芥川龍之介: 英雄の器
first published:『人文』1918年1月号
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desc: 以垓下之战后的汉营酒宴为舞台,借吕马童与刘邦的对话,呈现两种完全对立的英雄标准,借项羽的历史争议探讨历史评价的相对性,剖析气节尊严与现实隐忍的人性矛盾。
「何しろ項羽と云う男は、英雄の器じゃないですな。」
“项羽此人,终究不是英雄之器。”
漢の大将呂馬通は、ただでさえ長い顔を、一層長くしながら、疎な髭を撫でて、こう云った。彼の顔のまわりには、十人あまりの顔が、皆まん中に置いた燈火の光をうけて、赤く幕営の夜の中にうき上っている。その顔がまた、どれもいつになく微笑を浮べているのは、西楚の覇王の首をあげた今日の勝戦の喜びが、まだ消えずにいるからであろう。――
汉军大将吕马通将自己的一张长脸越发拉长,捋着稀疏的髭须,如此说道。他身边还有十余人围着灯火而坐,夜晚的营帐中,每张脸孔都在灯下泛着红光。而且,众人脸上都浮现出平日所没有的微笑,或许是因为今日一战大获全胜,取得了西楚霸王的首级,这份喜悦尚未消散的缘故。
「そうかね。」
“是吗?”
鼻の高い、眼光の鋭い顔が一つ、これはやや皮肉な微笑を唇頭に漂わせながら、じっと呂馬通の眉の間を見ながら、こう云った。呂馬通は何故か、いささか狼狽したらしい。
有一人问道。这人鼻梁高挺、目光锐利,唇边漾着一丝嘲讽的微笑,直直地盯着吕马通的眉间。不知何故,吕马通似乎有些狼狈。
「それは強いことは強いです。何しろ塗山の禹王廟にある石の鼎さえ枉げると云うのですからな。現に今日の戦でもです。私は一時命はないものだと思いました。李佐が殺される、王恒が殺される。その勢いと云ったら、ありません。それは実際、強いことは強いですな。」
“诚然,项羽武功高强,毕竟他连涂山禹王庙的石鼎都能举起。今日之战也是如此,一时间,在下还以为要命丧当场。李佐被杀,王恒也被杀,着实是势不可挡。论起项羽的武功,的确高强无比哪。”
「ははあ。」相手の顔は依然として微笑しながら、鷹揚に頷うなずいた。幕営の外はしんとしている。遠くで二三度、角の音がしたほかは、馬の嘶く声さえ聞えない。その中で、どことなく、枯れた木の葉の匂がする。
对方依然微微含笑,淡然颔首。营帐外悄然无声,除了远处传来两三声号角,连马嘶声也听不到。空气中隐隐飘着枯叶的味道。
「しかしです。」呂馬通は一同の顔を見廻して、さも「しかし」らしく、眼ばたきを一つした。
“然而——”吕马通环视众人,配合着“然而”的话头,眨了眨眼。
「しかし、英雄の器じゃありません。その証拠は、やはり今日の戦ですな。烏江に追いつめられた時の楚の軍は、たった二十八騎です。雲霞のような味方の大軍に対して、戦った所が、仕方はありません。それに、烏江の亭長は、わざわざ迎えに出て、江東へ舟で渡そうと云ったそうですな。もし項羽に英雄の器があれば、垢を含んでも、烏江を渡るです。そうして捲土重来するです。面目なぞをかまっている場合じゃありません。」
“然而,项羽却非英雄之器。证据依然是今日之战。楚军被追到乌江时,只剩下区区二十八骑,根本无法与我方云集的大军对抗。而且,据说乌江亭长特意前来迎接项羽,打算用船助他返回江东。若项羽真是英雄之器,即便含羞忍辱,也应当渡过乌江,以图后日卷土重来。这本不是应当顾及什么体面的时候嘛。”
「すると、英雄の器と云うのは、勘定に明いと云う事かね。」
“如此说来,所谓的英雄之器,就是要精于算计啰?”
この語につれて、一同の口からは、静な笑い声が上った。が、呂馬通は、存外ひるまない。彼は髯から手を放すと、やや反り身になって、鼻の高い、眼光の鋭い顔を時々ちらりと眺めながら、勢いよく手真似をして、しゃべり出した。
听了这句话,众人都低声笑了起来。但吕马通并未气馁,他不再捋胡须,微微挺起胸膛,时不时地瞥一眼那张鼻梁高挺、目光锐利的脸孔,猛力做着手势,侃侃说道:
「いやそう云うつもりじゃないです。――項羽はですな。項羽は、今日戦の始まる前に、二十八人の部下の前で『項羽を亡すものは天だ。人力の不足ではない。その証拠には、これだけの軍勢で、必ず漢の軍を三度破って見せる』と云ったそうです。そうして、実際三度どころか、九度も戦って勝っているです。私に云わせると、それが卑怯だと思うのですな、自分の失敗を天にかずける――天こそいい迷惑です。それも烏江を渡って、江東の健児を糾合して、再び中原の鹿を争った後でなら、仕方がないですよ。が、そうじゃない。立派に生きられる所を、死んでいるです。私が項羽を英雄の器でないとするのは、勘定に暗かったからばかりではないです。一切を天命でごまかそうとする――それがいかんですな。英雄と云うものは、そんなものじゃないと思うです。蕭丞相のような学者は、どう云われるか知らんですが。」
“不,在下并非此意。说到项羽……据说,今日之战开始前,项羽对二十八名部下言道:‘亡项羽者天也,非由人力之不足。吾必以仅余之兵力,三破汉军于诸君之前,以作证见。’实际上,他岂止三破我军,而是九战九胜。若依在下看来,项羽此举其实甚为怯懦,将自己的失败委过于上天——上天岂不烦恼?他若是渡过乌江,纠合江东健儿,再度逐鹿中原之后才说这番话,倒也罢了。但他并非如此。明明可以堂堂皇皇地活下去,他却自蹈死路。在下说项羽不是英雄之器,并非仅因为他不精于算计,将一切归咎于天命,以此来搪塞——这实在不可取。在下以为,所谓英雄,绝非这等人物。当然,萧丞相等饱学之士会如何评说,在下就不得而知了。”
呂馬通は、得意そうに左右を顧みながら、しばらく口をとざした。彼の論議が、もっともだと思われたのであろう。一同は互に軽い頷きを交しながら、満足そうに黙っている。すると、その中で、鼻の高い顔だけが、思いがけなく、一種の感動を、眼の中に現した。黒い瞳が、熱を持ったように、かがやいて来たのである。
吕马通得意地环顾左右,停住了口。众人或许觉得他的高论颇有道理,都满意地点头不语。唯有那个鼻梁高挺的人,眼中现出一种意外的感动,漆黑的瞳仁热烈地闪闪发亮。
「そうかね。項羽はそんな事を云ったかね。」
“是吗?项羽说了那番话?”
「云ったそうです。」
“据传他说过。”
呂馬通は、長い顔を上下に、大きく動かした。
吕马通上下晃动着长脸,重重地点头,又道:
「弱いじゃないですか。いや、少くとも男らしくないじゃないですか。英雄と云うものは、天と戦うものだろうと思うですが。」
“这岂非懦弱?至少不是大丈夫之举。在下以为,所谓英雄,应当敢与上天相抗才是。”
「そうさ。」
“有理。”
「天命を知っても尚、戦うものだろうと思うですが。」
“即便知晓天命,也应当奋力一争才是。”
「そうさ。」
“有理。”
「すると項羽は――」
“如此说来,项羽他……”
劉邦は鋭い眼光をあげて、じっと秋をまたたいている燈火の光を見た。そうして、半ば独り言のように、徐にこう答えた。
刘邦扬起锐利的眼光,直盯着秋风中摇曳不定的灯火。片刻之后,仿佛自言自语似的,他徐徐说道:
「だから、英雄の器だったのさ。」
“如此说来,项羽真乃英雄之器也!”