梶井基次郎: 過古
first published:『青空』 1926年1月・通巻11号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=XNsS2vwt-ow&t=1311s
desc: 以第一人称记录了作者在伊豆汤之岛疗养期间,于深夜山林溪谷间行走的感官体验与哲思
母親がランプを消して出て来るのを、子供達は父親や祖母と共に、戸外で待っていた。
孩子们和父亲及祖母一同待在屋外,等候母亲熄灯走出。
誰一人の見送りとてない出発であった。最後の夕餉をしたためた食器。最後の時間まで照していたランプ。それらは、それらをもらった八百屋が取りに来る明日の朝まで、空家の中に残されている。
启程没人送行。最后一顿晚餐的餐具。直到最后一刻仍照亮屋内的电灯。这些物品在明天早上蔬菜店的人前来收取前,会一直留在空屋内。
灯が消えた。くらやみを背負って母親が出て来た。五人の幼い子供達。父母。祖母。――賑かな、しかし寂しい一行は歩み出した。その時から十余年経った。
灯熄了。母亲走了出来,身后一片漆黑。五个年幼的孩子、父母、祖母。——一行人迈步离去,显得热闹,但又透着落寞。从那之后,一晃眼就是十多年。
その五人の兄弟のなかの一人であった彼は再びその大都会へ出て来た。そこで彼は学狡へ通った。知らない町ばかりであった。碁会所。玉突屋。大弓所。珈琲店。下宿。彼はそのせせこましい展望を逃れて郊外へ移った。そこは偶然にも以前住んだことのある町に近かった。霜解け、夕凍み、その匂いには憶えがあった。
他是这五个兄弟姐妹中的其中一人,他再次来到这个大都会,在那里就学。全是他陌生的市街,围棋会所,台球室,射箭场,咖啡店,租屋处。他离开那视野狭窄的地方,搬往郊外。碰巧那里离他以前住过的市街颇近。早上融霜,傍晚冻霜,他仍记得那股气味。
ひと月ふた月経った。日光と散歩に恵まれた彼の生活は、いつの間にか怪しい不協和に陥っていた。遠くの父母や兄弟の顔が、これまでになく忌わしい陰を帯びて、彼の心を紊した。電報配達夫が恐ろしかった。
一两个月过去。拜阳光与散步所赐,不知不觉间,他的生活落入一种诡奇的不协调中。远方的父母和兄弟姐妹的脸,开始带有不祥的暗影,令他内心纷乱。他很怕看到送电报的人。
ある朝、彼は日当のいい彼の部屋で座布団を干していた。その座布団は彼の幼時からの記憶につながれていた。同じ切れ地で夜具ができていたのだった。――日なたの匂いを立てながら縞目の古りた座布団は膨れはじめた。彼は眼を瞠った。どうしたのだ。まるで覚えがない。何という縞目だ。――そして何という旅情……
某天早上,他正在日晒充足的房间里晒坐垫。那坐垫与他幼年的记忆有紧密的关联。以前有一床棉被就是用同样的布料做成。——那条纹图案的老旧坐垫散发出日晒的气味,同时开始变得蓬松。他为之瞠目。这是为什么?我完全没印象。这是什么条纹?——而这又是怎样的游子情怀?
以前住んだ町を歩いて見る日がとうとうやって来た。彼は道々、町の名前が変わってはいないかと心配しながら、ひとに道を尋ねた。町はあった。近づくにつれて心が重くなった。一軒二軒、昔と変わらない家が、新しい家に挾まれて残っていた。はっと胸を衝かれる瞬間があった。しかしその家は違っていた。確かに町はその町に違いなかった。幼な友達の家が一軒あった。代が変わって友達の名前になっていた。台所から首を出している母らしいひとの眼を彼は避けた。その家が見つかれば道は憶えていた。彼はその方へ歩き出した。
到以前住过的市街走走看看的日子终于来临。他很担心道路和市街的名称会不会已经改了,一路上向人问路。市街还在。他每走近一步,内心就沉重一分。有一两栋和以前一样的房子,夹在新建的屋舍间保留了下来。他内心感受到一阵冲击。但那栋房子已变得不一样。确实是这条市街没错。一栋他儿时玩伴的家还在。如今已换人当家,户主的名字改成他朋友的名字。一位像是母亲的人从厨房探出头来,他眼神急忙躲闪开。只要找到以前住过的家,就会记起那条路。他迈步往那个方向走去。
彼は往来に立ち竦んだ。十三年前の自分が往来を走っている! ――その子供は何も知らないで、町角を曲って見えなくなってしまった。彼は泪ぐんだ。何という旅情だ! それはもう嗚咽に近かった。
他呆立在马路上。十三年前的他,就在这条马路上奔跑!——那孩子什么也不知道,转过街角,消失无踪。他眼中噙着泪水。这是怎样的游子情怀啊!他几乎快要呜咽起来。
ある夜、彼は散歩に出た。そしていつの間にか知らない路を踏み迷っていた。それは道も灯もない大きな暗闇であった。探りながら歩いてゆく足が時どき凹みへ踏み落ちた。それは泣きたくなる瞬間であった。そして寒さは衣服に染み入ってしまっていた。
某天夜里,他出外散步。不知不觉间闯进一条陌生的道路。眼前没有道路也没有灯火,尽是幽暗。他摸索而行,脚步不时踩进凹坑里。当时他很想哭。寒意渗进他衣服里。
時刻は非常に晩くなったようでもあり、またそんなでもないように思えた。路をどこから間違ったのかもはっきりしなかった。頭はまるで空虚であった。ただ、寒さだけを覚えた。
天色似乎已很晚,但又觉得好像不是。也不清楚是从哪里开始走错路。脑袋一片空白,就只觉得冷。
彼は燐寸の箱を袂から取り出そうとした。腕組みしている手をそのまま、右の手を左の袂へ、左の手を右の袂へ突込んだ。燐寸はあった。手では掴んでいた。しかしどちらの手で掴んでいるのか、そしてそれをどう取出すのか分らなかった。
他想从衣袖里取出火柴盒。他的手盘在胸前,右手伸进左手衣袖,左手伸进右手衣袖。摸到火柴盒了。他一把握住。但他分不清是哪只手握住了火柴盒,又该如何取出。
暗闇に点された火は、また彼の空虚な頭の中に点された火でもあった。彼は人心地1を知った。
在黑暗中点亮的火,同时也照亮了他空白的脑袋。他就此恢复思考。
一本の燐寸の火が、焔が消えて炭火になってからでも、闇に対してどれだけの照力を持っていたか、彼ははじめて知った。火が全く消えても、少しの間は残像が彼を導いた――
一根火柴的亮光,就算火焰熄灭,化为余火,但它对黑暗拥有多大的照耀力,他这才明白。尽管火焰完全熄灭,短时间里,残影仍引导着他——
突然烈しい音響が野の端から起こった。
蓦然间,一个激烈的声响从原野外围响起。
華ばなしい光の列が彼の眼の前を過って行った。光の波は土を匍って彼の足もとまで押し寄せた。
华丽的一列光点从他眼前掠过。那道光波在地上爬行,一路逼近他脚下。
汽鑵車の烟は火になっていた。反射をうけた火夫2が赤く動いていた。
火车排出的煤烟化为火焰。锅炉工在火光反射下,全身通红,动个不停。
客車。食堂車。寝台車。光と熱と歓語で充たされた列車。
硬座车厢、餐车车厢、卧铺车厢,盈满亮光、热气、欢笑的列车。
激しい車輪の響きが彼の身体に戦慄を伝えた。それははじめ荒々しく彼をやっつけたが、遂には得体の知れない感情を呼び起こした。涙が流れ出た。
激烈的车轮转动声,将战栗传向他身躯。起初粗暴地震动着他的身体,后来唤起一股来路不明的情绪。泪水夺眶而出。
響きは遂に消えてしまった。そのままの普段着で両親の家へ、急行に乗って、と彼は涙の中に決心していた。
轰鸣声终于消失了。他流着泪,就此下定决心,要直接这样穿着便服,搭快车回父母家去。