谷崎潤一郎: 细雪(上) 十

8122 words
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谷崎潤一郎: 细雪(上) 十
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first published:『中央公論』1943年1月号・3月号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=nySFGqnxT_Q
desc: 在大阪船场坐拥百年老店、历史底蕴深厚的莳冈家,鹤子、幸子、雪子、妙子四姐妹交织出百态人情。小说如华美画卷,循着四季流转,细致描绘出昭和十年间关西上流社会的日常光景。

三女雪子是四姐妹中容貌最为出众之人,婚事却屡屡未果,年过三十依旧独身。幸子夫妇为此忧心不已、四处奔走,性格沉默寡言的雪子却对每一门亲事都无意应允,岁月便这般缓缓流逝。

離れの書斎に逃げ込んでいた貞之助は、四時が過ぎてもまだ女達の支度が済まないらしいので、そろそろ時間を気にしていたが、ふと、前栽せんざいの八つ手の葉の乾いた上にパサリと物の落ちる音がしたので、机にったなり手を伸ばして眼の前の障子を開けて見ると、ついさっきまで晴れていた空がしぐれて来て、かすかな雨の脚が軒先にすいすいと疎らな線を引き始めていた。

已经过了四点钟,逃进别屋书房里的贞之助,见女人们还未妆扮停当,正担心误了时间,突然,他听见院子里八角金盘的枯叶啪嗒作响,似乎有什么东西落在叶子上,便靠着桌子伸手打开拉窗朝外看去,刚才还晴朗的天空,这会儿下起小雨来,细微的雨脚像断了线似的疏疏落落地敲着屋檐。

「おい、雨やで」と、貞之助は母屋へ駈け込んで、階段の途中から怒鳴りながら化粧部屋へ這入った。

“喂,下雨啦!” 贞之助急忙向正屋跑来,人还在楼梯上就大声嚷嚷着走进化妆室。

「ほんに、降って来たわ。―――」と、幸子も窓の外を覗きながら、「時雨やよってに、直き止むわ、きっと。―――青いとこが見えてまっしゃないか」が、

“真下雨了。” 幸子望着窗外说,“这是阵雨,马上就会停的,一定会停。你看,那边天空不是蓝蓝的吗?”

そう云ううちに見る見る窓の外の瓦屋根が一面に濡れて、ざあッと云う本降りらしい音に変って来た。

说话间,窗外的屋瓦眼看全都湿了,刹那间,竟下起了哗哗大雨。

「自動車云うてないのんなら、今直ぐ云うとかないかんで。五時十五分頃に間違いなく云うて。―――僕、雨やったら洋服にするわ。紺背広でええやろな」

“要是汽车还没订好,现在就得去叫。要车子一定在五点一刻来。下雨的话,我就穿西装,穿那件藏青色的好吧。”

いつも俄雨にわかあめがあると、蘆屋じゅうの自動車が引っ張りだこ1になるので、貞之助の注意で直ぐに電話をして置いたのであるが、三人の身支度が出来上って、五時十五分が二十分になっても、車は来てくれないし、雨はいよいよ激しくなる。あるだけのガレージを呼び出して見るけれども、今日は日が吉いので結婚が何十組もあるのと、生憎雨が降り出したのとで、皆出払っておりますから帰りましたらお廻し致しますと云う挨拶である。今日は神戸まで車で直行するとして、五時三十分に出さえすればきっちり六時には間に合うのであるが、その三十分も過ぎてしまったので、貞之助は気が気でなく、井谷に催促されないうちに何とか断って置かなければと、オリエンタルへ電話をかけると、もう此方は皆さんお揃いでいらっしゃいますと云う。とこうするうち六時五分前になって漸く車が来てくれたが、折柄2土砂降りに降り出した中を運転手がさしかける番傘に送られて順々に一人ずつ走って行きながら、したたか3襟元に冷たいしぶきを受けた幸子は、車内に納まってほっとすると同時に、そう云えば雪子の見合いと云うと、この前の時も、その前の時も、雨が降ったことを思い出していた。

一下骤雨,芦屋一带的出租车就供不应求,尽管按贞之助吩咐随即打电话预约了,但是三个人整装待发,一直等到五点十五分、二十分,汽车还杳无踪影,雨却越下越大。女佣说正在逐一向所有汽车公司挂电话,他们的答复是:“今天是吉日,结婚的有几十对之多,不凑巧又碰上下雨,全部汽车都出去了,只要有车回来,马上派往府上。” 今天打算打车直达神户,只要五点半能开车,正好六点可以赶到。但是,现在已过五点半了,贞之助坐立不安,他想必须趁着井谷来电话催促以前去说明一下,于是给东方饭店挂了电话,对方回答:这边客人都已到齐了。不大工夫差五分就六点了,汽车才终于来了。此时瓢泼似的暴雨往下倾泻。那司机撑着伞,把他们一个一个地小跑着接到车内。幸子的脖子上溅了不少凉丝丝的雨点。她一钻进汽车就觉得放心了,随即回想起来,前几次雪子去相亲,都碰上了下雨天。

「いやア、三十分遅刻してしまいました。―――」貞之助は、外套預所のところまで迎えに出ていた井谷を見ると、挨拶よりも先ず詑び言を並べた。「―――今日は日が吉いので、結婚が多いところへ持って来て、突然の雨で、車がなかなか来てくれなかったもんですから、………」

“哎呀,迟到了三十分钟!” 贞之助一见正在衣帽间迎候的井谷,还没问候就先道歉,“今天是个吉日,结婚的人多,又突然下雨,汽车很难叫到……”

「ほんとうに、私も此処ここへ参ります途中で、お嫁さんを乗せた自動車を何台も見かけましたわ」そう云って井谷は、幸子と雪子とがコートを預けている隙に、「あの、ちょっと、―――」と、貞之助に眼で合図をして蔭へ呼びながら、「只今彼方で瀬越さん達にお引き合せ致しますが、………あの、その前にちょっとお伺い致しますが、もう蒔岡さんの方ではすっかりお調べがお済みになっていらっしゃいますのでしょうか」

“可不是嘛,我来这儿的路上,也看见好几辆坐着新娘的汽车。” 井谷说着话,瞅着幸子和雪子去寄存外套的当儿,向贞之助递了个眼色,“哎,您来一下!” 她把贞之助叫到一旁说:“我这就领诸位去那边,介绍给濑越先生他们……嗯,去前我得向您讨教一下,府上的调查都完了没有?”

「はあ、それが実は何なのです、瀬越さん御本人についての調べは済んでいまして、もう申分のない方だと云うて大変喜んでいるのですが、今お国元の方のことを本家で調べていますので。………尤もそれも、あらかた分っておりまして、大体差支えないように云うているのですが、ただ或る方面に頼んだ報告が一つだけ来ていないから、もう一週間も待って戴いたらと申しているような訳なのです」

“啊,情况是这样的,对于濑越先生本人的调查都结束了,无可挑剔,非常令人高兴,只是,本家已派人到他家乡调查去了……不过,这也大致上了解了,据说基本上没什么问题。只是我们委托的某一方面做的调查报告还没收到,请您再等上一个星期就行了。”

「ああ左様で、………」

“哦,是这样……”

「いろいろお骨折にあずかりながら、遅れておりまして申訳ありません。何しろ本家の連中は昔風むかしふで悠長だものですから。………しかし僕にはあなたの御親切なお心持がよく分っていますので、今度のお話は大賛成なのです。今時あまり旧弊なことを云うているとますます婚期を逸してしまうばかりだから、御当人さえ立派な方なら、あとの調べはえ加減なところで宜しいやないかと、僕は極力勧めているのですが、まあ今夜の様子で、当人同士異存がないようなら、今度は多分纏まりそうに思われますな」

“承蒙您多方辛苦周旋,我们又把事情耽搁了,实在抱歉。这是因为我们本家的那几位,做事古板,慢条斯理,所以……我充分理解您的一片热忱,这门亲事我是非常赞成的。到现在还要一味拘泥旧时的门望,只会更加延误婚期。所以,我极力劝说她们,只要本人好,其他情况大体了解一下就行了。今天晚上会面以后,如果他俩没什么意见,我看多半会谈成吧。”

貞之助はあらかじめ幸子と口を合せて置いたので、うまい工合に言訳をしたが、それでも後の半分は正直な自分の気持を述べたのであった。

因为事先和幸子对好口径了,贞之助说得很圆滑。尽管如此,后面那几句话却真实地道出了他的心声。

時間が遅れたので、ロビーでの紹介が簡単に済むと、直ぐ八人が一緒に昇降機しょうこうきに乗って二階の小宴会場に上った。食卓の両端に井谷と五十嵐、片側に瀬越、房次郎夫人、房次郎、片側に瀬越と向い合って雪子、幸子、貞之助、―――昨日幸子が美容院で井谷から相談を受けた時の席順は、片側は瀬越の左右に房次郎夫婦、片側は雪子の左右に貞之助夫妻となっていたが、それでは改まるからと、幸子の提議で斯様かように直して貰ったのである。―――と云う風に列んだ。

时间已不早了,在候客厅里简单地介绍以后,八个人随即乘电梯来到二楼小宴会厅。餐桌两端坐的是井谷和五十岚,一侧坐着濑越、房次郎夫人和房次郎,另一侧是雪子和濑越相对而坐,接着是幸子和贞之助。昨天在美容院商量座次时,井谷提出,一侧是房次郎夫妇分坐于濑越左右,另一侧是贞之助夫妻分坐于雪子两旁,而幸子则提议改成这个样子。

今日こんにちわたくしは、図らずも飛んだ御相伴にあずかりますような訳で、―――」と、五十嵐がもう好い時分と見ると、スープをすくいながら皮切りをした。「―――本来私は瀬越君と同郷ではございますが、御覧の如く年齢の点では確かに私の方が遥か先輩でございまして、別段学校が一緒と云う訳でもございません。強いて御縁があると申せば、お互の生家が同じ町の近い所にあったぐらいなことでしょうかな。ですから今日斯様な席へ列しますることは、光栄の至りではございますけれども、甚だ出過ぎておりますようで恐縮に存じますのですが、実を申しますと、此処へ私を無理に引っ張り出しましたのは、外ならぬ村上君なのでございまして、どうも村上君は、何ですよ、………お姉さんの井谷さんも中々男勝りの雄弁なお方でいらっしゃるが、御令弟の方もそれに劣らずお口上手でありまして、今日のような極めて有意義なる宴会に出席を乞われて応諾を渋るとは何事か、それでは折角の会合にケチがつく、こう云う時には是非老人が一枚加わる必要があるのだから、君の禿頭はげあたまの手前に対してもげ口上は許さないと、強引に持ちかけられましてな」

“诸位好!我没有想到能有幸陪同诸位……” 五十岚看准了时候,一边舀汤一边说起开场白来,“我和濑越君是同乡,正如诸位所见,在年龄上我痴长许多,忝为先辈,但是并没有和他同校读书,勉强说来有缘的是和濑越君同居一镇,住处邻近。因此,今天能够忝陪末席,确实荣幸之至。只是我不揣冒昧,深感不安。说实话,我是被村上君勉强拉到这里来的,这位村上君啊,实在是——怎么说呢……他的姐姐,这位井谷夫人能言善辩,远胜须眉,而他的口才也毫不逊色。他说:‘邀请您参加今天这种极有意义的宴会,您不痛痛快快答应算什么呢?您不参加,今天这个难得的聚会恐怕有不顺。这种场合非得有位老人参与不可,所以,即使看在您这秃头的分上,也容不得您找借口推辞!’ 就这样,我被硬拉到这里来了。”

「あははははは、しかし常務さん」と、房次郎が云った。「そう仰っしゃる御自身も、御出席になってみて決して悪いお心持はなさらないでしょう」

“哈哈哈!可是,董事先生,” 房次郎笑着说,“尽管这么说,您出席这次宴会,心情绝对不坏吧。”

「いやこの席上で『常務さん』はいけません。今夜は商売のことは忘れてゆっくりと御馳走になりたいもんですな」

“不,这个宴席上不该称 ‘董事先生’。今天晚上我想忘掉生意上的事儿,从从容容地叨扰一顿。”

幸子は娘の時分に、船場の蒔岡の店にもこう云う型に属する剽軽ひょうきん4な禿頭の番頭がいたことを思い出した。大概の大商店が株式組織になった今日では、「番頭さん」が「常務さん」に昇格して羽織前掛の代りに背広を着、船場言葉の代りに標準語を操るようになったけれども、その肌合はだあいなり気持なりは、矢張会社の重役と云うよりおたなの奉公人であって、昔はよくこう云う風な、腰の低い、口の軽い、主人の機嫌気褄きづまを取ることや人を笑わせることの上手な番頭や手代が、何処の店にも一人や二人はいたものであるが、井谷が今夜この人物を加えたのも、座を白けさせない5ようにと云う心づかいでもあったことが察しられた。

幸子想起她未出阁时,船场莳冈商店里也有这么一个滑稽可笑的秃顶掌柜。现在多数大商店都变成了股份公司,“掌柜” 也就升格为 “董事”,由和服改穿西装,船场话也变为一口东京标准话了。但就他们的气质和心情而言,与其说是公司的董事,还不如说是店铺里的店员。往昔,那种点头哈腰、巧舌如簧、一心取悦东家的可笑的能干掌柜和伙计,在任何店铺里都可觅得一二。幸子也察觉到了井谷的良苦用心,今夜特意安排这样一位人物,是为了不使聚会冷场。

五十嵐と房次郎との遣り取りをニヤニヤしながら聞いている瀬越は、貞之助や幸子達が大体写真で想像していたような人柄で、ただ写真よりは実物の方が若く、漸く三十七八位にしか見えなかった。目鼻立は端正であるが、孰方どちらかと云えば愛嬌に乏しい、朴訥ぼくとつな感じの、妙子が批評した通り「平凡な」顔の持ち主で、そう云えば体の恰好、身長、肉附、洋服やネクタイの好み等々に至る迄総て平凡な、巴里仕込みと云うところなどは微塵もない代りには、嫌味のない、堅実な会社員型であった。

濑越在一旁满面春风地听着五十岚和房次郎你来我往。在贞之助和幸子姐妹看来,濑越相貌和照片所见大体差不离,比照片还略显年轻,看上去最多三十七八岁。他五官端正,却比较缺乏魅力,给人以朴实沉稳的感觉。正如妙子一语所评,他有一张 “平凡” 的脸。无论相貌、高矮、胖瘦,西装和领带的款式,他的一切都可用 “平凡” 二字概括无余,全然不像受过巴黎风气熏陶的样子。不过,他也并不令人生厌,是个稳健的职员型的人物。

貞之助は、先ずこれならば第一印象は及第きゅうだいであると思いながら、「瀬越さんは、巴里には何年ぐらいおいでになりました」

贞之助认为他给人的第一印象还是合格的,便问道:“濑越先生在巴黎住了几年?”

「まる二年おりましたけれども、何しろ旧いことなので、―――」

“整整两年,都是陈年往事啦……”

「と仰っしゃいますと、いつ時分」

“这么说来是什么时候?”

「もう十五六年も前、学校を出て間もなく参りましたのです」

“已经有十五六年了,学校毕业以后不久就去了。”

「では御卒業になると直ぐ、本店詰めにおなりになった訳なんですな」

“那么,您是一毕业就进了这家公司的吧?”

「いいえ、そうではございません。今の会社に這入りましたのは帰朝してから後のことなので、仏蘭西へ参りましたのは、ただ漫然と、――実は何です、その時分父親が亡くなりまして、遺産と云う程ではございませんが、少々ばかり自分の自由になるものがありましたので、それを持って出かけて行きましたのですが、まあ、強いて目的と云えば、もっと仏蘭西語が上手になりたいと云うことと、彼方で何か仕事が見付かれば就職してもいいと云うようなことを、ぼんやり考えておったのですけれど、結局どちらの目的も達しないで、全くの漫遊で終ってしまったのです」

“不,不是的,回国以后才进了这家公司。当初我去法国的时候漫无目的。说实话,那时父亲不幸去世,虽然谈不上有什么遗产,多少还有点钱供我自由支配,我就带着这笔钱出国了。啊,如果勉强说有什么目的的话,那就是想进一步学好法语,另外,如果能在法国找到工作,在那边就职也行。其实,这些想法都是很模糊的。结果,任何目的也没达到,完全是漫游一番而已。”

「瀬越君は変っているんですよ」と、房次郎が傍から註釈を入れた。「大概な人が巴里へ行くと、帰るのが嫌になると申しますけれども、瀬越君はすっかり巴里と云う所に幻滅を感じて、猛烈なるホームシックに罹って帰って来たんですから」

“濑越君毕竟不同寻常哟!” 房次郎从旁解释道,“一般人到了巴黎都说不愿意回国了。可是,濑越君对巴黎这个国际大都会彻底失望,害了严重的思乡病才回来的。”

「へーえ、それはどう云う訳で」

“噢?那是为什么?”

「どう云う訳か自分にもよく説明が付かないんですが、要するに、最初の期待が大き過ぎたせいだろうと思うんです」

“为什么我自己也说不清楚,总而言之,我想是最初抱的希望过高了吧。”

「巴里に行って、却って日本のよさが分って帰って来る。―――と云うのも決して悪いことではございませんようですな。それで瀬越君は純日本式のお嬢様が好きになったと云う訳ですか」と、五十嵐が半畳を入れながら途端に含羞はにかんで俯向うつむいてしまった雪子の横顔へ、食卓の此方の隅から敏速びんそくな視線を投げた。

“到了巴黎,反而知道了日本的好处,所以就回来了,这绝不是什么坏事呀!濑越君这才喜欢纯日本趣味的小姐了吧?” 五十岚一边取笑濑越,一边从餐桌这端向突然羞答答地低下了头的雪子迅速瞟了一眼。

「しかし、帰朝なすっても今の会社に勤めておられたら、仏蘭西語は上達なすったでしょうな」と、貞之助が云った。

“虽然回国了,但是在这家公司工作,法语大有长进了吧?” 贞之助说。

「それがそうも参らないんです。会社は仏蘭西の会社ですけれども、日本人が大部分で、仏蘭西人は重役級に二三人いるぐらいなものなんですから」

“也没多大长进。虽说公司是法国的,职员却大部分是日本人,只有两三个法国人担任董事。”

「すると、あまり仏蘭西語の会話をなさる機会はおありにならないんですか」

“这么说来,讲法语的机会不太多吧?”

「まあMM6の船が這入った時なんかに出かけて行ってしゃべるくらいなものでしょうか。商業用の手紙だけは始終書かされますけれども」

“这个嘛,有时法国邮船公司的船只进港了,才去说一说。另外,商业信函一直是由我来写。”

「雪子お嬢さんは、今でもずっと仏蘭西語のお稽古をなすっていらっしゃいますの」と、井谷が聞いた。

“雪子小姐现在还在学习法语吧?” 井谷问道。

「はあ、………姉が習っているものでございますから、そのお附合に、………」

“是的……因为姐姐在学,我是陪她学……”

「先生は誰方でいらっしゃいますの、日本人の方? 仏蘭西人の方?」

“老师是哪一位呢?日本人还是法国人?”

「仏蘭西人で………」と、雪子が半分云いかけたあとを幸子が引き取って、

“法国人……” 雪子刚说一半,幸子就接过话头说:

「………日本人の奥さんになっている方ですの」と、附け加えた。

“是一位日本人的夫人。”

そうでなくても人中へ出ると一層物が云えなくなる雪子は、こう云う席では「でございます」の東京弁で話すのがギゴチなくて、自然言葉の終りの方が曖昧になるのであるが、そこへ行くと幸子の方は、矢張いくらか云いにくそうに言葉尻を胡麻化しはするものの、それでも大阪流のアクセントが余り耳に附かないような技巧を使って、どんなことでも割合に不自然でなく器用にしゃべった。

平常就寡言少语,今天当着众人,雪子更是木讷讷的。在这种场合,她用东京话讲敬语并不流畅,说到话尾巴时自然就含混不清了。在这一方面,这些拗口的话尾巴,幸子说来也难免敷衍,但是,她一口浓重的大阪口音用得颇有技巧,不很刺耳,在任何场合都比较自然,应用自如。

「その奥さんは日本語が話せるんですか」と、瀬越がまともに雪子の顔を見ながら云った。

“那位夫人会说日本话吗?” 濑越正面注视着雪子问道。

「はあ、初めは話せなかったのでございますけれど、だんだん話せるようになりまして、この頃ではもうえらい上手に………」

“啊,最初不会说,以后慢慢地学会了,现在已经讲得非常流利了……”

「それが却って為めにならないのでございます」と、幸子が又あとを引き取って、「―――稽古の間は決して日本語を使わないと云う約束したのでございますけれど、矢張そう行かなくて、つい日本語が出てしまいまして、………」

“这样对我们反倒没什么好处。” 幸子又接过话头,“我们原来约定了学习的时候决不准讲日语,结果没有做到,不知不觉冒出了日本话……”

「僕は稽古を隣の部屋で聞いていることがあるんですが、三人共殆ど日本語でばかりしゃべってるんですよ」

“我在隔壁房间听过你们学习,三个人几乎都说日语。”

「あら、そんなことあれへんわ」と、幸子は思わず大阪弁を出して夫の方へ向き直った。「仏蘭西語かて使うてますねんけど、あんさんとこまで聞えしませんねん」

“哎呀!没那回事!” 幸子转向丈夫想也没想就冒出了大阪话,“我们也讲些法语,只是你那里听不见罢了。”

「そうらしいですよ。たまには仏蘭西語も使うてるらしいんですが、その時はいつも虫の息みたいな小さな声できまり悪そうに云うもんですから、隣の部屋まで聞えて来る筈がないんです。あれではいくらやったって上達しない訳ですが、どうせ奥さんやお嬢さんの語学の稽古なんて、何処でもあんなものなんでしょうな」

“这也有可能。那么偶尔也像是在讲法语,害羞似的说不出口,声音小得像虫子似的,也难怪隔壁都听不见。这样学习一辈子也别想学好。反正太太小姐们学习外语,到哪里都是这样吧。”

「まあ、えらい云われ方。―――けど、語学の稽古だけやあれしませんね。料理の仕方やら、お菓子の焼き方やら、毛糸の編み方やら、日本語使うてる時かていろいろ教せて貰うてますねん。あんさんこの間あの烏賊いかの料理たいそう気に入って、もっと外にも教せて貰え云うてはったやおませんか

“哟!看你说的!不过,我们不光是学法语,老师还教我们烧菜、做点心、毛线编织什么的,这时候就用日语呀。前些日子吃的墨鱼你非常满意,不是说了要我们再请她教几道菜吗?”

夫婦の云い合いが余興になって皆笑い出したが、

夫妻俩唇枪舌剑,像是餐后娱乐节目似的,说得大家都笑了。

「その、烏賊のお料理と申しますと?」と云う房次郎夫人の質問から、烏賊をトマトで煮て少量の大蒜にんにくで風味を添える仏蘭西料理の説明が暫くつづいた。

“您刚才说的墨鱼是怎么做的呀?” 房次郎夫人追问道,幸子便花了一些时间来说明,墨鱼烧西红柿,搁少许大蒜,就是一道法兰西风味的菜肴了。

Footnotes#

  1. 引っ張り凧: [名] 人気があって、多くの人から争って求められること

  2. 折柄: [名] 場合

  3. 強か: [形動] 強く勇猛であるさま

  4. 剽軽: [名・形動] 気軽でおどけた感じのすること

  5. 座が白ける:盛り上がっていた一座の雰囲気がよそよそしい感じになる

  6. MM (Messageries Maritimes): 法国的海运公司

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永雏多氢菲
∴さて····どこへ行こうか?
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