坂口安吾: 桜の森の満開の下
first published:『肉体』 1947年6月・創刊号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=dEsv4rctOdk
desc: 一段关于某山岭的山贼与妖异美艳、生性残酷的女子之间的奇幻怪谈。采用传说故事的文体,讲述 “樱花森林盛放之下令人毛骨悚然” 的故事,描绘了化作花瓣消散无踪的女子,以及男子在只剩冰冷虚空笼罩的漫天飞樱中的孤独
桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて喧嘩して、これは江戸時代からの話で、大昔は桜の花の下は怖しいと思っても、絶景だなどとは誰も思いませんでした。近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になりますので、能にも、さる母親が愛児を人さらいにさらわれて子供を探して発狂して桜の花の満開の林の下へ来かかり見渡す花びらの陰に子供の幻を描いて狂い死して花びらに埋まってしまう(このところ小生の蛇足)という話もあり、桜の林の花の下に人の姿がなければ怖しいばかりです。
每当樱花盛开时,人们就会拎着美酒,大啖丸子,信步于花下,不住夸赞着 “美景” “春色烂漫”,喜溢眉宇,满面春风,但这全是信口胡诌。为什么说是胡诌呢?大批人聚集在樱花树下,喝得酩酊大醉,随地呕吐,大打出手,这是从江户时代便有的事,以前有人会觉得樱花树下是可怕的地方,绝对没人会认为那是什么美景。近来一提到樱花树下,由于总是游人如织,在那里饮酒喧闹,所以给人欢快、热闹之感,但如果将人们从樱花树下移除,它便会顿时化为骇人的景致。因此在能剧中有个故事曾提到:某位母亲因心爱的孩子遭人贩子掳走,她四处找寻孩子,就此发疯,来到樱花盛开的树林下,在放眼尽是花瓣的樱花树下描绘孩子的幻影,因此发狂而死,为花瓣所掩埋(这部分是在下自己画蛇添足)。樱花林下一旦没有人影,就只剩骇人的气氛。
昔、鈴鹿峠にも旅人が桜の森の花の下を通らなければならないような道になっていました。花の咲かない頃はよろしいのですが、花の季節になると、旅人はみんな森の花の下で気が変になりました。できるだけ早く花の下から逃げようと思って、青い木や枯れ木のある方へ一目散に走りだしたものです。一人だとまだよいので、なぜかというと、花の下を一目散に逃げて、あたりまえの木の下へくるとホッとしてヤレヤレと思って、すむからですが、二人連は都合が悪い。なぜなら人間の足の早さは各人各様で、一人が遅れますから、オイ待ってくれ、後から必死に叫んでも、みんな気違いで、友達をすてて走ります。それで鈴鹿峠の桜の森の花の下を通過したとたんに今迄仲のよかった旅人が仲が悪くなり、相手の友情を信用しなくなります。そんなことから旅人も自然に桜の森の下を通らないで、わざわざ遠まわりの別の山道を歩くようになり、やがて桜の森は街道を外れて人の子一人通らない山の静寂へとり残されてしまいました。
昔日,铃鹿岭也有这么一条道路,旅人都得从樱花林下路过。在没开花的时节倒是安然无事,可一旦迈入花季,旅人来到樱花林下,个个都会变得意乱神迷。会想早点从樱花林下逃离,头也不回地朝有绿树或枯树的地方发足飞奔。只身一人时倒还好,因为头也不回地逃离樱花树下,来到正常的树下后,便会松口气,心中直呼 “好险”,就此平安无事,但倘若是两人同行,可就不妙了。因为每个人的脚程快慢不同,总有一人会落在后头,所以就算在后方死命叫喊 “喂,等等我”,但此时大多数人都已精神错乱,只会丢下朋友,一味向前狂奔。因此旅人们只要从铃鹿岭的樱花林下路过,尽管过去交情深笃,也会就此交恶,不再相信与对方的友情。基于这个缘故,旅人们自然而然不再从樱花林下路过,会专程绕远路,改走其他山路。过了没多久,樱花林偏离了干道,独自坐落在无人通行的寂静山林中。
そうなって何年かあとに、この山に一人の山賊が住みはじめましたが、この山賊はずいぶんむごたらしい1男で、街道へでて情容赦なく着物をはぎ人の命も断ちましたが、こんな男でも桜の森の花の下へくるとやっぱり怖しくなって気が変になりました。そこで山賊はそれ以来花がきらいで、花というものは怖しいものだな、なんだか厭なものだ、そういう風に腹の中では呟いていました。花の下では風がないのにゴウゴウ風が鳴っているような気がしました。そのくせ風がちっともなく、一つも物音がありません。自分の姿と跫音ばかりで、それがひっそり冷めたいそして動かない風の中につつまれていました。花びらがぽそぽそ散るように魂が散っていのちがだんだん衰えて行くように思われます。それで目をつぶって何か叫んで逃げたくなりますが、目をつぶると桜の木にぶつかるので目をつぶるわけにも行きませんから、一そう気違いになるのでした。
几年之后,一名山贼开始在这座山中住下。此人性情残暴,会来到干道上,剥下旅人们身上衣物,取人性命,下手从不留情。但即使是他这样的男人,来到樱花林下也一样心生恐惧,意乱神迷。于是从那之后,山贼开始讨厌樱花,他暗自在心中嘀咕——樱花这种东西真是可怕,看了就讨厌。明明没风,但总觉得樱花底下风声呼号。不过,正因为没有风声,所以四周阒静无声。只有自己的身影和脚步声,在寂静、冰冷、毫无动静的风中被紧紧包覆,就像花瓣一片片飘零凋落,感觉灵魂好似也随之飘散,生命在一点一滴地流失。所以人们才会想闭上眼,放声大叫,拔腿逃离,但要是闭上眼又会撞上樱花树,所以无法就此闭着眼睛,这样一来则更加精神错乱。
けれども山賊は落付いた男で、後悔ということを知らない男ですから、これはおかしいと考えたのです。ひとつ、来年、考えてやろう。そう思いました。今年は考える気がしなかったのです。そして、来年、花がさいたら、そのときじっくり考えようと思いました。毎年そう考えて、もう十何年もたち、今年も亦、来年になったら考えてやろうと思って、又、年が暮れてしまいました。
不过山贼生性冷静,不知后悔为何物,所以尽管对此感到奇怪,却也不惧。明年再思考这个问题吧——他如是想,因为今年没心思细想。这个问题等明年花开,到时候再来好好推敲一番,他每年都这么想,一晃眼十几个年头过去,今年他又打算等明年再来细想,转眼又是岁末。
そう考えているうちに、始めは一人だった女房がもう七人にもなり、八人目の女房を又街道から女の亭主の着物と一緒にさらってきました。女の亭主は殺してきました。
在他抱持这个念头期间,妻子从原本的一人增加为七人,接着又从干道上掳来第八名妻子,连同抢下她丈夫身上的衣物。至于她丈夫,自然是一刀斩杀。
山賊は女の亭主を殺す時から、どうも変だと思っていました。いつもと勝手が違うのです。どこということは分らぬけれども、変てこで、けれども彼の心は物にこだわることに慣れませんので、そのときも格別深く心にとめませんでした。
打从杀死女子丈夫的时候起,山贼便觉得不对劲,感觉与平时不太一样。究竟是哪里不一样,也说不上来,但就是觉得古怪,不过他向来不习惯拘泥于这种小事上,因而当时也就没特别在意。
山賊は始めは男を殺す気はなかったので、身ぐるみ脱がせて、いつもするようにとっとと失せろと蹴とばしてやるつもりでしたが、女が美しすぎたので、ふと、男を斬りすてていました。彼自身に思いがけない出来事であったばかりでなく、女にとっても思いがけない出来事だったしるしに、山賊がふりむくと女は腰をぬかして彼の顔をぼんやり見つめました。今日からお前は俺の女房だと言うと、女はうなずきました。手をとって女を引き起すと、女は歩けないからオブっておくれと言います。山賊は承知承知と女を軽々と背負って歩きましたが、険しい登り坂へきて、ここは危いから降りて歩いて貰おうと言っても、女はしがみついて厭々、厭ヨ、と言って降りません。 「お前のような山男が苦しがるほどの坂道をどうして私が歩けるものか、考えてごらんよ」
实际上起初山贼并无意取男子性命,他原本打算剥光他的衣服后,像往常一样说一声 “快滚吧”,一脚将他踢开。但因为他身旁的女子美艳不可方物,山贼就此一刀杀了男子。此举不光他自己感到意外,对那名女子而言,同样也是出乎意料,当山贼回身而望时,女子吓得腿软,一脸茫然地望着他。山贼说:“从今天起,你就是俺老婆了。” 女子点了点头。山贼执起女子的手,扶她站起,女子却说 “我走不了,你背我”。山贼应了声 “没问题”,轻盈地背起女子,迈步前行,但来到险峻的上坡处,山贼说:“这里很危险,你下来自己走。”但女子却紧抓着他应道 “我不要,我不要”,怎样也不肯下来,“你想想,这种坡道,连你这种住惯山林的男人都觉得吃力了,我怎么可能走得动?”
「そうか、そうか、よしよし」と男は疲れて苦しくても好機嫌でした。「でも、一度だけ降りておくれ。私は強いのだから、苦しくて、一休みしたいというわけじゃないぜ。眼の玉が頭の後側にあるというわけのものじゃないから、さっきからお前さんをオブっていてもなんとなくもどかしくて仕方がないのだよ。一度だけ下へ降りてかわいい顔を拝ましてもらいたいものだ」
“这样啊,好,好。” 山贼累得上气不接下气,但还是满心欢喜,“不过,你还是先下来吧。俺有的是力气,所以并不是因为体力吃不消,想停下来喘气,而是因为后脑勺没长眼睛,打从刚才起就一直背着你,心里忍不住急了起来。俺想先放你下来,好好看看你可爱的脸蛋。”
「厭よ、厭よ」と、又、女はやけに首っ玉にしがみつきました。「私はこんな淋しいところに一っときもジッとしていられないヨ。お前のうちのあるところまで一っときも休まず急いでおくれ。さもないと、私はお前の女房になってやらないよ。私にこんな淋しい思いをさせるなら、私は舌を噛んで死んでしまうから」
“我不要,我不要。” 女子死命地抱紧山贼的脖子,“这么冷清的地方,我一刻都待不了。你快点带我去你住的地方,一刻都别停。否则我就不当你的妻子。你要是让我感到孤单冷清,我就咬舌自尽!”
「よしよし。分った。お前のたのみはなんでもきいてやろう」
“好,好,知道了。你的要求,俺一概照办。”
山賊はこの美しい女房を相手に未来のたのしみを考えて、とけるような幸福を感じました。彼は威張りかえって肩を張って、前の山、後の山、右の山、左の山、ぐるりと一廻転して女に見せて、
山贼面对这位美若天仙的老婆,对日后的生活充满期待,感受到一股几欲融化般的幸福。他耀武扬威地昂首挺胸,转了一圈,让女子看前山、后山、右山、左山。
「これだけの山という山がみんな俺のものなんだぜ」
“这一大片山全是俺的。”
と言いましたが、女はそんなことにはてんで取りあいません。彼は意外に又残念で、
山贼如此说道,但女子完全没搭理。山贼感到既意外,又失望。
「いいかい。お前の目に見える山という山、木という木、谷という谷、その谷からわく雲まで、みんな俺のものなんだぜ」
“你听好了。你眼前看到的所有山林、溪谷,甚至是从溪谷涌现的浮云,全都是俺的。”
「早く歩いておくれ。私はこんな岩コブだらけの崖の下にいたくないのだから」
“你快走吧,我不想在这种满是岩石的山崖下久待。”
「よし、よし。今にうちにつくと飛びきりの御馳走をこしらえてやるよ」
“好,好。到家后,俺替你张罗一顿丰盛的大餐。”
「お前はもっと急げないのかえ。走っておくれ」
“你就不能再快一点吗?用跑的!”
「なかなかこの坂道は俺が一人でもそうは駈けられない難所だよ」
“这处坡道地势这么陡,连俺自己一个人走的时候也没办法跑呢。”
「お前も見かけによらない意気地なしだねえ。私としたことが、とんだ甲斐性なしの女房になってしまった。ああ、ああ。これから何をたよりに暮したらいいのだろう」
“真看不出,原来你这么窝囊。我竟然嫁给了这么没用的人当老婆。唉——唉——今后我该仰赖什么过日子才好啊。”
「なにを馬鹿な。これぐらいの坂道が」
“胡说什么呢。不过就区区一条坡道嘛。”
「アア、もどかしい2ねえ。お前はもう疲れたのかえ」
“唉,真令人着急。我看你是累了吧?”
「馬鹿なことを。この坂道をつきぬけると、鹿もかなわぬように走ってみせるから」
“说什么傻话。待俺上完坡,就跑给你看,保证连鹿都追不上!”
「でもお前の息は苦しそうだよ。顔色が青いじゃないか」
“可是你好像喘得上气不接下气,还脸色发青呢。”
「なんでも物事の始めのうちはそういうものさ。今に勢いのはずみがつけば、お前が背中で目を廻すぐらい速く走るよ」
“做任何事,一开始都是这样。待会儿跑顺了,就会健步如飞,保证你在俺背后会晃得头昏眼花。”
けれども山賊は身体が節々からバラバラに分かれてしまったように疲れていました。そしてわが家の前へ辿りついたときには目もくらみ耳もなり嗄れ声のひときれをふりしぼる力もありません。家の中から七人の女房が迎えに出てきましたが、山賊は石のようにこわばった身体をほぐして背中の女を下すだけで勢一杯でした。
话虽如此,但山贼其实已精疲力竭,全身关节都快散了。当他返抵家门时,早已两眼发黑,耳鸣不止,甚至连用嘶哑的声音说句话的力气也没有了。家中的七个老婆前来相迎,而山贼光是放松自己像石头般僵硬的身躯,放背后的女人下来,就已是竭尽全力了。
七人の女房は今迄に見かけたこともない女の美しさに打たれましたが、女は七人の女房の汚さに驚きました。七人の女房の中には昔はかなり綺麗な女もいたのですが今は見る影もありません。女は薄気味悪がって男の背へしりぞいて、
七个老婆看到这位从未见过的女子,皆因她的美貌而大受震撼,但女子则是因为这七个老婆的肮脏模样而大为震惊。这七个老婆当中,有的昔日也曾是花容月貌,但如今已风华不再。女子不禁感到害怕,退到了山贼的背后。
「この山女は何なのよ」
“哪来的这些山怪啊!”
「これは俺の昔の女房なんだよ」
“她们是俺以前的老婆。”
と男は困って「昔の」という文句を考えついて加えたのはとっさの返事にしては良く出来ていましたが、女は容赦がありません。 「まア、これがお前の女房かえ」
山贼很伤脑筋,总算想出 “以前” 一词,套进话里,虽是匆忙之间想出的回答,但已算是可圈可点,不过女子却毫不客气:“哎呀,她们就是你以前的老婆啊?”
「それは、お前、俺はお前のような可愛いい女がいようとは知らなかったのだからね」
“这是因为俺以前不知道世上有你这样的可人儿。”
「あの女を斬り殺しておくれ」
“那你杀了那个女人。”
女はいちばん顔形のととのった一人を指して叫びました。
女子指着当中容貌最端正的一人喊道。
「だって、お前、殺さなくっとも、女中だと思えばいいじゃないか」
“大可不必杀了她吧,你就把她当侍女看待不是很好吗?”
「お前は私の亭主を殺したくせに、自分の女房が殺せないのかえ。お前はそれでも私を女房にするつもりなのかえ」
“你杀了我丈夫,却舍不得杀自己老婆吗?你这样还想娶我当老婆吗?”
男の結ばれた口から呻きがもれました。男はとびあがるように一躍りして指された女を斬り倒していました。然し、息つくひまもありません。
从山贼紧闭的双唇中传出一丝呻吟。他突然虎跃而起,一刀斩杀女子所指的那个老婆,但他根本没空喘息。
「この女よ。今度は、それ、この女よ」
“换这个女的。这次杀这个女人。”
男はためらいましたが、すぐズカズカ歩いて行って、女の頸へザクリとダンビラ3を斬りこみました。首がまだコロコロととまらぬうちに、女のふっくらツヤのある透きとおる声は次の女を指して美しく響いていました。 「この女よ。今度は」
山贼踌躇了一会儿,但旋即大步走向前,朝这个老婆的脖子手起刀落。人头滚向地面,兀自未停,女子已指向下一个女人,响起她那娇柔清亮的声音:“接下来是这女人。”
指さされた女は両手に顔をかくしてキャーという叫び声をはりあげました。その叫びにふりかぶって、ダンビラは宙を閃いて走りました。残る女たちは俄に一時に立上って四方に散りました。
被她指到的女人双手掩面,放声尖叫。山贼举刀过顶,朝尖叫处划过一道寒光。其他女人马上站起身,四处逃散。
「一人でも逃したら承知しないよ。藪の陰にも一人いるよ。上手へ一人逃げて行くよ」
“要是逃走一个,我绝不原谅你。草丛里躲着一个,还有一个往上游逃去了。”
男は血刀をふりあげて山の林を駈け狂いました。たった一人逃げおくれて腰をぬかした女がいました。それはいちばん醜くて、ビッコの女でしたが、男が逃げた女を一人あまさず斬りすてて戻ってきて、無造作にダンビラをふりあげますと、
山贼抡起血刀,在山林中东奔西跑。当中只有一名女子因为来不及逃开,吓得瘫软在地。她是里头长相最丑的女人,而且还跛脚,不过当男子将逃跑的女人一一斩杀,返回原地,随手举起血刀准备斩落时——
「いいのよ。この女だけは。これは私が女中に使うから」
“这女的就免了。我要留她当侍女。”
「ついでだから、やってしまうよ」
“反正顺便,就一并杀了吧。”
「バカだね。私が殺さないでおくれと言うのだよ」
“你可真傻。我的意思是叫你别杀了她。”
「アア、そうか。ほんとだ」
“这样啊?好吧。”
男は血刀を投げすてて尻もちをつきました。疲れがどッとこみあげて目がくらみ、土から生えた尻のように重みが分ってきました。ふと静寂に気がつきました。とびたつような怖ろしさがこみあげ、ぎょッとして振向くと、女はそこにいくらかやる瀬ない風情でたたずんでいます。男は悪夢からさめたような気がしました。そして、目も魂も自然に女の美しさに吸いよせられて動かなくなってしまいました。けれども男は不安でした。どういう不安だか、なぜ、不安だか、何が、不安だか、彼には分らぬのです。女が美しすぎて、彼の魂がそれに吸いよせられていたので、胸の不安の波立ちをさして気にせずにいられただけです。
山贼将血刀抛向一旁,一屁股坐向地面。疲劳感铺天盖地袭来,眼前为之一黑,他感觉屁股就像是从土里长出似的,清楚感觉到自身的重量。这时,蓦然察觉四周的寂静,突然生出一股恐惧感,令他大吃一惊,回身而望,发现女子站在原地,显得闷闷不乐。男子有一种从噩梦中醒来的感受,接着他的目光和灵魂都很自然地被女子的美所吸引,浑身无法动弹。但同时心中感到不安,是何种不安,为何不安,什么令他不安,他自己也不清楚。然而女子实在太过美丽,就此吸走了他的灵魂,所以他才能泰然面对心中不安的波涛,不以为意。
なんだか、似ているようだな、と彼は思いました。似たことが、いつか、あった、それは、と彼は考えました。アア、そうだ、あれだ。気がつくと彼はびっくりしました。
他心想,这种感觉还真似曾相识,曾经也有过类似的情形。“啊,对了,就是那个。”当他发现时,把自己吓了一跳。
桜の森の満開の下です。あの下を通る時に似ていました。どこが、何が、どんな風に似ているのだか分りません。けれども、何か、似ていることは、たしかでした。彼にはいつもそれぐらいのことしか分らず、それから先は分らなくても気にならぬたちの男でした。
正是那盛开的樱花林下。这类似从樱花林下走过的感觉。他不知道是哪里像,又是怎么个像法,不过两者之间确实有相似之处。山贼的个性就是如此,总是一知半解,也不打算有更深一层的了解。
山の長い冬が終り、山のてっぺんの方や谷のくぼみに樹の陰に雪はポツポツ残っていましたが、やがて花の季節が訪れようとして春のきざしが空いちめんにかがやいていました。
山中漫长寒冬结束,尽管山巅和谷底的树荫下仍留有残雪,但花季即将到来,整面天空都呈现出春日将至的兆头。
今年、桜の花が咲いたら、と、彼は考えました。花の下にさしかかる時はまだそれほどではありません。それで思いきって花の下へ歩きこみます。だんだん歩くうちに気が変になり、前も後も右も左も、どっちを見ても上にかぶさる花ばかり、森のまんなかに近づくと怖しさに盲滅法4たまらなくなるのでした。今年はひとつ、あの花ざかりの林のまんなかで、ジッと動かずに、いや、思いきって地べたに坐ってやろう、と彼は考えました。そのとき、この女もつれて行こうか、彼はふと考えて、女の顔をチラと見ると、胸さわぎがして慌てて目をそらしました。自分の肚が女に知れては大変だという気持が、なぜだか胸に焼け残りました。
山贼心想,今年等樱花盛开后,要大胆一试。刚走进樱花树下时,还不会有什么异状,于是他拿定主意,朝樱花林中走去。先前走在樱花林下,会渐感意乱神迷,不管前后左右,往哪个方向瞧,一律都是覆满头顶的樱花,而往樱花林中央走近后,则会因极度的恐惧而盲目地横冲直撞。他心想,今年要在樱花盛开的林中静止不动,不,干脆就坐在地上吧。到时候也一并带这个女人去——他突然兴起这个念头,朝女子瞄了一眼,接着感到一阵心神不宁,急忙别过脸去。“要是让这个女人知道俺心中的想法,那可就糟了。” 不知为何,这个想法深深烙印在他心中。
女は大変なわがまま者でした。どんなに心をこめた御馳走をこしらえてやっても、必ず不服を言いました。彼は小鳥や鹿をとりに山を走りました。猪も熊もとりました。ビッコの女は木の芽や草の根をさがしてひねもす林間をさまよいました。然し女は満足を示したことはありません。
女子天生刁蛮任性,不论山贼再怎么用心帮她张罗菜肴,她都不满意。山贼在山林中奔走,猎捕飞鸟和野鹿,也会猎杀熊或野猪。那名跛脚侍女则是终日在林间找寻树芽和草根,但女子从未显露满意之色。
「毎日こんなものを私に食えというのかえ」
“你打算每天让我吃这种东西吗?”
「だって、飛び切り5の御馳走なんだぜ。お前がここへくるまでは、十日に一度ぐらいしかこれだけのものは食わなかったものだ」
“这已经是上等佳肴了。在你来这里之前,这类的菜肴俺平均十天才吃得上一次。”
「お前は山男だからそれでいいのだろうさ。私の喉は通らないよ。こんな淋しい山奥で、夜の夜長にきくものと云えば梟の声ばかり、せめて食べる物でも都に劣らぬおいしい物が食べられないものかねえ。都の風がどんなものか。その都の風をせきとめられた私の思いのせつなさがどんなものか、お前には察しることも出来ないのだね。お前は私から都の風をもぎとって、その代りにお前の呉れた物といえば鴉や梟の鳴く声ばかり。お前はそれを羞かしいとも、むごたらしいとも思わないのだよ」
“你是山林野汉,所以对这种东西觉得满意,但我却是难以下咽啊。住在这种冷清的深山里,漫漫长夜里听到的尽是猫头鹰的叫声,至少在饮食上总该有不输京都的美食吧。啊!京都的风雅!现在完全被断绝京都风雅的我,心中是何等落寞,想必你不会明白。你夺走了我所有的京都风雅,而能给我的,就只有乌鸦和猫头鹰的啸叫。你却对此一点都不觉得羞愧、残忍。”
女の怨じる言葉の道理が男には呑みこめなかったのです。なぜなら男は都の風がどんなものだか知りません。見当もつかないのです。この生活、この幸福に足りないものがあるという事実に就て思い当るものがない。彼はただ女の怨じる風情の切なさに当惑し、それをどのように処置してよいか目当に就て何の事実も知らないので、もどかしさに苦しみました。
对于女子的这番怨怼之言,山贼感到莫名其妙。因为他根本不知道何谓京都风雅,也无从想象,更想不透竟然有人还会对现在这样的生活和幸福感到不满。他就只是对女子所埋怨的风雅不足感到困惑,也完全不懂该如何应对,因而深为这样的焦急所苦。
今迄には都からの旅人を何人殺したか知れません。都からの旅人は金持で所持品も豪華ですから、都は彼のよい鴨6で、せっかく所持品を奪ってみても中身がつまらなかったりするとチェッこの田舎者め、とか土百姓めとか罵ったもので、つまり彼は都に就てはそれだけが知識の全部で、豪華な所持品をもつ人達のいるところであり、彼はそれをまきあげるという考え以外に余念はありませんでした。都の空がどっちの方角だということすらも、考えてみる必要がなかったのです。
过去不知有多少来自京都的旅人命丧他刀下,来自京都的旅人都是富豪,所带的行李也都很奢华,所以来自京都的人都是他的肥羊。当他好不容易抢来人们的行李,打开一看,发现里头尽是些不值钱的东西时,他便会咒骂一句 “啐,去你的乡巴佬”,或是 “好你个土老百姓”。也就是说,他对京都的了解就仅此而已,那是拥有奢华行李的人们所住的地方,而他对京都人唯一会有的念头,就是要将他们洗劫一空。至于京都的天空在哪个方向,对他而言,完全没必要去探究。
女は櫛だの笄7だの簪だの紅だのを大事にしました。彼が泥の手や山の獣の血にぬれた手でかすかに着物にふれただけでも女は彼を叱りました。まるで着物が女のいのちであるように、そしてそれをまもることが自分のつとめであるように、身の廻りを清潔にさせ、家の手入れを命じます。その着物は一枚の小袖と細紐だけでは事足りず、何枚かの着物といくつもの紐と、そしてその紐は妙な形にむすばれ不必要に垂れ流されて、色々の飾り物をつけたすことによって一つの姿が完成されて行くのでした。男は目を見はりました。そして嘆声をもらしました。彼は納得させられたのです。かくして一つの美が成りたち、その美に彼が満たされている、それは疑る余地がない、個としては意味をもたない不完全かつ不可解な断片が集まることによって一つの物を完成する、
女子很珍惜发梳、笄、发簪、口红等物品,每当山贼要用沾满泥巴的手,或是染了野兽血污的手碰触女子的衣物时,总免不了挨她一顿训斥。就像衣服是女子的性命一般,而她的唯一职责就是守护衣物,她把自己打理得干干净净,命山贼整理修缮屋子。至于她身上的服饰,光一件窄袖和服和细绳还不够,一定得搭上好几件衣服和多条细绳,而且细绳还得绑成奇特的形状,垂挂在身上,再配合各种饰品,这样才算打扮完毕。山贼看得瞠目结舌,赞叹不已。他这才明白,就是如此大费周章才成就了女子的美,而他也因这样的美而得到满足。此事不容置疑,就部分来看这种美毫无意义,而且既不完整,也是无法理解的碎片,但在汇聚之后则形成一个完整之物;如果将此物分解,又会回归为无意义的碎片,山贼以自己的想法来理解这当中的道理,视此为一种奇妙的魔术。
男は山の木を切りだして女の命じるものを作ります。何物が、そして何用につくられるのか、彼自身それを作りつつあるうちは知ることが出来ないのでした。それは胡床と肱掛でした。胡床はつまり椅子です。お天気の日、女はこれを外へ出させて、日向に、又、木陰に、腰かけて目をつぶります。部屋の中では肱掛にもたれて物思いにふけるような、そしてそれは、それを見る男の目にはすべてが異様な、なまめかしく、なやましい姿に外ならぬのでした。魔術は現実に行われており、彼自らがその魔術の助手でありながら、その行われる魔術の結果に常に訝りそして嘆賞するのでした。
山贼砍伐山上的林木,制作女子吩咐的物品。到底要制作什么,所为何用,他在制作的过程中始终没能搞懂。他做了胡床和肱挂。胡床就是所谓的椅子。在天放晴的日子,女子会命他搬出屋外,摆在向阳处或是树荫下,自己则坐在上头闭目养神。如在屋内,她会倚坐在扶手上,陷入沉思,而这些在山贼眼中,显得如此奇特、风情万种,而令人心烦意乱。女子在现实中施展魔术,而他自己身为魔术的助手,却又无时无刻不对魔术的结果感到惊诧、赞叹。
ビッコの女は朝毎に女の長い黒髪をくしけずります8。そのために用いる水を、男は谷川の特に遠い清水からくみとり、そして特別そのように注意を払う自分の労苦をなつかしみました。自分自身が魔術の一つの力になりたいということが男の願いになっていました。そして彼自身くしけずられる黒髪にわが手を加えてみたいものだと思います。いやよ、そんな手は、と女は男を払いのけて叱ります。男は子供のように手をひっこめて、てれながら、黒髪にツヤが立ち、結ばれ、そして顔があらわれ、一つの美が描かれ生まれてくることを見果てぬ夢に思うのでした。
跛脚侍女每天早上都为女子梳理她那头乌黑长发,而梳头用到的水,是山贼从遥远的溪谷清泉汲取而来,山贼对于自己如此用心的辛劳感到欣慰。自己也能为眼前的魔术尽一分心力,是山贼的愿望。他很想伸手轻抚那梳理整齐的黑发,但女子总是把他赶开,对他呵斥道 “不要用你的脏手碰我”。男子就像孩子般把手缩回,望着亮泽的黑发被绑成发型,黑发中露出脸蛋。男子见证了 “美” 的诞生,感觉就像经历了一场不会成真的美梦。
「こんなものがなア」
“这种东西真是……”
彼は模様のある櫛や飾のある笄をいじり廻しました。それは彼が今迄は意味も値打もみとめることのできなかったものでしたが、今も尚、物と物との調和や関係、飾りという意味の批判はありません。けれども魔力が分ります。魔力は物のいのちでした。物の中にもいのちがあります。
他把玩着上头有图案的发梳和带有装饰的笄。那是他过去看不出有任何意义和价值之物,现在依旧如此,对于事物间的调和、关系、装饰这类的意义,他仍没有任何见解。不过,他明白这当中存有魔力,魔力是物品的生命,物品也存在着生命。
「お前がいじってはいけないよ。なぜ毎日きまったように手をだすのだろうね」
“你别这样把玩。为什么你每天都非得这样把玩不可呢?”
「不思議なものだなア」
“因为俺觉得很不可思议。”
「何が不思議なのさ」
“什么不可思议?”
「何がってこともないけどさ」
“俺也说不上来。”
と男はてれました。彼には驚きがありましたが、その対象は分らぬのです。
男子感到难为情。他为之惊讶,但不知是什么令自己惊讶。
そして男に都を怖れる心が生れていました。その怖れは恐怖ではなく、知らないということに対する羞恥と不安で、物知りが未知の事柄にいだく不安と羞恥に似ていました。女が「都」というたびに彼の心は怯え戦きました。けれども彼は目に見える何物も怖れたことがなかったので、怖れの心になじみがなく、羞じる心にも馴れていません。そして彼は都に対して敵意だけをもちました。
男子就此对京都产生畏怯之心。他的畏怯不是恐惧,而是对不明白的事物所抱持的羞惭和不安,类似博学者对未知事物所抱持的羞惭和不安。每次女子一谈到“京都”,男子内心就会为之战栗。然而,只要是肉眼看得见的事物,他从不畏惧,所以他不习惯这种羞愧心,不适应这种恐惧心,因而他对京都只怀有敌意。
何百何千の都からの旅人を襲ったが手に立つ者がなかったのだから、と彼は満足して考えました。どんな過去を思いだしても、裏切られ傷けられる不安がありません。それに気附くと、彼は常に愉快で又誇りやかでした。彼は女の美に対して自分の強さを対比しました。そして強さの自覚の上で多少の苦手と見られるものは猪だけでした。その猪も実際はさして怖るべき敵でもないので、彼はゆとりがありました。
他袭击过成百上千名来自京都的旅人,从来没有人足以与他匹敌,他对此相当满足。不管再怎么回忆过往,他都不会感受到怕遭人背叛或伤害的不安。当他察觉这点后,时常感到既愉快,又自豪。他拿女子的美貌和自己的勇猛做对比,而对自己的勇猛有所自觉后,他认为比较难以对付的对象,就只有野猪了。而事实上,野猪也不是多么可怕的敌人,所以他一样保有一份从容。
「都には牙のある人間がいるかい」
“京都有长獠牙的人吗?”
「弓をもったサムライがいるよ」
“有持弓的武士。”
「ハッハッハ。弓なら俺は谷の向うの雀の子でも落すのだからな。都には刀が折れてしまうような皮の堅い人間はいないだろう」
“哈哈哈。如果是弓,俺连山谷对面的麻雀都能打下。京都没有皮坚肉硬,足以把刀子震断的人吧?”
「鎧をきたサムライがいるよ」
“有身穿盔甲的武士。”
「鎧は刀が折れるのか」
“盔甲会把刀给震断吗?”
「折れるよ」
“会。”
「俺は熊も猪も組み伏せてしまうのだからな」
“俺可是连熊和野猪都能制服呢。”
「お前が本当に強い男なら、私を都へ連れて行っておくれ。お前の力で、私の欲しい物、都の粋を私の身の廻りへ飾っておくれ。そして私にシンから楽しい思いを授けてくれることができるなら、お前は本当に強い男なのさ」
“如果你真是这么勇猛的男人,那就带我去京都吧。凭你的力量,取得我想要的东西,将京都的精华都装饰在我身上。倘若你能让我由衷感到快乐,那你才真的算是勇猛的男人。”
「わけのないことだ」
“这有何难!”
男は都へ行くことに心をきめました。彼は都にありとある櫛や笄や簪や着物や鏡や紅を三日三晩とたたないうちに女の廻りへ積みあげてみせるつもりでした。何の気がかりもありません。一つだけ気にかかることは、まったく都に関係のない別なことでした。それは桜の森でした。
男子就此决定前往京都。他打算用不到三天三夜的时间,将京都里所有的发梳、笄、发簪、和服、镜子、口红,全堆向女子身边。似乎什么事都不足以令他挂心,唯一挂心的却是和京都毫无关系的另一件事。那片樱花林。
二日か三日の後に森の満開が訪れようとしていました。今年こそ、彼は決意していました。桜の森の花ざかりのまんなかで、身動きもせずジッと坐っていてみせる。彼は毎日ひそかに桜の森へでかけて蕾のふくらみをはかっていました。あと三日、彼は出発を急ぐ女に言いました。
再过两三天,森林里的樱花将完全盛开。他已做好决定,今年一定要在那樱花盛开的森林里,一动也不动地坐下。他每天都偷偷前往樱花林,查看花蕾的大小。他对急着起程的女子说,还要再等三天。
「お前に支度の面倒があるものかね」と女は眉をよせました。「じらさないでおくれ。都が私をよんでいるのだよ」
“难道你得打包行李?”女子秀眉微蹙,“别再让我等了。京都在呼唤我呢。”
「それでも約束があるからね」
“可是,俺有个约定。”
「お前がかえ。この山奥に約束した誰がいるのさ」
“你?这种深山野岭,谁会和你有约定?”
「それは誰もいないけれども、ね。けれども、約束があるのだよ」
“确实是没人。不过,俺就是有个约定。”
「それはマア珍しいことがあるものだねえ。誰もいなくって誰と約束するのだえ」
“那可当真稀罕了。明明没人,你会跟谁有约?”
男は嘘がつけなくなりました。
男子再也无法隐瞒。
「桜の花が咲くのだよ」
“樱花就要开了。”
「桜の花と約束したのかえ」
“你和樱花有约是吗?”
「桜の花が咲くから、それを見てから出掛けなければならないのだよ」
“樱花就要开了,俺得看过樱花后,才能出远门。”
「どういうわけで」
“这是为什么?”
「桜の森の下へ行ってみなければならないからだよ」
“因为俺得去樱花林下看看才行。”
「だから、なぜ行って見なければならないのよ」
“所以我才问啊,为什么非去看不可?”
「花が咲くからだよ」
“因为花开了。”
「花が咲くから、なぜさ」
“因为花开了?这是为什么?”
「花の下は冷めたい風がはりつめているからだよ」
“因为在花海下始终冷风飕飕。”
「花の下にかえ」
“在花海下吗?”
「花の下は涯がないからだよ」
“因为花海是无穷无尽的。”
「花の下がかえ」
“花海吗?”
男は分らなくなってクシャクシャしました。
男子自己也不明所以,大感烦躁。
「私も花の下へ連れて行っておくれ」
“你也带我到花下去吧。”
「それは、だめだ」男はキッパリ言いました。
“那可不行。” 男子直截了当地应道。
「一人でなくちゃ、だめなんだ」
“俺得单独前去才行。”
女は苦笑しました。
女子面露苦笑。
男は苦笑というものを始めて見ました。そんな意地の悪い笑いを彼は今まで知らなかったのでした。そしてそれを彼は「意地の悪い」という風には判断せずに、刀で斬っても斬れないように、と判断しました。その証拠には、苦笑は彼の頭にハンを捺したように刻みつけられてしまったからです。それは刀の刃のように思いだすたびにチクチク頭をきりました。そして彼がそれを斬ることはできないのでした。
男子第一次见识到什么是苦笑。他过去从不知道,世上竟有如此不怀好意的笑容,而且他并未将它判断成是 “不怀好意”,而只是认为自己就算挥刀也无法加以斩除。证据就是,女子的苦笑就像盖了章一样,深深刻印在他脑中。它就像刀刃,每次一想起,脑中就会阵阵刺痛。而他无法加以斩除。
三日目がきました。
第三天到来了。
彼はひそかに出かけました。桜の森は満開でした。一足ふみこむとき、彼は女の苦笑を思いだしました。それは今までに覚えのない鋭さで頭を斬りました。それだけでもう彼は混乱していました。花の下の冷めたさは涯のない四方からドッと押し寄せてきました。彼の身体は忽ちその風に吹きさらされて透明になり、四方の風はゴウゴウと吹き通り、すでに風だけがはりつめているのでした。彼の声のみが叫びました。彼は走りました。何という虚空でしょう。彼は泣き、祈り、もがき、ただ逃げ去ろうとしていました。そして、花の下をぬけだしたことが分ったとき、夢の中から我にかえった同じ気持を見出しました。夢と違っていることは、本当に息も絶え絶えになっている身の苦しさでありました。
他悄悄出门。樱花已完全盛开。甫一踏进林中,脑中便回想起女子的苦笑。它化为过去未曾体会过的利刃,一刀劈进他脑中,这样便已令他思绪大乱。樱花林下的寒意,从无垠的四面八方涌来,他的身体旋即在这阵风的吹袭下变得透明,那来自四方的风呼号着,此地似已全然布满了冷风,只有他在叫唤的声音。他发足飞奔——多么空虚啊。他哭泣、祈祷、挣扎,只想着要逃离,而当他明白自己已冲出樱花林下时,宛如大梦初醒。唯一与做梦不同的是,他确实感受到令他上气不接下气的肉体痛苦。
男と女とビッコの女は都に住みはじめました。
男子、女子、跛脚侍女,就此开始在京都居住。
男は夜毎に女の命じる邸宅へ忍び入りました。着物や宝石や装身具も持ちだしましたが、それのみが女の心を充たす物ではありませんでした。女の何より欲しがるものは、その家に住む人の首でした。
男子每晚都奉女子之命潜入宅邸,去盗取和服、宝石、装饰品,但光是这样仍不足以满足女子。女子最想要的,是屋里住户的项上人头。
彼等の家にはすでに何十の邸宅の首が集められていました。部屋の四方の衝立に仕切られて首は並べられ、ある首はつるされ、男には首の数が多すぎてどれがどれやら分らなくとも、女は一々覚えており、すでに毛がぬけ、肉がくさり、白骨になっても、どこのたれということを覚えていました。男やビッコの女が首の場所を変えると怒り、ここはどこの家族、ここは誰の家族とやかましく言いました。 女は毎日首遊びをしました。首は家来9をつれて散歩にでます。首の家族へ別の首の家族が遊びに来ます。首が恋をします。女の首が男の首をふり、又、男の首が女の首をすてて女の首を泣かせることもありました。
他们的家中已搜集了数十座宅邸住户的人头。屋内四面以屏风区隔,摆满了人头,有的人头则是悬挂高处,由于数量着实太多,男子已分辨不出人头的身份,但女子却很清楚,如数家珍,尽管人头的头发脱落,尸肉腐烂,化为白骨,但她仍清楚记得这是哪户人家的哪个人。要是男子和跛脚侍女随意更动人头摆放的位置,她便会大为光火,直嚷着这里属于哪户人家,那里属于哪户人家,从而变得无比唠叨。女子每天玩弄人头。人头带着家仆出外散步,人头一家人会到别的人头家玩,人头彼此谈恋爱,女性人头抛弃男性人头,而男性人头又遗弃女性人头,从而让女性人头伤心落泪。
姫君の首は大納言10の首にだまされました。大納言の首は月のない夜、姫君の首の恋する人の首のふりをして忍んで行って契りを結びます。契りの後に姫君の首が気がつきます。姫君の首は大納言の首を憎むことができず我が身のさだめの悲しさに泣いて、尼になるのでした。すると大納言の首は尼寺へ行って、尼になった姫君の首を犯します。姫君の首は死のうとしますが大納言のささやきに負けて尼寺を逃げて山科の里へかくれて大納言の首のかこい者11となって髪の毛を生やします。姫君の首も大納言の首ももはや毛がぬけ肉がくさりウジ虫がわき骨がのぞけていました。二人の首は酒もりをして恋にたわぶれ、歯の骨と歯の骨と噛み合ってカチカチ鳴り、くさった肉がペチャペチャくっつき合い鼻もつぶれ目の玉もくりぬけていました。
某家大小姐的人头被某个大纳言的人头欺骗了:在某个月黑风高的夜晚,大纳言的人头假装成大小姐心上人的人头,悄悄前去与她行鱼水之欢,而在云雨过后,大小姐的人头才察觉不对。大小姐的人头怨不得大纳言的人头,只能为自己可悲的命运饮泣,出家为尼。结果,大纳言的人头来到尼姑庵,要侵犯已出家为尼的大小姐人头。大小姐的人头本想一死了之,但最后还是屈服于大纳言人头的甜言蜜语,就此逃离尼姑庵,躲在名为山科的村落里,成了大纳言人头的小妾,蓄发还俗……其实大小姐人头和大纳言人头都已毛发脱落,腐烂,蛆虫直冒,露出森森白骨。两个人头共坐对饮,沉溺情爱,齿牙相碰发出咔嚓咔嚓的声响,腐烂的尸肉互相粘黏,鼻子扁塌,眼睛处也成了空洞的眼窝。
ペチャペチャとくッつき二人の顔の形がくずれるたびに女は大喜びで、けたたましく笑いさざめきました。
每次见这紧靠着彼此的两颗人头完全崩塌变形,女子便满心愉悦,放声大笑。
「ほれ、ホッペタを食べてやりなさい。ああおいしい。姫君の喉もたべてやりましょう。ハイ、目の玉もかじりましょう。すすってやりましょうね。ハイ、ペロペロ。アラ、おいしいね。もう、たまらないのよ、ねえ、ほら、ウンとかじりついてやれ」
“来,把脸颊吃掉吧。啊,真好吃。大小姐的喉咙也一并吃了吧。好了,眼珠也一块啃了吧。我帮你吸一下吧。嗯,我舔。哎呀,真是香甜可口,教人回味无穷呢。我说你啊,你得好好啃哦。”
女はカラカラ笑います。綺麗な澄んだ笑い声です。薄い陶器が鳴るような爽やかな声でした。
女子咯咯娇笑。那清亮悦耳的笑声,如同敲响轻薄的瓷器所发出的轻快声响。
坊主の首もありました。坊主の首は女に憎がられていました。いつも悪い役をふられ、憎まれて、嬲り殺しにされたり、役人に処刑されたりしました。坊主の首は首になって後に却って毛が生え、やがてその毛もぬけてくさりはて、白骨になりました。白骨になると、女は別の坊主の首を持ってくるように命じました。新しい坊主の首はまだうら若い水々しい稚子の美しさが残っていました。女はよろこんで机にのせ酒をふくませ頬ずりして舐めたりくすぐったりしましたが、じきあきました。
当中也有僧人的人头。女子似乎很憎恨僧人的人头,总是拿它当反派,使其受尽憎恨,惨遭虐杀,或是遭官差处刑。僧人的 “头” 在变为 “首级” 后,反而长出头发,不久头发脱落,尸肉腐烂,化为白骨。变成白骨后,女子命男子再拿别的僧人的头来。新的僧人头仍保有少年的稚嫩之美,女子见了很是开心,将人头摆在桌上,喂它喝酒,与它腮碰腮,舔它,搔痒,但很快就又腻了。
「もっと太った憎たらしい首よ」 女は命じました。
“我要一个胖一点、更惹人厌的人头。” 女子下令道。
男は面倒になって五ツほどブラさげて来ました。ヨボヨボの老僧の首も、眉の太い頬っぺたの厚い、蛙がしがみついているような鼻の形の顔もありました。耳のとがった馬のような坊主の首も、ひどく神妙な首の坊主もあります。けれども女の気に入ったのは一つでした。それは五十ぐらいの大坊主の首で、ブ男で目尻がたれ、頬がたるみ、唇が厚くて、その重さで口があいているようなだらしのない首でした。女はたれた目尻の両端を両手の指の先で押えて、クリクリと吊りあげて廻したり、獅子鼻の孔へ二本の棒をさしこんだり、逆さに立ててころがしたり、だきしめて自分のお乳を厚い唇の間へ押しこんでシャブらせたりして大笑いしました。けれどもじきにあきました。
男子觉得麻烦,一次拎了五颗人头回来:有步履蹒跚的老僧人头;也有眉毛粗大,两颊肥厚,鼻子活像脸上粘着一只青蛙的僧人人头;有长得尖耳马脸的人头;有长相端正规矩的人头……但女子只看上其中一个。那是一名年约五十的大和尚的人头,长相丑陋,眼尾下垂,两颊松弛,嘴唇丰厚,就像是因为嘴唇太重而合不上嘴,当真是一副窝囊样。女子以双手手指抵住它下垂的眼尾两端,绕动几圈后将它往上吊,拿两根棍子插进它那狮子鼻的鼻孔中,将它倒立起来滚动,或是紧搂在自己胸前,将自己的乳房抵向它的厚唇间,让它含住……看到如此景象,女子纵声大笑,但很快又腻了。
美しい娘の首がありました。清らかな静かな高貴な首でした。子供っぽくて、そのくせ死んだ顔ですから妙に大人びた憂いがあり、閉じられたマブタの奥に楽しい思いも悲しい思いもマセた思いも一度にゴッちゃに隠されているようでした。女はその首を自分の娘か妹のように可愛がりました。黒い髪の毛をすいてやり、顔にお化粧してやりました。ああでもない、こうでもないと念を入れて、花の香りのむらだつようなやさしい顔が浮きあがりました。
当中也有美娇娘的人头。那是清新脱俗、文静高贵的人头,带有一点孩子气,但死后的容颜却透着一丝大人的忧郁,仿佛快乐、悲伤、成熟的思绪全藏在那紧闭的眼皮深处。女子把这颗人头当成自己的女儿或妹妹一样疼惜,帮人头梳理黑发,还帮它化妆。她念叨着这么做不行,那样做也不行,可谓是呵护备至,此时女子浮现出的温柔神情,仿佛会散发出花香。
娘の首のために、一人の若い貴公子の首が必要でした。貴公子の首も念入りにお化粧され、二人の若者の首は燃え狂うような恋の遊びにふけります。すねたり、怒ったり、憎んだり、嘘をついたり、だましたり、悲しい顔をしてみせたり、けれども二人の情熱が一度に燃えあがるときは一人の火がめいめい他の一人を焼きこがしてどっちも焼かれて舞いあがる火焔になって燃えまじりました。けれども間もなく悪侍だの色好みの大人だの悪僧だの汚い首が邪魔にでて、貴公子の首は蹴られて打たれたあげくに殺されて、右から左から前から後から汚い首がゴチャゴチャ娘に挑みかかって、娘の首には汚い首の腐った肉がへばりつき、牙のような歯に食いつかれ、鼻の先が欠けたり、毛がむしられたりします。すると女は娘の首を針でつついて穴をあけ、小刀で切ったり、えぐったり、誰の首よりも汚らしい目も当てられない首にして投げだすのでした。
为了这颗少女的人头,需要有颗年轻公子哥的人头来搭配。公子哥的人头也经过一番用心的化妆打扮,两颗年轻人的人头就此沉浸在狂热的恋爱游戏中。时而闹脾气,时而欺骗,时而露出哀伤之色,不过当两人的热情一旦点燃时,其中一人就如同燃起熊熊烈火,会将另一人烧成灰烬,双方都欲火焚身,化为高涨的烈焰,相互燃烧。但没过多久,就会有坏武士、好色之徒、恶僧这类的肮脏人头前来阻挠,公子哥人头遭人拳打脚踢后,丢了性命,那些肮脏的人头从四面八方袭向少女人头,肮脏人头的腐肉粘上少女人头,像獠牙般的牙齿咬住它,它的鼻头就此缺了一块,头发被扯下。接下来,女子用针在少女人头上戳出洞来,再用小刀又割又刨,将它变得比其他人头都还肮脏,令人不忍卒睹,之后便丢弃了。
男は都を嫌いました。都の珍らしさも馴れてしまうと、なじめない気持ばかりが残りました。彼も都では人並に水干12を着ても脛をだして歩いていました。白昼は刀をさすことも出来ません。市へ買物に行かなければなりませんし、白首13のいる居酒屋で酒をのんでも金を払わねばなりません。市の商人は彼をなぶりました。野菜をつんで売りにくる田舎女も子供までなぶりました。白首も彼を笑いました。都では貴族は牛車で道のまんなかを通ります。水干をきた跣足の家来はたいがいふるまい酒に顔を赤くして威張りちらして歩いて行きました。彼はマヌケだのバカだのノロマだのと市でも路上でもお寺の庭でも怒鳴られました。それでもうそれぐらいのことには腹が立たなくなっていました。
男子讨厌京都。京都里的稀奇事物他也已看惯,如今心中只存在着一股无法融入的隔阂感。尽管他在京都里也和寻常人一样,穿着水干,但还是一样露出小腿,大步而行。白天出门时,无法在腰间佩刀,而且非得到市场采买才行,到有娼妓的居酒屋喝酒,也得付钱。市场上的商人捉弄他,挑菜来兜售的乡下女人和小孩也捉弄他,甚至连娼妓也嘲笑他。在京都,贵族都搭牛车行走在道路中央。身穿水干、打着赤脚的家臣,可能是喝了别人款待的酒,满脸通红,趾高气扬地走在路上。男子常在市场、路上、寺院的庭园,遭人呵斥为 “傻瓜” “笨蛋” “蠢材”。尽管如此,他并不会因为这些小事而动怒。
男は何よりも退屈に苦しみました。人間共というものは退屈なものだ、と彼はつくづく思いました。彼はつまり人間がうるさいのでした。大きな犬が歩いていると、小さな犬が吠えます。男は吠えられる犬のようなものでした。彼はひがんだり嫉んだりすねたり考えたりすることが嫌いでした。山の獣や樹や川や鳥はうるさくはなかったがな、と彼は思いました。
最令他感到痛苦的,是无聊。他深深觉得,人这种东西真是无聊透顶而且聒噪。大狗走在路上,小狗就会猛吠。男子就像是只遭吠的狗,他讨厌别扭、嫉妒、闹脾气、思考。他认为山中的野兽、树木、溪流、飞鸟就不会这般聒噪。
「都は退屈なところだなア」と彼はビッコの女に言いました。「お前は山へ帰りたいと思わないか」
“京都真是个无聊的地方。”他对跛脚侍女说,“你会不会想回山里?”
「私は都は退屈ではないからね」
“我不觉得京都无聊。”
とビッコの女は答えました。ビッコの女は一日中料理をこしらえ洗濯し近所の人達とお喋りしていました。
跛脚侍女应道。她整天都忙着张罗三餐、洗衣,而且还和左邻右舍闲聊。
「都ではお喋りができるから退屈しないよ。私は山は退屈で嫌いさ」
“在京都可以和人聊天,不会觉得无聊。反而是山里才无聊,我讨厌那里。”
「お前はお喋りが退屈でないのか」
“你不觉得聊天很无聊吗?”
「あたりまえさ。誰だって喋っていれば退屈しないものだよ」
“当然不会。不管是谁,只要聊天就不会觉得无聊。”
「俺は喋れば喋るほど退屈するのになあ」
“但俺却觉得,聊愈多愈无聊。”
「お前は喋らないから退屈なのさ」
“你都不说话,所以才觉得无聊。”
「そんなことがあるものか。喋ると退屈するから喋らないのだ」
“哪儿的话。就是说了话觉得无聊,所以俺才不说啊。”
「でも喋ってごらんよ。きっと退屈を忘れるから」
“那你就试着说说看吧。包管你会忘记无聊。”
「何を」
“说什么?”
「何でも喋りたいことをさ」
“想说什么尽管说。”
「喋りたいことなんかあるものか」
“哪会有什么想说的。”
男はいまいましがってアクビをしました。
男子感到气恼,打了个哈欠。
都にも山がありました。然し、山の上には寺があったり庵があったり、そして、そこには却って多くの人の往来がありました。山から都が一目に見えます。なんというたくさんの家だろう。そして、なんという汚い眺めだろう、と思いました。
京都也有山。然而,山上有寺院,有草庵,反而有更多人来往于山中。从山上可以一览京都的全貌——没想到竟有这么多人家。他心想:这是何等肮脏的景象啊!
彼は毎晩人を殺していることを昼は殆ど忘れていました。なぜなら彼は人を殺すことにも退屈しているからでした。何も興味はありません。刀で叩くと首がポロリと落ちているだけでした。首はやわらかいものでした。骨の手応えはまったく感じることがないもので、大根を斬るのと同じようなものでした。その首の重さの方が彼には余程意外でした。
白天时,他几乎忘了自己每晚都在杀人。因为他对杀人感到无聊。什么事都提不起兴趣。就只是一刀砍下,人头落地,如此而已。人的颈部是柔软之物,完全没传来砍中骨头的手感,就像在切萝卜一样,不过人头的重量倒是令他颇感意外。
彼には女の気持が分るような気がしました。鐘つき堂では一人の坊主がヤケになって鐘をついています。何というバカげたことをやるのだろうと彼は思いました。何をやりだすか分りません。こういう奴等と顔を見合って暮すとしたら、俺でも奴等を首にして一緒に暮すことを選ぶだろうさ、と思うのでした。
他隐约能明白女子的心情。钟楼有一名僧人,胡乱地敲响大钟。男子心想:瞧他做这事,多傻呀。根本不知道他会做出什么事来。如果和这些人面对面生活,我可能也会选择砍下他们的脑袋,和他们一起生活。
けれども彼は女の欲望にキリがないので、そのことにも退屈していたのでした。女の欲望は、いわば常にキリもなく空を直線に飛びつづけている鳥のようなものでした。休むひまなく常に直線に飛びつづけているのです。その鳥は疲れません。常に爽快に風をきり、スイスイと小気味よく無限に飛びつづけているのでした。
不过,女子的欲望无穷无尽,这也令他觉得无聊。女子的欲望,就像在空中直线往前飞的飞鸟,没空休息,且不断地直线往前飞。这只鸟不会疲累,快意地破风翱翔,流畅地持续飞行,毫无休止。
けれども彼はただの鳥でした。枝から枝を飛び廻り、たまに谷を渉るぐらいがせいぜいで、枝にとまってうたたねしている梟にも似ていました。彼は敏捷でした。全身がよく動き、よく歩き、動作は生き生きしていました。彼の心は然し尻の重たい鳥なのでした。彼は無限に直線に飛ぶことなどは思いもよらないのです。
但男子却只是一只普通的鸟儿。在枝丫间穿梭跳跃,顶多会偶尔飞越山谷,就像停在枝头上打盹的猫头鹰。他身手敏捷,常活动全身筋骨,也常行走,动作利落灵活。但他内心却是一只懒惰的鸟,从没想过要无止境地直线往前飞。
男は山の上から都の空を眺めています。その空を一羽の鳥が直線に飛んで行きます。空は昼から夜になり、夜から昼になり、無限の明暗がくりかえしつづきます。その涯に何もなくいつまでたってもただ無限の明暗があるだけ、男は無限を事実に於て納得することができません。その先の日、その先の日、その又先の日、明暗の無限のくりかえしを考えます。彼の頭は割れそうになりました。それは考えの疲れでなしに、考えの苦しさのためでした。
男子站在山上凝望京都的天空。空中有一只鸟直直地往前飞去,天空由白昼转为黑夜,再从黑夜化为白昼,无穷尽的明暗反复循环。它的尽头什么也没有,不论历时多久,一样只有无穷尽的明暗。男子无法理解这种无穷尽的现象,一日过去,又一日过去,日复一日,他思考明暗无穷尽反复的现象,想到头痛欲裂。这不是因为思考造成的疲累,而是思考所带来的痛苦。
家へ帰ると、女はいつものように首遊びに耽っていました。彼の姿を見ると、女は待ち構えていたのでした。
回家后,女子一如平时,仍沉浸在玩人头的游戏中。女子一见到他,马上露出早已等候良久的神色。
「今夜は白拍子14の首を持ってきておくれ。とびきり美しい白拍子の首だよ。舞いを舞わせるのだから。私が今様15を唄ってきかせてあげるよ」
“今晚你带颗白拍子的人头回来。要找一颗特别漂亮的白拍子人头哦。因为我要拿它来跳舞。我来唱首流行曲给你听吧。”
男はさっき山の上から見つめていた無限の明暗を思いだそうとしました。この部屋があのいつまでも涯のない無限の明暗のくりかえしの空の筈ですが、それはもう思いだすことができません。そして女は鳥ではなしに、やっぱり美しいいつもの女でありました。けれども彼は答えました。
男子想要回想起刚才在山上凝望的那无穷尽的明暗。这屋子应该就像那永无止境、明暗不断反复的天空一样,但他此时偏偏想不起来。而女子也不是飞鸟,她仍是平时那美艳动人的女人。他回答道:
「俺は厭だよ」
“俺不要。”
女はびっくりしました。そのあげくに笑いだしました。 「おやおや。お前も臆病風に吹かれたの。お前もただの弱虫ね」
女子大吃一惊。最后甚至笑了起来:“哎呀,你也变胆小了吗?原来你也只是个胆小鬼嘛。”
「そんな弱虫じゃないのだ」
“俺不是你说的那种胆小鬼。”
「じゃ、何さ」
“不然是什么?”
「キリがないから厭になったのさ」
“因为没完没了,我感到厌烦了。”
「あら、おかしいね。なんでもキリがないものよ。毎日毎日ごはんを食べて、キリがないじゃないか。毎日毎日ねむって、キリがないじゃないか」
“哎呀,这就奇怪了。任何事都一样没完没了。我们每天吃饭,不也是没完没了吗?每天睡觉,不也是没完没了?”
「それと違うのだ」
“这不一样。”
「どんな風に違うのよ」
“怎么个不一样法?”
男は返事につまりました。けれども違うと思いました。それで言いくるめられる苦しさを逃れて外へ出ました。
男子答不出话来。但他就是觉得不一样。为了摆脱这种辩驳不过她的痛苦,他走出屋外。
「白拍子の首をもっておいで」
“要带白拍子的人头回来哦。”
女の声が後から呼びかけましたが、彼は答えませんでした。
后方传来女子的叫唤声,但他没答话。
彼はなぜ、どんな風に違うのだろうと考えましたが分りません。だんだん夜になりました。彼は又山の上へ登りました。もう空も見えなくなっていました。
为何不同,怎样个不同法,他苦思这个问题,但还是想不透。夜色渐深。他又往山上而去。此时已看不见天空。
彼は気がつくと、空が落ちてくることを考えていました。空が落ちてきます。彼は首をしめつけられるように苦しんでいました。それは女を殺すことでした。
待他回过神来时,他正在思考天空坠落的事。天空往下坠,而他就像被人勒住脖子般,痛苦难受,就如同杀了那名女子。
空の無限の明暗を走りつづけることは、女を殺すことによって、とめることができます。そして、空は落ちてきます。彼はホッとすることができます。然し、彼の心臓には孔があいているのでした。彼の胸から鳥の姿が飛び去り、掻き消えているのでした。
只要杀了女子,就能停止持续奔跑在天空无穷尽的明暗中,而天空将就此坠落,他得以松口气。但是,他的心脏却开了个大洞,飞鸟的身影从他胸口飞走,消失无踪。
あの女が俺なんだろうか?そして空を無限に直線に飛ぶ鳥が俺自身だったのだろうか?と彼は疑りました。女を殺すと、俺を殺してしまうのだろうか。俺は何を考えているのだろう?
那女子就是俺吗?在空中无穷尽地往前直线飞去的鸟儿,就是俺自己吗?他心中产生怀疑。杀了女子,就是杀了自己吗?俺到底在想什么?
なぜ空を落さねばならないのだか、それも分らなくなっていました。あらゆる想念が捉えがたいものでありました。そして想念のひいたあとに残るものは苦痛のみでした。夜が明けました。彼は女のいる家へ戻る勇気が失われていました。そして数日、山中をさまよいました。
为什么非得让天空坠落不可,这点他也想不透;所有的想法都难以捉摸,而拿走想法后,剩下的只有苦痛。天色破晓,他已没勇气回到女子所在的那个家,就在山中盘桓了数日。
ある朝、目がさめると、彼は桜の花の下にねていました。その桜の木は一本でした。桜の木は満開でした。彼は驚いて飛び起きましたが、それは逃げだすためではありません。なぜなら、たった一本の桜の木でしたから。彼は鈴鹿の山の桜の森のことを突然思いだしていたのでした。あの山の桜の森も花盛りにちがいありません。彼はなつかしさに吾を忘れ、深い物思いに沈みました。
某天一早,他睁眼醒来,发现自己睡在樱花树下。那是单独一棵樱花树,樱花盛开。他大吃一惊,弹跳而起,但并不是要逃离,因为就只有这么一棵樱花树。他突然想起铃鹿岭的樱花林。那座山的樱花林,现在肯定也同样樱花朵朵绽放。男子因这股怀念之情而忘我,陷入沉思。
山へ帰ろう。山へ帰るのだ。なぜこの単純なことを忘れていたのだろう? そして、なぜ空を落すことなどを考え耽っていたのだろう? 彼は悪夢のさめた思いがしました。救われた思いがしました。今までその知覚まで失っていた山の早春の匂いが身にせまって強く冷めたく分るのでした。
回山上去吧!我要回山上去!为什么如此单纯的事,我竟然会忘了呢?为何会老想着要让天空坠落呢?他感觉就像从一场噩梦中醒来,有一种获救之感。之前他甚至丧失了知觉,感应不到山里早春的气味,此刻这一切又重新回到他身边,感觉得到那强烈的寒意。
男は家へ帰りました。
男子回到家中。
女は嬉しげに彼を迎えました。
女子满面春风地迎接他。
「どこへ行っていたのさ。無理なことを言ってお前を苦しめてすまなかったわね。でも、お前がいなくなってからの私の淋しさを察しておくれな」
“你去哪儿了?我说了那些任性的话,让你受苦,是我不对。不过你也该替我想想,你离开后我有多寂寞啊。”
女がこんなにやさしいことは今までにないことでした。男の胸は痛みました。もうすこしで彼の決意はとけて消えてしまいそうです。けれども彼は思い決しました。
女子过去从没这么温柔过,男子感到心痛,他的决心差点就此融化。然而,他心意已决。
「俺は山へ帰ることにしたよ」
“俺决定要回山上。”
「私を残してかえ。そんなむごたらしいことがどうしてお前の心に棲むようになったのだろう」
“要留我在这里吗?你心里怎么会存有这么残忍的念头?”
女の眼は怒りに燃えました。その顔は裏切られた口惜しさで一ぱいでした。
女子因愤怒而眼中燃起烈火,脸上尽是遭人背叛的愤恨之色。
「お前はいつからそんな薄情者になったのよ」
“你是从什么时候变得这么薄情的?”
「だからさ。俺は都がきらいなんだ」
“所以俺才说,俺讨厌京都。”
「私という者がいてもかえ」
“有我陪你也一样讨厌吗?”
「俺は都に住んでいたくないだけなんだ」
“俺只是不想再继续住在京都了。”
「でも、私がいるじゃないか。お前は私が嫌いになったのかえ。私はお前のいない留守はお前のことばかり考えていたのだよ」
“可是你有我在啊!莫非你讨厌我了?你不在的这段时间,我独守空闺,心里想的全是你呢。”
女の目に涙の滴が宿りました。女の目に涙の宿ったのは始めてのことでした。女の顔にはもはや怒りは消えていました。つれなさを恨む切なさのみが溢れていました。
女子眼中噙着泪水。这是女子第一次眼眶泛泪,怒容已从女子脸上消失。此时她埋怨男子的无情,心中满是悲切。
「だってお前は都でなきゃ住むことができないのだろう。俺は山でなきゃ住んでいられないのだ」
“因为你不是非得住京都不可吗?俺则是非得住山上不可。”
「私はお前と一緒でなきゃ生きていられないのだよ。私の思いがお前には分らないのかねえ」
“如果没和你同住,我无法活下去啊。你就没办法懂我的心思吗?”
「でも俺は山でなきゃ住んでいられないのだぜ」
“可是俺非得住在山上不可。”
「だから、お前が山へ帰るなら、私も一緒に山へ帰るよ。私はたとえ一日でもお前と離れて生きていられないのだもの」 女の目は涙にぬれていました。男の胸に顔を押しあてて熱い涙をながしました。涙の熱さは男の胸にしみました。
“既然你要回山上,那我也一起回山上。就算只和你分离一天,我也活不下去。” 女子睁着泪汪汪的大眼,把脸埋进男子胸前,热泪直淌。泪水的温热渗进男人胸中。
たしかに、女は男なしでは生きられなくなっていました。新しい首は女のいのちでした。そしてその首を女のためにもたらす者は彼の外にはなかったからです。彼は女の一部でした。女はそれを放すわけにいきません。男のノスタルジイがみたされたとき、再び都へつれもどす確信が女にはあるのでした。
没有男子,女子的确活不下去。新的人头是女子的生命,而能为女子带来人头的,除了他之外,再也没有别人。他是女子的一部分,女子绝不能放走他。女子深信,当男子的乡愁得到缓解时,一定会再次带她回到京都。
「でもお前は山で暮せるかえ」
“可是,你能在山上生活吗?”
「お前と一緒ならどこででも暮すことができるよ」
“只要是和你在一起,到哪里我都能生活。”
「山にはお前の欲しがるような首がないのだぜ」
“山上没有你想要的人头哦。”
「お前と首と、どっちか一つを選ばなければならないなら、私は首をあきらめるよ」
“如果非得从你和人头之间做一个选择的话,我会放弃人头。”
夢ではないかと男は疑りました。あまり嬉しすぎて信じられないからでした。夢にすらこんな願ってもないことは考えることが出来なかったのでした。
男子怀疑自己该不会是在做梦吧。因此他喜出望外,难以置信,如此求之不得的事,过去就连在梦里,他也从没想过。
彼の胸は新な希望でいっぱいでした。その訪れは唐突で乱暴で、今のさっき迄の苦しい思いが、もはや捉えがたい彼方へ距てられていました。彼はこんなにやさしくはなかった昨日までの女のことも忘れました。今と明日があるだけでした。
他心中洋溢全新的希望。此事的来访是如此突然、直白,使得他先前的一切痛苦感受全被隔离在难以捉摸的远方。他甚至忘了,女子一直到昨天为止,都不是这样的温柔性情。眼前他只看到现在和明天。
二人は直ちに出発しました。ビッコの女は残すことにしました。そして出発のとき、女はビッコの女に向って、じき帰ってくるから待っておいで、とひそかに言い残しました。
两人将跛脚侍女留在京都,立刻往山上出发。出发时,女子悄悄对跛脚侍女留下一句话——我很快就回来,你等着。
目の前に昔の山々の姿が現れました。呼べば答えるようでした。旧道をとることにしました。その道はもう踏む人がなく、道の姿は消え失せて、ただの林、ただの山坂になっていました。その道を行くと、桜の森の下を通ることになるのでした。
昔日的群山重现眼前,仿佛只要开口叫唤,它们就会应声。男子决定走旧路返家,那条路因为无人涉足,已看不出原本的路形,变成寻常的树林和山坡。而顺着这条路走,会路过樱花林下。
「背負っておくれ。こんな道のない山坂は私は歩くことができないよ」
“你背我。这种没路的山坡,我走不了。”
「ああ、いいとも」
“好,当然没问题。”
男は軽々と女を背負いました。
男子轻松地背起女子。
男は始めて女を得た日のことを思いだしました。その日も彼は女を背負って峠のあちら側の山径を登ったのでした。その日も幸せで一ぱいでしたが、今日の幸せはさらに豊かなものでした。
他想起之前掳获这名女子的事。那天他同样也是背着女子,顺着山岭另一侧的山路往上而行。那天心中同样洋溢着幸福,但今天的幸福感更加丰沛。
「はじめてお前に会った日もオンブして貰ったわね」
“第一次遇见你那天,我也是叫你背我呢。”
と、女も思いだして、言いました。
女子也忆起往事,如此说道。
「俺もそれを思いだしていたのだぜ」
“俺也正想起那件事呢。”
男は嬉しそうに笑いました。
男子喜滋滋地笑着。
「ほら、見えるだろう。あれがみんな俺の山だ。谷も木も鳥も雲まで俺の山さ。山はいいなあ。走ってみたくなるじゃないか。都ではそんなことはなかったからな」
“喏,看得到吧。这一大片山全是俺的。山谷、树木、飞鸟,甚至是浮云,全都是俺的。这山真是好。让俺忍不住想痛快地跑一跑。因为这一切在京都都没有。”
「始めての日はオンブしてお前を走らせたものだったわね」
“我第一次遇见你的那天,也是要你背着我跑。”
「ほんとだ。ずいぶん疲れて、目がまわったものさ」
“没错。当时可累死俺了,跑得我眼冒金星。”
男は桜の森の花ざかりを忘れてはいませんでした。然し、この幸福な日に、あの森の花ざかりの下が何ほどのものでしょうか。彼は怖れていませんでした。
男子可没忘了那盛开的樱花林。然而,在这幸福的日子里,那盛开的樱花林又何足为惧?他一点都不怕。
そして桜の森が彼の眼前に現れてきました。まさしく一面の満開でした。風に吹かれた花びらがパラパラと落ちています。土肌の上は一面に花びらがしかれていました。この花びらはどこから落ちてきたのだろう? なぜなら、花びらの一ひらが落ちたとも思われぬ満開の花のふさが見はるかす頭上にひろがっているからでした。
樱花林逐渐出现在眼前。当真是一整片盛开的花海;在清风吹拂下,花瓣纷纷飘落,地上铺满了花瓣。这些花瓣是从哪儿落下的呢?因为放眼望去,头上尽是一朵又一朵盛开的樱花,看起来完全感觉不出它们曾掉落任何一片花瓣。
男は満開の花の下へ歩きこみました。あたりはひっそりと、だんだん冷めたくなるようでした。彼はふと女の手が冷めたくなっているのに気がつきました。俄に不安になりました。とっさに彼は分りました。女が鬼であることを。突然どッという冷めたい風が花の下の四方の涯から吹きよせていました。
男子走进盛开的樱花林下,四周万籁俱寂,寒意渐浓。他猛然发现,女子的手变得冷若寒冰,顿时不安起来。他立即领悟,女子是妖怪。倏然,一阵寒风从樱花林下的四面八方吹袭而来。
男の背中にしがみついているのは、全身が紫色の顔の大きな老婆でした。その口は耳までさけ、ちぢくれた髪の毛は緑でした。男は走りました。振り落そうとしました。鬼の手に力がこもり彼の喉にくいこみました。彼の目は見えなくなろうとしました。彼は夢中でした。全身の力をこめて鬼の手をゆるめました。その手の隙間から首をぬくと、背中をすべって、どさりと鬼は落ちました。今度は彼が鬼に組みつく番でした。鬼の首をしめました。そして彼がふと気付いたとき、彼は全身の力をこめて女の首をしめつけ、そして女はすでに息絶えていました。
紧紧抱在男子背后的,是个有一张大脸、全身泛紫的老太婆。她的嘴巴直咧至耳根,卷曲的头发呈绿色。男子向前飞奔,想将她甩落,但妖怪双手使劲,紧掐他的喉咙,使他几乎快要看不清眼前的一切。他全神贯注,鼓足全身之力,将妖怪的手松开。脖子从妖怪双手的缝隙间挣脱,那妖怪从他背后一滑,跌落地上。这次换他压制住妖怪了。他紧紧勒住妖怪的脖子,待他回过神来,才发现自己使出浑身的力气掐住女子的脖子,而她已经气绝身亡。
彼の目は霞んでいました。彼はより大きく目を見開くことを試みましたが、それによって視覚が戻ってきたように感じることができませんでした。なぜなら、彼のしめ殺したのはさっきと変らず矢張り女で、同じ女の屍体がそこに在るばかりだからでありました。
他双眼变得模糊,试图用力睁大眼睛,但感觉并未因此而恢复原本的视力。因为他所杀害的不是恶鬼,而是刚刚背着的女子,女子的尸体横陈在他面前。
彼の呼吸はとまりました。彼の力も、彼の思念も、すべてが同時にとまりました。女の屍体の上には、すでに幾つかの桜の花びらが落ちてきました。彼は女をゆさぶりました。呼びました。抱きました。徒労でした。彼はワッと泣きふしました。たぶん彼がこの山に住みついてから、この日まで、泣いたことはなかったでしょう。そして彼が自然に我にかえったとき、彼の背には白い花びらがつもっていました。
他的呼吸顿时停止。他的力气、思考,全都同时停顿。已有几片花瓣落在女子的尸体上,他摇晃女子,放声叫唤,紧搂着她,但全都徒劳无功。他放声号啕。应该是从他在山上住下后,一直到今日,他都从没哭过吧。而当他很自然地回过神来时,他的背后也堆积了不少粉白色的花瓣。
そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。日頃のような怖れや不安は消えていました。花の涯から吹きよせる冷めたい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。
那里正好位于樱花林的正中央,四方的边界都被樱花掩盖,看不见深处。他平时的恐惧和不安已经消失,从樱花林边界吹来的寒风也消失无踪,就只有花瓣持续悄然散落。他第一次在樱花盛开的树底下静静坐下,这次他能永远坐下去,因为他已无处可归。
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。
盛开的樱花林下隐藏的秘密,至今依旧无人能解。或许这只是“孤独”。因为男子已不需要畏惧孤独,他自己即是孤独。
彼は始めて四方を見廻しました。頭上に花がありました。その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。ひそひそと花が降ります。それだけのことです。外には何の秘密もないのでした。
他开始环视四方:头顶有樱花,花下悄悄蕴含了无限的空虚,花瓣悄然飘落,仅只如此。除此之外,再无任何秘密。
ほど経て彼はただ一つのなまあたたかな何物かを感じました。そしてそれが彼自身の胸の悲しみであることに気がつきました。花と虚空の冴えた冷めたさにつつまれて、ほのあたたかいふくらみが、すこしずつ分りかけてくるのでした。
不久后,他感觉到有个温热之物,他发现那是他自己心中的悲戚。在花瓣与空虚的冷冽包覆下,那团温热之物的形体开始变得愈来愈清楚。
彼は女の顔の上の花びらをとってやろうとしました。彼の手が女の顔にとどこうとした時に、何か変ったことが起ったように思われました。すると、彼の手の下には降りつもった花びらばかりで、女の姿は掻き消えてただ幾つかの花びらになっていました。そして、その花びらを掻き分けようとした彼の手も彼の身体も延した時にはもはや消えていました。あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした。
他想拨走女子脸上的花瓣。正当他的手即将碰触女子的脸庞时,感觉似乎发生了什么怪事。只见他手掌下全是飘降堆积的花瓣,女子的身影已消失不见,化为数片花瓣。而当他想拨开花瓣时,他的手和他的身躯也在他往前伸展时消失无踪。只剩下花瓣和弥漫不散的冰冷空虚。
Footnotes
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惨たらしい:[形]いかにもむごい。残酷である ↩
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もどかしい:[形]思うようにならずいらいらする ↩
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ダンビラ:[名]幅の広い刀 ↩
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盲滅法:[名]見当をつけないで、やみくもに事をすること ↩
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飛び切り:[形動]他のものにくらべ、はるかにすぐれていること ↩
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鴨:[名]利用しやすい相手 ↩
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笄:[名]日本髪用の髪飾。もと髪をかき分ける用具で男女とも用いた ↩
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梳る:[動ラ五(四)]櫛ですいて、髪の毛をととのえる ↩
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家来:[名]主君や主家に仕える者 ↩
-
大納言:[名]令制の太政官の官職名 ↩
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囲い者:[名]こっそり別宅などに住まわせておく情婦 ↩
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水干:[名]平安時代以降,下級官人および武家の用いた衣服 ↩
-
白首:[名]白粉を、首すじに濃くぬりたてて、客に媚を売る女 ↩
-
白拍子: 日本平安时代末期出现,并在镰仓时代盛行的一种歌舞表演,同时也指表演这种歌舞的女性艺人 ↩
-
今様:[名]平安時代中期から鎌倉時代にかけて流行した歌謡 ↩