梶井基次郎: Kの昇天
first published:『青空』1926年10月・通巻20号
audio: https://www.youtube.com/watch?v=IUeO95xHBkU
desc: 一部书信体作品,讲述了青年 K 在夜晚的海岸,被从满月光辉映照出的自身影子中现身的二重身所指引,逐步升天的故事。在自我分裂与灵魂升天这一神秘主题之中,深藏着隐约感知到自己将因病早逝命运的基次郎的悲切心绪,是一篇兼具幻想与悬疑风格的短篇小说
お手紙によりますと、あなたはK君の溺死について、それが過失だったろうか、自殺だったろうか、自殺ならば、それが何に原因しているのだろう、あるいは不治の病をはかなんで1死んだのではなかろうかと様さまに思い悩んでいられるようであります。そしてわずか一と月ほどの間に、あの療養地のN海岸で偶然にも、K君と相識ったというような、一面識もない私にお手紙をくださるようになったのだと思います。私はあなたのお手紙ではじめてK君の彼地での溺死を知ったのです。私はたいそうおどろきました。と同時に「K君はとうとう月世界へ行った」と思ったのです。どうして私がそんな奇異なことを思ったか、それを私は今ここでお話しようと思っています。それはあるいはK君の死の謎を解く一つの鍵であるかも知れないと思うからです。
据您信中所言,您似乎对于 K 君溺毙一事百思不得其解,不明白他究竟是意外丧命还是自杀,倘若是自杀,其原因为何?还是说,他是因为染上不治之症,感叹人世无常,所以才寻短见呢?就在短短的一个月前,我偶然在 N 海岸的疗养地与 K 相识,我和您素未谋面,而您却写信给我。透过您的信,我这才得知 K 在该地溺毙的事。我大感惊讶。同时心想“ K 终于前往月世界了”。为什么我会有如此奇怪的念头呢,我就在此向您说明原委吧。因为我认为要解开 K 的死亡之谜,这或许是关键之一。
それはいつ頃だったか、私がNへ行ってはじめての満月の晩です。私は病気の故でその頃夜がどうしても眠れないのでした。その晩もとうとう寝床を起きてしまいまして、幸い月夜でもあり、旅館を出て、錯落とした松樹の影を踏みながら砂浜へ出て行きました。引きあげられた漁船や、地引網2を捲く轆轤などが白い砂に鮮かな影をおとしているほか、浜には何の人影もありませんでした。干潮で荒い浪が月光に砕けながらどうどうと打ち寄せていました。私は煙草をつけながら漁船のともに腰を下して海を眺めていました。夜はもうかなり更けていました。
不知道那是什么时候的事,那是我前往 N 之后遇上的第一个满月之夜。当时我因为生病,夜不能眠。那天晚上我一样睡不着,幸好那天是月圆之夜,于是我走出旅馆,踩着松树错落的树影,来到沙滩。除了靠岸的渔船以及将拖网卷上岸的辘轳,在白沙上留下鲜明的影子外,海滩上没任何人影。处于退潮时刻,大浪在月光的照耀下碎成浪花,哗啦哗啦地打上岸。我点了根烟,在渔船边坐下,眺望大海。夜已深。
しばらくして私が眼を砂浜の方に転じましたとき、私は砂浜に私以外のもう一人の人を発見しました。それがK君だったのです。しかしその時はK君という人を私はまだ知りませんでした。その晩、それから、はじめて私達は互いに名乗り合ったのですから。
过了一会儿,当我目光转向沙滩时,我发现沙滩上除了我之外,还有另外一人。他就是 K。但当时我还不认识他。那天晚上,我们两人互报了姓名。
私は折りおりその人影を見返りました。そのうちに私はだんだん奇異の念を起こしてゆきました。というのは、その人影――K君――は私と三四十歩も距っていたでしょうか、海を見るというのでもなく、全く私に背を向けて、砂浜を前に進んだり、後に退いたり、と思うと立ち留ったり、そんなことばかりしていたのです。私はその人がなにか落し物でも捜しているのだろうかと思いました。首は砂の上を視凝めているらしく、前に傾いていたのですから。しかしそれにしては跼むこともしない、足で砂を分けて見ることもしない。満月でずいぶん明るいのですけれど、火を点けて見る様子もない。
我不时回望那个人影。不久,我逐渐产生一个奇怪的念头。可能是因为 K 与我相隔三四十步之遥,他不是在看海,而是完全背对我,在沙滩上时而前进,时而后退,并不时停下脚步,老是重复同样的动作。我原本还以为他是在找寻失物呢。因为他就像在凝视沙地般,头微微往前倾。不过,他既没蹲下身,也没用脚拨开沙地。虽然那天是满月,光线明亮,但也不见他有点火朝地上细看的举动。
私は海を見ては合間合間に、その人影に注意し出しました。奇異の念はますます募ってゆきました。そしてついには、その人影が一度もこちらを見返らず、全く私に背を向けて動作しているのを幸い、じっとそれを見続けはじめました。不思議な戦慄が私を通り抜けました。その人影のなにか魅かれているような様子が私に感じたのです。私は海の方に向き直って口笛を吹きはじめました。それがはじめは無意識にだったのですが、あるいは人影になにかの効果を及ぼすかもしれないと思うようになり、それは意識的になりました。私ははじめシューベルトの「海辺にて」を吹きました。ご存じでしょうが、それはハイネの詩に作曲したもので、私の好きな歌の一つなのです。それからやはりハイネの詩の「ドッペルゲンゲル」。これは「二重人格」というのでしょうか。これも私の好きな歌なのでした。口笛を吹きながら、私の心は落ちついて来ました。やはり落し物だ、と思いました。そう思うよりほか、その奇異な人影の動作を、どう想像することができましょう。そして私は思いました。あの人は煙草を喫まないから燐寸がないのだ。それは私が持っている。とにかくなにか非常に大切なものを落としたのだろう。私は燐寸を手に持ちました。そしてその人影の方へ歩きはじめました。その人影に私の口笛は何の効果もなかったのです。相変わらず、進んだり、退いたり、立ち留ったり、の動作を続けているのです。近寄ってゆく私の足音にも気がつかないようでした。ふと私はビクッとしました。あの人は影を踏んでいる。もし落し物なら影を背にしてこちらを向いて捜すはずだ。
我望着大海,开始不时注意那个人影。脑中奇怪的念头愈来愈浓。一直到最后,那个人影始终都没转头看我一眼,完全背对着我行动,拜此所赐,我开始持续静静地观察他。一股不可思议的战栗传遍我全身。我感觉那道人影似乎有什么深深吸引着我。我开始转身面向大海,吹起口哨来。起初是无意识的举动,但后来我心想,这样或许会对那个人影产生什么影响,就此变得刻意起来。起初我吹的是舒伯特的《海边》。您应该也知道,这是以海涅的诗谱曲,是我很喜欢的一首曲子。接下来同样也是海涅的诗 Doppelgäenger。这应该叫作 “双重人格” 吧。我也很喜欢这首曲子。我吹着口哨,心情就此平静下来。心想,他果然是有东西遗失了。看那人影奇怪的举动,除了这么想之外,还能如何想象呢?接着我心想,那个人不抽烟,所以身上没有火柴。不过我有。总之,他应该是遗失了什么很重要的东西吧。我手里拿着火柴,开始朝人影的方向走去。我的口哨没起到半点效果。他还是一样,时而前进,时而后退,时而停步,持续同样的动作。他似乎没注意到我朝他走近的脚步声。我吓了一跳。原来他在踩踏人影。如果是有东西遗失的话,他应该会背对影子,朝我这边展开搜寻才对。
天心をややに外れた月が私の歩いて行く砂の上にも一尺ほどの影を作っていました。私はきっとなにかだとは思いましたが、やはり人影の方へ歩いてゆきました。そして二三間手前で、思い切って、 「何か落し物をなさったのですか」 とかなり大きい声で呼びかけてみました。手の燐寸を示すようにして。
略微偏离中天的明月,在我行走的沙地上留下约一尺长的影子。我心想,这当中一定有什么原因,就此朝人影的方向走去。接着,来到他前方四五公尺处,我拿定主意,试着大声 向他唤道“您是不是掉东西了”,并出示我手中的火柴。
「落し物でしたら燐寸がありますよ」
“如果您掉了东西,我这里有火柴哦。”
次にはそう言うつもりだったのです。しかし落し物ではなさそうだと悟った以上、この言葉はその人影に話しかける私の手段に過ぎませんでした。
我原本打算接下来要这么说,但既然明白他并非是有东西遗失,这句话就只是我向那个人影搭话的手段罢了。
最初の言葉でその人は私の方を振り向きました。「のっぺらぽー」そんなことを不知不識の間に思っていましたので、それは私にとって非常に怖ろしい瞬間でした。
对方因为我这句最初的问话而转头。我不知不觉间在脑中想着妖怪“无脸男”,所以对我而言,那是很可怕的一瞬间。
月光がその人の高い鼻を滑りました。私はその人の深い瞳を見ました。と、その顔は、なにか極まり悪気な貌に変わってゆきました。
月光滑过那个人高挺的鼻梁。我望见他深邃的眼瞳。他的脸逐渐露出尴尬之色。
「なんでもないんです」
“我没事。”
澄んだ声でした。そして微笑がその口のあたりに漾いました。
他的声音很干净,嘴角泛起一抹微笑。
私とK君とが口を利いたのは、こんなふうな奇異な事件がそのはじまりでした。そして私達はその夜から親しい間柄になったのです。
我和 K 就是因为这样一起奇怪的事件才开始交谈。从那天晚上起,我们便成了好友。
しばらくして私達は再び私の腰かけていた漁船のともへ返りました。そして、
过了一会儿,我们再次回到我之前坐过的渔船船尾。我问他:
「ほんとうにいったい何をしていたんです」
“你刚才到底在做什么?”
というようなことから、K君はぼつぼつそのことを説き明かしてくれました。でも、はじめの間はなにか躊躇していたようですけれど。
K 这才慢慢说明原委。不过,一开始他似乎显得有些犹豫。
K君は自分の影を見ていた、と申しました。そしてそれは阿片のごときものだ、と申しました。
说他是在看自己的影子。他还说,这就像抽鸦片。
あなたにもそれが突飛でありましょうように、それは私にも実に突飛でした。
就像你觉得很怪异一样,我也觉得很怪异。
夜光虫が美しく光る海を前にして、K君はその不思議な謂われをぼちぼち話してくれました。
面对月光下散发美丽光芒的大海,K 缓缓道出那不可思议的由来。
影ほど不思議なものはないとK君は言いました。君もやってみれば、必ず経験するだろう。影をじーっと視凝めておると、そのなかにだんだん生物の相があらわれて来る。ほかでもない自分自身の姿なのだが。それは電燈の光線のようなものでは駄目だ。月の光が一番いい。何故ということは言わないが、――というわけは、自分は自分の経験でそう信じるようになったので、あるいは私自身にしかそうであるのに過ぎないかもしれない。またそれが客観的に最上であるにしたところで、どんな根拠でそうなのか、それは非常に深遠なことと思います。どうして人間の頭でそんなことがわかるものですか。――これがK君の口調でしたね。何よりもK君は自分の感じに頼り、その感じの由って来たる所を説明のできない神秘のなかに置いていました。
K 说,再也没有像影子这般神秘的东西了。你如果也试试看,一定也会有同样的体验。只要静静注视着影子,它就会逐渐显现出生物的样貌。那不是别的,正是我们自己的模样。不能用电灯之类的灯光。最好是用月光。我不告诉你这是为什么,因为我是依据自己的经验,而相信是这样的情形,也可能是这种事只发生在我身上。此外,就算这是客观的观点下最好的选择,但若问到它的根据何在,这可就是个很深奥的问题了。为什么以我们人类的脑袋可以明白这种事呢?——这是K的口吻。最重要的是,K仰赖自己的感觉,置身在无法说明这种感觉是从何而来的某个神秘中。
ところで、月光による自分の影を視凝めているとそのなかに生物の気配があらわれて来る。それは月光が平行光線であるため、砂に写った影が、自分の形と等しいということがあるが、しかしそんなことはわかり切った話だ。その影も短いのがいい。一尺二尺くらいのがいいと思う。そして静止している方が精神が統一されていいが、影は少し揺れ動く方がいいのだ。自分が行ったり戻ったり立ち留ったりしていたのはそのためだ。雑穀屋が小豆の屑を盆の上で捜すように、影を揺ってごらんなさい。そしてそれをじーっと視凝めていると、そのうちに自分の姿がだんだん見えて来るのです。そうです、それは「気配」の域を越えて「見えるもの」の領分へ入って来るのです。――こうK君は申しました。そして、
凝望自己在月光下形成的影子时,感觉从中浮现某个生物的气息。由于月光是平行光线,在沙滩上形成的影子,与自己是同样的形体,不过这是再清楚不过的事。这影子也是短的才好。以一二尺的长度为佳。虽然保持静止,能让精神专注,但影子还是微微摇晃比较好。我之所以会时而前进,时而后退,时而停步,就是这个缘故。你可以像杂粮店的人在托盘上找寻红豆屑一样,试着摇晃自己的影子看看。然后静静凝视它,不久你会逐渐看见自己的身影。没错,它会逐渐超越“气息”的领域,来到“肉眼看得见之物”的领域。——K 是这么说的。接着他问我:
「先刻あなたはシューベルトの『ドッペルゲンゲル』を口笛で吹いてはいなかったですか」
“刚才你是不是在吹舒伯特的 Doppelgäenger?”
「ええ。吹いていましたよ」 と私は答えました。
“对,没错。”
やはり聞こえてはいたのだ、と私は思いました。
心里想,他果然听到了。
「影と『ドッペルゲンゲル』。私はこの二つに、月夜になれば憑かれるんですよ。この世のものでないというような、そんなものを見たときの感じ。――その感じになじんでいると、現実の世界が全く身に合わなく思われて来るのです。だから昼間は阿片喫煙者のように倦怠です」
“影子和 Doppelgäenger。每到月夜,我就会被这两个东西附身。感觉就像看到不属于这世界之物一样。一旦熟悉这种感觉后,就会觉得完全不适应现实中的世界。所以我白天时才会像鸦片鬼一样全身倦怠。”
とK君は言いました。
K 说。
自分の姿が見えて来る。不思議はそればかりではない。だんだん姿があらわれて来るに随って、影の自分は彼自身の人格を持ちはじめ、それにつれてこちらの自分はだんだん気持が杳かになって、ある瞬間から月へ向かって、スースーッと昇って行く。それは気持で何物とも言えませんが、まあ魂とでも言うのでしょう。それが月から射し下ろして来る光線を溯って、それはなんとも言えぬ気持で、昇天してゆくのです。
逐渐看见自己的身影。不可思议的事不光如此。随着身影逐渐浮现,影子里的自己会开始拥有他自己的人格,而我自己的感觉则是逐渐远去,从某个瞬间起,迅速地朝月亮飞去。那是一种感觉,算不上什么实体,但应该也可说是灵魂吧。它顺着月亮射下的光线而上,是一种难以言喻的心情,一路升天而去。
K君はここを話すとき、その瞳はじっと私の瞳に魅り非常に緊張した様子でした。そしてそこで何かを思いついたように、微笑でもってその緊張を弛めました。
K 在说这话时,他的双眼凝望着我的双眼,看起来非常紧张。接着他像突然想到什么似的,以微笑缓和他的紧张。
「シラノ3が月へ行く方法を並べたてるところがありますね。これはその今一つの方法ですよ。でも、ジュール・ラフォルグ4の詩にあるように
“西哈诺曾列举前往月球的方法。这是目前的方法之一。不过,就像儒勒·拉弗格的诗中描述的一样——
私も何遍やってもおっこちるんですよ」
我也一样,不管试再多次,也一样坠落。”
そう言ってK君は笑いました。
K 说完,莞尔一笑。
その奇異な初対面の夜から、私達は毎日訪ね合ったり、一緒に散歩したりするようになりました。月が欠けるに随って、K君もあんな夜更けに海へ出ることはなくなりました。
自从那一晚展开如此奇特的相遇后,我们每天都见面,一起散步。随着月亮由盈转亏,K 也没再三更半夜到海边来了。
ある朝、私は日の出を見に海辺に立っていたことがありました。そのときK君も早起きしたのか、同じくやって来ました。そして、ちょうど太陽の光の反射のなかへ漕ぎ入った船を見たとき、
某天早上,我来到海边看日出。这时,K 可能也同样早起,他也来到海边。当时正好看见一艘船驶进阳光反射处,K 突然向我问道:
「あの逆光線の船は完全に影絵じゃありませんか」
“那艘逆光的船,不刚好是一幅剪影画吗?”
と突然私に反問しました。K君の心では、その船の実体が、逆に影絵のように見えるのが、影が実体に見えることの逆説的な証明になると思ったのでしょう。
K 应该是心想,那艘船的实体反而看起来像剪影画,这样正好可反向证明影子看起来像实体。
「熱心ですね」
“你可真热心。”
と私が言ったら、K君は笑っていました。
我如此说道,K 听了微微一笑。
K君はまた、朝海の真向から昇る太陽の光で作ったのだという、等身のシルウェットを幾枚か持っていました。
K 拥有几张等身大的剪影画,他说是趁着早上从海的另一头升起的朝阳晨光作成。
そしてこんなことを話しました。
接着他和我聊到以下这件事。
「私が高等学校の寄宿舎にいたとき、よその部屋でしたが、一人美少年がいましてね、それが机に向かっている姿を誰が描いたのか、部屋の壁へ、電燈で写したシルウェットですね。その上を墨でなすって描いてあるのです。それがとてもヴィヴィッドでしてね、私はよくその部屋へ行ったものです」
“我高中在外头租屋时,隔壁房间住着一位美少年。不知道是谁画下他坐在书桌前的模样,那是用灯光投影在房间墙上的一幅剪影画。用墨水在上面加以描绘。画得栩栩如生,我常去那个房间。”
そんなことまで話すK君でした。聞きただしてはみなかったのですが、あるいはそれがはじまりかもしれませんね。
K 连这种事都跟我说。虽然没向他询问,但或许那就是一切的开端。
私があなたのお手紙で、K君の溺死を読んだとき、最も先に私の心象に浮かんだのは、あの最初の夜の、奇異なK君の後姿でした。そして私はすぐ、
我从你寄来的信中看到 K 溺毙的消息时,脑中最先浮现的画面,是第一次与 K 邂逅的那个晚上,他那奇特的背影。我马上感觉到:
「K君は月へ登ってしまったのだ」と感じました。
“K 到月世界去了。”
そしてK君の死体が浜辺に打ちあげられてあった、その前日は、まちがいもなく満月ではありませんか。私はただ今本暦を開いてそれを確かめたのです。
而 K 的尸体被冲上岸的前一天,不正好是满月吗?我刚才已打开本历确认过了。
私がK君と一緒にいました一と月ほどの間、そのほかにこれと言って自殺される原因になるようなものを、私は感じませんでした。でも、その一と月ほどの間に私がやや健康を取り戻し、こちらへ帰る決心ができるようになったのに反し、K君の病気は徐々に進んでいたように思われます。K君の瞳はだんだん深く澄んで来、頬はだんだんこけ、あの高い鼻柱が目に立って硬く秀でてまいったように覚えています。
和 K 共处的那一个月左右的时间里,我感觉不到其他会造成他自杀的原因。不过,在那一个月里,我的身体略微康复,这才得以下决定回到这里,相反的,K 的病却每况愈下。他的眼瞳变得愈发深邃清澈,两颊瘦削,那高挺的鼻梁感觉也更加显眼硬挺。
K君は、影は阿片のごときものだ、と言っていました。もし私の直感が正鵠を射抜いていましたら、影がK君を奪ったのです。しかし私はその直感を固執するのでありません。私自身にとってもその直感は参考にしか過ぎないのです。ほんとうの死因、それは私にとっても五里霧中であります。
K 说过,影子就像鸦片一样。如果我的直觉没错的话,是影子夺走了 K。但我并不坚持认为自己的直觉没错。对我自己来说也一样,直觉仅供参考。他真正的死因,对我而言同样也是一团迷雾。
しかし私はその直感を土台にして、その不幸な満月の夜のことを仮に組み立ててみようと思います。
但我试着想依据这份直觉,来拼凑那不幸的满月之夜所发生的真相。
その夜の月齢は十五・二であります。月の出が六時三十分。十一時四十七分が月の南中5する時刻と本暦には記載されています。私はK君が海へ歩み入ったのはこの時刻の前後ではないかと思うのです。私がはじめてK君の後姿を、あの満月の夜に砂浜に見出したのもほぼ南中の時刻だったのですから。そしてもう一歩想像を進めるならば、月が少し西へ傾きはじめた頃と思います。もしそうとすればK君のいわゆる一尺ないし二尺の影は北側といってもやや東に偏した方向に落ちるわけで、K君はその影を追いながら海岸線を斜に海へ歩み入ったことになります。
那晚的月龄是十五点二。月出时间是六点三十分。十一点四十七分是月亮通过子午线的时刻,这在本历上都有记载。我猜 K 就是在这个时刻前后走进海中。因为我第一次在满月之夜看到 K 的背影出现在沙滩上,也是在月亮通过子午线的时刻。若进一步猜想,应该是月亮开始往西倾沉的时刻。若真是如此,K 那约一两尺长的影子,会落向北方偏东的方位,所以 K 是追着自己的影子,斜斜地走过海岸线,就此步入海中。
K君は病と共に精神が鋭く尖り、その夜は影がほんとうに「見えるもの」になったのだと思われます。肩が現われ、頸が顕われ、微かな眩暈のごときものを覚えると共に、「気配」のなかからついに頭が見えはじめ、そしてある瞬間が過ぎて、K君の魂は月光の流れに逆らいながら、徐々に月の方へ登ってゆきます。K君の身体はだんだん意識の支配を失い、無意識な歩みは一歩一歩海へ近づいて行くのです。影の方の彼はついに一箇の人格を持ちました。K君の魂はなお高く昇天してゆきます。そしてその形骸は影の彼に導かれつつ、機械人形のように海へ歩み入ったのではないでしょうか。次いで干潮時の高い浪がK君を海中へ仆します。もしそのとき形骸に感覚が蘇えってくれば、魂はそれと共に元へ帰ったのであります。
随着病情加剧,K 的精神也变得紧绷而敏感,我想,那天晚上他的影子真的化为“肉眼看得见之物”,冒出肩膀和脖子,并微感晕眩,最后影子终于从“气息”中冒出头来。而在过了某个瞬间后,K 的灵魂沿着月光,缓缓逆行而上。K 的身体逐渐失去意识的控制,无意识的步伐一步步朝大海走近。他的影子最后拥有了自己的人格。K 的灵魂升向天际。他的形骸应该是受他影子的引导,变得像一具机械人般,一步步走向大海的吧。接着,退潮时的大浪将 K 打落海中。倘若当时他重拾身体的感觉,灵魂便会和身体一起回到原地。
K君はそれを墜落と呼んでいました。もし今度も墜落であったなら、泳ぎのできるK君です。溺れることはなかったはずです。
K 说那是坠落。如果这次同样也是坠落的话,K 会游泳,应该不会溺毙才对。
K君の身体は仆れると共に沖へ運ばれました。感覚はまだ蘇えりません。次の浪が浜辺へ引き摺りあげました。感覚はまだ帰りません。また沖へ引き去られ、また浜辺へ叩きつけられました。しかも魂は月の方へ昇天してゆくのです。
K 的身体在被海浪打落海中时,就一同被冲向外海。他的感觉还没苏醒。第二波浪潮将他带回岸边。他的感觉仍未苏醒,又被卷往外海。而且灵魂升天,朝明月奔去。
ついに肉体は無感覚で終わりました。干潮は十一時五十六分と記載されています。その時刻の激浪に形骸の翻弄を委ねたまま、K君の魂は月へ月へ、飛翔し去ったのであります。
最后,他的肉体在毫无感觉的情况下结束生命。本历记载,退潮是在十一点五十六分。K 的形骸任凭那时的浪涛翻弄,他的灵魂则腾空朝月亮飞去。