夏目漱石: 文鳥
first published:『大阪朝日新聞』1908年6月
audio:https://www.youtube.com/watch?v=rLvztmr1vUI
desc: 在学生的要求下,夏目漱石开始饲养一只文鸟,随着照料与接近,文鸟的美丽与个性,让漱石一再想起过去交往过的女性,最終……夏目漱石到底都怎么跟恋人交往、互动呢?一场养鸟的经历,带你一窥夏目漱石的爱情世界
十月早稲田に移る。伽藍のような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖で支えていると、三重吉が来て、鳥を御飼いなさいと云う。飼ってもいいと答えた。しかし念のためだから、何を飼うのかねと聞いたら、文鳥ですと云う返事であった。
十月搬到了早稻田。在寺庙般的书斋里一脸清净地支颐独坐,三重吉来了,说养只鸟吧。我说养也行。只是慎重起见,问了问养什么鸟。回答说是,文鸟。
文鳥は三重吉の小説に出て来るくらいだから奇麗な鳥に違なかろうと思って、じゃ買ってくれたまえと頼んだ。ところが三重吉は是非御飼いなさいと、同じような事を繰り返している。うむ買うよ買うよとやはり頬杖を突いたままで、むにゃむにゃ云ってるうちに三重吉は黙ってしまった。おおかた頬杖に愛想を尽かしたんだろうと、この時始めて気がついた。
文鸟是在三重吉小说里也曾登场的鸟,漂亮是没有错的了。那么就给我买一只吧,我说。然而三重吉只管一遍一遍地重复说,一定要养一只。我仍然支着下巴,嘟嘟哝哝说,嗯,买,买,之后三重吉就不做声了。那时我才意识到,他大概是对我支颐而坐的态度无言以对了。
すると三分ばかりして、今度は籠を御買いなさいと云いだした。これも宜しいと答えると、是非御買いなさいと念を押す代りに、鳥籠の講釈を始めた。その講釈はだいぶ込み入ったものであったが、気の毒な事に、みんな忘れてしまった。ただ好いのは二十円ぐらいすると云う段になって、急にそんな高価のでなくっても善かろうと云っておいた。三重吉はにやにやしている。
那样大概过了三分钟,他又说,买个鸟笼吧。我说买鸟笼也行,他倒没有嘱咐一定要买,而是开始讲解关于鸟笼的事。他讲解的很深很详尽,但很不对住他,我边听边忘了。只有在讲到一只好的鸟笼,要花二十元左右时,我才急忙应道,不需要那么贵的吧。三重吉笑咪咪的。
それから全体どこで買うのかと聞いて見ると、なにどこの鳥屋にでもありますと、実に平凡な答をした。籠はと聞き返すと、籠ですか、籠はその何ですよ、なにどこにかあるでしょう、とまるで雲を攫むような寛大な事を云う。でも君あてがなくっちゃいけなかろうと、あたかもいけないような顔をして見せたら、三重吉は頬ぺたへ手をあてて、何でも駒込に籠の名人があるそうですが、年寄だそうですから、もう死んだかも知れませんと、非常に心細くなってしまった。
然后问他到底在哪里买,说是哪个花鸟店都有的呀——实在是平淡无奇的回答。问鸟笼呢,却说鸟笼嘛,鸟笼那个什么,总能买到的吧,简直是泛泛得捕风捉影的说法。但你总不能完全没有个目标吧——我露出好像是很不以为然的神情,三重吉用手摸着脸蛋,说什么在驹込有个做笼子的高手,只是年事已高,说不定已经死了云云。说时甚是忧心忡忡的样子。
何しろ言いだしたものに責任を負わせるのは当然の事だから、さっそく万事を三重吉に依頼する事にした。すると、すぐ金を出せと云う。金はたしかに出した。三重吉はどこで買ったか、七子1の三つ折の紙入を懐中していて、人の金でも自分の金でも悉皆この紙入の中に入れる癖がある。自分は三重吉が五円札をたしかにこの紙入の底へ押し込んだのを目撃した。
想到他自己说的事情当然要让他负起责任来,于是立即请他办理巨细,却要我马上拿钱来。钱是确实拿给他了的。三重吉有个癖性,怀里揣着个不知从哪里买来的席纹的三折钱夹,不问是他人的钱或者自己的钱,一律塞进去。我目击三重吉确确实实将那张五元钞票塞进钱夹深处。
かようにして金はたしかに三重吉の手に落ちた。しかし鳥と籠とは容易にやって来ない。
就这样钱落入三重吉之手。但鸟和鸟笼却迟迟不来。
そのうち秋が小春になった。三重吉はたびたび来る。よく女の話などをして帰って行く。文鳥と籠の講釈は全く出ない。硝子戸を透して五尺の縁側には日が好く当る。どうせ文鳥を飼うなら、こんな暖かい季節に、この縁側へ鳥籠を据えてやったら、文鳥も定めし鳴き善かろうと思うくらいであった。
那之后,那时节从秋季到了小阳春。三重吉倒是常常上门,说些关于女人的话题等等就回去了。关于文鸟的说道却全然没有。阳光透过玻璃窗,亮亮地照在五尺廊檐上。我甚至想,总归要养只文鸟的话,应在这样暖和的时节,将鸟笼就置在这廊檐上,文鸟想必也会叫得很好听吧。
三重吉の小説によると、文鳥は千代千代と鳴くそうである。その鳴き声がだいぶん気に入ったと見えて、三重吉は千代千代を何度となく使っている。あるいは千代と云う女に惚れていた事があるのかも知れない。しかし当人はいっこうそんな事を云わない。自分も聞いてみない。ただ縁側に日が善く当る。そうして文鳥が鳴かない。
据三重吉的小说,文鸟说是千代,千代地叫。三重吉似乎很是喜爱这叫声,三番五次地写着 “千代千代”。或许他曾钟情于一个叫 “千代” 的女人也未可知。但本人从未提起过那种事,我也不曾想过要问他。只是这廊檐太阳这么好,却没有文鸟的叫声。
そのうち霜が降り出した。自分は毎日伽藍のような書斎に、寒い顔を片づけてみたり、取乱してみたり、頬杖を突いたりやめたりして暮していた。戸は二重に締め切った。火鉢に炭ばかり継いでいる。文鳥はついに忘れた。
之后到了降霜的季节。我每天在禅房般的书房里度过,一会儿收起这透着寒意的表情,一会儿又露出一片迷茫,一会儿右手支起下巴一会儿又正襟坐好。双重的门关得严严实实。火钵里不停地添炭,而文鸟,终于被忘记了。
ところへ三重吉が門口から威勢よく這入って来た。時は宵の口であった。寒いから火鉢の上へ胸から上を翳して、浮かぬ顔をわざとほてらしていたのが、急に陽気になった。三重吉は豊隆を従えている。豊隆はいい迷惑である。二人が籠を一つずつ持っている。その上に三重吉が大きな箱を兄分に抱えている。五円札が文鳥と籠と箱になったのはこの初冬の晩であった。
那时节的一天,三重吉威风凛凛地从门口走了进来。正是夜色渐浓时分。因为天冷,我正在火钵上方弯下身烤着火,故意让火映出自己显得闷闷不乐的脸,但他来了我忽然高兴起来。而且三重吉后跟着丰隆。带丰隆来干嘛呢。两人一人手持一只鸟笼。而且三重吉抱着一个大箱子,很有些做大哥的义气派头。五元的钞票变成了文鸟的笼子和箱子,正是在这个初冬的晚上。
三重吉は大得意である。まあ御覧なさいと云う。豊隆その洋灯をもっとこっちへ出せなどと云う。そのくせ寒いので鼻の頭が少し紫色になっている。
三重吉很是得意,说,瞧瞧!对丰隆说把那灯笼再往这边挪挪!然而他的鼻尖却冻得有点发紫。
なるほど立派な籠ができた。台が漆で塗ってある。竹は細く削った上に、色が染けてある。それで三円だと云う。安いなあ豊隆と云っている。豊隆はうん安いと云っている。自分は安いか高いか判然と判らないが、まあ安いなあと云っている。好いのになると二十円もするそうですと云う。二十円はこれで二返目である。二十円に比べて安いのは無論である。
竟是一只很有派头的笼子。台座是涂了漆的。竹子削得细细的,还染着颜色。这个说是三元。太便宜了!三重吉对丰隆说。噢,便宜!丰隆说。我倒不太清楚是便宜是贵,也随口说,便宜便宜。真正好的要二十元呢,三重吉说。这可是第二回提到二十元了。跟二十元比,不用说是便宜的了。
この漆はね、先生、日向へ出して曝しておくうちに黒味が取れてだんだん朱の色が出て来ますから、――そうしてこの竹は一返善く煮たんだから大丈夫ですよなどと、しきりに説明をしてくれる。何が大丈夫なのかねと聞き返すと、まあ鳥を御覧なさい、奇麗でしょうと云っている。
这个漆呀,先生,晒在太阳底下,那层发黑的颜色就会褪掉,慢慢地露出朱红色来——又絮絮地说,这竹子是好好地煮过一番的是没有问题的等等。问他什么没问题,却说,哎,瞧这鸟儿,多漂亮的鸟儿呀。
なるほど奇麗だ。次の間へ籠を据えて四尺ばかりこっちから見ると少しも動かない。薄暗い中に真白に見える。籠の中にうずくまっていなければ鳥とは思えないほど白い。何だか寒そうだ。
真是很漂亮。安置在客厅套间里的鸟笼里的鸟儿,从离开四尺的地方看上去,纹丝不动。在薄暮中现出一团纯白,白得若不是栖身在鸟笼中的话,几乎不能让人相信那竟是一只鸟儿。不知为何看上去像是很冷的样子。
寒いだろうねと聞いてみると、そのために箱を作ったんだと云う。夜になればこの箱に入れてやるんだと云う。籠が二つあるのはどうするんだと聞くと、この粗末な方へ入れて時々行水を使わせるのだと云う。これは少し手数が掛るなと思っていると、それから糞をして籠を汚しますから、時々掃除をしておやりなさいとつけ加えた。三重吉は文鳥のためにはなかなか強硬である。
像是很冷的,我说。所以给它作了箱子,三重吉说。到了夜里要把它放进箱子里的。问笼子有两个,是怎么用的呢。答曰那做得粗糙的是放鸟儿进去解手的。我正想着那有些费事,又道鸟粪会污了笼子,须时时清扫云云。为了文鸟,三重吉态度颇有些强硬。
それをはいはい引受けると、今度は三重吉が袂から粟を一袋出した。これを毎朝食わせなくっちゃいけません。もし餌をかえてやらなければ、餌壺を出して殻だけ吹いておやんなさい。そうしないと文鳥が実のある粟を一々拾い出さなくっちゃなりませんから。水も毎朝かえておやんなさい。先生は寝坊だからちょうど好いでしょうと大変文鳥に親切を極めている。そこで自分もよろしいと万事受合った。ところへ豊隆が袂から餌壺と水入を出して行儀よく自分の前に並べた。こういっさい万事を調えておいて、実行を逼られると、義理にも文鳥の世話をしなければならなくなる。内心ではよほど覚束なかったが、まずやってみようとまでは決心した。もしできなければ家のものが、どうかするだろうと思った。
我连声称诺,接受了那些条款后,三重吉却又从袖里掏出一袋粟米说,每天早上必须喂这个给它吃。若是没有给它换饲料,须拿出饲料罐,只把粟米壳吹掉亦可。否则文鸟就得自己一粒一粒地把有瓤的粟米拣出来,水也须每天早上换。说先生好睡懒觉,正好可以早起。对文鸟是关爱至极。我也就万事应承。丰隆不失时机地从袖中掏出饲料罐和水杯恭恭敬敬地摆在我面前。就这样我被逼到了 “万事具备,只欠实行” 的境地,论理论义都不得不去伺候文鸟了。心里是无着无落的,但决计无论如何先试一试。心想若是不行,家里的人会帮我料理的吧。
やがて三重吉は鳥籠を叮嚀に箱の中へ入れて、縁側へ持ち出して、ここへ置きますからと云って帰った。自分は伽藍のような書斎の真中に床を展べて冷かに寝た。夢に文鳥を背負い込んだ心持は、少し寒かったが眠ってみれば不断の夜のごとく穏かである。
过了一会儿三重吉郑重地将鸟笼收进箱子,拎至廊檐,说就放在这里,然后回去了。我在那寺庙似的书斋的正当中设了铺盖凉飕飕地睡了。将文鸟载入梦中的心情,令夜有些凉,但睡得很是安稳,与平日里别无二致。
翌朝眼が覚めると硝子戸に日が射している。たちまち文鳥に餌をやらなければならないなと思った。けれども起きるのが退儀であった。今にやろう、今にやろうと考えているうちに、とうとう八時過になった。仕方がないから顔を洗うついでをもって、冷たい縁を素足で踏みながら、箱の葢を取って鳥籠を明海へ出した。文鳥は眼をぱちつかせている。もっと早く起きたかったろうと思ったら気の毒になった。
第二天早晨醒来时太阳从玻璃窗照进来。我马上想起该给文鸟喂食了。但又迟迟起不来。这就去喂食,这就去喂食,这样想着,时间终于过了八点。没办法,顺洗脸之便光脚踏着廊檐,拿开箱子把鸟笼放在阳光下,文鸟叭嗒叭嗒地眨着眼睛。想它一定早早就盼着起床,不禁有些不忍。
文鳥の眼は真黒である。瞼の周に細い淡紅色の絹糸を縫いつけたような筋が入っている。眼をぱちつかせるたびに絹糸が急に寄って一本になる。と思うとまた丸くなる。籠を箱から出すや否や、文鳥は白い首をちょっと傾けながらこの黒い眼を移して始めて自分の顔を見た。そうしてちちと鳴いた。
文鸟的眼睛是乌溜溜的。眼睑的周围有一圈像是用淡红色的丝线缝上去的细细的线。每眨一次眼,那淡红色丝线就忽然地合拢为一线,然后又忽然睁圆了。把鸟笼从箱子里一拿出来,文鸟就稍稍地歪了歪白白的脖子,转着这乌溜溜的眼睛看了看我的脸。然后唧唧地叫了。
自分は静かに鳥籠を箱の上に据えた。文鳥はぱっと留り木を離れた。そうしてまた留り木に乗った。留り木は二本ある。黒味がかった青軸をほどよき距離に橋と渡して横に並べた。その一本を軽く踏まえた足を見るといかにも華奢にできている。細長い薄紅の端に真珠を削ったような爪が着いて、手頃な留り木を甘く抱え込んでいる。すると、ひらりと眼先が動いた。文鳥はすでに留り木の上で方向を換えていた。しきりに首を左右に傾ける。傾けかけた首をふと持ち直して、心持前へ伸したかと思ったら、白い羽根がまたちらりと動いた。文鳥の足は向うの留り木の真中あたりに具合よく落ちた。ちちと鳴く。そうして遠くから自分の顔を覗き込んだ。
我轻轻将鸟笼靠在箱子上。文鸟腾地从栖木上跳开,然后又跳了回来。栖木有两枝。带些黑色的青木枝,隔开恰如其分的距离并行地横贯在鸟笼中。轻轻栖在其中一枝上的文鸟的脚,看上去是纤弱得不能再纤弱。淡红的细长足趾的尖上镶嵌着珍珠削成似的趾甲,将粗细相宜的栖木乖巧地扣住。忽的眼前又是一闪,栖木上的文鸟已经改变了方向。脖子不时地左歪歪右歪歪。正把歪着的脖子挺直伸向前,白色的羽翅却又一闪。文鸟的脚稳稳落在另一枝栖木的正中央。唧唧地叫。远远地瞧着我的脸。
自分は顔を洗いに風呂場へ行った。帰りに台所へ廻って、戸棚を明けて、昨夕三重吉の買って来てくれた粟の袋を出して、餌壺の中へ餌を入れて、もう一つには水を一杯入れて、また書斎の縁側へ出た。
我去洗澡间洗脸。回来顺便去厨房,打开碗橱,拿出昨天三重吉买来的那袋粟米。将粟米盛入饲料罐,在另一个罐里盛满水,又走到廊檐。
三重吉は用意周到な男で、昨夕叮嚀に餌をやる時の心得を説明して行った。その説によると、むやみに籠の戸を明けると文鳥が逃げ出してしまう。だから右の手で籠の戸を明けながら、左の手をその下へあてがって、外から出口を塞ぐようにしなくっては危険だ。餌壺を出す時も同じ心得でやらなければならない。とその手つきまでして見せたが、こう両方の手を使って、餌壺をどうして籠の中へ入れる事ができるのか、つい聞いておかなかった。
三重吉是事事周到的人。昨天临走前详尽地说明了喂鸟食的要领,据说,不能没完没了地开着鸟笼,文鸟会飞掉。所以要右手一边开鸟笼,左手一边从下面挡住,若不从外边挡住出口是很危险的。拿出食罐时也是一样的要领。三重吉甚至将动作示范给我看了,但我最后还是忘记了手一边的的要领。三重吉甚至将动作示范给我看了,但我最后还是忘记了问他,像这样两手都拿着东西的时候,怎么把食罐放进鸟笼。
自分はやむをえず餌壺を持ったまま手の甲で籠の戸をそろりと上へ押し上げた。同時に左の手で開いた口をすぐ塞いだ。鳥はちょっと振り返った。そうして、ちちと鳴いた。自分は出口を塞いだ左の手の処置に窮した。人の隙を窺って逃げるような鳥とも見えないので、何となく気の毒になった。三重吉は悪い事を教えた。
没有法子,我一只手拿着食罐用手背哗地把鸟笼的门推上去,同时立即用左手遮住出口。鸟儿稍稍回了回头。然后唧唧地叫了。我不知该如何处置这只遮住出口的左手了。看这鸟儿不像是趁人不备就逃掉的鸟儿,心中不知为何有些恻隐之情。三重吉尽告诉人些什么呀。
大きな手をそろそろ籠の中へ入れた。すると文鳥は急に羽搏はばたきを始めた。細く削けずった竹の目から暖かいむく毛が、白く飛ぶほどに翼つばさを鳴らした。自分は急に自分の大きな手が厭いやになった。粟あわの壺と水の壺を留り木の間にようやく置くや否や、手を引き込ました。籠の戸ははたりと自然ひとりでに落ちた。文鳥は留り木の上に戻った。白い首を半なかば横に向けて、籠の外にいる自分を見上げた。それから曲げた首を真直まっすぐにして足の下もとにある粟と水を眺めた。自分は食事をしに茶の間へ行った。
我终于把自己的大手伸进笼里。文鸟忽然开始扑扇翅膀。文鸟奋力拍着翅膀,白白地散落的羽毛暖暖的,从削得细细的竹子之间飞出。我忽然开始讨厌自己的大手。把粟米罐和水罐安置在栖木之间,我立即就将手抽回。笼子的门儿啪哒地自然落下。文鸟又回到栖木上。白色的脖子半歪着,看着笼子外的我。然后又把歪着的脖子持正,眺望着脚下的粟米和水。我回起居间去吃饭。
その頃は日課として小説を書いている時分であった。飯と飯の間はたいてい机に向って筆を握っていた。静かな時は自分で紙の上を走るペンの音を聞く事ができた。伽藍のような書斎へは誰も這入って来ない習慣であった。筆の音に淋しさと云う意味を感じた朝も昼も晩もあった。しかし時々はこの筆の音がぴたりとやむ、またやめねばならぬ、折もだいぶあった。その時は指の股に筆を挟んだまま手の平へ顎を載せて硝子越に吹き荒れた庭を眺めるのが癖であった。それが済むと載せた顎を一応撮んで見る。それでも筆と紙がいっしょにならない時は、撮んだ顎を二本の指で伸して見る。すると縁側で文鳥がたちまち千代千代と二声鳴いた。
那一阵子写小说是我每天必作的功课。一段饭和下一顿之间大致是面朝桌子握着笔的。安静的时候能听见自己的笔在纸上的急行的声音。这寺庙般的书斋有谁也不进的习惯。曾有过从笔的声音听出寂寞的早晨、午间、晚上。但也常常有这笔戛然而止,或不得不止的时候。那种时候我有一个癖好,用手指间夹着笔的手,托住下巴透过玻璃窗眺望被风吹得一片狼藉的院子。结束了这事我就揪一揪那曾托在掌上的下巴,若是即使如此笔与纸也不肯合作时,就用两根手指扯一扯揪起的下巴。那天也在那样揪时,文鸟千代千代地叫了两声。
筆を擱いて、そっと出て見ると、文鳥は自分の方を向いたまま、留り木の上から、のめりそうに白い胸を突き出して、高く千代と云った。三重吉が聞いたらさぞ喜ぶだろうと思うほどな美い声で千代と云った。三重吉は今に馴れると千代と鳴きますよ、きっと鳴きますよ、と受合って帰って行った。
撂下笔悄悄出了门。文鸟面对着我,在栖木上,几乎要跌下来的样子,将白色的胸脯向前挺出,高声地叫道 “千代”。那叫 “千代” 的声音极美,三重吉要是听了肯定会特别高兴。三重吉离开时只说惯了就会叫 “千代”,一定会叫的。
自分はまた籠の傍へしゃがんだ。文鳥は膨らんだ首を二三度竪横に向け直した。やがて一団の白い体がぽいと留り木の上を抜け出した。と思うと奇麗な足の爪が半分ほど餌壺の縁から後へ出た。小指を掛けてもすぐ引っ繰り返りそうな餌壺は釣鐘のように静かである。さすがに文鳥は軽いものだ。何だか淡雪の精のような気がした。
我在鸟笼旁蹲下。文鸟又将蓬蓬松松的脖子一会儿横着一会儿竖着变换了两三次姿势。之后白白的一团的身体腾地从栖木上闪开,定睛看去饲料罐边缘的后部露出一半的漂亮的趾甲。若是人的话就是用小指碰一下也立即会翻倒的饲料罐,像吊钟一般稳稳的。文鸟正是这样地轻盈。不知为何我觉得这鸟儿像是淡雪的精灵一样的。
文鳥はつと嘴を餌壺の真中に落した。そうして二三度左右に振った。奇麗に平して入れてあった粟がはらはらと籠の底に零れた。文鳥は嘴を上げた。咽喉の所で微な音がする。また嘴を粟の真中に落す。また微な音がする。その音が面白い。静かに聴いていると、丸くて細やかで、しかも非常に速かである。菫ほどな小さい人が、黄金の槌で瑪瑙の碁石でもつづけ様に敲いているような気がする。
文鸟噌地把喙插进了饲料罐里。然后左右摇了两三下。我平平整整地装进去的粟米啪啦啪啦地洒落在笼底。文鸟举起鸟喙,咽喉部微微作声。它又将喙插入粟米正中央,又微微作响。那声音有十分有趣。静静地听时,圆润,纤细,且非常之迅速。简直就像是娇小如堇菜花的人儿,拿着黄金槌儿,不断地敲着玛瑙棋子一样。
嘴の色を見ると紫を薄く混ぜた紅のようである。その紅がしだいに流れて、粟をつつく口尖の辺は白い。象牙を半透明にした白さである。この嘴が粟の中へ這入る時は非常に早い。左右に振り蒔く粟の珠も非常に軽そうだ。文鳥は身を逆さまにしないばかりに尖った嘴を黄色い粒の中に刺し込んでは、膨くらんだ首を惜気もなく右左へ振る。籠の底に飛び散る粟の数は幾粒だか分らない。それでも餌壺だけは寂然として静かである。重いものである。餌壺の直径は一寸五分ほどだと思う。
看那喙的颜色时,却是淡淡地羼了些紫色的红。那红渐渐晕开去,至啄粟米的喙尖一带,即呈白色。那是如象牙般的半透明的白。那喙插入粟米时的非常地快。向左右摇着撒落的粟米粒又显得非常地轻盈。文鸟几乎是整个身体倒立着将尖尖的喙插进黄色的米粒时,涨粗了的脖子毫不犹豫地左右甩动,无数的粟米飞散在笼底。但即使如此,只有饲料罐却寂然地纹丝不动。那东西是沉甸甸的。饲料罐的直径该是一寸五分左右。
自分はそっと書斎へ帰って淋しくペンを紙の上に走らしていた。縁側では文鳥がちちと鳴く。折々は千代千代とも鳴く。外では木枯が吹いていた。
悄悄地回到书斋我寂寂然捉笔写字。廊檐上文鸟唧唧地叫着,偶尔也会 “千代千代” 地叫。外面刮着初冬的冷风。
夕方には文鳥が水を飲むところを見た。細い足を壺の縁へ懸けて、小い嘴に受けた一雫を大事そうに、仰向いて呑み下している。この分では一杯の水が十日ぐらい続くだろうと思ってまた書斎へ帰った。晩には箱へしまってやった。寝る時硝子戸から外を覗いたら、月が出て、霜が降っていた。文鳥は箱の中でことりともしなかった。
傍晚看到文鸟饮水的样子。纤细的脚扣着食罐的边缘,将含在小小的喙里的那一滴水珠,郑重地仰着脖子饮下。这个喝法的话,这一罐够它喝十天了,这样思忖着我又回到书斋。晚上我把鸟笼收进箱子。睡下的时候,我从玻璃窗向外面望了望,月亮出来了,降霜了。文鸟在箱子里悄无声息。
明る日もまた気の毒な事に遅く起きて、箱から籠を出してやったのは、やっぱり八時過ぎであった。箱の中ではとうから目が覚めていたんだろう。それでも文鳥はいっこう不平らしい顔もしなかった。籠が明るい所へ出るや否や、いきなり眼をしばたたいて、心持首をすくめて、自分の顔を見た。
第二天早上又起晚了,很是对不住它。将鸟笼从箱子里拿出时,又是八点多了。它在箱子里恐怕早已醒来了。然而文鸟却没有显出任何抱怨的脸色。将鸟笼放在光亮里的一瞬间,它忽然开始眨巴着眼睛,微微缩着脖子,看着我的脸。
昔し美しい女を知っていた。この女が机に凭れて何か考えているところを、後から、そっと行って、紫の帯上げの房になった先を、長く垂らして、頸筋の細いあたりを、上から撫で廻したら、女はものう気に後を向いた。その時女の眉は心持八の字に寄っていた。それで眼尻と口元には笑が萌していた。同時に恰好の好い頸を肩まですくめていた。文鳥が自分を見た時、自分はふとこの女の事を思い出した。この女は今嫁に行った。自分が紫の帯上でいたずらをしたのは縁談のきまった二三日後である。
很久以前我认识一个很美的女人。这女人凭几而立,在思忖着什么。我从她背后悄悄上前,将她和服宽衣带上系的紫色丝带结松开,将那长长垂下的丝带举起,从上方拂着她细细的颈项,女人恹恹地转过头来。那时候女人的眉微微皱成八字。然而眼角和唇边却隐隐含着笑。同时优雅的肩也耸了耸。文鸟看我的时候,我忽地想起那女人来,女人现在已嫁了人。我玩她的丝带胡闹时,是在她亲事定了之后的两三天。
餌壺にはまだ粟が八分通り這入っている。しかし殻もだいぶ混っていた。水入には粟の殻が一面に浮いて、苛く濁っていた。易えてやらなければならない。また大きな手を籠の中へ入れた。非常に要心して入れたにもかかわらず、文鳥は白い翼を乱して騒いだ。小い羽根が一本抜けても、自分は文鳥にすまないと思った。殻は奇麗に吹いた。吹かれた殻は木枯がどこかへ持って行った。水も易えてやった。水道の水だから大変冷たい。
饲料罐里的粟米还是八分满。但也混杂着很多的粟壳。水罐里浮着一层粟壳,甚是浑浊。该换水了。于是我又把自己的大手伸进鸟笼,如此小心翼翼地伸进去手,然而文鸟还是扑着白色的羽翅慌乱起来。即使文鸟落了多么细小的一支羽毛,我心里也会不忍的。我把粟壳吹得干干净净。被吹散的粟壳被初冬的冷风不知带到哪里去了。水也换了。那水是自来水,很是冰冷。
その日は一日淋しいペンの音を聞いて暮した。その間には折々千代千代と云う声も聞えた。文鳥も淋しいから鳴くのではなかろうかと考えた。しかし縁側へ出て見ると、二本の留り木の間を、あちらへ飛んだり、こちらへ飛んだり、絶間なく行きつ戻りつしている。少しも不平らしい様子はなかった。
那天我一整天寂寂地听着笔划着纸的声音度过。那之间时时听到“千代千代” 的叫声。我思量着文鸟是不是也因为寂寞才叫。然而出了廊檐看时,它却在两支栖木之间,跳过来,跳过去,来来回回地跳个不停,全无一丝怨艾的样子。
夜は箱へ入れた。明る朝目が覚めると、外は白い霜だ。文鳥も眼が覚めているだろうが、なかなか起きる気にならない。枕元にある新聞を手に取るさえ難儀だ。それでも煙草は一本ふかした。この一本をふかしてしまったら、起きて籠から出してやろうと思いながら、口から出る煙の行方を見つめていた。するとこの煙の中に、首をすくめた、眼を細くした、しかも心持眉を寄せた昔の女の顔がちょっと見えた。自分は床の上に起き直った。寝巻の上へ羽織を引掛けて、すぐ縁側へ出た。そうして箱の葢をはずして、文鳥を出した。文鳥は箱から出ながら千代千代と二声鳴いた。
晚上我把鸟笼放进箱子。第二天早上醒来时,外边儿下了白白的霜。文鸟想必也已经醒了,但我迟迟不愿起来。连伸手去拿枕边的报纸也觉得费事。即使如此我还是吸了一支烟。吸完了那支烟,我想该起床把文鸟从箱子里解放出来了,但却凝望着从自己口中吐出的烟雾的去向。在烟雾中,隐隐望见那位耸了耸肩眯起眼睛,并且稍稍皱起的眉了的女子的脸。我从寝床上坐起来。在睡衣上披了件衣服,立即走到廊檐。然后移开箱盖,拿出文鸟的笼子。从箱子里出来的时候文鸟 “千代千代” 地叫了两声。
三重吉の説によると、馴れるにしたがって、文鳥が人の顔を見て鳴くようになるんだそうだ。現に三重吉の飼っていた文鳥は、三重吉が傍にいさえすれば、しきりに千代千代と鳴きつづけたそうだ。のみならず三重吉の指の先から餌を食べると云う。自分もいつか指の先で餌をやって見たいと思った。
据三重吉说,慢慢地跟人熟了,文鸟会看着人的脸叫的。现在三重吉养着的文鸟,只要三重吉在身边,就会 “千代千代” 的叫个不停。不仅如此,它还会从三重吉的手指尖上啄食。我也想什么时候用指尖喂给它试试。
次の朝はまた怠けた。昔の女の顔もつい思い出さなかった。顔を洗って、食事を済まして、始めて、気がついたように縁側へ出て見ると、いつの間にか籠が箱の上に乗っている。文鳥はもう留り木の上を面白そうにあちら、こちらと飛び移っている。そうして時々は首を伸して籠の外を下の方から覗いている。その様子がなかなか無邪気である。昔紫の帯上でいたずらをした女は襟の長い、背のすらりとした、ちょっと首を曲げて人を見る癖があった。
第二天早上又偷懒了。连昔日那女子的面容也没有忆起。洗了脸吃了饭,才像刚刚想起似的到了廊檐看时,不知何时那鸟笼已被挪到了箱子上面。文鸟已在栖木上像是很有趣似地飞过来,飞过去。而且时时伸出脖子来,从下面窥视着鸟笼外,甚是一副天真无邪的样子。昔日我用人家的绢带恶作剧的那女子,颈项颀长,身材挺秀,有着歪着脖子看人的习惯。
粟はまだある。水もまだある。文鳥は満足している。自分は粟も水も易えずに書斎へ引込んだ。
粟米还有。水也还有。文鸟很满足的样子。我没有换粟米也没有换水,又回到自己的书斋。
昼過ぎまた縁側へ出た。食後の運動かたがた、五六間の廻り縁を、あるきながら書見するつもりであった。ところが出て見ると粟がもう七分がた尽きている。水も全く濁ってしまった。書物を縁側へ抛り出しておいて、急いで餌と水を易えてやった。
午后又来到廊檐。我打算在五六间的回廊上边走边看书,算是饭后活动身体。然而出去看时,粟米已经吃掉了七分左右。水也完全地浑浊了。我将书扔在廊檐上,急忙给它换了粟米和水。
次の日もまた遅く起きた。しかも顔を洗って飯を食うまでは縁側を覗かなかった。書斎に帰ってから、あるいは昨日のように、家人が籠を出しておきはせぬかと、ちょっと縁へ顔だけ出して見たら、はたして出してあった。その上餌も水も新しくなっていた。自分はやっと安心して首を書斎に入れた。途端に文鳥は千代千代と鳴いた。それで引込めた首をまた出して見た。けれども文鳥は再び鳴かなかった。けげんな顔をして硝子越に庭の霜を眺めていた。自分はとうとう机の前に帰った。
第二天又起晚了。并且在洗罢脸吃罢饭前一直没有去看廊檐上的样子。回到书斋,我想,或者家里人不会像昨天那样把文鸟笼子从箱子里取出,于是向廊檐只探出头瞧了瞧,笼子是确实取出来了。并且鸟食和水也换了新的。我这才放了心将脖子缩回书斋。但那时文鸟忽然 “千代千代” 地叫了。于是我又将缩回的脖子伸出去看。但文鸟没有再叫。显得很诧异似的透过玻璃望着院子里的霜。我终于回到自己的书桌前。
書斎の中では相変らずペンの音がさらさらする。書きかけた小説はだいぶんはかどった。指の先が冷たい。今朝埋けた佐倉炭は白くなって、薩摩五徳2に懸かけた鉄瓶がほとんど冷めている。炭取は空だ。手を敲いたがちょっと台所まで聴えない。立って戸を明けると、文鳥は例に似ず留り木の上にじっと留っている。よく見ると足が一本しかない。自分は炭取を縁に置いて、上からこごんで籠の中を覗き込んだ。いくら見ても足は一本しかない。文鳥はこの華奢な一本の細い足に総身を託して黙然として、籠の中に片づいている。
书斋里仍然只是沙沙的驰笔声。手上写着的小说大体快写完了。指尖冰凉。今天早上埋的佐仓炭已经白了,火钵的萨摩铁架上坐着的铁壶差不多冷透了。炭盆是空的。我击掌,但厨房里的人是听不到的。立起身开了门,文鸟却跟往常不同,安静地待在栖木上。定睛看时,只看得到一只脚。我把炭盆放在廊檐上,从上方躬下身仔细审视,怎么看也只有一只脚。文鸟将全身的重量托在那一只纤弱的脚上,默默地蜷缩在笼中。
自分は不思議に思った。文鳥について万事を説明した三重吉もこの事だけは抜いたと見える。自分が炭取に炭を入れて帰った時、文鳥の足はまだ一本であった。しばらく寒い縁側に立って眺めていたが、文鳥は動く気色もない。音を立てないで見つめていると、文鳥は丸い眼をしだいに細くし出した。おおかた眠たいのだろうと思って、そっと書斎へ這入ろうとして、一歩足を動かすや否や、文鳥はまた眼を開いた。同時に真白な胸の中から細い足を一本出した。自分は戸を閉てて火鉢へ炭をついだ。
我觉得很是不可思议。关于文鸟,事无巨细全部说明了的三重吉似乎单单忘掉了这件事。我用炭盆装取了炭回来时,文鸟仍是用一只脚站着。在寒冷的廊檐稍立片刻望着它,但文鸟纹丝不动。悄无声息地望着它,文鸟的眼渐渐眯起来。我想大概是瞌睡了,便悄悄地预备回到书斋,正要举步,文鸟却又睁开了眼睛。同时从纯白的胸部伸出一只细细的脚。我闭了门,将炭加进火钵里。
小説はしだいに忙しくなる。朝は依然として寝坊をする。一度家のものが文鳥の世話をしてくれてから、何だか自分の責任が軽くなったような心持がする。家のものが忘れる時は、自分が餌をやる水をやる。籠の出し入れをする。しない時は、家のものを呼んでさせる事もある。自分はただ文鳥の声を聞くだけが役目のようになった。
小说的写作越来越忙。早晨依然睡懒觉。自从家里人照顾过文鸟的那次开始,觉得自己的责任似乎轻了许多。家里人忘记的时候,我自己给它喂水喂食。自己将它的笼子从箱子里放进取出。我自己不做时也会叫家里人去做。我的任务,似乎成了只要听文鸟的叫声就行了。
それでも縁側へ出る時は、必ず籠の前へ立留って文鳥の様子を見た。たいていは狭い籠を苦にもしないで、二本の留り木を満足そうに往復していた。天気の好い時は薄い日を硝子越に浴びて、しきりに鳴き立てていた。しかし三重吉の云ったように、自分の顔を見てことさらに鳴く気色はさらになかった。
即便如此,到廊檐上去的时候,我必定要在鸟笼前驻足看看文鸟的样子。大体上它看上去并不苦于笼子狭窄,只是在两支栖木之上满足地跳来跳去。天气好的时候沐浴着透过玻璃窗射进来的日光,不时地啼叫着。但全无丝毫像三重吉说的那样,会看着我的脸叫的样子。
自分の指からじかに餌を食うなどと云う事は無論なかった。折々機嫌のいい時は麺麭の粉などを人指指の先へつけて竹の間からちょっと出して見る事があるが文鳥はけっして近づかない。少し無遠慮に突き込んで見ると、文鳥は指の太いのに驚いて白い翼を乱して籠の中を騒ぎ廻るのみであった。二三度試みた後、自分は気の毒になって、この芸だけは永久に断念してしまった。今の世にこんな事のできるものがいるかどうだかはなはだ疑わしい。おそらく古代の聖徒の仕事だろう。三重吉は嘘を吐いたに違ない。
不用说从我的手指尖直接吃食的事情是没有的。偶尔在它情绪好的时候将面包屑什么的放在食指尖上从竹篾之间稍稍伸进,但文鸟却绝不会靠近。再稍稍不客气地伸进去一些时,文鸟只是被粗大的手指惊得乱扑着白色的羽翅,笼中一片骚动。这样试过两三次后,便于心不忍了。于是永久地放弃了这个游戏。我对这世上是否真的有人能做到这种事颇感怀疑。那恐怕是古代圣徒做的事吧。三重吉一定是撒了谎。
或日の事、書斎で例のごとくペンの音を立てて侘びしい事を書き連ねていると、ふと妙な音が耳に這入った。縁側でさらさら、さらさら云う。女が長い衣の裾を捌いているようにも受取られるが、ただの女のそれとしては、あまりに仰山3である。雛段4をあるく、内裏雛の袴の襞の擦れる音とでも形容したらよかろうと思った。自分は書きかけた小説をよそにして、ペンを持ったまま縁側へ出て見た。すると文鳥が行水を使っていた。
一天,我正在书斋里正照例在驰笔的声音中写着些寂寞的事,忽然听到一种奇怪的声音。廊檐上传来沙沙,沙沙的声音。有些像女人在拨开长长的衣裾,但那样说又过于夸大其词了。也许可以形容成,像女儿节的人偶娘娘,走在人偶架上,擦到裙裾上的褶裙的声音。我把手上写着的小说推到一旁,来不及放下手里的笔,走到廊檐。我看到文鸟正在洗浴。
水はちょうど易え立てであった。文鳥は軽い足を水入の真中に胸毛まで浸して、時々は白い翼を左右にひろげながら、心持水入の中にしゃがむように腹を圧しつけつつ、総身の毛を一度に振っている。そうして水入の縁にひょいと飛び上る。しばらくしてまた飛び込む。水入の直径は一寸五分ぐらいに過ぎない。飛び込んだ時は尾も余り、頭も余り、背は無論余る。水に浸かるのは足と胸だけである。それでも文鳥は欣然として行水を使っている。
水恰好是刚换了的。文鸟将轻巧的双足踏在水罐正中央,水浸到胸部的羽毛,它不时左右伸展白色的羽翅,稍稍在水罐里蹲下压低腹部,再将全身的羽毛猛地一抖。之后轻轻飞到水罐沿上。片刻,又跳进水罐去。水罐的直径不过一寸五分。文鸟跳进时尾在外边,头在外边,当然背也在外边。浸在水里的只有脚和胸。然而即使如此,文鸟仍是欣欣然在洗浴着。
自分は急に易籠を取って来た。そうして文鳥をこの方へ移した。それから如露5を持って風呂場へ行って、水道の水を汲んで、籠の上からさあさあとかけてやった。如露の水が尽きる頃には白い羽根から落ちる水が珠になって転がった。文鳥は絶えず眼をぱちぱちさせていた。
我急忙拿来另一只笼子,将文鸟移到这只笼子里。然后拿着喷壶到浴室去汲了自来水,从笼子的上方簌簌地淋给它。喷壶的水淋完时白色的羽毛上水珠一粒粒滚落下来,文鸟不停地眨着眼睛。
昔紫の帯上でいたずらをした女が、座敷で仕事をしていた時、裏二階から懐中鏡で女の顔へ春の光線を反射させて楽しんだ事がある。女は薄紅くなった頬を上げて、繊い手を額の前に翳しながら、不思議そうに瞬をした。この女とこの文鳥とはおそらく同じ心持だろう。
昔日我用人家的紫色衣带恶作剧的那女子,在榻榻米的客间做活儿时,我曾从二楼用手镜将春日的阳光反射到女子的脸上。女子仰起染了淡淡红晕的脸,纤细的手遮住额前,显得很不可思议似的眨着眼睛。这女子跟这文鸟该是一样的心绪吧。
日数が立つにしたがって文鳥は善く囀ずる。しかしよく忘れられる。或る時は餌壺が粟の殻だけになっていた事がある。ある時は籠の底が糞でいっぱいになっていた事がある。ある晩宴会があって遅く帰ったら、冬の月が硝子越に差し込んで、広い縁側がほの明るく見えるなかに、鳥籠がしんとして、箱の上に乗っていた。その隅に文鳥の体が薄白く浮いたまま留り木の上に、有るか無きかに思われた。自分は外套の羽根を返して、すぐ鳥籠を箱のなかへ入れてやった。
随着时日增加,文鸟叫得多起来了。然而它却常常被忘却。有一次饵壶里只剩些粟壳。还有的时候笼底里满是粪便。一次晚宴回来得迟了,冬月照进玻璃窗来,宽敞的廊檐柔和地亮着,鸟笼悄无声息地放在箱子上。笼子角落的文鸟,身子像一抹淡淡的白,浮在栖木上,让人怀疑是在那里呢还是不在。我将皮毛外套翻了面,立即将鸟笼收进箱子。
翌日文鳥は例のごとく元気よく囀っていた。それからは時々寒い夜も箱にしまってやるのを忘れることがあった。ある晩いつもの通り書斎で専念にペンの音を聞いていると、突然縁側の方でがたりと物の覆った音がした。しかし自分は立たなかった。依然として急ぐ小説を書いていた。わざわざ立って行って、何でもないといまいましいから、気にかからないではなかったが、やはりちょっと聞耳を立てたまま知らぬ顔ですましていた。その晩寝たのは十二時過ぎであった。便所に行ったついで、気がかりだから、念のため一応縁側へ廻って見ると――
第二天文鸟照例快活地唱着。那之后也时常有寒夜里忘记将鸟笼收进箱子的事。某晚,像往常一样在书斋里一心听着自己驰笔的声音时,突然廊檐上 “咔嗒” 的一声,像是有什么打翻了。但我没有立起依然急急忙忙地着写小说。若是特意立起去看,却什么事也没有的话是很讨厌的,所以虽说我并不是不在意,但仍只是竖起耳朵稍微留心听着,而不去理会。那夜里睡下的时候十二点过了。如厕时,还是有些放不下,安心起见顺便去廊檐看了看 ——
籠は箱の上から落ちている。そうして横に倒れている。水入も餌壺も引繰返っている。粟は一面に縁側に散らばっている。留り木は抜け出している。文鳥はしのびやかに鳥籠の桟にかじりついていた。自分は明日から誓ってこの縁側に猫を入れまいと決心した。
笼子从箱子上落下了。并且横倒着。水罐与饵罐都打翻着。廊檐上粟米撒了一地,栖木也掉下来了。文鸟静悄悄地紧紧抓着笼子的细竹条。我发誓明天起决不让猫进这廊檐。
翌日文鳥は鳴かなかった。粟を山盛入れてやった。水を漲るほど入れてやった。文鳥は一本足のまま長らく留り木の上を動かなかった。午飯を食ってから、三重吉に手紙を書こうと思って、二三行書き出すと、文鳥がちちと鳴いた。自分は手紙の筆を留めた。文鳥がまたちちと鳴いた。出て見たら粟も水もだいぶん減っている。手紙はそれぎりにして裂いて捨てた。
第二天文鸟没有叫。粟米盛得满满的,水也装得快要溢出。文鸟只用一只脚站在栖木上久久没有丝毫动静。吃罢午饭,我想给三重吉写信,刚写了两三行,文鸟唧唧地叫了。我停下了写信的笔。文鸟又唧唧地叫了。出去看时粟米和水都少了很多。信就停在那两三行被我撕破丢掉了。
翌日文鳥がまた鳴かなくなった。留り木を下りて籠の底へ腹を圧しつけていた。胸の所が少し膨らんで、小さい毛が漣のように乱れて見えた。自分はこの朝、三重吉から例の件で某所まで来てくれと云う手紙を受取った。十時までにと云う依頼であるから、文鳥をそのままにしておいて出た。三重吉に逢って見ると例の件がいろいろ長くなって、いっしょに午飯を食う。いっしょに晩飯を食う。その上明日の会合まで約束して宅へ帰った。帰ったのは夜の九時頃である。文鳥の事はすっかり忘れていた。疲れたから、すぐ床へ這入って寝てしまった。
第二天文鸟又不叫了。不在栖木上了,却在笼子底,腹部压在下边。胸部稍稍隆起,细细的绒毛微微起着些涟漪,显得有些凌乱。我今天早晨收到了三重吉的信,说是为先前的某事让我去某处。见面的时间是十点,于是我就那样离开文鸟。见了三重吉,为那件事的各种事宜说话说得长了,于是一起吃午饭,又一起吃晚饭。然后又约好明天见面,这才回家。回到家里时是夜里九点左右了。文鸟的事情早已忘到了九霄云外。我觉得有些疲乏,立即钻入寝床睡下了。
翌日眼が覚めるや否や、すぐ例の件を思いだした。いくら当人が承知だって、そんな所へ嫁にやるのは行末よくあるまい、まだ子供だからどこへでも行けと云われる所へ行く気になるんだろう。いったん行けばむやみに出られるものじゃない。世の中には満足しながら不幸に陥って行く者がたくさんある。などと考えて楊枝を使って、朝飯を済ましてまた例の件を片づけに出掛けて行った。
第二天早上一醒来,我立即想起先前提到的那件事情来。即使本人事先已经了解了,但嫁到那么个人家去决不会有好结果。那女人还是个孩子,所以不管说去哪里都会听话地去的。然而一旦去了就不能随随便便地出来了。世上心满意足地陷入不幸的大有人在。等等。我想着这些事,用牙签剔着牙,吃罢早饭又为处理那事情出了门。
帰ったのは午後三時頃である。玄関へ外套を懸かけて廊下伝いに書斎へ這入るつもりで例の縁側へ出て見ると、鳥籠が箱の上に出してあった。けれども文鳥は籠の底に反っ繰り返っていた。二本の足を硬く揃えて、胴と直線に伸ばしていた。自分は籠の傍に立って、じっと文鳥を見守った。黒い眼を眠っている。瞼の色は薄蒼く変った。
回到家里时是三点左右。将外套挂在玄关,穿过走廊进入书斋时顺便出了廊檐看时,鸟笼在箱子上边。但文鸟翻倒在笼底。两只脚僵硬地贴在身体上伸直成线。我立在笼子边上,久久地凝视着它。黑眼睛是闭着的。眼睑泛着淡淡的青色。
餌壺には粟の殻ばかり溜っている。啄むべきは一粒もない。水入は底の光るほど涸れている。西へ廻った日が硝子戸を洩れて斜めに籠に落ちかかる。台に塗った漆は、三重吉の云ったごとく、いつの間にか黒味が脱けて、朱の色が出て来た。
食罐里只积着些粟壳。可啄食的一粒也没有。水罐底干得闪亮。偏西的太阳泄进玻璃窗,斜落在笼子上。笼子台座上涂的漆,像三重吉说的那样,不知何时已经褪去了黑色,露出了朱红。
自分は冬の日に色づいた朱の台を眺めた。空になった餌壺を眺めた。空しく橋を渡している二本の留り木を眺めた。そうしてその下に横わる硬い文鳥を眺めた。
我望着染了冬日夕阳的朱红的台座。望着空空的食罐。望着空寂的横贯在笼中的两支栖木。也望着那栖木下边横卧着的僵硬的文鸟。
自分はこごんで両手に鳥籠を抱えた。そうして、書斎へ持って這入った。十畳の真中へ鳥籠を卸して、その前へかしこまって、籠の戸を開いて、大きな手を入れて、文鳥を握って見た。柔らかい羽根は冷きっている。
我躬下身用两手抱住鸟笼,然后将它抱进书斋。我将鸟笼安放在十张榻榻米大的书斋的正中央,在前面正坐了,打开了笼子,将我的大手伸进去,握了握文鸟。柔软的羽毛已经冷透了。
拳を籠から引き出して、握った手を開けると、文鳥は静に掌の上にある。自分は手を開けたまま、しばらく死んだ鳥を見つめていた。それから、そっと座布団の上に卸した。そうして、烈しく手を鳴らした。
我将拳头从笼中抽出,伸开了握着的手。文鸟在手掌上静静的。我就那样张着手,久久凝视着死去的鸟儿。然后将它放在坐垫上。然后,激烈地击掌。
十六になる小女が、はいと云って敷居際に手をつかえる。自分はいきなり布団の上にある文鳥を握って、小女の前へ抛り出した。小女は俯向いて畳を眺めたまま黙っている。自分は、餌をやらないから、とうとう死んでしまったと云いながら、下女の顔を睥めつけた。下女はそれでも黙っている。
十六岁的使女,口中称 “是” 跪在房间门口双手接地。我冷不丁将坐垫上的文鸟抓起,抛在使女的面前。使女低着头默默地望着榻榻米。我说,就因为你们不好好喂食,到底死了,一边瞪着使女的脸。使女对此也是沉默着。
自分は机の方へ向き直った。そうして三重吉へ端書をかいた。「家人が餌をやらないものだから、文鳥はとうとう死んでしまった。たのみもせぬものを籠へ入れて、しかも餌をやる義務さえ尽くさないのは残酷の至りだ」と云う文句であった。
我又坐在桌前,开始给三重吉写明信片。我是这样写的:“因家里的人没有喂食,文鸟到底是死了。不管人家愿意与否就将之关进笼中并且连饲养的义务都没有尽到,真是残酷之极。”
自分は、これを投函して来い、そうしてその鳥をそっちへ持って行けと下女に云った。下女は、どこへ持って参りますかと聞き返した。どこへでも勝手に持って行けと怒鳴りつけたら、驚いて台所の方へ持って行った。
我出门将此信寄出,回来后让使女将那鸟儿拿开。使女问我,该拿到哪里去。我对她怒喝道随便拿到哪里去。使女慌慌地拿着鸟儿往厨房那边去了。
しばらくすると裏庭で、子供が文鳥を埋るんだ埋るんだと騒いでいる。庭掃除に頼んだ植木屋が、御嬢さん、ここいらが好いでしょうと云っている。自分は進まぬながら、書斎でペンを動かしていた。
过了一会儿,听到后院里孩子们在嘈杂着争论是埋文鸟还是不埋。被叫来打理庭院的园丁说,小姐,埋在这里好吧。我在书斋持着滞涩的笔写字。
翌日は何だか頭が重いので、十時頃になってようやく起きた。顔を洗いながら裏庭を見ると、昨日植木屋の声のしたあたりに、小さい公札が、蒼い木賊の一株と並んで立っている。高さは木賊よりもずっと低い。庭下駄を穿いて、日影の霜を踏み砕いて、近づいて見ると、公札の表には、この土手登るべからずとあった。筆子の手蹟である。
第二天不知为何脑子里昏沉沉的,到了十点才终于起床。一边洗脸一边朝后院看去,昨天听到园丁声音的地方,一支小小的告示牌,与一株青青的木贼并排立着,牌子比木贼要矮的多。我穿上院子里穿的木屐,踏碎了背阳处的霜,走近那牌子,只见那牌子的正面写着,请勿攀登此土坡。是私塾小孩子的手笔。
午後三重吉から返事が来た。文鳥は可愛想な事を致しましたとあるばかりで家人が悪いとも残酷だともいっこう書いてなかった。
午后三重吉的回信来了。只说可怜了那文鸟,却全然没有写我家里人不好或者残酷之类的词句。