谷崎潤一郎: 细雪(上) 十一
first published:『中央公論』1943年1月号・3月号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=xtQQDtiMdPU
desc: 在大阪船场坐拥百年老店、历史底蕴深厚的莳冈家,鹤子、幸子、雪子、妙子四姐妹交织出百态人情。小说如华美画卷,循着四季流转,细致描绘出昭和十年间关西上流社会的日常光景。
三女雪子是四姐妹中容貌最为出众之人,婚事却屡屡未果,年过三十依旧独身。幸子夫妇为此忧心不已、四处奔走,性格沉默寡言的雪子却对每一门亲事都无意应允,岁月便这般缓缓流逝。
幸子は瀬越が注がれればいくらでも酒杯を傾けるらしい様子に、あの飲みっ振りではなかなか行けるに違いないとさっきから見ていた。房次郎は全くの下戸1であるらしく、五十嵐も耳の附け根まで赤くなって、「いえ、もう私は」とボーイが廻って来る度に手を振っているのであるが、瀬越と貞之助とは好い取組で、まだ一向に顔にも態度にも出ていなかった。尤も井谷の話にも、瀬越さんは毎晩はおやりにならないそうですけれどもお酒はお嫌いではない方で、機会があれば相当にお飲みになるとのことです、と聞かされていたが、幸子はそれも強ち悪いこととは思っていなかったのであった。と云うのは、幸子達の姉妹は母が早く亡くなった関係上、晩年の父の食膳に侍りながら毎夜相手をさせられたものなので、本家の姉の鶴子を初め、皆少しずつは行ける口であるところから、―――そして、養子の辰雄も、貞之助も、孰れもいっぱしの晩酌党であるところから、全然飲まない人と云うものも何となく物足りないような気がしていた。酒の上の悪いのは論外として、矢張いくらかは嗜んでくれる夫の方がよい。―――雪子はそんな注文を出しはしなかったけれども、幸子は自分の気持から推して、雪子も大方お腹の中ではそうであろうと察していた。それに、雪子のように兎角胸にあることを発散させないで、じーッと内攻させているたちの人は、時々酒の相手でもさせて貰わなければいよいよ気分が滅入り込むであろうし、夫の方でもこう云う人を妻に持ったのでは、そんなことでもなかったら鬱陶しくて遣り切れないであろうとも思えて、旁2、下戸の夫を持った場合の雪子と云うものを想像すると、とても淋しい、気の毒な感じがしていたのであった。で、今夜も幸子は、雪子を余り黙り込ませないようにと思って、
幸子从席上看到,濑越喝酒不拘斟多少总是一饮而尽,那酒量一定相当了得。房次郎像是酒量很小,而五十岚早已红到耳根,每当侍者斟酒到他跟前,他双手直摆:“不行啦,我不行啦!”只有濑越与贞之助旗鼓相当,两人脸也不红,也毫无醉态。不过,幸子曾听井谷说过,濑越先生并非每晚都喝酒,但也不讨厌酒,遇到机会可以喝上很多。幸子认为这也不一定是坏事。因为幸子姐妹的母亲早早去世,父亲晚年都由她们侍奉进餐,晚上不得不陪父亲喝点儿酒,所以,从本家的大姐鹤子数起,几姐妹都能喝几口。再加上女婿辰雄和贞之助都嗜好喝夜酒,所以,幸子觉得滴酒不沾的人反倒有点无趣。酒后发疯的又当别论,多少能喝点酒的丈夫毕竟较为理想。雪子虽然没有提出这种要求,幸子推己及人,察觉到她心中大概也作此想。雪子这样的人,胸中有什么忧愁不易排遣,总是闷在心里,如果不时常陪丈夫喝上几口,恐怕会更加抑郁消沉,另一方面,丈夫娶了这样性格的妻子,如果她不陪他喝几盅,想来他也会沉闷不堪。因此,幸子一想到雪子如果嫁给一位酒不沾唇的丈夫,便感到特别寂寞可怜。所以,今天晚上,幸子也不想让雪子过于沉闷。
「雪子ちゃん、それ少し飲んだら、………」と囁きながら、彼女の前に注いである白葡萄酒の杯を眼で指し示して、自分もそれを少しずつ飲んで見せたり、「ちょっと、お隣へ少し葡萄酒を注いで上げて………」と、ボーイに耳打ちをしたりしていた。
“雪妹,稍稍喝点怎么样?” 她时而小声对雪子说,并用眼睛睃着摆在雪子前面的白葡萄酒杯示意,时而自己也喝一口以为示范,时而附在侍者耳旁吩咐:“喂,给邻座的这位上点儿葡萄酒……”
雪子自身も、内々瀬越の飲みっ振りを見て意を強くもし、自分ももっと朗かになりたいと云う気もあって、目立たぬように折々口をつけていたが、雨に濡れた足袋の端がいまだにしっとりと湿っているのが気持が悪く、酔が頭の方へばかり上って、うまい工合に陶然となって来ないのであった。
雪子暗中瞥见濑越喝酒的劲头,不由得受了鼓舞,自己也想再活跃一点,有时就不引人注意地抿一口。雪子的袜子被雨淋湿了,脚尖湿漉漉地有点不舒服,喝了酒,那酒劲儿直往上涌,却怎么也没有那种陶然舒畅的感觉。
と、さっきから見て見ない振をしていた瀬越が、「雪子さんは、白葡萄酒がお好きなんですか」
濑越一直装作没看见,这时问道:“雪子小姐喜欢白葡萄酒吗?”
雪子は笑いに紛らして俯向いてしまったが、「はあ、コップに一杯か二杯ぐらい。………」と、幸子が云って、「瀬越さんは大分お強そうでいらっしゃいますが、どのくらいお上りになれますの」
雪子淡淡一笑支吾过去,低头不语。幸子插嘴说:“是的,能喝一两杯……濑越先生好像酒量很大,一次能喝多少呢?”
「さあ、飲めば七八合は飲めるかも知れません」
“怎么说呢……放开量喝,清酒也许能喝两三斤。”
「酔うと何か隠し芸が出ますかな」と、五十嵐が云った。
“喝醉了可有什么余兴节目?” 五十岚问道。
「ところが一向に無趣味なんですよ。まあいつもよりは幾らか口数が多くなるくらいなもんでしょうかな」
“我素来不懂风雅哟。不过比平常多讲几句话而已。”
「では蒔岡さんのお嬢さんは」
“那么,莳冈小姐呢?”
「お嬢さんはピアノをなさるんですの」と、井谷が答えた。「蒔岡さんのお宅では、皆さん音楽は西洋趣味でいらっしゃいましてね」
“小姐弹钢琴。” 井谷回答,“莳冈府上都爱好西洋音乐。”
「いいえ、そうばかりでも………」と、幸子が云った。「………子供の時分にお琴を習わせられましたので、又この頃浚ってみたくなっておりますの。それと云うのが、近頃下の妹が山村の舞を稽古し始めましたので、お琴や地唄に親しむ機会が多いものでございますから」
“不,也不尽然……”幸子回答,“我小时候学过古琴,最近又想温习温习。最小的妹妹近来开始学习山村舞,所以我接触古琴和地呗的机会也多一些了。”
「まあ、こいさんが舞をなさいますの」
“啊,小妹在学舞蹈吗?”
「はあ、ハイカラなようでもだんだん子供の時の趣味が復活して来るものと見えまして。―――御承知のようにあの妹は器用なたちだものですから、なかなか上手に舞うのですの、小さい時分に習ったことがあるせいかも知れませんけれど」
“是的,别看她那么洋气,小时候的那些兴趣又逐渐恢复起来了。您也知道,我那个妹妹还算机灵,舞跳得相当优美,也许是从小学过的原因吧。”
「私、専門のことはよく分りませんが、山村の舞と云うものは、あれは実に結構なものですな。何でも彼んでも東京の真似をしますのはよくないことでございますよ、ああ云う郷土芸術は大いに盛にしなければ、………」
“这方面的专门知识我知晓不多,但是我知道,山村舞确实很不错。什么都效仿东京并不是好事儿,这种乡土艺术应该大力提倡……”
「ああそうそう、こう見えてもうちの常務さん―――じゃあない五十嵐さんですか、―――」と、房次郎が頭を掻きながら、「五十嵐さんは歌沢3がお上手なんですよ、もう何年来稽古をしておられましてね」
“啊,对对,别看我们的董事先生——不!五十岚先生,” 房次郎搔着头说,“五十岚先生特别擅长歌泽,已经练了好多年头了。”
「ですが、ああ云うものをお習いになると、―――」と、貞之助が云った。 「―――五十嵐さんのように上手になられれば別ですが、最初のうちは無闇に誰かに聴かしたくなっかしたくなって、つい足がお茶屋の方へ向きはしませんか」
“不过,提起学那玩意儿——” 贞之助说,“像五十岚先生这样技艺高超者又当别论,可是,据说初学阶段特别想唱给谁听,不由自主地就跑到茶楼妓院去了,对吗?”
「へえ、へえ、確かにそれはございますな、家庭的でないと云うことが日本音曲の欠点でございまして。―――尤もわたくしは別でして、決して御婦人に惚れられようなんと云う野心を持って習い出したのではございません。もうその点は至って堅人でございますのでな。なあ村上君」
“对,对,确实如此。不适宜在家庭演唱,这是日本短曲的缺点。不过,我是一个例外,我决不是有野心想让女人迷恋才学习的。在这一点上,我倒是个铁石心肠。你说呢,村上君?”
「ええ、商売が鉄屋ですからな」
“对对,因为我们是铁屋公司的嘛!”
「あははははは、―――いや、わたくし、それで思い出しましたが、一度御婦人方に伺ってみようと存じておりましたのは、あの、皆さんが持っておいでになるコムパクト4と云うものですな、―――あの中に這入っております粉は、ただのお白粉でございましょうか」
“哈哈哈!……对,我又想起了一件事,得向诸位女士请教一下。诸位都带着粉盒,里面装的是普通的香粉吧?”
「はあ、ただのお白粉なんですけれど、―――」と、井谷が受けて、「それがどうか致しまして」
“对,是普通的香粉……” 井谷接过话头说,“这有什么奇怪的。”
「実は何ですよ、一週間程前のことですが、或る日わたくしが阪急電車に乗りますと、風上の方の隣の席に盛装を凝らした御婦人が掛けておられましてな、ハンドバッグからコムパクトを出して、こう―――鼻のあたまをパタパタ叩き始めたと思ったら、途端にわたくし、続けざまに二つ三つ嚏が出ましたんですが、そんなことッてございますもんでしょうか」
“那是一个星期前的事,那一天我坐阪急电车。在我上风头的邻座,坐着一位花枝招展的女士,她从手提包里掏出粉盒,就这样往鼻头上啪啪地扑粉,就在这个时候,我接二连三地打喷嚏。这是怎么回事儿呢?”
「あははははは、それはその時、五十嵐さんの鼻がどうかしていらしったんじゃないでしょうか。コムパクトのせいかどうか分りませんわ」
“哈哈哈!可能是五十岚先生的鼻子出了什么毛病吧?是不是香粉的原因可说不清楚。”
「とまあ、わたくしも一度ならそう思うところでございますが、前にもそう云う経験がございまして、その時が二度目なんでして」
“是啊,如果只有一次,我也会这样想,可是,不久以前也有过一次同样的经历,这是第二次了。”
「ああ、それほんとうでございます」と、幸子が云った。「―――わたし、電車の中でコムパクトを開けて、隣の人に嚏されたことが二三度ございます。わたしの経験を申しますと、上等の匂のするお白粉ほどそう云うことが起りますの」
“嗯,这是真的。” 幸子说,“有两三次我在电车上打开粉盒,弄得邻座的人直打喷嚏。据我的经验,越高级的香粉越会发生这样的事情。”
「ははあ、して見るとやっぱりそうなんですな。―――いや、この間の御婦人は違ってましたが、その前の時は、事に依ると奥さんじゃございませんでしたかな」
“哈哈,果然如此,不,最近这一次我碰上的不是您,可是,以前那次会不会就是夫人呢?”
「ほんに、そうだったかも知れません。どうもあの時はえらい失礼を」
“真的,说不定就是我,那时实在是失礼了。”
「わたくし、そんなこと始めて伺いますけど、―――」と、房次郎夫人が云った。「それでは一遍、なるべく上等のお白粉を入れて試してみることに致しますわ」
“我今天第一次听说有这种事……” 房次郎夫人说,“下次我要装上高级的香粉到车上去试一试。”
「冗談じゃあない、そんなことを流行らしちゃ困りますよ。今後御婦人は、電車の中で風下の席に人がいる場合、決してコムパクトを使わないことに願いたいもんですな。蒔岡さんの奥さんは只今御挨拶をなすったからいいが、この間の婦人なんぞ、わたくしに二つも三つも嚏をさして置きながら知らん顔をしているんだから怪しからんですよ」
“别开玩笑了!如果诸位都这么干可就麻烦了。但愿今后女士们乘电车的时候,如果下风处有人决不要使用粉盒。莳冈太太刚才已经道歉了,可以既往不咎,可是上次那位女士看着我接连不断地打喷嚏,竟然一副若无其事的样子,真是岂有此理!”
「あの、わたしの下の妹は、電車の中で男の人の洋服の襟から馬の毛がピンと飛び出しているのを見ますと、ついあれを抜きたくなる云いますの」
“我家的妹妹说,有一次她在电车上看见一个男人的西装领子里露出了马鬃,她情不自禁地想去拈掉。” 房次郎夫人说。
「あははははは」
“哈哈哈!”
「あははははは」
“哈哈哈!”
「子供の時分に、綿入の綿が吹き出ていると、いくらでも引っ張り出したくなった覚えがございますものね」と、井谷が云った。
“我现在还记得小时候,看见棉袄里的棉花露出来了,我真想有多少就扯出来多少。” 井谷说。
「人間にはそう云う妙な本能があるんだと見えますな。酔うと誰でも余所の家の門のベルを押したくなったり、停車場のプラットフォームで『このベルに触るべからず』と書いてあると、却って押してみたくなるので、なるべくその傍へ行かないように用心致しましたり、な」
“看来人都是有这种奇妙的本能的。喝醉了总想按别人家的门铃,在车站的站台上明明写着 ‘禁止触摸此铃’,反而想去按一按,所以得注意尽量不靠近它,是吧?” 五十岚说。
「ああ、ほんとうに今夜はよく笑いましたこと」と、井谷は溜息を吐きながら云ったが、食後の果物が運ばれてからもまだしゃべり足りないらしく、
“嗨,今天晚上真笑够啦!” 井谷说着舒了口气。这时,餐后水果已经上桌,井谷意犹未尽似的说:
「蒔岡さんの奥さん」と、呼びかけながら、「話は違いますけれども、奥さんはこう云うことをお感じになったことがおありになりません?―――近頃の若い奥さん、―――いえ、奥さんだってまだお若くっていらっしゃいますけれども、奥さんなんかより又もう一時代後の、つい二三年前に結婚なすったと云うくらいの、二十台の奥さん方、―――そう云う方々は、何と申しますか、経済のことでも、育児のことでも、実に科学的で、頭の好い方が多いので、私なんかつくづく時代の相違と云うことを感じさせられてしまいますの」
“莳冈夫人!咱们说点儿别的吧。夫人有没有这种感觉?近来年轻的太太——不,夫人您还是够年轻的。不过,我是说比您还小几岁,结婚才两三年,只有二十几岁的那些太太们,怎么说呢,这些人不论是当家理财也好,养儿育女也好,很多人都讲究科学,脑子好使,真使我这号人深切感受到时代不同了。”
「はあ、ほんとうに仰っしゃる通りですわ。わたし等の時分とは女学校の教育の仕方もえらい変って来てるらしいので、今の若い奥さんを見ますと、わたしなぞでも、時代が違うなあ思いますわ」
“是的,您说得太对了!和我们那时候相比,现在的女子中学的教育方法有了巨大改变,看到现在这些年轻太太,我也觉得时代变了。”
「わたくしの姪で、娘時代に郷里から出て参りまして、わたくしの監督を受けながら神戸の女学校を卒業しました者がございますの。それが近頃結婚しまして、阪神の香櫨園に所帯を持ちましたんですが、主人は大阪の或る会社に勤めていまして、月給が九十円、外にボーナスが幾らとか申しておりましたが、それと、家賃の三十円だけを毎月郷里から補助して貰っておりますので、まあそんなものを全部併せて月収平均百五六十円の生活なのでございますね。それでわたくし、月々の遣り繰りをどんな風にやっているかと案じていたのでございますが、行って見ますと、月末に主人が九十円の月給を持って帰ります。そうすると直ぐそれを、瓦斯代、電気代、被服費、小遣、などと記した幾種類もの封筒が出来ておりまして、それへそれぞれ区分して最初に収めてしまいまして、それで以て次の月の生計を立てると云う風なんですの。そんなで随分切り詰めた暮しをしている筈なんでございますが、わたくし、夕飯の御馳走に呼ばれましたら、思いの外気の利いたお料理を出しますの。そして室内の装飾なんぞも、そう見すぼらしくなく、なかなか上手に考えてしてありますの。けれど勿論一方では大いにチャッカリ5しておりまして、この間一緒に大阪へ参りました時、電車の切符を買ってくれと云って蝦蟇口6を渡しましたら、ちゃんと回数券を買って、残りは自分が貰って置くのでございます。これにはわたくし、ほとほと感心してしまいまして、自分なんぞが監督したり心配したりするなんて烏滸がましいことだと、此方が耻かしくなってしまいました」
“我有一个侄女,小时候从乡下来这里了,由我监护着,在神户的女子中学念到毕业。她最近结婚了,新房在阪神线的香栌园,丈夫在大阪一家公司上班,月薪九十元,外加一些奖金,房租每月三十元由老家补贴,这些加起来平均每月不过一百五六十元的收入。因此我有点担心,她怎样安排每月的生活呢?我去她家一看才知道,月底她丈夫把九十元工资带回家,她立刻拿出几个信封,标记有 ‘煤气费’ ‘电费’ ‘服装费’ ‘零用钱’ 等,把钱分别放进去,就这样安排下个月的生活。照说这种日子会过得紧巴巴的。可是,两口子留我吃晚饭,出人意料地做出好些个精美菜肴来。室内的装饰也不寒酸,可以说是相当讲究。不用说,另一方面她也很精明。前些日子,我和她一块儿去大阪,我把钱包递给她,要她买电车票,她居然买了回数券,剩下的就落进她腰包了。这件事儿真让我佩服得五体投地。我这样的人还去当她的监护人,还为她瞎操心,我真是蠢到家了,想想都害臊。”
「全く、この頃の若い人よりか却ってお母さん達の方が無駄遣いをされますわ」と、幸子が云った。「うちの近所にも若い奥様がおられまして、二つになる女の児がおありになるのですが、この間用事で門口まで伺いましたら、まあお上り遊ばせ、まあまあ云われますので、上って見ますと、女中もいないのに実によくその辺が片附いていまして、―――それから、そうそう、そういう奥様は家の中でもきっと洋服で、椅子にかけておられる方が多いように思いますけれど、そうではございませんか知ら?―――兎に角その方はいつも洋服なのですが、その日は部屋の中に乳母車を置いて、それへ赤ちゃんを、這い出さないように巧いこと入れておられまして、わたしがあやしていましたら、済みませんけれどちょっとお願い致します、只今お茶を入れて参りますから云われて、わたしに赤ちゃんを見さして置いて、立って行ってしまわれますの。そして暫くしましたら、紅茶を入れて、―――ついでに、赤ちゃんに上げる牛乳の中へパンをどろどろに溶かしたものを、沸かして持って来られましられまして、どうも有難うございました、さあどうぞお茶を一つ、云いながら、椅子に掛けたと思ったら、途端にこう、腕時計を見て、あ、これからショパンが始まりますわ、奥さんもお聴きになりません? 云われて、ラジオのスイッチを開けて、一方では音楽を聴きながら、一方ではその間も手を休めずに、牛乳を匙で掬っては赤ちゃんに飲ましておられますの。―――そんな工合に、始終時間を無駄にせんように段取りをつけて、お客様の相手と、ラジオ音楽の享楽と、赤ちゃんの食事と、三つを一遍に済ますなんて、実に頭のよく働く機敏な遣り方だと思いまして、………」
“完全不错,比起现在年轻人,反而是当母亲的一代经常为她们瞎花钱。” 幸子说,“我家附近也有一位年轻的太太,她有一个两岁的女孩。前几天,我有点儿事去找她,一到家门口,她就一再邀请我进去玩玩,我进屋一看,虽然没有请女佣,可家里收拾得整整齐齐。还有,对了,我老认为这样的太太大多数在家里也一定穿西装、坐在椅子上,不知是不是这么回事?反正她总是穿着西装。那天屋子里有个婴儿车,很巧妙地把小孩放在里面,让孩子爬不出来。我正在逗着小孩儿玩,她说:‘对不起,请您照看一下,我去给您沏茶。’ 说着把孩子托付给我后起身离开,一会儿,她捧着红茶来了,顺便还把喂孩子的牛奶煮面包碎也带来了。她先向我致谢,请我用茶,刚在椅子上坐下又看一下手表说:‘啊!肖邦的音乐就要开始了,太太您也听听吧。’ 说着打开了收音机,一边听音乐,手也没闲着,拿汤匙给小孩喂牛奶。就这样,这段时间她一点也没浪费,又陪客人,又欣赏音乐,又喂小孩,三件事一块儿做,真是头脑灵活,安排得当……”
「赤ちゃんの育て方なんかも、現代式はすっかり違っておりますのね」
“养育婴儿的方法,现在也完全不同了!”
「その奥様も云うておられましたわ、―――母がときどき孫に会いたいと云って訪ねて参るのは宜しいのですが、折角抱かないような習慣をつけてありますのに、年寄が来ると無闇に抱くものでございますから、そのあと暫く、抱いてやらないと泣くようになりまして、又もとの習慣をつける迄に骨が折れて困ります云われて、―――」
“那位太太也说了,她母亲时常想来看看孙子,这当然是好事儿,但是,好不容易养成了孩子不要抱的习惯,可老太太一来就老抱着。过后总有一段时间,孩子不抱就会哭闹,再要改过来可费神呢。”
「そう云えばこの頃の赤ちゃんは昔のように泣かなくなりましたわ。往来を連れて歩いている時に躓いて転んだりしても、自分で立って歩けるくらいなお児さんでしたら、決して傍へ寄って行って抱き起してやったりしないんですってね。そのままお母さんがどんどん知らん顔をして歩いて行くと、子供は却って泣かないで、独りで起き上って追っかけて来るそうでございますね。………」
“这倒也是。如今的孩子不像从前那么爱哭了。据说带孩子上街的时候,绊着什么摔倒了,如果孩子自己能爬起来,当妈妈的绝不走过去抱他,全当没看见,继续往前走,孩子反倒不哭,自个儿爬起来追上来。”
宴が終って階下のロビーへ降りて行ってから、井谷は貞之助夫婦に、もしお差支えなかったら十五分か二十分ほど、お嬢さんと二人きりで話してみたいと云われるのですが如何でしょうか、と、瀬越の希望を申し入れた。そして、雪子も異存がないと云うことだったので、それから暫時二人が別席に引き取っている間、残りの者は又雑談を交していた。
宴会结束,大家来到楼下候客厅里,井谷对贞之助夫妇说,如果方便的话,濑越先生希望能和小姐单独谈一二十分钟,而雪子也没有拒绝,随即两人去别处谈天,其余的人又闲聊了一会儿。
「さっき、瀬越さんどんな話しやはったん」と、幸子は帰りの自動車の中で云った。
“刚才濑越先生说了些什么?” 在回家的汽车上,幸子问道。
「何やいろいろ聞かはったけど、………」と、雪子は口籠りながら、「………別にどう云うて、纏まった話しやはれへなんだ。………」
“他问了一些事儿,不过……” 雪子嗫嚅着回答,“……并没有什么特别的,东一句西一句的……”
「まあ、メンタルテストやってんな」
“啊,是搞智力测验吧?”
「………」
おもては雨が細かになって、春雨のようなしとしととした物静かな降り方をしていた。雪子は先刻の白葡萄酒が今になって循って来たらしくて、両頬にぽうッと火照りを感じながら、もう阪神国道を走っている車の窓から、微醺を帯びたチラチラする眼で、濡れた鋪装道路に映る無数のヘッドライトの交錯をうっとりと見ていた。
车外的雨小了,就像春雨一般悄然无声地飘飞。雪子先前喝了白葡萄酒,此刻似乎酒劲儿上来了,她觉得两颊像火烧一般。汽车飞驰在阪神国道上。透过车窗,雪子带着微醺出神地望着湿漉漉的柏油马路上,无数道汽车的灯光交相辉映。