芥川龍之介: 女体
first published:『帝国文学』1917年10月号
audio: www.youtube.com/watch?v=NwQi00qDRjc
desc: 闷热的夏夜,中国人杨某辗转难眠,兀自陷入沉思。这时,一只虱子爬到了枕边。杨某望着小虫,渐渐陷入幻觉,恍惚间只觉自己的意识化作了虱子。
在幻想之中,他化身小虫,在身旁熟睡的妻子身上缓缓爬行,以这微小的视角,沉醉于女子躯体之美。这篇短篇以奇异诡谲的笔触,刻画出潜藏在人心深处的欲望与审美。
楊某と云う支那人が、ある夏の夜、あまり蒸暑いのに眼がさめて、頬杖をつきながら腹んばいになって、とりとめのない妄想に耽っていると、ふと一匹の虱が寝床の縁を這っているのに気がついた。部屋の中にともした、うす暗い灯の光で、虱は小さな背中を銀の粉のように光らせながら、隣に寝ている細君の肩を目がけて、もずもず這って行くらしい。細君は、裸のまま、さっきから楊の方へ顔を向けて、安らかな寝息を立てているのである。
一个夏天的夜晚,因着暑热难当,中国人杨某醒了过来,他伏在床上,以手托腮,沉浸在漫无边际的遐想中。这时,他忽然发现一只虱子正在床边爬动。房中昏暗的灯光下,虱子小小的后背闪着银粉般的光,正慢吞吞地朝睡在一边的妻子的肩头爬去。妻子裸身而眠,脸朝向杨某,发出安稳平和的呼吸声。
楊は、その虱ののろくさい歩みを眺めながら、こんな虫の世界はどんなだろうと思った。自分が二足か三足で行ける所も、虱には一時間もかからなければ、歩けない。しかもその歩きまわる所が、せいぜい寝床の上だけである。自分も虱に生れたら、さぞ退屈だった事であろう。……
望着虱子慢吞吞爬行的样子,杨某思忖道,小虫子的世界是怎样的?自己两三步便可到达的地方,虱子却要花上一个小时。而且,它爬来爬去,无非只是在床上打转。自己若是生而为虱子,一定感到很憋屈吧。
そんな事を漫然と考えている中に、楊の意識は次第に朧げになって来た。勿論夢ではない。そうかと云ってまた、現でもない。ただ、妙に恍惚たる心もちの底へ、沈むともなく沈んで行くのである。それがやがて、はっと眼がさめたような気に帰ったと思うと、いつか楊の魂はあの虱の体へはいって、汗臭い寝床の上を、蠕々然として歩いている。楊は余りに事が意外なので、思わず茫然と立ちすくんだ。が、彼を驚かしたのは、独りそればかりではない。――
漫不经意地转着这些念头,杨某的意识渐渐地朦胧起来。当然,他并没有做梦,但也并非现实,他只是不由自主地朝着莫名恍惚的心底沉落下去。不一会儿,仿佛蓦然惊醒,杨某回过神来,却发现不知何时,自己的魂魄进入了那只虱子的体内,正在散发着汗味儿的床上蠕蠕爬动。这情形着实太过意外,杨某不由得茫然呆立。可是,令他惊诧的却不仅这一件事——
彼の行く手には、一座の高い山があった。それがまた自らな円みを暖く抱いて、眼のとどかない上の方から、眼の先の寝床の上まで、大きな鍾乳石のように垂れ下っている。その寝床についている部分は、中に火気を蔵しているかと思うほど、うす赤い柘榴の実の形を造っているが、そこを除いては、山一円、どこを見ても白くない所はない。その白さがまた、凝脂のような柔らかみのある、滑な色の白さで、山腹のなだらかなくぼみでさえ、丁度雪にさす月の光のような、かすかに青い影を湛えているだけである。まして光をうけている部分は、融けるような鼈甲色の光沢を帯びて、どこの山脈にも見られない、美しい弓なりの曲線を、遥な天際に描いている。……
在他的前方矗立着一座高山。那座山天然圆润,透着暖意,如同巨大的钟乳石,从他的目光所不能及的上空,一直垂落到他眼前的床上。垂到床上的那部分,其中似乎蕴藏着火焰,样子像浅红色的石榴果。除此之外,整座山皆是一片洁白。那白色柔软光滑,宛如凝脂,山腰上平缓的低凹处泛着浅浅的蓝色光晕,仿佛洒在雪上的月光。而山腰上迎着光亮的部分,则闪着雪融般的玳瑁色光泽,在遥远的天际描绘出独一无二的、优美的弓形曲线……
楊は驚嘆の眼を見開いて、この美しい山の姿を眺めた。が、その山が彼の細君の乳の一つだと云う事を知った時に、彼の驚きは果してどれくらいだった事であろう。彼は、愛も憎みも、乃至また性欲も忘れて、この象牙の山のような、巨大な乳房を見守った。そうして、驚嘆の余り、寝床の汗臭い匂も忘れたのか、いつまでも凝固まったように動かなかった。――楊は、虱になって始めて、細君の肉体の美しさを、如実に観ずる事が出来たのである。
杨某大睁着惊叹的双眼,望着这座美丽的山峰。不过,当他知道这座山便是自己妻子的一只乳房时,他的惊诧又如何形容?他忘记了爱,忘记了憎,甚至忘记了性欲,只是凝视着这座象牙山一般的巨大乳房。在过度的惊叹中,他或许连床上的汗味儿也忘记了,久久地一动不动,如凝固了一样——在变成虱子后,杨某才第一次切实地体会到妻子的肉体之美。
しかし、芸術の士にとって、虱の如く見る可きものは、独り女体の美しさばかりではない。
然而,对于从事艺术的人,应当像虱子一般去观察体悟的,却不仅仅是女子的肉体之美。
(大正六年九月)