梶井基次郎: 闇の絵巻
first published:『詩・現実』1930年9月22日発行・第二冊
audio:https://www.youtube.com/watch?v=qhmDy-6g6Qk
desc: 以第一人称记录了作者在伊豆汤之岛疗养期间,于深夜山林溪谷间行走的感官体验与哲思
最近東京を騒がした有名な強盗が捕まって語ったところによると、彼は何も見えない闇の中でも、一本の棒さえあれば何里でも走ることができるという。その棒を身体の前へ突き出し突き出しして、畑でもなんでも盲滅法に走るのだそうである。
最近在东京引发轩然大波的知名大盗落网,据说他在伸手不见五指的黑暗中,只要有一根棍子在手,便能跑上数里远。他将棍子往前探出,不管是在田里,还是在任何地方,都能像盲人一样一直往前冲。
私はこの記事を新聞で読んだとき、そぞろに爽快な戦慄を禁じることができなかった。
我在报上看到这篇报道时,不禁感到一阵痛快的战栗。
闇! そのなかではわれわれは何を見ることもできない。より深い暗黒が、いつも絶えない波動で刻々と周囲に迫って来る。こんななかでは思考することさえできない。何が在るかわからないところへ、どうして踏み込んでゆくことができよう。勿論われわれは摺足でもして進むほかはないだろう。しかしそれは苦渋や不安や恐怖の感情で一ぱいになった一歩だ。その一歩を敢然と踏み出すためには、われわれは悪魔を呼ばなければならないだろう。裸足で薊を踏んづける! その絶望への情熱がなくてはならないのである。
黑暗!置身其中,我们根本什么也看不见。一股更深的黑暗,在永不停歇的波动下,不断朝周遭逼近。身处其中,连思考都办不到。根本不知道前方会有什么,这样要怎么迈步前进呢?当然,我们只好一点一点挪步而行了吧。不过,那是充满苦涩、不安、恐惧等情感的一步。为了能勇敢迈出这一步,我们势必得召唤恶魔,赤脚踩向蓟花!对绝望必须有这样的热情才行。
闇のなかでは、しかし、もしわれわれがそうした意志を捨ててしまうなら、なんという深い安堵がわれわれを包んでくれるだろう。この感情を思い浮かべるためには、われわれが都会で経験する停電を思い出してみればいい。停電して部屋が真暗になってしまうと、われわれは最初なんともいえない不快な気持になる。しかしちょっと気を変えて呑気でいてやれと思うと同時に、その暗闇は電燈の下では味わうことのできない爽やかな安息に変化してしまう。
然而,在黑暗中,如果我们舍弃这样的意志,会有多大的安心感将我们紧紧包裹啊!为了在心中感受这样的情感,我们可以试着想想在都市里体验过的停电。房里因停电而变得一片漆黑后,我们一开始会产生难以言喻的不悦感。但如果稍微改变想法,抱着悠哉的态度面对,那么,眼前的黑暗将会摇身一变,成为在电灯下体会不到的爽朗安宁。
深い闇のなかで味わうこの安息はいったいなにを意味しているのだろう。今は誰の眼からも隠れてしまった――今は巨大な闇と一如になってしまった――それがこの感情なのだろうか。
在深邃的黑暗中尝到的这种安宁,到底意味着什么呢?此时此刻所有人都看不到我——此时此刻我和巨大的黑暗融为一体——就是这种情感吗?
私はながい間ある山間の療養地に暮らしていた。私はそこで闇を愛することを覚えた。昼間は金毛の兎が遊んでいるように見える谿向こうの枯萱山が、夜になると黒ぐろとした畏怖に変わった。昼間気のつかなかった樹木が異形な姿を空に現わした。夜の外出には提灯を持ってゆかなければならない。月夜というものは提灯の要いらない夜ということを意味するのだ。――こうした発見は都会から不意に山間へ行ったものの闇を知る第一階梯である。
有很长一段时间,我都住在山里的疗养所。我在那里爱上黑暗。白天时,溪谷面对的枯萱山,看起来就像有成群的金毛兔在嬉戏;入夜后,则摇身一变,成为黑压压的恐惧。白天时没注意到的树木,在空中展现怪异的姿态。夜晚外出,非得提灯笼不可。而月夜就不需要提灯笼。——这样的发现,正是从都市突然走进山中的人,对黑暗最初的认知。
私は好んで闇のなかへ出かけた。溪ぎわの大きな椎の木の下に立って遠い街道の孤独の電燈を眺めた。深い闇のなかから遠い小さな光を跳めるほど感傷的なものはないだろう。私はその光がはるばるやって来て、闇のなかの私の着物をほのかに染めているのを知った。またあるところでは溪の闇へ向かって一心に石を投げた。闇のなかには一本の柚の木があったのである。石が葉を分けて戞々と崖へ当った。ひとしきりすると闇のなかからは芳烈な柚の匂いが立ち騰って来た。
我自己喜欢走向黑暗。站在溪谷边的大苦槠树下,远望大路上孤独的电灯。置身深邃的黑暗中凝望远方细小微弱的亮光,再也没有比这更令人感伤的事了。我明白那亮光千里迢迢前来,微微照亮身处黑暗中的我身上的衣服。我还在某个地方,全神贯注地朝溪谷的幽暗丢石头。黑暗中有一棵柚子树。石头拨开叶子,砸向山崖。半晌过后,从黑暗中冒出一股浓烈的柚子香气。
こうしたことは療養地の身を噛むような孤独と切り離せるものではない。あるときは岬の港町へゆく自動車に乗って、わざと薄暮の峠へ私自身を遺棄された。深い溪谷が闇のなかへ沈むのを見た。夜が更けて来るにしたがって黒い山々の尾根が古い地球の骨のように見えて来た。彼らは私のいるのも知らないで話し出した。
我这么做,与住在疗养所的这份切身的孤独感脱不了关系。有一次我坐上驶往海岬港町的车子,刻意将自己遗弃在薄暮轻掩的山岭。我看见深邃的溪谷沉入黑暗之中。随着夜色渐深,黝黑的山脊看起来宛如古老的地球骨骼。它们不知道有我的存在,说起话来。
「おい。いつまで俺達はこんなことをしていなきゃならないんだ」
“喂,我们得一直这样持续到什么时候啊?”
私はその療養地の一本の闇の街道を今も新しい印象で思い出す。それは溪の下流にあった一軒の旅館から上流の私の旅館まで帰って来る道であった。溪に沿って道は少し上りになっている。三四町もあったであろうか。その間にはごく稀にしか電燈がついていなかった。今でもその数が数えられるように思うくらいだ。最初の電燈は旅館から街道へ出たところにあった。夏はそれに虫がたくさん集まって来ていた。一匹の青蛙がいつもそこにいた。電燈の真下の電柱にいつもぴったりと身をつけているのである。しばらく見ていると、その青蛙はきまったように後足を変なふうに曲げて、背中を掻く模ねをした。電燈から落ちて来る小虫がひっつくのかもしれない。いかにも五月蠅そうにそれをやるのである。私はよくそれを眺めて立ち留っていた。いつも夜更けでいかにも静かな眺めであった。
我现在仍会想起那处疗养所附近的一条黑暗街道。那是从位于溪谷下游的一家旅馆,走回我位于上游处的旅馆所行经的道路。那条路沿着溪畔,略微上坡。应该有三四个住宅区那么远。路上只有寥寥几盏电灯。直到现在,我仿佛仍数得出有几盏。第一盏灯位于从旅馆走到这条街道上的位置。夏天时聚集了许多虫子。一只青蛙总待在那里,紧贴在电灯正下方的电线杆上。我凝望了它一会儿,那只青蛙固定会将后脚弯曲成奇怪的形状,做出搔抓背后的动作。或许是在搔抓从电灯上掉到它身上的虫子。它不厌其烦地做着这个动作。我在一旁驻足,仔细观察。总是在这样的深夜时分,无比宁静的景致。
しばらく行くと橋がある。その上に立って溪の上流の方を眺めると、黒ぐろとした山が空の正面に立ち塞がっていた。その中腹に一箇の電燈がついていて、その光がなんとなしに恐怖を呼び起こした。バァーンとシンバル1を叩いたような感じである。私はその橋を渡るたびに私の眼がいつもなんとなくそれを見るのを避けたがるのを感じていた。
走了一小段路后,前方是一座桥。站在桥上望向小溪的上游,黑压压的山脉遮住了正面的天空。山腰处亮着一盏灯,灯光隐隐唤起人们的恐惧。感觉就像在敲打着铜钹。每次我走过那座桥,总会下意识地故意不望向那盏灯。
下流の方を眺めると、溪が瀬をなして轟々と激していた。瀬の色は闇のなかでも白い。それはまた尻っ尾のように細くなって下流の闇のなかへ消えてゆくのである。溪の岸には杉林のなかに炭焼小屋があって、白い煙が切り立った山の闇を匍い登っていた。その煙は時として街道の上へ重苦しく流れて来た。だから街道は日によってはその樹脂臭い匂いや、また日によっては馬力の通った昼間の匂いを残していたりするのだった。
我向下游处望去,小溪形成一处激流,水声隆隆。尽管在黑暗中,激流的颜色还是一样白。它就像尾巴一样,变得愈来愈细,就此消失在下游的黑暗中。溪岸边的杉林里,有座制炭小屋,白烟顺着幽暗的陡峭山壁往上爬行。白烟有时会沉闷地飘向街道。所以在某些日子里,街道上会有树脂的臭味,而某些日子则是有白天马车通过后的气味。
橋を渡ると道は溪に沿ってのぼってゆく。左は溪の崖。右は山の崖。行手に白い電燈がついている。それはある旅館の裏門で、それまでのまっすぐな道である。この闇のなかでは何も考えない。それは行手の白い電燈と道のほんのわずかの勾配のためである。これは肉体に課せられた仕事を意味している。目ざす白い電燈のところまでゆきつくと、いつも私は息切れがして往来の上で立ち留った。呼吸困難。これはじっとしていなければいけないのである。用事もないのに夜更けの道に立ってぼんやり畑を眺めているようなふうをしている。しばらくするとまた歩き出す。
过桥后,道路沿着小溪一路上行。左边是溪谷断崖,右边是山崖。前方有一盏白灯。那是一家旅馆的后门,一条笔直的道路可以直通那里。在这片黑暗中,什么也不用想。因为有前方这盏白灯,以及这条略带坡度的道路,意味着这纯粹只是靠体力的工作。抵达那盏白灯后,我总是气喘吁吁,就此在路上驻足。我呼吸困难,非得停下来休息不可。好像就只是无所事事的人,夜里站在路旁,心不在焉地望着农田。半晌过后,我再度迈步前行。
街道はそこから右へ曲がっている。溪沿いに大きな椎の木がある。その木の闇はいたって巨大だ。その下に立って見上げると、深い大きな洞窟のように見える。梟の声がその奥にしていることがある。道の傍らには小さな字があって、そこから射して来る光が、道の上に押し被さった竹藪を白く光らせている。竹というものは樹木のなかで最も光に感じやすい。山のなかの所どころに簇れ立っている竹藪。彼らは闇のなかでもそのありかをほの白く光らせる。
街道从该处转往右方。溪边有一棵高大的苦槠。那棵树形成的黑暗无比巨大。站在它底下仰望,感觉就像是个深邃的巨大洞窟。树的深处传来猫头鹰的声音。路旁有个小区域,从里头射来的亮光,令蔓向路面的竹林也泛起白光。竹子这种东西,在树木中最容易感光。在山里四处丛生矗立的竹林,在黑暗中一样会让自身所在地发出白光。
そこを過ぎると道は切り立った崖を曲がって、突如ひろびろとした展望のなかへ出る。眼界というものがこうも人の心を変えてしまうものだろうか。そこへ来ると私はいつも今が今まで私の心を占めていた煮え切らない考えを振るい落としてしまったように感じるのだ。私の心には新しい決意が生まれて来る。秘やかな情熱が静かに私を満たして来る。
通过那里后,道路在陡峭的山崖处转弯,眼前的视野豁然开朗。原来视野会这样改变一个人的心情。来到那里,总让人觉得原本占据心中的那些混沌不明的想法似乎就此挥除。我有了全新的决心。这潜藏的热情,静静填满我心。
この闇の風景は単純な力強い構成を持っている。左手には溪の向こうを夜空を劃って爬虫の背のような尾根が蜿蜒と匍っている。黒ぐろとした杉林がパノラマのように廻って私の行手を深い闇で包んでしまっている。その前景のなかへ、右手からも杉山が傾きかかる。この山に沿って街道がゆく。行手は如何ともすることのできない闇である。この闇へ達するまでの距離は百米あまりもあろうか。その途中にたった一軒だけ人家があって、楓のような木が幻燈のように光を浴びている。大きな闇の風景のなかでただそこだけがこんもり明るい。街道もその前では少し明るくなっている。しかし前方の闇はそのためになおいっそう暗くなり街道を呑のみ込んでしまう。
这黑暗的风景具有单纯又强大的张力。左手边的山脊朝夜空画出一道分界线,像爬虫类的背脊般在溪谷后方蜿蜒爬行。黝黑的杉林像全景一样环绕,以浓重的黑暗包围我的去路。右手边是往前倾斜的杉林。道路沿着这座山一路前行。前方的去路是无可奈何的黑暗。到这片黑暗前的距离,应该有一百多米。途中只有一户人家,枫树沐浴在亮光下,宛如幻影一般。在巨大的黑暗风景下,就只有它显得明亮。道路也在前方略显光明。不过它前方的黑暗,却因为这样而更显昏暗,将整条道路吞噬。
ある夜のこと、私は私の前を私と同じように提灯なしで歩いてゆく一人の男があるのに気がついた。それは突然その家の前の明るみのなかへ姿を現わしたのだった。男は明るみを背にしてだんだん闇のなかへはいって行ってしまった。私はそれを一種異様な感動を持って眺めていた。それは、あらわに言ってみれば、「自分もしばらくすればあの男のように闇のなかへ消えてゆくのだ。誰かがここに立って見ていればやはりあんなふうに消えてゆくのであろう」という感動なのであったが、消えてゆく男の姿はそんなにも感情的であった。
某天夜里,我发现有个男子和我一样没提灯笼,走在我前方。他突然出现在那户人家前方的亮光下。男子背对着亮光,逐渐走进黑暗中。我抱持一股异样的感动,望着他离去。“我再过一会儿,也会像那个男人一样消失在黑暗中。要是有人站在这里看,也会看到我像那样逐渐消失吧。” 坦白说,就是这样的感动,那名消失的男子,他的身影显得充满感情。
その家の前を過ぎると、道は溪に沿った杉林にさしかかる。右手は切り立った崖である。それが闇のなかである。なんという暗い道だろう。そこは月夜でも暗い。歩くにしたがって暗さが増してゆく。不安が高まって来る。それがある極点にまで達しようとするとき、突如ごおっという音が足下から起こる。それは杉林の切れ目だ。ちょうど真下に当る瀬の音がにわかにその切れ目から押し寄せて来るのだ。その音は凄まじい。気持にはある混乱が起こって来る。大工とか左官2とかそういった連中が溪のなかで不可思議な酒盛りをしていて、その高笑いがワッハッハ、ワッハッハときこえて来るような気のすることがある。心が捩じ切れそうになる。するとそのとたん、道の行手にパッと一箇の電燈が見える。闇はそこで終わったのだ。
从那户人家门前路过后,道路来到小溪沿途的杉林。右手边是陡峭的山崖,就位于黑暗下。多么昏暗的道路啊。就算是有月亮的夜晚也一样昏暗。愈往里走,愈是漆黑。我心中渐感不安。就在我的不安即将达到顶点时,突然脚下传出隆隆声响。这里是杉林的尽头。正下方的激流发出的声响,从杉林的尽头处朝我直逼而来。声响可真惊人。我的心情就此变得混乱。感觉就像木匠和泥水匠等一群人正在溪谷里举办一场不可思议的酒宴,传来他们 “哈哈哈” 的大笑声。我的心几乎要拧在一起。这时,道路前方突然出现一盏灯。黑暗在那里结束。
もうそこからは私の部屋は近い。電燈の見えるところが崖の曲り角で、そこを曲がればすぐ私の旅館だ。電燈を見ながらゆく道は心易い。私は最後の安堵あんどとともにその道を歩いてゆく。しかし霧の夜がある。霧にかすんでしまって電燈が遠くに見える。行っても行ってもそこまで行きつけないような不思議な気持になるのだ。いつもの安堵が消えてしまう。遠い遠い気持になる。
那里离我住的房间很近。看得到电灯的地方,就在山崖的转角处,只要绕过那里,就是我住的旅馆。看着电灯往前走,一路上心情会很轻松。我将在这最后的安心感陪同下,走过这条道路。但有时夜里会起雾。电灯在雾中朦朦胧胧的,显得很遥远。仿佛不管再怎么走,就是迟迟到不了,会给人这种不可思议的感觉。平时的安心感会就此消失,感觉无比遥远。
闇の風景はいつ見ても変わらない。私はこの道を何度ということなく歩いた。いつも同じ空想を繰り返した。印象が心に刻みつけられてしまった。街道の闇、闇よりも濃い樹木の闇の姿はいまも私の眼に残っている。それを思い浮かべるたびに、私は今いる都会のどこへ行っても電燈の光の流れている夜を薄っ汚なく思わないではいられないのである。
黑暗的风景不管什么时候看,都没有什么不同。这条路我已走过许多次。总是反复上演同样的幻想。这印象深深刻在我心里。街道的黑暗、比黑暗更深沉的树木暗影,至今仍残留在我眼中。每次想起那画面,不管我去到都市的哪个地方,都还是觉得灯光流转的夜晚显得有点肮脏。