芥川龍之介: 英雄の器

2855 words
14 minutes
芥川龍之介: 英雄の器
META

first published:『人文』1918年1月号
audio: www.youtube.com/watch?v=FAMocmjTAM4
desc: 以垓下之战后的汉营酒宴为舞台,借吕马童与刘邦的对话,呈现两种完全对立的英雄标准,借项羽的历史争议探讨历史评价的相对性,剖析气节尊严与现实隐忍的人性矛盾。

「何しろ項羽こううと云う男は、英雄のうつわじゃないですな。」

“项羽此人,终究不是英雄之器。​”

かんの大将呂馬通りょばつうは、ただでさえ長い顔を、一層長くしながら、まばらひげを撫でて、こう云った。彼の顔のまわりには、十人あまりの顔が、皆まん中に置いた燈火ともしびの光をうけて、赤く幕営の夜の中にうき上っている。その顔がまた、どれもいつになく微笑を浮べているのは、西楚せいそ覇王はおうの首をあげた今日の勝戦かちいくさの喜びが、まだ消えずにいるからであろう。――

汉军大将吕马通将自己的一张长脸越发拉长,捋着稀疏的髭须,如此说道。他身边还有十余人围着灯火而坐,夜晚的营帐中,每张脸孔都在灯下泛着红光。而且,众人脸上都浮现出平日所没有的微笑,或许是因为今日一战大获全胜,取得了西楚霸王的首级,这份喜悦尚未消散的缘故。

「そうかね。」

“是吗?​”

鼻の高い、眼光の鋭い顔が一つ、これはやや皮肉な微笑を唇頭しんとうに漂わせながら、じっと呂馬通りょばつうの眉の間を見ながら、こう云った。呂馬通は何故なぜか、いささか狼狽ろうばいしたらしい。

有一人问道。这人鼻梁高挺、目光锐利,唇边漾着一丝嘲讽的微笑,直直地盯着吕马通的眉间。不知何故,吕马通似乎有些狼狈。

「それは強いことは強いです。何しろ塗山とざん禹王廟うおうびょうにある石のかなえさえげると云うのですからな。現に今日のいくさでもです。私は一時命はないものだと思いました。李佐りさが殺される、王恒おうこうが殺される。その勢いと云ったら、ありません。それは実際、強いことは強いですな。」

“诚然,项羽武功高强,毕竟他连涂山禹王庙的石鼎都能举起。今日之战也是如此,一时间,在下还以为要命丧当场。李佐被杀,王恒也被杀,着实是势不可挡。论起项羽的武功,的确高强无比哪。​”

「ははあ。」相手の顔は依然として微笑しながら、鷹揚に頷うなずいた。幕営の外はしんとしている。遠くで二三度、かくの音がしたほかは、馬のいななく声さえ聞えない。その中で、どことなく、枯れた木の葉の匂がする。

对方依然微微含笑,淡然颔首。营帐外悄然无声,除了远处传来两三声号角,连马嘶声也听不到。空气中隐隐飘着枯叶的味道。

「しかしです。」呂馬通は一同の顔を見廻して、さも「しかし」らしく、ばたきを一つした。

“然而——”吕马通环视众人,配合着“然而”的话头,眨了眨眼。

「しかし、英雄のうつわじゃありません。その証拠は、やはり今日の戦ですな。烏江うこうに追いつめられた時の楚の軍は、たった二十八騎です。雲霞うんかのような味方の大軍に対して、戦った所が、仕方はありません。それに、烏江の亭長ていちょうは、わざわざ迎えに出て、江東こうとうへ舟で渡そうと云ったそうですな。もし項羽こううに英雄の器があれば、垢を含んでも、烏江を渡るです。そうして捲土重来けんどちょうらいするです。面目めんもくなぞをかまっている場合じゃありません。」

“然而,项羽却非英雄之器。证据依然是今日之战。楚军被追到乌江时,只剩下区区二十八骑,根本无法与我方云集的大军对抗。而且,据说乌江亭长特意前来迎接项羽,打算用船助他返回江东。若项羽真是英雄之器,即便含羞忍辱,也应当渡过乌江,以图后日卷土重来。这本不是应当顾及什么体面的时候嘛。​”

「すると、英雄の器と云うのは、勘定に明いと云う事かね。」

“如此说来,所谓的英雄之器,就是要精于算计啰?​”

このことばにつれて、一同の口からは、静な笑い声が上った。が、呂馬通は、存外ひるまない。彼は髯から手を放すと、ややり身になって、鼻の高い、眼光の鋭い顔を時々ちらりと眺めながら、勢いよく手真似てまねをして、しゃべり出した。

听了这句话,众人都低声笑了起来。但吕马通并未气馁,他不再捋胡须,微微挺起胸膛,时不时地瞥一眼那张鼻梁高挺、目光锐利的脸孔,猛力做着手势,侃侃说道:

「いやそう云うつもりじゃないです。――項羽はですな。項羽は、今日いくさの始まる前に、二十八人の部下の前で『項羽を亡すものは天だ。人力の不足ではない。その証拠には、これだけの軍勢で、必ず漢の軍を三度さんど破って見せる』と云ったそうです。そうして、実際三度どころか、九度くたびも戦って勝っているです。私に云わせると、それが卑怯だと思うのですな、自分の失敗を天にかずける――天こそいい迷惑です。それも烏江うこうを渡って、江東の健児を糾合きゅうごうして、再び中原ちゅうげんの鹿を争った後でなら、仕方がないですよ。が、そうじゃない。立派に生きられる所を、死んでいるです。私が項羽を英雄の器でないとするのは、勘定に暗かったからばかりではないです。一切を天命でごまかそうとする――それがいかんですな。英雄と云うものは、そんなものじゃないと思うです。蕭丞相しょうじょうしょうのような学者は、どう云われるか知らんですが。」

“不,在下并非此意。说到项羽……据说,今日之战开始前,项羽对二十八名部下言道:‘亡项羽者天也,非由人力之不足。吾必以仅余之兵力,三破汉军于诸君之前,以作证见。’实际上,他岂止三破我军,而是九战九胜。若依在下看来,项羽此举其实甚为怯懦,将自己的失败委过于上天——上天岂不烦恼?他若是渡过乌江,纠合江东健儿,再度逐鹿中原之后才说这番话,倒也罢了。但他并非如此。明明可以堂堂皇皇地活下去,他却自蹈死路。在下说项羽不是英雄之器,并非仅因为他不精于算计,将一切归咎于天命,以此来搪塞——这实在不可取。在下以为,所谓英雄,绝非这等人物。当然,萧丞相等饱学之士会如何评说,在下就不得而知了。​”

呂馬通は、得意そうに左右を顧みながら、しばらく口をとざした。彼の論議が、もっともだと思われたのであろう。一同は互に軽い頷きを交しながら、満足そうに黙っている。すると、その中で、鼻の高い顔だけが、思いがけなく、一種の感動を、眼の中に現した。黒い瞳が、熱を持ったように、かがやいて来たのである。

吕马通得意地环顾左右,停住了口。众人或许觉得他的高论颇有道理,都满意地点头不语。唯有那个鼻梁高挺的人,眼中现出一种意外的感动,漆黑的瞳仁热烈地闪闪发亮。

「そうかね。項羽はそんな事を云ったかね。」

“是吗?项羽说了那番话?​”

「云ったそうです。」

“据传他说过。​”

呂馬通は、長い顔を上下に、大きく動かした。

吕马通上下晃动着长脸,重重地点头,又道:

「弱いじゃないですか。いや、少くとも男らしくないじゃないですか。英雄と云うものは、天と戦うものだろうと思うですが。」

“这岂非懦弱?至少不是大丈夫之举。在下以为,所谓英雄,应当敢与上天相抗才是。​”

「そうさ。」

“有理。​”

「天命を知っても尚、戦うものだろうと思うですが。」

“即便知晓天命,也应当奋力一争才是。​”

「そうさ。」

“有理。​”

「すると項羽は――」

“如此说来,项羽他……”

劉邦りゅうほうは鋭い眼光をあげて、じっと秋をまたたいている燈火ともしびの光を見た。そうして、半ば独り言のように、おもむろにこう答えた。

刘邦扬起锐利的眼光,直盯着秋风中摇曳不定的灯火。片刻之后,仿佛自言自语似的,他徐徐说道:

「だから、英雄の器だったのさ。」

“如此说来,项羽真乃英雄之器也!”

Comments

Profile Image of the Author
永雏多氢菲
∴さて····どこへ行こうか?
公告
随缘分享喵
Music
Cover

Music

No playing

0:00 0:00
No lyrics available
Categories
Tags
Site Statistics
Posts
149
Categories
6
Tags
9
Total Words
2,270,237
Running Days
0 days
Last Activity
0 days ago

Table of Contents