとやはり石鹸が残っている。なんとか言ってやらないと馬鹿に思われるような気がしたが止めて外へ出る。せっかく気持よくなりかけていたものをと思うと妙に腹が立った。友人の下宿へ行って石鹸は洗いおとした。それからしばらく雑談した。

我离开来到正门前。一名年轻女子不知道是病倒在路旁,还是跌倒昏厥,只见两名巡警一左一右扶着她走。来往行人皆驻足观看。我直接走进一家理发店。理发店的炉灶坏了。我要店员帮我洗头,他先用肥皂帮我洗头,接着就只用濡湿的手巾擦了几下。我心想,这应该不是新式的洗头法吧,但我终究还是不敢开口问。不过,想到肥皂泡在头上残留的不舒服感,就令人难以忍受。于是我开口询问,他这才告诉我炉灶坏了。接着又用濡湿的毛巾反复擦拭。我付完钱,接过帽子时,伸手往头上一摸,果然还有不少肥皂泡残留。我觉得自己要是不说他几句,可就被他瞧扁了,但最后还是作罢,走出店外。难得我心情已开始好转,却遇上这种事,想到就火冒三丈。我前往朋友的住处,洗去头上残留的肥皂泡。接着和朋友闲聊起来。

自分は話をしているうちに友人の顔が変に遠どおしく感ぜられて来た。また自分の話が自分の思う甲所かんどころ8をちっとも言っていないように思えてきた。相手が何かいつもの友人ではないような気にもなる。相手は自分の少し変なことを感じているに違いないとも思う。不親切ではないがそのことを言うのが彼自身怖ろしいので言えずにいるのじゃないかなど思う。しかし、自分はどこか変じゃないか? などこちらから聞けない気がした。「そう言えば変だ」など言われる怖ろしさよりも、変じゃないかと自分から言ってしまえば自分で自分の変な所を承認したことになる。承認してしまえばなにもかもおしまいだ。そんな怖ろしさがあったのだった。そんなことを思いながらしかし自分の口は喋っているのだった。

聊着聊着,我莫名觉得朋友的表情变得很疏远。感觉我说的话完全没表达出我心中真正所想的重点。同时也觉得眼前这个人不像是我认识的朋友。他一定也觉得我有点古怪。我想,他并非对我冷淡,而是他自己也害怕提到这件事,所以才把话憋在心里吧。但我也觉得自己没办法主动问他 “我是不是有点古怪”​。与其说我怕他回我一句 “经你这么一说,确实古怪”​,倒不如说,我怕自己一旦开口说“我是不是有点古怪”​,便是承认了自己不太正常。一旦承认就完了。就是这点可怕。尽管心里想着这件事,但我还是说个不停。

「引込んでいるのがいけないんだよ。もっと出て来るようにしたらいいんだ」玄関まで送って来た友人はそんなことを言った。自分はなにかそれについても言いたいような気がしたがうなずいたままで外へ出た。苦役くえきを果した後のような気持であった。

“老窝在家里不好。你应该多出来走走。​” 朋友送我来到门口,如此说道。我觉得自己似乎想说些什么,但最后就只是点点头,走出屋外。心情就像刚服完刑期般。

町にはまだ雪がちらついていた。古本屋を歩く。買いたいものがあっても金に不自由していた自分は妙に吝嗇けちになっていて買い切れなかった。「これを買うくらいなら先刻のを買う」次の本屋へ行っては先刻の本屋で買わなかったことを後悔した。そんなことを繰り返しているうちに自分はかなり参って来た。郵便局で葉書を買って、家へ金の礼と友達へ無沙汰の詫を書く。机の前ではどうしても書けなかったのが割合すらすら書けた。

街上仍细雪纷飞。我走过一家旧书店。虽有想买的东西,但我现在手头紧,人也变得特别小气,买不下手。​“如果要买这本书,还不如买刚才那本。​”来到第二家书店后,我对没在刚才那家书店买感到后悔。这种情况一再反复,令我渐感吃不消。我在邮局买了明信片,写下对家人寄钱来的感谢以及久未向朋友问候的歉意。原本坐在书桌前怎么也写不出来,现在倒是写得流畅无比。

古本屋と思って入った本屋は新しい本ばかりの店であった。店に誰もいなかったのが自分の足音で一人奥から出て来た。仕方なしに一番安い文芸雑誌を買う。なにか買って帰らないと今夜が堪らないと思う。その堪らなさが妙に誇大されて感じられる。誇大だとは思っても、そう思って抜けられる気持ではなかった。先刻の古本屋へまた逆に歩いて行った。やはり買えなかった。吝嗇臭いぞと思ってみてもどうしても買えなかった。雪がせわしく降り出したので出張りを片付けている最後の本屋へ、先刻値を聞いて止した古雑誌を今度はどうしても買おうと決心して自分は入って行った。とっつきの店のそれもとっつき9に値を聞いた古雑誌、それが結局は最後の選択になったかと思うと馬鹿気た気になった。他所の小僧が雪を投げつけに来るのでその店の小僧はその方へ気をとられていた。覚えておいたはずの場所にそれが見つからないので、まさか店を間違えたのでもなかろうがと思って不安になってその小僧にきいてみた。

我走进一家书店,本以为是间旧书店,但没想到里头摆的全是新书。店里空无一人,有个人听到我的脚步声后,从店内走来。不得已,只好买店内最便宜的文艺杂志了。要是没买点什么回去,感觉今晚会很难熬。这份难熬,感觉莫名地被夸大。虽然觉得夸大,但就是无法从这样的情绪中摆脱。我再度反向朝先前那家旧书店走去。我还是买不下手。尽管觉得自己很寒酸,但最终还是舍不得买。天空开始飘下大雪,我前往结束这趟外出旅程的最后一家书店,刚才问过价格但最后没买成的二手杂志,这次无论如何也要买下,我就此下定决心,走进店内。一开始的店家,而且是一开始问价格的二手杂志,难道这就是我最后的选择吗?一想到这里,便觉得自己有点蠢。其他店里的童工跑来这里丢雪球,这家店的童工被对方吸引。在我印象中的位置没那本杂志,我担心是自己搞错了店家,因而向那名童工询问。

「お忘れ物ですか。そんなものはありませんでしたよ」言いながら小僧は他所のをやっつけに行こう行こうとしてうわの空になっている。しかしそれはどうしても見つからなかった。さすがの自分も参っていた。足袋を一足買ってお茶の水へ急いだ。もう夜になっていた。

“您忘了东西吗?我们店里没捡到失物哦。​” 童工如此应道,显得心不在焉。但那本杂志我就是遍寻不着。连我也觉得伤透脑筋。最后我买了一双分趾鞋袜,赶往御茶水。当时已经入夜。

お茶の水では定期を買った。これから毎日学校へ出るとして一日往復いくらになるか電車のなかで暗算をする。何度やってもしくじった。その度たびに買うのと同じという答えが出たりする。有楽町で途中下車して銀座へ出、茶や砂糖、パン、牛酪バターなどを買った。人通りが少い。ここでも三四人の店員が雪投げをしていた。堅そうで痛そうであった。自分は変に不愉快に思った。疲れ切ってもいた。一つには今日の失敗しくじり方が余りひど過ぎたので、自分は反抗的にもなってしまっていた。八銭のパン一つ買って十銭で釣銭を取ったりなどしてしきりになにかに反抗の気を見せつけていた。聞いたものがなかったりすると妙に殺気立った。

我在御茶水买了定期车票。在电车里暗自计算,今后要是每天到学校,一天往返需要多少车资。但算了好几遍都算不出结果。甚至算出的答案和每次单独买的价钱一样。我中途在有乐町站下车,前往银座,买了茶、砂糖、面包、奶油等物品。路上行人稀少。这里也有三四名店员在打雪仗。感觉打起来又硬又疼。我莫名感到不悦,同时浑身疲惫。一是因为今天我一再搞砸,所以我起了反抗心态。买一个八钱的面包,刻意付十钱要对方找零,频频展现反抗的态度。如果店里没有我询问的东西,我就显得怒气冲冲。

ライオンへ入って食事をする。身体を温めて麦酒ビールを飲んだ。混合酒カクテルを作っているのを見ている。種々な酒を一つの器へ入れて蓋をして振っている。はじめは振っているがしまいには器に振られているような恰好をする。洋盃グラスへついで果物をあしらい盆にのせる。その正確な敏捷びんしょうさは見ていておもしろかった。

接着我走进狮子餐厅用餐。我喝了杯啤酒暖身。看酒保调配鸡尾酒。他将各种酒类放进同一个容器里,盖上盖子摇晃。一开始是摇晃,但最后看起来像是容器在晃人。把酒倒入玻璃杯后,搭上水果,就此摆在托盘上。看他那准确而敏捷的动作,颇有意思。

「お前達は並んでアラビア兵のようだ」

“你们排成一列,好像阿拉伯士兵呢。​”

「そや、バグダッドの祭のようだ」

“没错,就像巴格达庆典一样。​”

「腹が第一滅っていたんだな」

“会先肚子饿吧。​”

ずらっと並んだ洋酒の壜を見ながら自分は少し麦酒の酔いを覚えていた。

望着排成一列的洋酒瓶,我微微感觉到啤酒带来的醉意。

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ライオンを出てからは唐物屋で石鹸を買った。ちぐはぐな気持はまたいつの間にか自分に帰っていた。石鹸を買ってしまって自分は、なにか今のは変だと思いはじめた。瞭然はっきりした買いたさを自分が感じていたのかどうか、自分にはどうも思い出せなかった。宙を踏んでいるようにたよりない気持であった。

步出狮子餐厅后,我在中国商品店买了肥皂。那种不协调的感觉不知不觉间又回到我身上。买好肥皂后,我开始觉得自己有点古怪。我是否清楚感觉到自己有想买的意愿,连我自己也想不起来。就像在空中漫步一样,感觉很不踏实。

「ゆめうつつでってるからじゃ」

“这是因为你做事心不在焉。​”

過失などをしたとき母からよくそう言われた。その言葉が思いがけず自分の今為たことのなかにあると思った。石鹸は自分にとって途方もなく高価い石鹸であった。自分は母のことを思った。

每当犯错时,母亲总会这样对我说。这句话意外存在于我刚才做的事当中。对我来说,那是贵得离谱的肥皂。我想起了母亲。

奎吉けいきち……奎吉!」自分は自分の名を呼んで見た。悲しい顔付をした母の顔が自分の脳裡にはっきり映った。

“奎吉……奎吉!”我试着呼唤自己的名字。母亲那悲伤的容颜,清楚地浮现在我脑海。

――三年ほど前自分はある夜酒に酔って家へ帰ったことがあった。自分はまるで前後のわきまえをなくしていた。友達が連れて帰ってくれたのだったが、その友達の話によると随分非道かったということで、自分はその時の母の気持を思って見るたびいつも黯然あんぜんとなった。友達はあとでその時母が自分を叱った言葉だと言って母の調子を真似てその言葉を自分にきかせた。それは母の声そっくりと言いたいほど上手に模してあった。単なる言葉だけでも充分自分は参っているところであった。友人の再現して見せたその調子は自分を泣かすだ。

——约莫三年前的某个夜里,我喝醉酒返家。我醉得不省人事。是朋友送我回家的,但是听朋友说,我当时醉得很严重,想到母亲当时的心情,每次看到她我总会心中黯然。日后朋友对我说 “你妈当时是这样骂你的”​,模仿母亲的口吻道出当时她说的话。他模仿得惟妙惟肖,几乎跟母亲的声音一模一样。光是母亲讲的那番话,就已经够让我无地自容了。我朋友还重现当时的情景,模仿母亲的口吻,几乎都快把我逼哭了。

模倣というものはおかしいものである。友人の模倣を今度は自分が模倣した。自分に最も近い人の口調はかえって他所から教えられた。自分はその後に続く言葉を言わないでもただ奎吉と言っただけでその時の母の気持を生きいきと蘇えらすことができるようになった。どんな手段によるよりも「奎吉!」と一度声に出すことは最も直接であった。眼の前へ浮んで来る母の顔に自分は責められ励まされた。――

模仿这种事真的很滑稽。朋友当时模仿的动作,这次换我模仿。明明是和我最亲近的人说话的口吻,我却是从别人口中听到。尽管我当时无言以对,但现在我光是喊 “奎吉”​,便能清楚重现母亲当时的心情。喊一声 “奎吉”​,比任何手段都要直接。浮现眼前的母亲容颜,带给我责备和勉励。

空は晴れて月が出ていた。尾張町から有楽町へゆく鋪道の上で自分は「奎吉!」を繰り返した。

天空放晴,月亮露脸。在尾张町到有乐町的这段柏油路上,我不断呼喊着 “奎吉”​。

自分はぞーっとした。「奎吉」という声に呼び出されて来る母の顔付がいつか異うものに代っていた。不吉を司る者――そう言ったものが自分に呼びかけているのであった。聞きたくない声を聞いた。……

我感到毛骨悚然。被 “奎吉” 这声呼唤引来的母亲面容,不知何时变成了另一个样貌。那是世间一切不吉之事的掌管者——是这样的人在呼唤我。我听到那不想听的声音……

有楽町から自分の駅まではかなりの時間がかかる。駅を下りてからも十分の余はかかった。夜の更けた切り通し坂を自分はまるで疲れ切って歩いていた。はかまさばける音が変に耳についた。坂の中途に反射鏡のついた照明燈が道を照している。それを背にうけて自分の影がくっきり長く地を這っていた。マントの下に買物の包みを抱えて少し膨れた自分の影を両側の街燈が次には交互にそれを映し出した。後ろから起って来て前へ廻り、伸びて行って家の戸へ頭がひょっくり もちあがったりする。あわただしい影の変化を追っているうちに自分の眼はそのなかでもちっとも変化しない影を一つ見つけた。極く丈の詰った影で、街燈が間遠になると鮮かさを増し、片方が幅を利かし出すとひそまってしまう。「月の影だな」と自分は思った。見上げると十六日十七日と思える月が真上を少し外れたところにかかっていた。自分は何ということなしにその影だけが親しいものに思えた。

从有乐町到我住处附近的车站,得花不少时间。走出车站后,还得走上十多分钟的路程。夜阑时分,我精疲力竭地走在坡道上。裙裤的摩擦声怪异地在耳畔响起。坡道的半途上,反射镜反射的照明灯照向路面。我背对灯光,长长的影子清楚地在地上爬行。我在斗篷底下抱着购物用的包袱,两旁的路灯交互映照出我那略显鼓胀的身影。影子从我身后冒出,绕往前方,一路延伸,在家门前抬起头来。追逐影子匆忙的变化时,我从中发现一个毫无变化的影子。那是个很短小的影子,当路灯远离时,就显得清晰鲜明,而当某一边的路灯变亮,它就随之隐遁。​“应该是月影吧。​”我心想。抬头一看,那像是十六日或十七日的明月,高挂在趋近头顶正上方的位置。不知为何,那影子令人备感亲近。

大きな通りを外れて街燈の疎らな路へ出る。月光は初めてその深祕さで雪の積った風景を照していた。美しかった。自分は自分の気持がかなりまとまっていたのを知り、それ以上まとまってゆくのを感じた。自分の影は左側から右側に移しただけでやはり自分の前にあった。そして今は乱されず、鮮かであった。先刻自分に起ったどことなく親しい気持を「どうしてなんだろう」と怪しみ慕しみながら自分は歩いていた。型のくずれた中折を冠り少しひよわな感じのする頚から少しいかった肩のあたり、自分は見ているうちにだんだんこちらの自分を失って行った。

我离开大马路,来到路灯稀疏的路上。月光首次以它的神秘照亮这片积雪的景致。美得令人赞叹。我明白自己的心情已平静许多,并感觉到它持续保持稳定。我的影子就只是从左侧移往右侧,一直都在我前方。而它现在无比鲜明,没半点紊乱。​“那是怎么回事?​”我纳闷刚才心中莫名产生的亲近感,同时又感到怀念,就此迈步前行。从戴着外形变样的费多拉帽,感觉有点瘦弱的脖子,一直到略微外张的肩膀,我望着眼前的影子,逐渐失去自我。

影の中に生き物らしい気配があらわれて来た。何を思っているのか確かに何かを思っている――影だと思っていたものは、それは、なまなましい自分であった!

影子中出现一股生物般的气息。我在想什么?我此刻确实想到了什么。——我认为是影子的那个东西,正是活生生的我!

自分が歩いてゆく! そしてこちらの自分は月のような位置からその自分を眺めている。地面はなにか玻璃はりを張ったような透明で、自分は軽い眩暈を感じる。

我一路往前走!而人在这一侧的我,正置身在宛如月亮的位置,望着另一个我。地面像铺了玻璃般透明,我微感晕眩。

「あれはどこへ歩いてゆくのだろう」と漠とした不安が自分に起りはじめた。……

“他要走去哪儿呢?​”我心中隐隐感到不安……

路に沿うた竹藪たけやぶの前の小溝こみぞへは銭湯で落す湯が流れて来ている。湯気が屏風びょうぶのように立騰たちのぼっていて匂いが鼻をった――自分はしみじみした自分に帰っていた。風呂屋の隣りの天ぷら屋はまだ起きていた。自分は自分の下宿の方へ暗い路を入って行った。

沿着路旁生长的竹林前有条小水沟,澡堂排出的热水流入其中。热气像屏风般冉冉而升,气味扑鼻而来。——我又重回那深有所感的我。澡堂隔壁的天妇罗店还没打烊。我走进幽暗的小路,朝我的住处而去。

Footnotes#

  1. ぐらつく:[動カ五(四)]安定した状態にあるべきものが、不安定に揺れ動く

  2. 擡げる:[動ガ下一]もちあげる。おこす

  3. 普請:[名](スル)家を建築したり修理したりすること

  4. 鉋屑:[名]鉋で材木を削るときにできる薄い木くず

  5. 水差し:[名]花瓶やコップなどにつぎこむ水を入れておく器物

  6. 焙り出し:[名] 乾くと消えるような薬品などで、字や絵をあらかじめ書いておいた紙を、火にあぶって、その字や絵を現わす遊び

  7. 狼狽える:[動ア下一]不意を打たれ、驚いたり慌てたりして取り乱す

  8. 甲所:[名]はずしてはならない大事な点

  9. とっつき:[名]時間の最初。位置・場所などのいちばんてまえ

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永雏多氢菲
∴さて····どこへ行こうか?
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