芥川龍之介: 蜘蛛の糸
first published:『赤い鳥』1918年7月号
audio: www.youtube.com/watch?v=suA91RlCxlU
desc: 改编自佛教故事集《因果物语》,以极乐净土与地狱的强烈对比构建寓言,篇幅短小,却深刻剖析人性自私、慈悲的真谛与获得救赎的前提。
一
ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。
某一日,释迦佛祖在极乐净土的莲池畔悠然闲步。池中绽放的莲花皆是莹白如玉,花朵中央金色的花蕊涵芬吐芳,薰香绵绵四溢,清妙难言。极乐净土正值清晨。
やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
少顷,释迦佛祖在池畔停步伫立,从覆满水面的荷叶的缝隙中,佛祖蓦地瞥见了水下的景象。这座极乐净土的莲池下方,恰巧是地狱的最底层,透过水晶般清澈的池水,三途冥河与针山上的情景历历在目,仿佛窥看透视镜一般。
するとその地獄の底に、犍陀多と云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。この犍陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで犍陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」と、こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。
在地狱的最底层,一个名叫犍陀多的男人正和其他罪人一起蠕动着,那模样映入了佛祖眼中。犍陀多是个大盗,杀人放火,无恶不作。但话虽如此,他却也做过一件善事。原来有一次在密林中,犍陀多看到一只小小的蜘蛛在路边爬,他立刻抬脚要把蜘蛛踩死,忽的转念一想,“不可,不可,蜘蛛虽然卑小,也是有生命之物。胡乱夺去它的命,终究怪可怜的。”于是没有踩死蜘蛛,放了它一条生路。
御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この犍陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。
释迦佛祖望着地狱中的景象,记起了犍陀多放生蜘蛛的事,心下思忖道,既然此人有这般善行,若是可能的话,将他从地狱中救出以作果报也罢。恰巧,佛祖身畔有一只极乐净土中的蜘蛛,正在翡翠色的莲叶上牵搭起美丽的银丝。佛祖轻轻拈过一缕蛛丝,从皎洁如玉的白莲间笔直放下,直垂向杳渺幽深的地狱最底层。
二
こちらは地獄の底の血の池で、ほかの罪人と一しょに、浮いたり沈んだりしていた犍陀多でございます。何しろどちらを見ても、まっ暗で、たまにそのくら暗からぼんやり浮き上っているものがあると思いますと、それは恐しい針の山の針が光るのでございますから、その心細さと云ったらございません。その上あたりは墓の中のようにしんと静まり返って、たまに聞えるものと云っては、ただ罪人がつく微な嘆息ばかりでございます。これはここへ落ちて来るほどの人間は、もうさまざまな地獄の責苦に疲れはてて、泣声を出す力さえなくなっているのでございましょう。ですからさすが大泥坊の犍陀多も、やはり血の池の血に咽びながら、まるで死にかかった蛙のように、ただもがいてばかり居りました。
地狱底的血池中,犍陀多正与其他罪人一道载沉载浮。无论看向何方,都是黑漆漆一团,黑暗中偶尔有物体隐隐约约地浮现出来,却是恐怖的针山上的针在闪烁光芒,那景象别提多令人胆寒了。更有甚者,四下里仿佛坟墓中一般死寂无声,若说偶尔能听到些许声响,那只是罪人们微弱的叹息声。堕入此间的人经受了地狱中的诸般折磨,皆是精疲力竭,连哭泣的力气都荡然无存。故而,任是大盗犍陀多,也只能呛咽着血池中的血,仿佛濒死的青蛙似的徒然挣扎着。
ところがある時の事でございます。何気なく犍陀多が頭を挙げて、血の池の空を眺めますと、そのひっそりとした暗の中を、遠い遠い天上から、銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか。
就在此时,犍陀多无意间一抬头,却见血池上方那阒然无声的黑暗中,一根银色蜘蛛丝垂了下来,它仿佛不想惹人眼目似的,闪着一缕细细的微光,顺顺当当地正好落在自己的头顶。
犍陀多はこれを見ると、思わず手を拍って喜びました。この糸に縋りついて、どこまでものぼって行けば、きっと地獄からぬけ出せるのに相違ございません。いや、うまく行くと、極楽へはいる事さえも出来ましょう。そうすれば、もう針の山へ追い上げられる事もなくなれば、血の池に沈められる事もある筈はございません。
看到这番情景,犍陀多不禁拍手欢喜。若顺着这根蛛丝一直往上爬,必定可以逃出地狱。不,若是运气好,没准还能登上极乐净土呢。那样的话,就再也不会被驱上针山,也不用泡在血池里了。
こう思いましたから犍陀多は、早速その蜘蛛の糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました。元より大泥坊の事でございますから、こう云う事には昔から、慣れ切っているのでございます。
这么一思量,犍陀多赶紧牢牢抓住蜘蛛丝,手捯脚攀,拼命地一个劲儿往上爬。他本是大盗之身,这等事对他早就是轻车熟路、得心应手。
しかし地獄と極楽との間は、何万里となくございますから、いくら焦って見た所で、容易に上へは出られません。ややしばらくのぼる中に、とうとう犍陀多もくたびれて、もう一たぐりも上の方へはのぼれなくなってしまいました。そこで仕方がございませんから、まず一休み休むつもりで、糸の中途にぶら下りながら、遥かに目の下を見下しました。
可是地狱与极乐净土之间,相距何止数万里,不管他怎样心焦气急,爬到上面绝非易事。过了一阵子,犍陀多终于筋疲力尽,一步也爬不动了。无奈之下,他只好先歇息片刻,遂挂在蛛丝的半中间,遥遥地朝身下张望。
すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた血の池は、今ではもう暗の底にいつの間にかかくれて居ります。それからあのぼんやり光っている恐しい針の山も、足の下になってしまいました。この分でのぼって行けば、地獄からぬけ出すのも、存外わけがないかも知れません。犍陀多は両手を蜘蛛の糸にからみながら、ここへ来てから何年にも出した事のない声で、「しめた。しめた。」と笑いました。ところがふと気がつきますと、蜘蛛の糸の下の方には、数限もない罪人たちが、自分ののぼった後をつけて、まるで蟻の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。
一看之下,犍陀多才发现拼命攀爬并没有枉费力气,适才还身处其中的血池,不知何时已隐没在下方的黑暗中,那隐约闪光的恐怖针山,也在他脚下了。照此情形,或许逃出地狱并没有预想得那么难。犍陀多两手缠紧蜘蛛丝,哈哈大笑:“妙极!妙极了!”自从他来到此间,数年来还从没这么朗声说过话。可是,他蓦地发现,在蜘蛛丝的下方,数不清的罪人跟在自己身后,仿佛一队蚂蚁似的,正一心一意地往上爬呢。
犍陀多はこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、莫迦のように大きな口を開いたまま、眼ばかり動かして居りました。自分一人でさえ断れそうな、この細い蜘蛛の糸が、どうしてあれだけの人数の重みに堪える事が出来ましょう。もし万一途中で断れたと致しましたら、折角ここへまでのぼって来たこの肝腎な自分までも、元の地獄へ逆落しに落ちてしまわなければなりません。そんな事があったら、大変でございます。が、そう云う中にも、罪人たちは何百となく何千となく、まっ暗な血の池の底から、うようよと這い上って、細く光っている蜘蛛の糸を、一列になりながら、せっせとのぼって参ります。今の中にどうかしなければ、糸はまん中から二つに断れて、落ちてしまうのに違いありません。
看到这番情景,犍陀多又惊又骇,一时间傻愣愣地大张着嘴巴,只有眼珠骨碌碌转动。这细细的蜘蛛丝,自己一个人爬尚且颤颤欲断,怎可能承受那么多人的重量?好不容易爬到此处,万一半路断掉,这顶顶要紧的自己也只有大头朝下,跌回原来的地狱里。那就全完了!就在他寻思的工夫,成千上百的罪人从黑沉沉的血池底蠢蠢蠕动,沿着微微闪光的蛛丝排成一列,一个劲儿地爬将上来。若不赶紧当机立断,蜘蛛丝必然从中断为两截,自己也将堕回地狱。
そこで犍陀多は大きな声を出して、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」と喚きました。
于是,犍陀多大喝一声:“呔,你们这些罪人,这蜘蛛丝是我的!谁准你们上来的?下去,滚下去!”
その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急に犍陀多のぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断れました。ですから犍陀多もたまりません。あっと云う間もなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
就在此时,方才还安然无事的蜘蛛丝,突然啪的一声,正好从挂着犍陀多的地方断裂开来。这下够他受的,犍陀多仿佛一个滴溜溜打转的陀螺,嗖嗖地跌落下去,眼看着大头朝下,掉进了黑暗最深处。
後にはただ極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。
只余下极乐净土的蜘蛛之丝,闪烁着细微的光芒,短短地垂挂在星月皆无的半空中。
三
御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて犍陀多が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、犍陀多の無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。
释迦佛祖伫立在极乐净土的莲池畔,原原本本地观看了这一幕。当犍陀多最终像石头似的沉入血池底时,佛祖脸上现出悲悯之色,又在池畔踱起步来。犍陀多只想自己逃出地狱,心中毫无慈悲之念,因而受到相应的惩罚。在佛祖看来,他大概是卑劣又可怜吧。
しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような白い花は、御釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽ももう午に近くなったのでございましょう。
可是,极乐净土莲池中的莲花,对这一幕却浑不在意。那皎洁如玉的白色花朵,在佛祖足畔款款地摇动着萼片,花朵中央金色的花蕊涵芬吐芳,薰香绵绵四溢,清妙难言。极乐净土中已近正午。
(大正七年四月十六日)